職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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幕間: 小話集 宵宮/刻晴

 

・宵宮の花火作りを見ていたら

 

 

 

 ーーー箸で火薬玉を摘み、大きな花火玉の中に入れていく。きっちり等間隔に、列がズレないよう適時微調整を加えながら1層分を敷き詰め終わると仕切りしてまた最初から。

 

 そんな神経をすり減らすような作業を、邸宅の外の椅子に座って鼻歌を歌いながらこなす宵宮を見つけた俺は後ろからじっと見つめていた。

 

 いつも思うけど、よくそんな速度であんな小さい火薬玉を箸で摘めるよな。

 

 宵宮は俺たちの中で箸の扱いが格段に美味い。小さな炊く前の米粒も1発で掴み取るし、焼き魚とかも箸一膳でめちゃくちゃ綺麗にばらす。そんで食べた時の笑顔が満点なので作ってるこっちも嬉しくなるんだよな。

 

「…んー、なんや?そんなに見て」

「やべ、気付かれた」

 

 一玉分詰め終わった宵宮に見つかってしまった。戻ろうとするが笑顔で手招きをされたので、長椅子の隣に腰掛ける。

 

「……それ、一日に何個作るんだ?」

「んー?モノによるんやけど、この大きさなら100個は作るで?」

「そんなに?……海灯祭の準備は終わったのに、まだ作るんだ」

「あははっ、よく言われるけどな。花火玉って作るのに2ヶ月かかるんや。今作っとるのは春祭りの分やで?」

「ええっ」

 

 花火玉ってそんなにかかるのか。初耳の俺が目を見開くと、2個目の玉を詰めている宵宮が頷く。

 

「そもそも、今詰めてるちっこい玉を作るのですら何週間もかかるで。少しずつ火薬と水を足して、丸くしないと打ち上げた時に綺麗にならへん」

「…へぇ〜、花火師ってすごいんだな……ほんと、お疲れ様です」

「迅こそ、配達しながら冒険者やっとるやん。うちからしたらそっちの方がすごいなぁって思うわ………それに、この前迅が労ってくれたおかげで、うち元気いっぱいや。ありがとうな」

「アレくらいなら何時でもやるぞ?」

「……ほんま?」

 

 花火玉を置いた宵宮が隣に座る俺との距離を詰めてきた。肩が当たり、金色の綺麗な瞳に俺が写る。

 

「おう、それなら今日は宵宮の好きなもの作るか」

「ほんま!?やったぁ!」

 

 こういうコロコロ変わる表情も宵宮の魅力。眩しい笑顔を咲かせた宵宮は俺の手を自身の手で包み込もうとして、その寸前で手を引っ込ませた。

 

「どした?」

「…手ぇ火薬で汚れてるの忘れてたわ。あやうく迅の手も汚すところやった」

 

 見ると、花火玉を持っている方の手が黒く汚れてしまっていたそう言った宵宮は「夕飯が楽しみやー」と言いながら手を握るのを諦めて花火作りを再開しようとした。

 

 …が、俺はそのまま宵宮の手を包み込んだ。手を握られた宵宮は狼狽して手を離そうとする。

 

「えっ、だ、ダメや。迅の手も汚れてまう…」

「そんなこと気にするか。この汚れも全部、宵宮の頑張りの証だろ。それを嫌がったりなんか絶対しないよ。…あと、お預けはちょっとやだし」

「…っ」

 

 そうまくしたて、俺は宵宮の指の間に自分の指を差し込んだ。より手の密着度が増して指と指が絡み合う。

 

 宵宮は無言のまま、膝の上にあった作りかけと花火玉と箸を横に置いた。俯いたまま、ぽつりと呟いた。

 

「……はなして」

「えっ」

 

 俺の背中に冷たいものが伝う。も、ももも、もしかして嫌、だった?

 

 何も言えなくなった俺の手を宵宮は離すと、すくっと立ち上がり、そのまま邸宅の方に走っていってしまった。ぽつんと取り残された俺は冷や汗が垂らしたままガックリと項垂れる。

 

「…や、やや、やらかした?……さすがに今のは、キモかったか……?」

 

 どうしよう。普段にぱーってしてる宵宮の拒絶は特にダメージがでかい。と、とりあえず謝って、そんで夕飯で機嫌を取るしか…!

