職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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大体タイトルの通り。


第二幕 海灯祭の受難
1話 言い難いこと程さっさと言った方が良い


 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「はぁっ!」

「…せ、せいっ」

 

 一心浄土で黒い刀と紫色の薙刀がぶつかり合う。

 

 お互いの獲物の刃を潰す勢いでせめぎ合うが、突如薙刀にかかっていた万力のような圧力が消え去った。前のめりに倒れそうになるが、崩れる体勢を支えるように出した一歩が地面を踏み砕き、流れる身体を強引に修正する。

 

 弾かれたように元来た剣閃をなぞって戻る霧切をしゃがんで躱した影さんは、投げに入ろうと俺の襟に手を伸ばしてくる。俺は彼女の掌を手を組むようにして止めた。このまま手ごと投げられるなら一緒に跳んで、引かれるなら空いた体に霧切を叩き込むか……とか考えていた俺の戦闘中の思考の横から、可愛らしい声が聞こえてきた。

 

「…っ、ひゃぁっ!」

「え?」

 

 戦闘中に、そして似つかわしくないと言っては失礼になるか?影さんから聞こえた可愛らしい声に、俺の目が点になった。

 

 え、そんな声出たんスか影さん。

 

 見ると、影さんはらあわあわと繋がった俺たちの手と俺の顔を交互に見ている。そんな彼女に集中が解けてしまい、俺の纏っていた蒼雷が解除されてしまった。

 

「……え、影さん?」

「はっ!」

 

 気まずくなって声を掛けると、我に返った影さんは手を離そう……とはしなかった。

 

 直後、回転する視界。

 

「ぐほぇ!?」

 

 影さんに背負い投げをされた、と背中に途轍もない衝撃を食らった俺がそう理解した頃には、自分の意識は闇に落ちていた。

 

 

 

 

 

 

「……すみません」

「い、いえ。全然大丈夫ですよ?」

 

 意識が戻ると、影さんはしゅんとしていた。一心浄土の床の上に正座をして項垂れている。立っている俺から見ると口元がちょっととんがっているのが大変可愛らしいのだが、様子がおかしい影さんの話を聞くのが先だな。

 

「……えっと、何かあったんですか?今日の影さん、なんか様子がおかしいような…」

「そ、そんなことはありませんよ?」

「いや、だって今日まだ1回も目が合ってませんし。……それに、まさか膝枕して頂けるとは……思ってませんでしたし?」

「あ、っ、あれは神子が倒れた男にはこうするのが良いと!」

「……あの宮司の言ったこと、信用してるんですか?」

「………」

 

 そう、何がびっくりしたって起きた時の視界が盛り上がる紫色の着物だったことなのよ。その山の向こうから影さんの声が聞こえてきたし、後頭部は柔らかいしってことで俺はその場から秒で転がり出た。

 

 か、神に膝枕されたとか、雷神信仰の九条家とかにバレたら俺殺されるんじゃないか?

 

「……それとも俺の洞天に来た時に、何か吹き込まれました?」

「……ぃ、いえ、そんなことは」

「バレバレですよ」

 

 昔は姉の方が交渉とか行政をやってたのが丸わかりのわかりやすさ。形のいい眉をピクっと動かされたので突っ込むと、影さんは正座をしたまま後ろを向いてしまった。

 

 ため息を着いた俺は、ーーさっきからずっと端で座っている将軍に声を掛ける。

 

「将軍は何か知りませんか?」

「機密事項です。特に貴方には話せません」

「俺限定の秘密事項とは」

 

 このままで埒があかない。……やるか。俺は岩神と水神に会うことでついた神様慣れを駆使して覚悟を決める。

 

「…影さん」

「っ!?」

 

 俺は影さんに目を強引に合わせに行く。俺の行動に驚いてそっぽを向かれるが構わない。それでも合わせに行く。影さんは神様フィジカルを遺憾無く発揮して振り切ろうとしてきたので、俺は最終兵器を投下した。

 

「……プリン、作ってきましたけど?」

「え!?…あ」

「やっと目が会いましたね」

 

