職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせしました。

フォンテーヌ編、はじまりぃ。



1話 出先の国の法律は勉強しとけ

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

ーーー水の国、フォンテーヌ。

 

正義の国とも呼ばれるこの国にはエピクレシス歌劇場と呼ばれる大きなホールで「審判」というものが行われる。

 

しかも、それを民衆が見ることができるらしい。今、視界に入るだけでも椅子に沢山のフォンテーヌ人が座ってこちら(・・・)を見上げていた。上からも視線を感じたので見上げると、白に青のメッシュが入った女の子と目が合った。こちらを興味深そうに見ている。

 

とりあえず会釈だけ返していると、場の雰囲気が変わった。歌劇場の中央上部、そこにある大きな椅子に腰掛けた長髪の男は杖で床をトンと叩くとよく通る声で告げた。

 

 

 

「ーーーそれでは、…被告人、神里迅の審判を開始する」

 

 

 

………どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「でっか……」

 

稲妻を出てから1週間。船、徒歩、旅団を経由して俺はフォンテーヌに到着した。

 

今いる所はフォンテーヌの入口。この国は「内海」と呼ばれる滝の上の高地にある。そこに登るリフトの前にいるって訳。

 

どどどと大きな音を立てて自分の横に水が落ちる。上を見上げても滝の上が見えない。高さ100mはあるな。

 

中央のリフトに乗って上へ登る。降りて後ろを向くと水神の象が祀られた七天神像があり、その向こうにスメールの広大な砂漠が見渡せた。

 

その絶景をしばし眺めていると、巡水船と呼ばれるここと首都であるフォンテーヌ邸を繋ぐ乗り物が到着した。

 

モラを払って乗り込む。座ってどの国とも違う景色を眺めていると、乗組員だというメリュジーヌと呼ばれる獣人のような子から説明を受けた。なんだか分からないが、マスコットみたいで中々に可愛らしい。

 

アイベルと言うらしいメリュジーヌの子と話しているとフォンテーヌ邸に到着した。

 

駅にはリフトが備え付けられてあり、俺が降りたのが2階の「クレメンタイン線」3階には歌劇場がある島までを結ぶ「ナヴィア線」4階からはフォンテーヌを管理する機関が集まっている大きな建物「パレ・メルモニア」に直で行くことが出来る。

 

駅から出るとまず見えるのが、外からも見えた街をぐるりと1周する大きな外壁だ。

 

これもかなりの高さで登るとなると翔ぶしかないか。いや登んないけど。そんなことしたら警察隊が飛んでくるわ。

 

俺はリフトに乗って4階で降り、パレ・メルモニアの大きな景観に圧倒されながらその門を潜った。

 

本来ならここで用事を済ますには予約が必要なのだが、事前に送られてきた書類を受付に見せたら1発で通った。待合室で少し待った後に呼び出され、パレ・メルモニアに入って右手の大きな部屋の前に立った。そのまま軽くノックをする。

 

「どうぞ」

「…失礼します」

 

奥から透き通るような男の声。内心でいい声してんなぁと驚きながら扉を押し開け中に入る。

 

執務室だろうか。中はかなり広く、周りには大きな本棚が壁を覆っている。そんな部屋の奥で椅子から立ち上がった紺色の高貴な服に身を包んだ白髪の男は俺を見ると軽く会釈をした。

 

「フォンテーヌへようこそ、蒼夜叉殿。君の噂はかねがね聞いている」

「稲妻配達会社、狛荷屋配達員の神里迅と申します。本日はお招き頂きありがとうございます。最高審判官殿、お会いできて光栄です」

「こちらこそ、各地で活躍する高名な冒険者殿に会えて光栄だ。…そこに掛けるといい。茶を用意しよう」

 

厳格な雰囲気と相まって意外ににこやかに歓迎された事にちょっとびっくり。この人はフォンテーヌの最高審判官、ヌヴィレットさんだ。この国での全ての審判に出席し、この人の判断と水神の加護が施された装置で判決が決められる。つまりめちゃくちゃ偉い人です。

 

元々会社の方針的に俺がフォンテーヌに行って冒険者として活躍、名を上げてから配達交渉といった流れのつもりだったのだけど、半月ほど前にここのパレ・メルモニアから手紙が届いたのだ。

 

そこに書かれていたのが是非とも狛荷屋の配達をフォンテーヌでも行って欲しいという事と、冒険者:蒼夜叉を指名して面会に赴いて欲しいという内容だった。普通社長じゃないん?

