職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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おまたせしました。後編です。

後編も9000文字を超えてしまいましたが、これ以上分割ができないのと、アンケート回答数的に文字量多めが好きな方が多かったのでこのまま投稿しました。アンケ回答、ありがとうございました。

尚、今話は神里流の技だったり、ゲーム内のシステムを自分なりに解釈して解説しております。ご了承くださいませ。


義妹と旅人と幼馴染と先輩 後編

 

 

 

 

神里流の奥義の1つらしい巨大な霜風で敵を蹂躙した、社奉行神里家のご令嬢にして、俺の元義妹の神里綾華は微かに元素が残っている扇子を閉じ、霜を払い飛ばすとこちらへ微笑んだ。

 

「ふふ。兄さん、お久しぶりです。助けていただいて、ありがとうございました」

「いや、無事で良かったよ。あんまり助けは要らなそうだったけど」

「そんなことはありません。宵宮さんも、ありがとうございました」

「気にせんといて。友達を助けるのは当然のことやろ?」

 

そういい胸を張る宵宮を尻目に、俺とトーマで盗まれた荷台を確認する。

 

「お嬢。盗られた荷物も無事だよ。このまま港に運んで出荷してもらおう」

「それは良かったです。私と宵宮さんでこの者たちを幕府軍に引き渡して来ますので、兄さんと2人で荷物の方はお願いします」

「了解。迅、行こう」

 

俺とトーマは2人と1度別れ、荷台を離島に向かって引き始めると、肩を組んできた。

 

「しっかしひっさしぶりだなぁ!2年も音沙汰無しで、心配してたんだぞ?北斗の姉御に頼めば文くらい届けてもらえただろうに」

「北斗さんと知り合ったの結構最近なんだよ。悪かったな、心配かけて」

「ホントだぞ?特にお嬢。鎖国になった途端おろおろしだして、最近旅人が来て迅の話をするまであんまり元気なかったんだからな」

「そんな大袈裟な。そもそも年単位で出ていく話だったからそんなに心配することもないだろ」

「ばーか、鎖国がいつまで続くかわからなかったんだぞ。下手したら二度と会えないかもしれないんだ。落ち込みもするさ」

 

そう言われるとそうか。俺もきららとばあちゃんが心配で急いで帰ってきたわけだし、結構多方面に心配かけちゃったか。

 

「でも、音沙汰ないとはいえ、俺の異名は届いてたんだろ?」

「ああ、でも噂程度で、雷元素の凄い強い冒険者って曖昧な情報だけな。その人が迅だってわかったのは旅人が来てからだよ」

「…大々的に噂を広めた蛍を恨むべきか、綾華の元気を取り戻したことに礼を言うべきか…」

「あはは。一応礼を言っといたらどうだ?」

「見返りに何要求されるか怖いんだよ。…雷秘境だったらトーマも道連れにしてやるからな」

「善処するよ」

 

こうしてトーマと喋るのも久々だ。トーマは俺が13歳くらいの時、 兄さんと綾華が連れて来た。モンドから稲妻へ船で渡っていた所で嵐によって船が転覆。1人だけ流れ着いて途方に暮れていた所を拾ってきたらしい。

 

そうして神里家で従者として働くようになったトーマと拾われ子の俺は同い年で同じ境遇ということもあり、直ぐに打ち解けた。家を出た後もちょこちょこ顔を出してくれていたし、戦闘術の稽古もよく一緒にしていた。

 

俺が稲妻を出る時も声をかけたのだが、神里に恩があり過ぎて、スッキリと帰れそうに無いと断られた。

 

などと内心物思いにふけっている俺とトーマで荷物を港に戻し、浜に帰ると軍に引渡しを終わらせた綾華と宵宮がそれぞれ手を振って待っていた。合流した後に時計を見ると、昼を大分過ぎていた。蛍達を待たせているので急いで神里屋敷に帰ることに。

 

帰りの道中、綾華にめちゃくちゃ質問責めを受けた。向こうで何をしていたのかとか、神の目はどうしたのか、先程の俺の戦いが凄かったとか、向こうでの女性関係とか。…最後のは別にいらなくない?俺の助け舟を出してくれてた宵宮までその質問になった途端、一緒になって詰めてきてなんだか怖かった。なんとか「なんも無かった」の一点張りではぐらかしたその後ろで笑いを堪えていたトーマにはしっかりと雷付きデコピンをお見舞いしてやった。