 プリンで釣れるとか子供かと突っ込みたくなるけど「しまった!」の顔の影さんが貴重なので黙っておく。

 

 そして、俺と目が合った影さんがみるみる赤くなっていく。……その彼女の反応に、既視感を感じてしまった。

 

「影さん?」

「わ、わかりましたっ。わかりましたから、少し離れてください…」

「わっ、すみませんっ。もう近づきませんっ」

 

 そうだよ無礼だよ(今更)。俺が下がろうとすると、今度はちょこんと着物の袖を摘まれる。

 

「…離れ過ぎですっ」

 

 なんなんだ可愛いなコノヤロー。

 

「…えぇ、えっと、ほんとに何があったんですか?さすがに心配します」

「…何があったという訳ではないのですが………あぁもうっ!」

 

 な、なんだ?影さんは目を閉じて深呼吸したかと思うと、手を伸ばして俺の手を取った。その手を胸の前に持っていき、今日初めて俺を真っ直ぐ見てくる。

 

「……迅さんっ」

「…はい」

「もし、…もし貴方が良ければなのですがっ」

「は、はい」

 

 いきなりの展開に俺の頭が「?」で埋まる。な、なんで俺雷神から手を握られて詰め寄られてるの?もしかして綺良々、俺たちの関係話してないの?

 

 チラリと横を向いて将軍の方を見るが、設定されているのか俺の方をじっと見て動かない。

 

 そんな俺に構わず、影さんの口が動いた。

 

「あのっ、……雷神の眷属に、なる気はありませんか?」

「…眷属ですか?」

 

 思わず聞き返した俺にこくこくと頷く影さん。

 

 け、眷属?それって、風神でいうトワリンとか、雷神で言う八重宮司とかが位置するアレのこと?え、俺が?

 

「え、ええと、寧ろ俺でもいいんですか?」

「はいっ、貴方が眷属になって貰えれば稲妻の戦力として申し分ないですし、外交的にも役に立つはずです。璃月の仙人であり、雷神の眷属。双方メリットがあると思いますし。悪くないことだと思いますよ」

 

 そうやけに早口で言う影さん。

 

 …正直、メリットしかない話だけど、1回璃月側の了解も取らないといけないような気がする。神の眷属となると話が大きいし、俺1人だけの話じゃないしな。

 

「……わかりました。俺としてはお願いしたいところなんですが、1回璃月側にも話しておかないとって思いまして。少し時間を貰ってもいいですか?」

「はいっ、その事なんですけどね。近々海灯祭が璃月港であるでしょう?その日に、極秘で神で集まろうという話になっているんです」

「え!?」

 

 なんじゃそりゃ。海灯祭に神が集まるの?そんな前代未聞の話に俺は目を見開いた。

 

「そ、そこでなんですが、1つ、私からあなたに依頼をしたいと思っているのですが…?」

「い、依頼ですか?」

 

 とりあえず離れてくれないだろうか。めちゃくちゃいい匂いがする。

 

「私が璃月港に行くというのは極秘になります。ですから、その間私の護衛をして頂きたいのです」

「護衛と言いますと、傍で控えているって感じですか?」

「はい。そういう形で大丈夫です。他の神と合流したら自由に行動してくれて構いません。神子も行きますのでその付き添いも兼ねています」

 

 そういうことなら引き受けようか。どの道海灯祭には行くんだし、雷神の眷属の相談にも俺はいた方がいいだろうし。

 

 俺は少し考えるとこくりと頷いた。

 

「はい、そういう事でしたら、引き受けさせていただきます」

「本当ですかっ?ありがとうございます」

 

 影さんは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に一瞬ドキッとしてしまう。って何してんだ俺。相手は神様であろうと俺には心に決めた人たちがっ。

 

 鼓動が少し早まる心臓を殴りつけながら手のことを目線で伝えると、影さんは慌てて手を離した。咳払いをして姿勢を正すけど頬はまだ朱に染まったままだ。この姿のまま民衆の前に出たら国中お祭り騒ぎになるくらいに可憐で困る。

 