 

って事があって今俺がひとりできた訳なんだけど……。

 

「あの、失礼ですが質問をしてもよろしいでしょうか?」

「もっと砕けた口調でも良い。君の活躍は私も尊敬に値するものだ。質問も自由にして構わない」

「あ、ありがとうございます。えっと、どうして俺を指名したんですか?こういう会社の事業交渉は俺以外に適任がいると思うのですが……」

 

出された紅茶を頂きながら聞いてみると、ヌヴィレットさんは少し言いにくそうに目を逸らした。

 

「……実は、君を指名をしたのは私では無いのだ。"彼女"がどうしてもと駄々を捏ねてな」

「彼女……?」

 

その人物を聞き返そうとしたその時、執務室の扉がバンッと空いて声が聞こえてくる。

 

 

 

 

「ーーヌヴィレットっ!彼は来たかいっ?」

 

 

 

 

声の方を見ると、ひとりの女の子がそこに立っていた。

 

ヌヴィレットさんと似たような色合いの上に白いショートパンツ。小さめなハットを乗せた少し癖のある白いロングヘアを揺らして、虹彩が左右で違う青い瞳が俺の事を映した。

 

「…フリーナ殿。たった今到着された」

「おおっ!キミがあの蒼夜叉かいっ?噂は聞いているよっ!」

 

その女の子がとてとてとこちらに走ってきて握手を求めてきたので立ち上がってそれに応じる。手ぇちっちゃ。

 

そして、この子は一体どちら様なのだろうか。ヌヴィレットさんが敬称をつけて呼ぶくらいだし身分が高い……最高審判官が敬称?

 

もしかして水神様か?と思ったけど、影さんや鍾離先生の神特有の溢れる元素力がまるで感じられない。けど最高審判官よりも上の立場はもう神様以外考えられないので、とりあえずそう呼んでみた。

 

「えっと、もしかして貴方は水神フォカロルス様でしょうか?」

「ふふっ、いかにも!ボクは水神、フリーナだ。ようこそフォンテーヌへ。よく来てくれたねっ!」

 

自己紹介する前に神だと言われたのが嬉しいみたい。なんだが俺が知る2人とはまた違うタイプの神様だな。握手したままの手をブンブン降って嬉しそうにしているのが可愛らしい。

 

「…コホン、フリーナ殿」

「あっ、すまない。話の途中だったみたいだね」

 

咳払いしたヌヴィレットさんに反応してちょっと自分のはしゃぎように恥ずかしくなったようだ。自分も咳払いをして向かいのソファに座って脚を組んだ。

 

「いえ、ちょうど俺がここに呼ばれた事の理由を尋ねていまして。ヌヴィレットさんが言っていたその彼女というのはフリーナ様という事で合っていますか?」

「ああ。フリーナ殿が君を指名した。だが、その理由は私も知らないのだ」

 

そこで当然視線は彼女に集まる。フリーナ様はんんっと咳払いをするとチラリとヌヴィレットさんの方を見ると、真剣な顔になって俺を見てくる。

 

「キミを呼んだのは、キミが璃月の危機を2度も救っているという情報を聞きつけたからなんだ」

 

ちなみに蛍じゃない理由は、ちょうど交渉をしようとしている狛荷屋の社員欄に俺がいたからだそうだ。…それなら今度蛍も引きずって来よう。

 

「まぁ、間違ってはいませんが…、救えたのは俺1人の力ではありませんよ」

「謙遜をしなくてもいい。…キミはフォンテーヌに伝わるある"予言"について知っているかい?」

「予言、ですか?…すみません、先程国に入ったばかりですので…」

 

「──フォンテーヌ人は皆、生まれた時から「罪」を抱えており、どれほど審判を行なっても、それが消えることはない。やがてフォンテーヌの海面が上昇し、罪を背負いし人々は海水に飲み込まれる。人々は皆海の中に溶け、水神は自らの神座で涙を流す。そうして初めて、フォンテーヌ人の罪は洗い流される」

 

「っ」

 