 

 のどかな天気と気温のど真ん中の長椅子の上で、決死の覚悟をキメた俺の元に、宵宮が戻ってきた。対する俺は何を言われるんだろうと怖くて仕方がない。彼女の顔を見ると何かを我慢するように、唇を噛み締めている。

 

「…迅っ!」

「は、はいっ!」

 

 唐突に名前を呼ばれ、背筋がピンと張る俺。な、なななんですかぁ!?

 

 宵宮の顔を近くでしっかり見ることが出来た俺は、彼女の表情に驚いた。

 

「…じんっ」

 

 よく見ると、手を洗ってきたのか彼女の手が綺麗になっていた。その手を伸ばして俺の頬に触れる。

 

「よ、宵宮?…怒ってるんじゃ…?」

「え、なんでや?うちが怒るわけないやんか。…もぅ」

 

 宵宮は背伸びをして俺の首に手を回し、ぎゅっと抱きついてくる。

 

「…好きやぁ」

 

 身体全面に柔らかくて暖かい感触が広がる。ひとまず嫌われた訳では無いようで胸をなでおろした。さっき手を繋いでいない方の手を宵宮の背中に回す。

 

「…別に、普通のこと言っただけだぞ?」

「それが嬉しいんよ。……もう今日は外出れへんっ、よそには見せられへん顔になったやろぉ〜」

 

 俺の胸に頭をグリグリと擦り付けながら、宵宮は緩みきった顔を近づけた。

 

 

 

「…すきっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・玉衛の一日

 

 

 

 

「……ん」

 

 窓から差し込む光で刻晴は目を開ける。くしくしと目を擦り、身体を起き上がらせる。回らない頭で隣を見ると、もぬけの殻だった。寝る前まで一緒だったのに。ちょっと寂しく思いながら身支度をする。

 

 顔を洗い、いつもの衣装に着替える。その後は自慢の若紫色の髪に櫛を通し、それを双螺に結んだ。メイクもして完璧な璃月七星【玉衛】刻晴になると自室の扉を開けた。

 

「おはよう。朝ごはん出来てるぞ?」

「…結婚して?」

「みんな、朝飯用意するとそれ言うよな」

 

 刻晴を出迎えた、愛しの人に結婚欲を激しく刺激される。朝起きたら美味しい朝ごはんが準備されていて、優しい笑みで挨拶されたら眠気も飛ぶというものだ。

 

 走って彼の胸に飛び込みたい衝動に必死に耐えながらテーブルに向かうと、迅の他に先客もいた。

 

「綺良々も、おはよう」

「おはよ刻晴さん……ふぁ〜…ん、まだ眠たいよぉ」

 

 大あくびをかまして目を擦る綺良々の頭にぽんと手を置くと、満足気な顔で喉を鳴らした。この猫又は刻晴たちの中でも癒しキャラとして定着している。もちろん1番は迅だが、こうして刻晴が撫でても喜んだ顔をしてくれていた。

 

 眠気のせいで人化が緩んでいるのか、頭の上に大きな亜麻色の猫耳が見えた。見ると人間の耳もあるので一体どういう構造なのだろうか。

 

 猫耳の先っちょをつまむと柔らかい毛が刻晴の指を撫でた。自分の髪も猫耳とよく彼に間違えられて頭を撫でられ、いい思いをすることがある。もう少し近づけ無いものかと真剣な顔で綺良々の猫耳を軽く引っ張ったり指の腹で撫でたりしていると、お盆を持った迅が苦笑している。

 

「…気持ちはわかるけど、綺良々が溶けてなくなりそうだぞ?」

「え、あ、ごめんなさい綺良々」

「……み、耳は敏感だからぁ…だめぇ」

 

 撫でられすぎててろんてろんになった綺良々が本命の飼い主に撫でられてゴロゴロと喉を鳴らしながら突っ伏から起き上がった。どうやら飼い主のなでなでには特殊な効果があるらしい。

 

 その後は迅の作った朝食に舌鼓を打つ。粥と唐辛子系の薬味、スープと璃月人の刻晴に合わせたメニューで、じんわり身体と心が暖まっていくのを感じた。

 

 こういう人が揃っていて同じタイミングで食べる時の洞天の料理は大抵迅が作ることが多い。稲妻料理はもちろん、璃月料理やモンド、最近だとスメールとフォンテーヌの料理まで習得した迅は料理はどれも絶品で刻晴の好物だ。海灯祭の準備が落ち着いた時に作ってくれた大好物のエビのポテト包み揚げはずっと脳裏に焼き付いている。