 さて、綺良々達にどう伝えるかと考えていると「言い忘れていました」と影さんは口を開いた。

 

「綺良々さん達にも秘密でお願いしますね。何せ極秘なので」

「え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………どうしよ。

 

 俺は天守閣から出て橋の上を歩きながら腕を組んで考える。

 

 俺が何を悩んでいるのかと言うと、綺良々達にどう俺が行けないことを伝えるかということ。

 

 3日後に迫った海灯祭。刻晴や甘雨達が頑張ってくれたお掛けで準備は完了していて長野原印の花火も向こうに輸送済み。みんなで向こうで集まる予定も立てていて綺良々達もすごく楽しみにている海灯祭。それに俺が行けなくなると伝えた時の顔は考えたくもない。

 

 いやまぁ俺も行くんだけど。その事すら伝えられないとなると「仕事で行けなくなった」と言うしかないんだよな。

 

 …………うわぁ、言いたくねぇ…。

 

 でも当日にいきなり言う方がアレだし、今日のうちに言わないとな……。

 

 いやまぁ、行くんですけどね(二回目の言い訳)。だから別に落ち込む事はないし、向こうで合流出来るんだけど、当日までは俺が行けないことになってるわけで。それをめちゃくちゃ楽しみにしてるみんなに言わなきゃいけないわけで。

 

 俺はここ数年で1番憂鬱な気分になりながら帰り道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

「あっ!迅くんおかえりっ!」

 

 洞天に入ると外で日向ぼっこしてた綺良々が手を振ってくれた。手を振り返すと、こっちにとことこ歩いてきて抱きついてくる。

 

「んーっ、おかえりっ!鍛錬お疲れ様〜」

「ただいま綺良々。日向ぼっこ中か?」

「それもあるけど、迅くんを待ってたんだっ」

 

 はぁ、ほんとに可愛いなこの猫。

 

 頭を撫でると喉を鳴らしながら手にすりすりしてくるのは何度もやられてるけどやっぱり1番効く。

 

 邸宅に歩くうちに背中側に移動した綺良々をおんぶして家の中に入ると、何やらエウルアがそわそわしていた。

 

「…あら、おかえりなさい」

「おう、ただいま。……どうした?そんなにそわそわして」

「別にそわそわなんてしてないわ。恨むわよ」

「あ、久しぶりに聞いたそのフレーズ」

 

 もうすっかり怨やら恨みやらを口にしなくなったエウルアがそっぽを向いてしまった。それを不思議に思っていると、背中に乗っかってる綺良々がこっそりと耳打ちしてくる。

 

「エウルアちゃんね、海灯祭が楽しみなんだって」

「ヒュッ」

「べ、別にそんなこと思ってなんか…!」

 

 なんかエウルアかつんつんしてるが、綺良々のセリフで思い出してしまった。くっそ、流れで言おうと思ったのにエウルアのやつ、めちゃくちゃ楽しみにしてるじゃねぇかよ。貴族らしく足を揃えてソファに座ってはいるけど、みんなで集まることを考えているのか時折ポケーっと虚空を眺めたり、ハッとなって頭を振ったと思いきや空になってるカップを傾けていてとても可愛らしい。

 

 目の保養にはなったけど、代わりにさらに言い出しづらくなった。ほんとにどうしよ。

 

 あっ、そうだ。今ここに居るのは綺良々とエウルアだけだし、いっそ2人に先に話して味方になってもらうってのはどうだろうか。特に言い辛いのが宵宮と璃月組なので、綾華にも先に言ってしまえばなんとかなるかもしれない。

 

 …いやだから、ちゃんと俺も行くんですけど。普通にみんなで集まって遊べるんだけどね?

 

「…あ、あのさ。2人に話したいことがあるんだけど…」

 

「なに?」

「どうかしたの?」

 

 俺は覚悟を決めて、口を開こうと…!