ヌヴィレットさんが紡いだ予言に俺は目を見開いた。つまりこれは、破滅の予言……ということになる。フォンテーヌの罪とか海に溶けると言う文面の意味はよくわからないが、少なくとも平和なものでは無いことはわかる。

 

「フォンテーヌの殆どの民はこれをデマだと思っていたさ。事実、500年間はその前触れも見せなかった。……でも、最近になって少しずつフォンテーヌの内海の水位が上がってきているんだ」

「と、言うことはその予言は本当だと?」

「…わからない。…でも、もしコレが本当なんだったら一大事だろ?ボクはこの国の"神"として、用心をしているだけさ」

 

そういいティーカップを傾けるフリーナ様。そんな彼女をヌヴィレットさんは顎に手を当てて興味深そうに眺めている。

 

「…なんだよヌヴィレット。そんな目でボクを見て」

「…いや、フリーナ殿もそういう顔をするのだなと思ってな。いつもおちゃらけた様子が記憶に多かったから、少し驚いた」

「ちょっ!?せっかく迅に固めたボクへのイメージを壊すなよっ!」

 

さっきの真剣な顔つきはどこへやら、頬を膨らませてヌヴィレットさんに食ってかかる。こっちが素なんだろうなと思ったけど、さっきの真剣にフォンテーヌを思っている所も演技には見えなかった。まぁ神様だしその不吉な予言は気になるよな。

 

「えっと、それでその予言に俺はどうすればいいのですか?」

「ああ。フォンテーヌを治める神として、キミに頼みがある。いざと言う時に力を貸して欲しいんだ。もしかしたら、パレ・メルモニアから冒険者依頼として君に調査などを頼むかもしれない。……無理を言っているのはわかっているつもりさ。依頼を受けるかどうかは余程のことがない限り配達のついでで「いいですよ」……って、いいのかいっ!?」

 

逆に断る理由がどこにあると?普通にひとつの国が滅びるのは困るし、依頼をこなしていけば狛荷屋の名前も大きく上がるかもしれない。社員としても取引先がひとつ無くなるのは痛手だしな。

 

俺は頷くとフリーナ様は瞳を輝かせ、首をブンブン縦に振ると腕を組んで俺を見る。

 

「そうかっ!それならこれからよろしく頼むよっ!」

「私からも礼を言う。よろしく頼む」

「はい。できる限り協力させて頂きます」

 

その後はヌヴィレットさんと配達ラインの確保と支店舗の相談を終えると、ひとつフォンテーヌ側から依頼を承った。

 

なんでも、数年前から起きている怪事件の調査をして欲しいらしい。

 

事件名は「連続少女失踪事件」。フォンテーヌ各地から少女が突然失踪し行方不明となっている事件だ。失踪するのは決まってフォンテーヌ人の女性、それも年齢層が限定されているらしく誘拐なのか殺害なのか、犯行の方法も不明。解決が難しい難事件となっているらしい。

 

その事件の捜査に民間組織「棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)」も関わっているらしく、そちらと協力をして欲しいとヌヴィレットさんから助言を受けた。

 

フリーナ様は俺が依頼を承諾すると胸を張って「神として、キミの活躍に期待しているよ」と言い残してパタパタと忙しそうに出ていった。フリーナ様はフォンテーヌの人気者で面会希望者が続出していてスケジュールがパンパンらしい。わざわざ来てくれたことに感謝しながら俺はパレ・メルモニアを後にした。

 

 

 

 

「…っと、まだ昼だし冒険者登録だけはしとくか」

 

普通はここで宿を探す所だけど俺は洞天があるので必要がない。まずはフォンテーヌのキャサリンを探しに行くかと歩き始めた所で。

 

 

「ーーコラーッ!待ちなさいっ!!」

 

 

大きな声が下から聞こえたのでその方向を向くと、なにやら追いかけっこをしてるようだ。声の張りとか追いかけている黒スーツの男達や金髪縦ロールの女の子を見る限り、ただの鬼ごっこという訳でも……お?