 

「只今戻りました」「戻りましたー」

 

色々あったが、なんとか屋敷に戻ってこれた。なんか帰り道の方が疲れたぞ俺は。屋敷に上がった俺たちを蛍とパイモンと綾人兄さんが出迎えてくれる。

 

「おかえり」「オイラ、待ちくたびれたぞー」

「おかえりなさい。随分と遅かったですね。問題でもあったのですか?」

「はい、少々、野盗に輸出予定の布を盗まれてしまい、場所を突き止め交渉を持ちかけたのですが戦闘になってしまいました。そこを兄さんと宵宮さんに助けて頂きました」

「おや、そうだったのですか。2人とも、ありがとうございました」

「いや、気にしないでくれ。俺達も間に合って良かった」

 

こちらに頭を下げようとした兄さんを制す。蛍から預かってた袋を受け取ったところでパイモンの空腹が限界に到達し、時間も時間なので先にお昼を頂くことに。

 

お昼ご飯はなんと蛍が作ってくれたらしい。出されたモンドの料理を稲妻勢は物珍しそうに食べていた。女性陣は満足サラダ、男性陣はキノコピザが気に入ったようで、口に入れては顔を綻ばせていた。

 

俺はその光景を見ながら横で大口を開けて待機しているパイモンに鶏肉とキノコ串焼きを放り込む。口に入れると直ぐに咀嚼、嚥下しまた口を開けるのでリズムよく食べさせて行く。いや、馬鹿みたいな絵面だけどやってみると意外と楽しいんだよコレ。パイモンの隣で「あんまり食べさせ過ぎないでね」と苦笑いしている蛍がもう完全に食いしん坊のペットの飼い主……。

 

そんなこんなで昼食を食べ終わり、お腹も落ち着いた頃、忘れかけていたお礼品を渡すことにした。揃って社奉行本部に入り、俺は綾華に磐岩が入った袋を見せる。

 

「綾華、今日俺が来たのは、この霧切のお礼をする為なんだ」

「えっ?いっいえ、そんなお返しなんて…」

「この刀がなかったら、俺はとっくの昔に死んでた。だからどうしてもお返しがしたいんだ。この剣を受け取って欲しい」

 

そう言い、袋を渡す。受け取った綾華が目線で「開けてもいいですか?」と問うて来たので頷きを返すと綾華は袋の包みを解いた。

 

「…わぁ…!」

「これは……」

「めっちゃ綺麗や…!」

 

中から出てきたのは翡翠色と金色の柄が目に引く、黒革の鞘に納められた1本の剣だった。鞘から抜いてみると、透き通るような翡翠の片刃の刀身に風の様な波紋が目に引く。

 

「銘は『磐岩結緑』。璃月に古くから伝わる宝剣で、持った者の生命力を漲らせて、斬れ味に変換する力が備わっているらしい」

「…綺麗、です」

「分類で言うと直刀になるから刀とちょっとだけ扱いは変わるけど、…どうかな」

 

正直、ここが1番不安だ。刀と直刀では結構扱いに差が出る。稲妻の刀、特に先程綾華が使っていた天目影打は刀身が湾曲している湾刀でこちらは斬る事に特化した創り。対して磐岩の様な反りのない直刀は耐久に優れ、斬る他にも突くことも視野に入れた刀身なのだ。

 

綾華は昔から敵の攻撃は受け止めていくスタイルだったのでこれを採用したのだが、神里流太刀術には突き技が存在しないのでそこだけが不安。

 

綾華は僅かに震える手で磐岩を鞘に納めると、腰を降り深々と俺に頭を下げた。

 

「兄さん、ありがとうございます!とってもいい剣です!大切にしますねっ!」

「気に入ってくれて良かったよ」

 

すっごい良い笑顔で磐岩を抱きしめる綾華。わ、鞘に頬ずりしてる。取り敢えず喜んでくれて良かったわ。

 

キャラ崩壊気味の義妹を見て苦笑いしていると、横から綾人兄さんが肩を叩いてきた。

 