 

「ただいまー」

「もどったでぇ」

 

 後ろの扉が空き、話しずらい人ランキング1位と2位がそろい踏みしてしまった。冷や汗を流す俺の事など露知らず、宵宮は背中に引っ付いたままの綺良々に声をかけ始める。

 

「あーっ、綺良々ちゃんおんぶされてて羨ましいわぁ。…迅っ、うちも乗っかってええか?」

「べ、別にいいけど…?」

「やったっ!」

「むー、宵宮ちゃん、5分交代ねっ」

「俺の背中が最近アミューズメントパークになってるんだけど?」

 

 とか言いつつ、背中に飛び乗ってきた宵宮をおんぶする。首に背中を回した宵宮が「お、重くない…?」とか囁いてくるのに「軽すぎ」と返すと抱きつく腕に力が入った。

 

「刻晴もお疲れ様」

「ええ。でも準備はほとんど終わったし、さっき家に帰って礼服ををクリーニングに出てきたの」

「あー、去年着てたやつか。異国風だっけ?」

「そうよ。アレ結構お気に入りなの。……ふふ、今の貴方に見せるのが楽しみだわ…」

 

 う。

 

「せやなぁ。うちもめっちゃ気合い入れて花火作ったからなぁ…。迅に見て欲しいわ」

 

 ぐっ。

 

「……そうね。私もこうして友達と集まるのは……その、初めてだから…」

 

 うぅ。

 

「うんうん、みんなを璃月のお友達にも紹介したいね!ね、迅くんっ」

 

 ぐぉぁ……。

 

 くっそぉ………!どんどん言いにくくなってきてる…!

 

 みんなの方を見ると、全員楽しみなのが一目で伝わってくる。しかも全員ちゃんと俺との海灯祭を楽しみにしてくれていて、そろそろ俺の胃が捩れそうだ。

 

 でも、それでも、言わないと。俺が口を何とか開こうとしたところで。

 

「こんばんは、兄さんも帰っていらしたのですね」

「お邪魔しますね。弟がいつもお世話になっています」

 

 まさかの神里兄妹の登場に俺は膝から崩れ落ちそうになる。

 

「あ、綾人さんっ!」

「こちらは、話に聞いていた迅のお兄さんかしら?」

「はい、神里綾人と申します。綾華とも友達になって下さって、感謝致します。此度の海灯祭に参加させて頂くので、ご挨拶に参りました」

 

 やっばい。どんどん言いにくくなってきてる。まさか綾人兄さんも来るのかよ!?

 

 冷や汗を流している俺をよそにどんどん話が進んでいく。

 

「ふふっ、私も外国のお祭りは初めてなので…とても楽しみです。兄さん、トーマとお兄様の4人でお祭りを回りませんか?」

「…あ、お、おう」

 

 ダメだ。このままだと埒が明かない。このままだとどんどん言いにくくなる。本当にどうしようもなくなる前に言わないと。

 

 そう考えたところで「いや、このまま黙ってて影さんの護衛が終わったら合流すれば良くね?」みたいな考えが浮かぶけど、3日間ある海灯祭のどこで護衛が終わるかわからない以上そうも言ってられない。

 

 俺が何度目かわからない決心を決めたその瞬間。

 

「お邪魔します」

「邪魔するぞ。…久しいな、お姉ちゃんだぞ?」

 

 遂にここに璃月の人がぁー!!(刻晴のことは棚上げ)

 

 甘雨と共に来た申鶴も祭りの準備を手伝ったらしく、なんだかほわほわとしてる様子。

 

「3日後に迫りましたね、海灯祭。迅、楽しんでくださいね?」

「ああ。時間があれば我らも露店を回ろう」

「…」

 

 あー、もうダメだこりゃ。このホンワカした空気に水なんかさせねぇよォ!