 

俺はその中でチラリと見えた稲妻風の着物に目がいった。もしかしたら知ってる人かもしれない。見たところ窃盗犯を追いかけているみたいだし、助太刀をしてダメってことはないだろう。もしかしたら名を売れるかもしれないしな。

 

俺はその場で跳躍し斜め下に電磁離斥。風の翼を広げて追いかけっこをしている通りの建物の屋根に着地すると、そのまま屋根伝いに逃げている犯人らしき男に向かって走り始めた。すると男は俺と反対側の建物の路地に逃げ込んで行く。

 

「…っ、あっちかっ!」

 

道をひとつ挟んだ向こう側にその男を発見した俺は建物の屋根から反対側の屋根へとひとっ飛び。下から歓声や口笛が聞こえたが、無視して脚を動かした。

 

「待ちなさいっ!」

「誰が待つかっ!」

 

男は逃げながら道中の物を崩しているせいで中々距離が縮まっていない。

 

そして追いかけている人だかりの中に居た稲妻服の人が誰かの当てもついた。これで割って入っても犯人の仲間だと思われる事も多分ないだろう。

 

俺は1歩だけ雷元素を使って脚力を強化するとジャンプして犯人を飛び越え、逃げている男の前に着地した。バチバチとスパークを鳴らして制動をかけると窃盗犯の前に立ち塞がる。

 

「っ、あ、あなたっ…!」

「ちょっと、あんた!そこに立ってると危ないよっ!?」

 

「っち、アイツらの仲間かっ!…そこを退けぇッ!」

 

そうやってこっちに意識を向けてくれるのが一番助かる。正面から見てわかったがこいつは布を盗んだらしい。片手に高そうな布一式を持っていて、俺に向かって懐から取り出したナイフで突き込んで来る。

 

どうやらこいつ、その道のプロっぽい。ナイフのラインが俺の心臓一直線だ。

 

俺は迫るナイフに対して外側に入身。迫るナイフを持った手首に自分の手を差し込んで軌道を逸らす。そのまま差し込んだ腕の肘関節でナイフごと巻き込んでやるとてからナイフが零れた。片腕をロックした俺は投げに移ろうと極めた腕を更に巻き込もうとしたが、向こうから同じ方向に回って抜けられた。やっぱできるなコイツ。

 

「シィッ!」

「おっと」

 

すると布を投げ捨て、左手で隠していたナイフを抜いてもう一度俺の首を狙ってくるのが見えた。それにもう一度腕を合わせて上に弾きながら、空いた脇腹にバチバチと雷撃が走っている「ピース」の形を作った指をぶっ刺した。

 

「アハバババババ!?」

 

今やったのは即席のスタンガン。指を2本立ててその間に雷元素をつけて出来上がる。簡単だからみんなもできるよ(誰目線)。

 

急所に電撃を貰った窃盗犯はナイフを取り落としビクビクと麻痺するとその場に崩れ落ちた。頭を打たないように支えていると追いかけていた黒スーツの集団とお嬢様的な人、俺の知り合いがこちらに駆けてくる。

 

「あ、ごめんなさい。とっさにやっちゃったんだけど、大丈夫か?」

「え、ええ。大丈夫よ。むしろ助かったわ」

 

黒スーツの人達に犯人を引き渡す。白目剥いてるのでしばらく起きないだろう。俺は近づいて来た稲妻服の女に挨拶をした。

 

「よ、千織。久しぶり」

「迅、こっちに来てたのね」

 

俺が千織と呼んだ、黒髪をサイドテールにして橙色と黒の綺麗な服に身を包んだ彼女は「相変わらず無茶するわね」とため息を吐いた。そこに金髪縦ロールの女の子も歩いてくる。

 

「あれ、千織。この人と知り合いなの?」

「同郷の腐れ縁。…そっちの事は色々活躍は新聞で読んだわよ……蒼夜叉さん?」

「やっぱフォンテーヌにはシャルロット経由で知れ渡ってるかぁ…」

「シャルロットも知ってるなんて、顔が広いんだね。……改めて、協力してくれてあんがとね。あたしはナヴィア。棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)のボスやってるの」

 

ん、それってさっきヌヴィレットさんが言ってた民間組織か。なんかもっとゴツイおっさんがボスなのかと思ってた。

 

「俺は神里迅、稲妻狛荷屋の配達員だ。……っと、警察隊が来たみたいだな」

 

俺たちのところに数人の警察が走ってきた。千織とナヴィアさんが一言二言言葉を交わし、窃盗犯は手錠をかけられて連れていかれた。

 

よっし、せっかく失踪事件捜査の協力者と出会えたんだし、それについて話を…。

 