「いいのかい?こんなに良い剣を」

「霧切もこれと同じくらいいい刀だよ。こいつのお礼として釣り合う剣は磐岩しかなかった」

 

一応色々と探したんだけど、磐岩程の業物はまず見つからず、綾華に噛み合うような物もあんまりなかったんだよな。パイモンが俺が渡した剣に見覚えがあったのか、頬をつんつんしてくる。ちょ、お前手がちっちゃいからくすぐったいんだよ。

 

「なぁ迅、あれって群玉閣に飾ってあった剣だよな?オセル戦で一緒に落ちたんじゃなかったのか?」

「ああアレ、凝光さんが決戦前にちゃっかり璃月港に降ろしてたんだ。それを俺が稲妻に戻るまでの間、凝光さん指名の依頼をこなすって契約のもと貰った」

「えー!?いつの間に貰ったんだよ?」

「2人が北国銀行に行ってる間」

「ずるいぞ!ほら、旅人もなんかいってやれよ!」

「いやぁ、私は報酬で人探しの依頼を。って言っちゃったし」

「ダメだぁ〜!」

 

頭を抱え肩を落としたパイモン。そこに綾華を見て羨ましくなったのか宵宮も食いついてきた。

 

「綾華ちゃんええな〜。めっちゃ嬉しそうやん。なぁ迅。うちにはお土産とかないん?」

「火薬でいいか?」

「なんでや!?」

 

こちらに飛びかかってきて、むいむいーっと俺の頬を引っ張ってくる宵宮。密着したことで色々と当たって辛いので「今度、配達で璃月いくから考えとく」と言ったら大人しくなった。現金か。

 

「そういえば、兄さんは狛荷屋に就職されたのでしたね。配達はおひとりでされているのですか?」

 

そこに少し落ち着いたのか、綾華がやってくる。といっても磐岩はまだ胸に抱き締めたままだが。

 

「いや、1人組んでる人がいるんだ。猫又のーー「ごめんくださーい!」あ、噂をすれば」

 

外から響いた声に、反応し俺が外に出ると屋敷の入口に1人の猫又が立っていた。俺と目が合った綺良々は一瞬の驚きの後、顔を綻ばせてこちらにとてとてと走り寄ってきた。

 

「こんにちは、迅くん。なんでここに?」

「おう。いや、帰ってきてまだここに立ち寄ってなかったから、挨拶に来たんだ。綺良々の方こそ、足はもう大丈夫か?」

「うん!もうすっかり。昨日は送ってくれてありがとね!あと、ごめんね、私、途中で寝ちゃったみたいで…」

「疲れちゃったんだろ?色々歩き回らせたのはこっちだし気にすんな」

「でも、楽しかったよ?」

「……そか」

「えへへ」

 

え?今自然に話してから気がついたけど、何この付き合いたてみたいな会話。一生できるんだが。

 

「あのー…」

 

声がした方へ俺達は同時に振り向くと、社奉行本部の襖から全員顔をだしてこちらを見ていた。申し訳無さそうな顔で声をかけた蛍が頬をかきながら続けた。

 

「社奉行の敷地内でイチャイチャされるのは御遠慮いただいて…」

『違うっ!!』

 

2人同時に叫びバッと音が鳴りそうな勢いで離れると、生暖かい視線の中から綾人兄さんが出てきた。

 

「貴方は確か、狛荷屋の。何か御用がありましたか?」

「あっはい!鳴神大社の八重様から、綾華さんの忘れ物を預かってまして…」

 

綺良々は懐から髪飾りを出して、綾華に渡した。

 

「わざわざありがとうございました。昨日から探してたんです」

「いえいえ、どういたしまして」

 

頭を下げた綾華に言葉を返した綺良々は、「お邪魔してはいけないので、私はこれで」と踵を返したところで俺は思わず彼女の腕を掴んでしまった。

 

「へっ?じ、迅くん?」

「あー…、その、綺良々は、この後暇か?綺良々さえ良ければ、この後はここで…」

 

考え無しに止めてしまったので、俺はそっぽを向きながら早口で答える。何故かはよく分からないんだけど、俺の家族や幼なじみ、悪友。その輪の中に綺良々が居ないことがちょっと嫌に感じた。