 

「……え、迅くん?どうしたのっ?」

「……」

 

 後がなくなった俺はもう、震えながら跪くしかないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えっ、そうだったの?」

「ハイ」

 

 はい、全部吐きました。影さんから極秘の依頼を承ったため、海灯祭には行けないことを話した俺は正座をしたまま俯く。

 

「…その任務の内容は、私達にも話せないのね?」

「…ああ。ほんとうにごめん」

「迅、謝まらんでええよ?仕事なら仕方ないやんか」

 

 再度精神誠意頭を下げようとする俺をみんなが止めてくる。「気にしないで」と言いつつもやっぱり残念そうだ。その様子をみて罪悪感が腹の奥でぐるぐる回る。

 

「刻晴、甘雨に申鶴も。本当にごめんな」

「…気にしないで?今の雰囲気じゃ言い出し辛かったでしょ?」

「はい、雷神の指名の依頼なんてとても誇るべき事です。気にせず行ってきてきてください」

「我も同意見だ。そんな顔をするな。駄々をこねる師匠は我と甘雨で引き受ける」

「やっぱ留雲借風真君は駄々こねるか…。ありがと」

 

 璃月勢3人に宥められていると、後ろからぽんと頭に手を置かれた。振り返ると綾人兄さんが優しげな顔で撫でてくれている。

 

「まったく、迅はもっと自分勝手にしてもいいのですよ。私達のことは気にしないで、依頼を全うしてきなさい」

 

 その横で綾華を頷いてくれて、俺の心は暖かいもので満たされていった。

 

「みんな、……ありがとう。依頼の内容は言えないけど、もしかしたらそっちに合流出来るかもしれないんだ。どの日のどの時間になるかはわからないんだけど、もし行けそうなら必ず行く」

「うんっ、待ってるね?」

 

 最後に綺良々が満面の笑みで俺を手を引き、立たせてくれる。抱きしめたい衝動に駆られるが、兄さんも甘雨達も居るし我慢我慢。

 

 話が落ち着いたところで、大所帯となった邸宅を見回して、俺は腕をまくった。

 

「せっかくみんな集まったし…、いっちょ宴でも開く?」

『賛成っ!』

 

 

 

 

 

 

 

 そっからはもうどんちゃん騒ぎだ。海灯祭の3日前にまるで打ち上げみたいな勢いで酒と料理が無くなっていく。

 

「綾人兄さん」

「迅、あっちの相手はいいのかい?」

「ああ。向こうは向こうでガールズトークだってさ」

 

 女性陣が座る大きなテーブルに清心天ぷら盛り合わせを置いて、甘雨の歓喜とカロリーの悲鳴を聴いて来た俺は、隅の方で静かにお酒を飲んでいた綾人兄さんの隣に座る。

 

 かちんと盃を当てた俺と兄さんは酒を一息で飲み干した。

 

「ごめんな。せっかくの祭りで」

「気にするなとさっき言ったろう?私も用事があって璃月に行くから、戻ってきたら綾華と回ってくるといいさ」

「用事?」

 

 兄さんが璃月に?と目を瞬かせる俺ににやりと兄さんは笑った。

 

「実はね、稲妻と璃月、それとモンドで迅を橋にした関係を築こうって話になっているんだ」

「え、えぇ…?」

「それだけ三国にとって迅は大きい存在なんだよ」

 

 なんかすごいことを聞いてしまった。っていっても影さんも雷神の眷属にしてくれるそうだし、逆に今更か。仙人で雷神の眷属って両国にとって色々都合がいいのかもな。

 

「…ん、でもモンドはなんで?」

「私が頼んだのよ」

 

 声の方を向くとエウルアがこちらに歩いてきた。綾人兄さんと会釈と挨拶、グラスを合わせて俺の隣に座る。

 

「迅、前にモンド城の魔物の防衛戦で活躍したでしょ?それにモンド内の冒険者依頼の達成量がダントツだもの。モンドにとってもプラスしかないわ」

「……本当は?」

「………稲妻と璃月に迅を取られそうだったから、無理やり押し通したわ」

 

 んなこったろうと思ったよ。話を聞くと代理団長が遠征中の団長に手紙を飛ばしてまで許可を貰ったそうな。

 

「…ふふ、弟が人気者で私は嬉しいですよ」

「綾人さん、弟さんは私が貰いました。ご馳走様でした」

「お粗末さまでした」

「今世紀最悪の親族挨拶だよ」

 

 酒が回ってるのかアホなことを言いながら兄さんに頭を下げたエウルアに突っ込んだ。兄さんも乗らないで?