 

……ガチャッ。

 

 

「…へ?」

 

俺はナヴィアさんの方に1歩踏み出そうとして、こちらに歩いてきた警官隊の人に手錠をかけられた。

 

あまりの急展開に2人も口をぽかんと開けている。

 

「ちょ、ちょっと!その人は窃盗犯を捕まえるのに協力してくれたのよ!?」

「ーー11時13分、フォンテーヌ邸内飛行禁止法違反により、現行犯逮捕する」

「え、飛行禁止!?」

 

なんじゃその法律。千織とナヴィアさんも最初は止めに入ろうとしたのだが、俺の罪状を聞いて開こうとした口を閉じた。えっ!?味方してくれないの!?

 

「…迅、フォンテーヌには何故か"月初めの3日間はフォンテーヌ邸内で物体、生物問わず飛行が禁止"されているのよ」

「はい?」

 

た、確かに今日は月初めだけど…え、飛行ってあの電磁離斥と風の翼のコンボのこと?

 

「ま、まぁもし審判になったらあたし達が弁護するから…とりあえず行ってきたら?ここで抵抗すると罪が重くなるよ?」

「…う、うそだろおおおおお!?」

 

こうして、俺は出張一日目にして現行犯逮捕という最悪の偉業を成し遂げたのだった。

 

 

 

 

 

で、冒頭に至る。

 

いや、逮捕だけだったら審判にならないんだけど、なんと俺を告発した輩がいるそうな。歌劇場の反対側にいる奴がそうなんだけど、アイツ明らかにさっきの窃盗犯の仲間だろ。

 

ヌヴィレットさんは「また君か…」と言わんばかりにこめかみを抑えられた。本当にすみません。フリーナ様はよく見るとめちゃくちゃ笑いを噛み殺している。本当にすみませんっ!知らなかったんですっ!そりゃついさっき依頼に「任せてくださいっ!」とか言ってたヤツが手錠つけて戻って来たんだもん、誰だって吹き出すわ。

 

 

それで審判自体は速攻で終わった。俺は法律自体を知らなかった事と、指名手配の窃盗犯の逮捕に協力したことによって無罪。告発側は恐らくイチャモンというか親玉が逮捕された腹いせだろうけど、そいつらがグルっていう証拠は無かったのでそのまま出てきた。後で覚えとけよ。

 

弁護してくれたナヴィアさんと千織には感謝してもしきれない。2人は「昼間の借りを返しただけ」とか言ってたけど、後で個人的に何かお礼をしようと誓った。

 

「…はぁ、酷い目にあった…。ナヴィアさんに千織も、本当にありがとうな」

「ナヴィアでいいよ。言ったでしょ?昼間のお礼だって。……それにあんたも連続少女失踪事件の調査をしてたなんて。執律庭(しつりつてい)から依頼されたの?」

「ああ。ヌヴィレットさんから直々にな。

棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)と連携するようにって頼まれてるんだ」

 

俺の言葉にそれなら話は早いわっ!とパンと手を叩いた。その後に時間があれば棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)の本拠地に来ないかと誘われた。冒険者登録をしたいんだけどと返すとフォンテーヌはそういう申請とかかなり面倒らしいので、そのままナヴィアのところで活動する方が効率がいいと説明された。なんでもくっそ細かい個人情報を紙に書いた上で審査が終わるまで数日かかるらしい。それよりも棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)に名を置いてしまえば出来ることは一緒だと言われたので、お言葉に甘えて名前だけを置かせて貰うことにした。

 

千織は店があるので途中で別れた。改めて礼を言うと自分の店の住所が書いてある紙を渡され、「うちを贔屓にしてくれるのなら、別にいいわよ」と言い残して帰って行った。相変わらずさっぱりしてるなアイツも。この着物も結構着てるしそろそろ替え時か。今度行ってみよう。

 

俺がナヴィアの後を追って巡水船の駅に歩き始めたその時。

 

『…………しい』

 

「……えっ?」

 

歌劇場の前にある大きな噴水の前を通った俺の耳に、微かに声が聞こえてきた。

 

『……凄く寂しい ……っ、…一体いつまで…っ、耐えれば良いんだろう……』

 

「な、なんだ……?この声は……?」

 