綺良々は嬉しさ半分、戸惑い半分といった表情でこちらを見ている。

 

「え、ででも私がいると邪魔になっちゃうでしょ?」

「そんなことはありませんよ」

 

と、そこに綾華が入ってくる。綾華は扇子をパッと広げ口元に当てると優しく微笑んだ。

 

「前々から、綺良々さんとはお友達になりたいと思っていたんです。社奉行としても狛荷屋に依頼することも最近増えてきましたし、仕事中の兄さんの様子も気になりますので」

「せやで!うちも配達員としてじゃなくて、女の子としての綺良々ちゃんと仲良うなりたいと思ってたんや」

 

宵宮も笑顔で賛同する。横の蛍とパイモンも頷いていた。

 

「ですから、綺良々さんがよろしければ、この後もご一緒に過ごしませんか?」

 

そう言われた綺良々は瞳を潤わせ、満面の笑顔で頷いた。

 

「はいっ!その、よろしくお願いします!」

 

そう頭を下げ、俺は宵宮やパイモン、トーマに囲まれてる綺良々を尻目に綾華に耳打ちした。

 

「綾華、その、ありがとうな」

「いえ、お礼を言われる程の事でも御座いません。綺良々さんと仲良くなりたかったのは本心ですし、この剣を頂いたお返しです」

 

と、笑顔でそう言った。そこに同じ笑顔の綾人兄さんがやってくる。

 

「そう言えば、綾華。迅が帰ってきたら頼みたい事があったのではないですか?」

「頼みたいこと?」

 

ぽんと手を叩き切り出した兄さんに一同の視線が集まる。

 

「はい、そうでしたね。兄さん、貴方の国外でのご活躍はかねがね、蛍さんから聞いています。それに先程の賊との戦いも見事でした」

「なんか、改めて言われると照れるな」

 

後頭部をかく俺を見て微笑むと扇子を閉じて綾華は言った。

 

「ですので、兄さんがよろしければ、私とお手合わせしていただけませんか?」

 

 

 

 

 

数分後、修練用の道着と袴に着替えてきた綾華が木刀を渡してきた。それを受け取ると、数m離れて向かい合った。

 

「寸止めの1本先取で参りましょう。刀を弾き飛ばすか、降参されたら勝ちです」

「了解」

 

渡された木刀を軽く振ってみる。木刀ながら柄はグリップが巻いてあり握りやすくなっていた。

 

具合を確かめた俺は、縁側に座ってこちらを観戦している一同を見る。

 

宵宮は座布団に胡座を書いて座り「2人ともがんばりーやー」と笑顔で手を振っている。その隣で珍しく興奮している様子の蛍の膝にパイモンが座り、さらにその隣で綺良々が目を輝かせながら俺を見ていた。

その奥で、俺の力量を見るのが楽しみなのか微笑んでいる綾人兄さんと面白そうなものを見るような目で「お嬢!がんばれー」と応援してくるトーマ。なんだこの運動会感。

 

「兄さん、元素力はどうしましょうか?」

「そうだな……ぶっ放すの止めにして、体に纏うか、剣に乗せるくらいにしようか」

「わかりました」

 

綾華は真剣な顔で頷くと木刀を正眼に構えた。俺もカウンターを取りやすいように下段で構える。

 

「では、…始めッ!」

「せぁっ!」

 

トーマの掛け声とともに、綾華が滑り込むように袈裟斬りを放ってきた。袴を着用しているので足運びが見えず、3m程空いていた距離を一足で詰めてくる。

 

俺はそれを下段構えからの右斬り上げで迎撃。木刀の刃筋ではなく腹を叩いて軌道を逸らす。綾華は逸らされた力に逆らわずにその場で回転し、遠心力を乗せた左薙ぎで俺の肩口を狙った。俺は後ろに下がって避けようとするが振り抜きのスピードがかなり速い。避けきれないと判断した俺は木刀の峰を左手で押さえ、受け止めの体勢を取った。

 

「ーー氷よ」

「くっ!」

 