 

 朝食を食べ終えると、刻晴は皿洗いに行った綺良々の目を忍んで迅に軽く抱きついて、彼を堪能。撫でてくれた彼の手に頬擦りしたくなる欲求を何とか抑え込み、彼とへの口で顔を出した綺良々に手を振って洞天をでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー、帰りたい」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 そんなことがあったのももう14時間前。海灯祭の下準備は終えたとは言えど、お祭り気分の商業都市ではトラブルが付き物だ。やれ出店設営の権利がどうだの、花火を見る席を作ってくれだの、音楽祭の会場への楽器の移動がどうの、一日中街を駆けずり回った刻晴は月海亭の机に突っ伏した。

 

 心配そうに甘雨が声をかけてくるのを手をヒラヒラさせて答えて、何とか起き上がる。

 

「……うぅ、なんでみんなこんなに問題ばっか起こすわけ……?稲妻の祭りを見習いなさいよ…」

「ま、まぁ璃月人は我が強い人が多いですから…」

 

 国民の気質が出てるわねとため息を落とした刻晴はよろよろと立ち上がる。時計を見るともう22時を回っていた。今から洞天に帰ってもみんなは寝る前だ。それでも迅ならご飯を作ったりしてくれるだろう。それが少し申し訳なくなった刻晴は自宅に戻ることにした。

 

「……甘雨も帰りなさい。今度私に黙って徹夜で仕事してたら洞天のベッドに縛り付けるからね」

「ひいっ!…わ、わかりました」

 

 以前の繁忙期に黙って徹夜をして倒れかけた半仙を脅す。この前は迅も出動して甘雨を温泉に叩き込み、見張り付きのベットに収監した。罰として清心かき揚げ丼なるものを「か、カロリーが!」とかほざく甘雨の口に突っ込んだので、それがこたえたようだ。

 

 帰る甘雨を見送り、自分も月海亭から出た所で、横から声がかけられた。

 

「……お疲れ様」

「ん、お疲れ様……って、ええ!?」

 

 刻晴は反射的に返してしまってから、何故か璃月にいる自分の恋人を仰天の声を上げた。

 

「じ、じんっ!?なんでここに」

「帰りが遅いから見に来たんだよ」

「み、見に来たって……通行証は私が持ってるのよ?甘雨のところから通ってきたの?」

「いや?飛んできたんだよ普通に」

「飛んだぁ!?」

 

 確かに迅は雷元素で磁力を発生させ、それと風の翼を併用して空を飛ぶことは出来る。が、ここから稲妻は船で半日の距離だ。そう簡単に着くとは思えない。

 

「え、ど、どれくらいかかったの?」

「本気で飛んだから20分くらい?…ちゃんと怪しまれないように弧雲閣に着地して歩いてきたんだぞ?」

 

「どう?びっくりした?」みたいな顔でちょっと得意げに言ってくる迅がなんだかおかしくて、刻晴は笑う。この際20分足らずでで海を渡ったことは置いておくとして、刻晴は今目の前にある幸せを噛み締めることにした。

 

「…迅っ」

「お疲れ」

 

 たまらず抱きついた。時間も遅いので玉京台に人がいないのをいいことに大好きな彼の身体にピタリと身を寄せた。

 

「…実は、昼に甘雨が来たんだよ。かなり忙しいって聞いたし、この時間までかかる時は遠慮して洞天来ないだろ?」

「……嬉しいわ…」

 

 もうこのままずっと抱きついていたいが、そうもいかない。身体を離すと、刻晴は迅の手を取った。

 

「今日はどうするんだ?」

「そうね、せっかくだし、私の家に泊まっていって?」

「ああ。…夕飯はどうする?何が食べたい?」

「…途中不卜廬に寄りましょう?」

「ん?あそこ、どっちかと言うと薬膳とか、強壮系………あ」

「いいから行きましょ?」

 

 これからの彼との時間を想像して鼻歌を歌う刻晴に手を引かれて、頬を引き攣らせた迅は遠い目で呟いた。

 

「……疲れてんじゃないの?」

「むしろ回復していくわよ?……明日は休みだし、楽しみね」

 

 

 

 

 

おしまい

 

 

 

 

 

 

 

誰の小話が良かった?

  • 綺良々
  • 綾華
  • エウルア
  • 宵宮
  • 刻晴
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