仙力で聴覚を強化するとはっきりと、女の子が啜り泣く声が聞こえてくる。その他にも『もう限界だ』とか『このまま、いつまで……』などと涙声が聞こえてくる。

 

俺は周りを見渡す。この噴水の周りには結構な数の人が歩いているが、誰1人としてこの声が聞こえていないようだった。

 

「…ん?どうしたの?急に立ち止まって…」

「あ、いや。なんかこの噴水から声が聞こえて…」

「えっ?なにも聞こえないけど…?」

 

何それ怖い。話を聞くとこの噴水は「ルキナの泉」といって、フォンテーヌの全ての水が一度ここに集まるんだとか。この国の人にとっては子宝祈願で有名なパワースポットらしい。

 

説明を聞いてからもう一度耳を澄ませたが、もう声は聞こえてこなかった。……どこかで聞いたような声だったけど……一体誰の声なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーで、その後はポワソン町って言うフォンテーヌ邸の南にある町に行って色々調査の方針を話し合ったって訳」

「へぇ〜、なんか凄い事になってるなぁ」

「迅くん、ギャングさんになっちゃったのっ?」

「ギャングさんて。名前だけ置かせてもらってるだけだよ」

 

波乱の1日が幕を終え、俺は自分の洞天に戻って今日の出来事を丁度いた宵宮と綺良々に話していた。

 

ナヴィアから貰ったサングラスをテーブルに置くと、ソファに深く腰掛け背もたれに寄りかかる。

 

「ま、まさか迅くんが逮捕されちゃったなんて……外国の法律も勉強しないとダメみたいだね」

「…いやまさか、月初めの3日間だけダメなんていう法律があるなんて思わないだろ…。有罪だったら狛荷屋クビになるところだったんだぞ」

「あはは、まぁ無罪やったんだし、とりあえずは良かったなぁ。それで、その千織さんとはどないやったん?」

 

宵宮がほれほれと隣から俺の頬をつんつんつっついてくる。なんか皆さん総出で千織のことを警戒してるけど、ホントに心配するような事は無いんだけどなぁ。だから反対隣の綺良々さん?怖い目をしないで頂きたい。

 

あ、普通に向かいに座って話してる感出してたけど、しっかり両隣ゼロ距離です。肩や脚まで密着してるおかげで話に集中できねぇ。

 

「千織は相変わらずだったよ。ぜんっぜん変わってなかった。話したけど向こうも綺良々に会いたいってさ」

「ほんとっ!?…えへへ、今度洞天通してそっち行こうかなぁ」

「アレ本当はあんまりやっちゃダメなんだけどな……まあ1回くらいならいいけど」

「うちも時間が出来たらゆっくりスメールからフォンテーヌまで旅してみたいわぁ〜。せや、確かフォンテーヌの海って潜っても溺れないって聞いたんやけど、ほんとなん?」

「ああ。俺もまだ潜ってないけど本当みたいだ。水の中で呼吸できるって想像出来ねぇけど……元素は使えるのかな?」

 

雷とか水中で使ったら大惨事になりそうだし、炎とか機能しないだろとブツブツ言っていると綺良々と宵宮はお互いを見合わせてため息を吐いた。

 

「ちゃうちゃう。うちは景色の事を聞いてたんや。…すーぐ戦闘面のことに引っ張られるんやから。なぁ綺良々ちゃん?」

「ねーっ、……もぉー、これだから男の子はぁ」

「ご、ごめんてっ」

 

俺の彼女達の団結力が凄い。2人してふんっとそっぽを向いているのに謝り倒していると、お詫びに添い寝することになった。絶対これ狙ってたろ。

 

俺は仕返しに宵宮を逆に抱き枕にしてやると、面白いように動揺してるのが可愛かった。綺良々は俺の背中を抱き枕にしてたので、上から見ると川の字というより太い縦棒みたいになっている。

 

俺は顔を赤くしてぷるぷるしてる宵宮を優しく抱き寄せ、頭を撫でて大人しくさせると眠気に任せて目を閉じた。

 

 

 

 





あっぶねぇ。洞天で締めるとエロ小説になりかけるわ。







ちなみにエロ方面に行っちゃってボツになったワンシーンがあるので、読みたい方は例のごとくXのDMでお願いしますっ。せっかくなのでチョロっとそういう描写を追加するかも。
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