 

 そんな中、綾人兄さんのつぶやきが1つ邸宅の中で響いた。

 

「…早く甥や姪を拝みたいものですね」

『!?』

 

 そのセリフにエウルアがピクリと反応した。チラチラこっちに目線を向けてくるのを全力でスルーする。

 

 そのまぁ、もう全員とは色々と進めてしまっているんだけども、その話は地雷が過ぎません?幸い聞かれたのはエウルアだけなのでこっちをじーっと見てくるエウルアの頭を撫でて俺は席を立った。

 

 

 

「天ぷらは口にあった?」

「……〜!」

「あ、飲み込んでから喋ってね」

 

 絶賛清心の天ぷらに舌鼓を打っていた甘雨は頬を手で抑えて幸せそうなため息を吐いた。この前食べさせてからというもの好きな食べ物ランキングをブッチ抜いたらしい清心の天ぷらは、綺良々達にも好評だった。

 

「まさかあの苦い清心があげるとこんなに甘くなるなんて」

「ね。ついつい食べちゃう」

「よく見たら油の塊やもんな…食べ過ぎはあかんわ」

「…らしいぞ姉君?」

「ぅ」

「また勝手に徹夜したらかき揚げにして食べさせるからな」

「そ、その節はお世話になりました…」

 

 多分好物になった理由の半分はそれかもしれない。項垂れながらもまた1本食べてる甘雨に刻晴が呆れた目を向ける。

 

「全く、あの時は驚いたのよ?せっかくしっかりスケジュール組んで順調にやってるのに1人だけみるみるおかしくなってくんだから」

「1回警告したら仕事持ち帰って布団の中でやってたしな」

「いくら仙人だとしても、働きすぎは体に毒ですよ?」

「いちいち寝床に担ぎこんで寝かせる身にもなって欲しい」

「面目ないです…」

 

 と、そこまで話したところで、綺良々が居ないことに気が付いた。席を立って探してみると俺の部屋から尻尾の先っちょだけがちょっと見えている。なにしてるんだろ?

 

 席の方を見るとエウルアは綾人と何か話し込んでいるし、他の面々もおしゃべりに夢中。誰も綺良々のことに気がついていない。

 

「…綺良々?そこでなにしてるんだ?」

「じーんくんっ」

「わっ」

 

 部屋を覗き込んだ瞬間、綺良々に連れ込まれた。部屋の扉は閉められて、綺良々がしなだれかかってくる。

 

 お酒が入ってちょっと顔が赤い綺良々は俺の胸に顔を埋めて満足そうな表情をしている。彼女の頭を撫でながら抱き寄せた俺はそのままベッドに腰掛けた。

 

「なんだ?甘えん坊だな」

「…ん〜っ、今のうちに迅くんを補給しておくのっ」

 

 俺の膝の上に座った綺良々はそのままもたれかかってきて、俺の腕を自身のお腹に回した。綺良々の柔らかい亜麻色の髪が首に擦れてくすぐったい。

 

「…ごめんな。祭り一緒に行けなくて」

「んーん、みんなも居るし大丈夫だよ。でも、あとから来るんでしょ?」

「ああ。絶対行く」

「うん、ならよしっ」

 

 やっぱり内心不安だったんだろうな。俺に体重を預けてくる綺良々のアホ毛を摘んで遊ぶ。……ん?今気がついたけど、これアホ毛なのか?ハーフアップをまとめたところからぴょこっと出てる。

 

「なぁ、ちょっと髪解いてもいいか?」

「んにゃ?いいよー?」

 

 許可が降りたので猫耳みたいなリボンを解くと、つむじからちゃんとアホ毛が出てる。試しにそのアホ毛を押さえつけると、抑えられたところから抗うように上にピンと上がった。

 

「……もしかして、これ妖力関係のやつなのか?」

「…んー、そうだよ?」

「へぇ〜」

 

 ちゃんと髪はハーフアップに戻……やっぱポニテにしとこう。普段見えないうなじが見えて最高なんですわ。

 

「ん、ポニーテール好きなの?」

「首筋見えるのっていいと思うんだよね」

「…えっち」

「なんで?」

「だって、首見えちゃったら…バレちゃうよ?」

「バレ…?なんのこと…って、あ」

 

 多分キスマークのことだと思うけど、いきなりなんてこと言うんですかねこの子は。

 

「そこでそれが出てくるあたり綺良々もよっぽどえっちだよ」

「…わたしがえっちだと、いや?」

「いや大好きだけども」

 

 って何て話してんだ俺たち。まだみんな向こうにいるんだぞ?