木刀を受け止めた瞬間、刀身に巧妙に隠されていた氷元素が炸裂。片手剣とは思えない重さの衝撃に、俺は思わず吹き飛ばされた。同時に自分から跳んで衝撃を幾らか殺したので、吹っ飛ぶくらいで済んでいるが、そのまま踏ん張っていたら木刀をへし折られ直撃していただろう。空中で身を捻り無事着地し内心冷や汗をかいている俺を見て綾華は嬉しそうに笑う。

 

「ふふふ、耐えられてしまいましたか。これの技で決めきれなかったのはお兄様に続き2人目ですね」

「…お前、いつからこんな事言う様な戦闘狂になっちまったんだ」

「ふふ…。お次、参ります!」

「無視かい!」

「神里流、霰歩」

 

声とともに綾華の姿が消える。…元素視覚……っ!後ろっ!

 

俺は元素視覚で感じ取った感覚に逆らわず。身を倒して後ろから放たれた横薙を間一髪躱す。

 

お返しと背後に木刀を振るうがまたもや消えて避けられる。舌打ちした俺が元素視覚を全開にすると同時に、あらゆる方向から木刀による高速の打突が見舞われた。斬撃一つ一つは氷元素を纏い、軌道は丁寧に全て急所。俺はそれを視覚を駆使してギリギリで捌いて行くが、少しずつ捌ききれ無くなっていき、一度頬を木刀が掠った。

 

埒があかんと判断した俺は綾華の打突網を大きく跳躍して離脱。距離をとって、ため息をついた。

 

「マジか、綾華めっちゃ強くなってる…」

「お褒め頂きありがとうございます」

 

氷元素を纏った攻撃が想像以上に重く、速い。元素を操り地面に潜るというトリッキーな立ち回りから最短軌道で繰り出される鋭い斬撃。しかも超速。いやマジでクッソ強い。氷元素なだけあって定期的に水を供給できる人と組ませたら無類の強さを発揮しそうだ。

 

「兄さんも元素力をお使いになられてはどうですか?」

「…ああ、遠慮なく使わせてもらうよ」

 

俺の雷元素の技は力加減が難しい。下手すりゃ綾華に怪我をさせるかもしれないと渋っていたのだが心配は無さそうだ。というか、使わないとこのままボコボコにされそう。一応義理とはいえ綾華の兄貴やらせて貰ってる身としてはこのまま負けるのはちょっとかっこ悪いし、観戦中の奴らにゃ当分の間からかいのネタに使われそうだ。

 

縁側をチラリと見ると、皆戦いに見入っているその中で1人の猫又の少女と目が合う。綺良々は俺をじーっと見て、目が合ったと見るや驚いて一瞬逸らし、やっぱりまた見てあわあわとうろたえた後に赤い顔で「がんばれ」と口パクしてきた。かわいいかよ。

 

ーーさて、ちょっと、義妹相手に大人気ないかもしれんけど、スイッチを切り替えて行きますか。

 

俺は身体に雷を纏わせる。紫色のスパークが身体を伝い、神経の伝達速度を引き上げ、身体能力を強化する。そして同時に、俺は綾華に対して「見る眼を変えた」。目の前の相手を模擬戦中の義妹、神里綾華ではなく、氷の斬撃を高速で繰り出して来る、倒すべき強敵と据える。

 

「…っ」

 

多分綾華には俺の雰囲気が突然、重く冷たくなった様に見えたと思う。俺の目を見た綾華が少し気圧された。

 

ーーその瞬間を見逃さない。

 

俺は雷を脚に集め、衝撃音と共にその場から消えた。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

「ーー凄い」

 

鳴神大社のお使いで神里屋敷にいって、なんやかんやでお家にお邪魔することになった私は、目の前で神里綾華ちゃんの猛攻を凌いでいる迅くんを見て、そう自然と口から零れた。すると、旅人ーー蛍の膝に大人しく収まって模擬戦を見ていたパイモンが綾人さんに質問した。

 

「なぁ綾人。さっきから綾華が地面に潜ってるけど、あれも神里の技なのか?」

「ええ。あれは神里流霰歩。潜っているように見えますが、あれは氷元素の霰で自分の姿を隠して移動します。今日のように日が出ている時使えば霰で光を屈折させ、消えた様にも見せることができる技です」

「くっせつ…?あられ?…ま、まぁとにかく消えるってことだな!」

「パイモン…」

 

苦笑した蛍に頭を撫でられ「へ?」ときょろきょろするパイモン。そこに先程から気になることがあったのか、はいっ!と宵宮さんが挙手した。

 

「迅のやつ、綾華ちゃんが真後ろから攻撃しても普通に避けてるけど、アレはなんでなんや?」

「ああ、それはね元素視覚を使ってるから」

「元素視覚?」

 

あ、それなら私も妖狐さまに教えてもらったことある!