 

「…って、そろそろ戻るか。怪しまれそうだし」

「待って?」

 

 話を切り上げて立ち上がろうとしたけど、膝の上の綺良々がどかないので立ち上がれない。彼女は俺の上で反転すると、俺を優しく押し倒してくる。

 

「……ね、実はさっきの綾人さんの言葉…聞こえてたんだよねわたし」

「え」

「……わたしなら、月1の日じゃない限り気にしなくていいからね?」

「ハイ」

「じんくん…」

 

 綺良々が俺の上にしなだれかかる。ゆっくり俺の体を包むように迫ってくるので、柔らかいし暖かいしで抵抗する気が無くなっていく。

 

「……わたし、やっばりえっちかも」

 

 そのセリフと、俺の体の一部分に感じた綺良々の手の感触。そんな彼女に俺の抵抗ゲージが吹き飛んだその時。

 

「ごくっ」

 

 部屋の扉がある方からなにやら、唾を飲む音が聞こえて俺と綺良々が同時にそちらを向く。

 

 そこには。

 

「な、何やってんねん!」

「はわわ…!」

「みんなが横の部屋にいるのに…なにしてんのよ」

「とんだ変態猫又ね」

「…姉君、あれが本に書いてあった取り込み中というものか?」

「…じ、迅…綺良々さん…!」

 

 流石に居ないことに気が付かれたのか、女性陣全員が部屋を覗きこんでいた。申鶴以外は顔が真っ赤だ。ただでさえ恥ずかしいのに特に甘雨と申鶴に見られたのが辛すぎる。俺は弾かれた様に体を起こし、綺良々事立ち上がろうとするが……。

 

「甘いよっ」

「なにがっ!?」

 

 なんとこの状況でも綺良々は止まっていなかった。どこで覚えてきたと聞きたくなる巧みな体捌きで俺と身体を入れ替えた綺良々は、ベッドに倒れ込みながら俺の手を取って自分の顔の横に置かせる。まるで今度は俺が綺良々を押し倒してるように見せたこの飼い猫は、ぽっと頬を染めてそっぽを向いた。

 

「……いいよ?」

「何をしてるの!?」

 

 セルフ押し倒しを敢行した綺良々は、そのまま俺の首に腕を回してくる。そんな俺たちに慌てたのは他の面々だ。

 

「ちょっ!ホンマになにしとるん!?」

「ずるいです!」

「な、お前らぁ!?」

 

 声を張り上げて詰め寄ってきた宵宮と綾華に助けが来たかと安心したが、伸ばされた2人の手に掴まると、今度は彼女たちの方に引っ張られる。

 

「…う、うちらも、ええよ?」

「はい…ど、どうぞ」

「おいマジかよ」

「私達も忘れて欲しくないわよ」

「抜け駆けはさせないわ」

 

 そこにエウルアと刻晴も続く。前後左右を固められて身動きが取れない俺に向かって、むくりと身体を起こした綺良々は手をぽんと叩いてこう言った。

 

 

「じゃあ、みんなでお風呂入る?」

「えっ、ちょ『賛成』ちょっとォ!?」

 

 そしてそのまま全員に引きずられていく俺。甘雨や兄さんに助けを求めるが「ごゆっくり」と手を振って帰って行ってしまった。

 

 

 

 この後ほんとに全員で温泉に入ることになったんだけど、今夜、俺は団結した女子の恐ろしさを知るのでした。






この後のお風呂の話はdiscordの方に貼るかもです。良ければ入ってね。

https://x.com/tomoti_redo/status/1853907818472185939?s=46&t=ab_8vaUJetpCGTXtprXJNw
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