 

「えっと、確か元素の波を飛ばして、他の元素や生物とかを感じ取れるやつだよね」

「そう。迅はその元素視覚が凄く上手。元素を持たない相手でも何かしらの元素や自分の元素さえ付けちゃえば、死角にいても何してるかわかっちゃうんだって。だから普段はまだしも、戦闘中の迅には死角が基本的には無いよ」

 

なるほど、今の綾華ちゃんは氷元素の塊だから、後ろからの攻撃も察知できるんだね。迅くん、すごい!

 

「でも、迅もなんで元素を使わないんだ?さっきから使うのを躊躇ってるように見えるんだが」

 

と、腕組みして柱にもたれかかって観戦しているトーマが言う。確かに、迅くんも雷使えば良いのに。それに蛍が多分…と苦笑する。

 

「前に色々と迅の技を見せてもらった事があるんだけど、いつも魔物相手だったから加減無しの強力な技ばかりなんだよね。雷を纏うと力が凄く上がっちゃって加減が難しいって言うし、女の子相手だから余計なんじゃないかな」

 

その言葉に一同はなるほどと頷いていると、戦いの方にも進展があったみたい。迅くんが大きく距離を取った。綾華ちゃんと一言二言会話すると何故か私の方を見てくる。えええっ!?目が思いっきり合ってしまった私は思わず逸らしてしまうが、もう一度見てみると、また視線があった。お、応援した方がいいかな?

 

(が・ん・ば・れ)

 

流石に口に出すのは恥ずかしいので口だけに留めちゃったけど、ちゃんと伝わったみたい。

 

「お、迅も元素を使ったぞ」

 

迅くんは雷を纏って目を閉じて深呼吸をする。そして目を開けるとーー

 

ゾクッ

 

なんか一気に迅くんの雰囲気が変わった。

目を開けた迅くんを見て観戦している皆も私もビクリと肩を跳ねさせる。

実際に対戦している綾華ちゃんも雰囲気が重くなった迅くんを見て少し怯えたように見えた。

 

「ふむ、成程。綾華相手では力が出せないから、目の方を変えましたか」

「そ、それはどういうことなんや?」

「迅は相対している者を神里綾華では無く、別の敵と置き換えたのでしょう。恐らく綾華が迅の想像よりもかなり強かったから本気を出すために講じた措置、と言ったところでしょうか」

 

綾人さんがそう言った瞬間、ドンッ!という衝撃音が轟き、迅くんの姿が文字通り「消えた」。

 

あまりの速度に迅くんを見失い、きょろきょろと探す私達。

 

「あっ!」

 

と、宵宮さんが指を刺した方を見ると、もう勝負の決着が着いていた。

 

木刀が迅くんに弾き飛ばされてその手を掴まれ逃げられず、綾華ちゃんの喉元に木刀を突きつけられていた。目を見開いていた綾華ちゃんは瞬きをして現状を把握。

 

「ま、参りました……」

「よっしゃ」

 

手を離された綾華ちゃんは思わず尻餅を搗いてしまう。そこに迅くんが申し訳なさそうな顔で謝った。

 

「綾華、ごめん。綾華が思ってたよりも遥かに強くて手加減出来なかった。手、痛くないか?」

「い、いえ。大丈夫です。ありがとうございましたり…兄さんが速すぎて…み、見えなかったです…」

「俺はソレを売りにして冒険者やってたからな。ただ、今の速度は直線移動だけさ」

「お疲れ様〜」

 

私達は2人に駆け寄ると、手ぬぐいと水筒を渡して2人に矢継ぎ早に感想を語り始めた。特にトーマと宵宮さんの興奮が凄い。

 

「迅!やっぱお前すごいよ!お嬢に勝つなんて」

「いや、結構ギリだったぞ。現に今、氷元素の余波喰らいまくって手足の感覚無いし」

 

「綾華ちゃんも良い戦いやったで!おつかれさん!」

「ありがとうございます。やっぱり兄さんは強かったです」

 

わ、私も迅くんと喋りたい!と迅くんの所まで行くと笑顔で迎えてくれた。はぅ…。

 

「綺良々、応援ありがとな。元気出た」

「ほんと?それなら良かったよ。ほら、手足を温めないと。手だして」

「へ?おう」

 

私は迅くんの手を温めようと、彼の手を自分の手で包み込んだ。わーっつべたい〜。

 

「きっ綺良々っ?」

「ん?なに?」

 

わっ、これ手だけじゃ温まらないや。これならどうだろ。

 

私は迅くんの手の甲に自分の手を重ねると、それを私の頬に包み込んだ。にゃ〜ひんやり〜。

 

「あの、綺良々さん?」

 

む?どうしたのそんな顔を赤くしてって……あ。

 

迅くんの手をあっためることに集中していた私は今頃自分がなにをしてるのかを把握した。見上げると耳を赤くした迅くんがそっぽを向いている。

 

「ああっごごごめん!」

 

慌てて手を放す。ヤバい!また距離が近くなり過ぎた!その事で今日相談したばっかりなのに…。私があわあわしていると、綾華がやってきて、少し震えた声で聞いてくる。

 

「き、綺良々さん。つかぬ事をお伺いしますが、に、兄さんとは、その、男女のお付き合いを…」「違います!」……まだね。

 

思わず即答してしまう私。それを聞いて綾華ちゃんはホッとした顔になった。…え?綾華ちゃんて迅くんの妹だよね?ね?おーい迅くーん?

 

私は迅くんに助けを求める視線を送ろうとしたが、プンスコ怒ってる宵宮さんに詰め寄られていてこちらを見ていない。

 

「それなら、安心致しました」

 

え?なにが安心?なんで安心?放心している私の手を包み込んで綾華ちゃんが笑顔で言う。

 

「ふふっ、綺良々さん。これから『色々と』よろしくお願い致しますねっ」

 

やっぱり、ライバル、多くない?

 

今の私にはカクカクと頷くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 




・綺良々
ヒロインレース、わたしが1番不利かも!?と思っているが、実は圧倒的リードしているのを自分では気づいていない。最近身体が迅くんを求めて勝手に動いちゃう。

・神里綾華
明らかに迅に対して兄として以外の色の視線が混じっている義妹。磐岩を抱いたまま離さず、布団にまで持ち込もうとしてトーマにこっぴどく叱られた。模擬戦中に見せた迅の冷たい敵に向ける目を少しイイなと思っている。

・宵宮
迅に考えとくと言われたお土産を結構楽しみにしている。「それにしても、迅と綺良々ちゃんの距離、ちょっと近すぎひん?…ならうちもちょっとくらい…」

・綾人
磐岩を貰った時の綾華の喜び様に実は内心引いていた。今度、迅に模擬戦を頼もうか考えている。

・トーマ
わぁ、知らない間に迅の周りがなんかおもろしいことになってる。俺はお嬢を応援するぞ!

・蛍
私、今日解説してばっかだったなぁ。お昼作ってあげたお礼に絶縁秘境手伝ってもらお。

・パイモン
迅ご飯食べる時は食べさせてくれるから楽だぞ!

・迅
おうコラ爆発しやがれフラグ建築士が!
向こうでの女性関係を「なんも無い」と『はぐらかしてる』あたり確信犯



はい6話目でした。実は戦闘シーンの方が書くの得意だったりします。

原神の戦闘や用いる技、戦術がゲーム内で解説されているわけではないので、エピソードpvを見ながら綾華の動きを研究したり、現実の剣術を勉強して何とか自己解釈で術理を立てて書いてました。

アンケートのお話ですが、別に投票が多かったやつだけ書くとかでは無いです。全部描きます。ただ、この小説は綺良々メインなので、バランスがムズいね。

よろしければ感想頂けるとめちゃんこうれしいですね。
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