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「着きましたよ。璃月港です」
「…稲妻とはまた違う街並みですね。前に来たのは一体何百年前か…」
船が璃月港に到着したので俺が影さんに声をかけると、彼女は船室の窓から外を覗いてそう呟いた。……ただ、低めな位置にある窓を四つん這いで覗いているので、着物の裾がかなり危ないのだけはちょっとどうにかして頂きたい。俺は目線を逸らしながら尋ねる。
「影さん、会合はいつ行われるんですか?」
「確か、今夜ですね。瑠璃亭というお店だったはずです」
「夜ですか……それまでまだ、時間がありますね」
時間は昼を過ぎたところ。人も多く、こんなところに影さんを出したら大騒ぎになってしまう。
「それなんじゃがな。妾に名案があるのじゃ」
「名案ですか?」
そこで手を挙げたのがさっきの折檻で乱れた巫女服を着直した八重宮司だ。正直、この人の案はロクなことにならなさそうなのであんまり聞きたくないのだが。
「……一応聞きますけど、なんですか?」
「影を変装させるのじゃ。その姿のまま街に出たらパニックが起きるからの。璃月の服を着ていくのはどうじゃ?」
「ほう!それは良い考えですね!」
「まぁ、同感ですけど…それなら服を用意しないとですね」
「そんなこともあろうかと、もう準備済みじゃ」
「あるんかい」
もはや最初からそのつもりだったんじゃないか?と疑うようなテキパキ度で、下船の準備を始めていく2人。
着替えるそうなので部屋の外で待っていると、「入って良いぞ」と言われたので戸を開ける。
その中には。
「……ど、どうでしょうか…変ではありませんか…?」
もじもじしている、璃月服の超美人のお姉さんがいた。目が合った宮司が親指を立ててくるので、同じく返す。マジナイスです宮司。
影さんは変装用と言うことで、長い紫紺の髪をポニーテールにまとめ、眼鏡をかけている。身を包んでいるのは紺色のセーターに白色のロングスカート。一見モンド方面の服にも言えるが、セーターの刺繍やロングスカートに入ったスリットなどが璃月の雰囲気を醸し出している。ワンポイントにつけた黒縁の眼鏡もとても似合ってる。
「はい。とても似合ってますよ」
「……そ、そうですか…ありがとうございます」
俺が素直に褒めると、影さんは手の甲で口元を隠しながらそっぽを向いた。その時にセーターによってわかりやすくなった彼女の体のラインが目に飛び込んできて、思わず宮司の方を見た。
宮司はニヤニヤしながら小突いてくる。絶対に狙ってただろこれ。
影さんのスタイルは流石は神。もはやスタイル良いという表現で適切か迷うくらい完璧だ。変装後は大人しい雰囲気の璃月のお姉さんと言った感じだけど、括れは凄いわ出るとこ出てるわでギャップがものすごい。
そんなことは思いつつも、下船の準備が終わってしまった。荷物を持って船を降りようとすると、影さんが動き出す。
「その、良ければ時間まで街を散策しませんか?」
「わかりました。俺は護衛という形で同行しますので」
「はいっ、よろしくお願いしますね」
嬉しそうに頷いた影さんはするりと俺の腕を取り、自身の爆弾を押し当ててきた。当然俺の腕に着弾するわけで、思わず体が固まる。
「ちょ、近過ぎでは…?」
「ふふっ、でーと、です。1度やってみたかったので…」
そんなことを言われてしまっては逆らうことも出来ない。俺達はニヤニヤしてる宮司に手を振られながら街に繰り出した。
…のだけど、早速知り合いに遭遇してしまった。
「あっ!迅さんっ!久しぶりだねっ」
「こ、こんにちは」
港から登ったところでばったり出くわしたのは、スメールのシティの踊り子とその幼なじみの男の子。この2人とはフォンテーヌにいくキャラバンの中で出会った。手を繋いでいるところを見るとお祭りデート中のようだった。
そして、踊り子のニィロウという名前の少女が俺と腕を組んでいる影さんにキラキラとした顔で話しかけてきた。
「もしかして、こちらの人が迅さんの彼女っ?」
「はい、そうですよ」
「!?」
ちょ、何即答してるんですか影さん!?
「…」
現に、クーファというニィロウの幼なじみの男の子がじーっと俺を見つめてきている。彼には俺の事情を話しているので、その中に居ない女性と一緒にいることに対して複雑に思われてるのだろう。口パクで「浮気っすか?」と来たのを必死で首を横に振る。
その後は察したクーファがニィロウを離してくれてそのまま手を振って別れた。流れ出た冷や汗を拭っていると、影さんが耳に口を寄せてくる。
「ごめんなさい、ちょっとだけ見栄を張ってしまいました」
「影さん案外この状況楽しんでますね?」
「ふふ、はい。こうして貴方と異国をお忍びで歩くのを楽しみにしていました。ですので、私は今、とっても楽しいです」
そんな笑顔でそんなことを言われてしまっては、こっちも何も言えなかった。わかりましたと頷くと、俺は影さんを連れて街へ歩き出した。
うーん、やっぱりすごい見られる。
変装じゃ影さんの美貌は隠しきれてない様子で、来る人来る人が影さんを見て振り返ってる。物珍しそうに見回しながら歩く彼女の横で、俺は神経を張り巡らせていた。
何を気にしてるって、そりゃもちろん綺良々達のことだ。せめて影さんがいつもの格好ならまだ弁解できるが、変装をしてしまってるせいで傍から見たらただの浮気だ。こんなところをみんなに見つかったらなんて、考えるだけでも恐ろしい。
途中、立ち寄った土産屋さんでみんなへの贈り物を買った。璃月産の元素を流すと色が変わる鉱石を使ったアンクレットだ。組み合わせで元素色以外にも変えられるそうなので、緑と赤に紫と、綾華とエウルアが色が被るので綾華に白色を購入した。
それを見た影さんは口を開く。
「綺麗ですね。やはりそういう贈り物は頻繁に贈るのですか?」
「そうですね。出先とかで目に付いたものは大抵。それぞれ好みがあるので選ぶのが楽しいです。……良かったら、影さんもいかがですか?」
「良いのですか?」
影さんの履物的にアンクレットは邪魔になりそうだったので、紫紺色のブレスレットを購入した。目を輝かせる影さんの右手首につけてあげる。
「影さん、実は左利きなの知ってるんですよ」
「え!?誰にも言ってませんのに」
「鍛錬の時、着物の襷掛け左からやるでしょう?あと夢想の一心を振りかぶる時も、左袈裟のほうが鋭いですし」
「……よく見てくれているのですね。嬉しいです」
つけたブレスレットを嬉しそうに見る影さんに「あ、ちょっとひと手間」と手を伸ばした。
宝石部分に触って仙力を流す。すると紫紺色の菱形状の宝石の縁が金色に染まった。
「……これで、世界に1つのものになりましたね」
「……ふふ、迅さん…そういうところですね」
「え、なにがですか?」
「いえ、なんでもありませんっ」
そんなやりとりしながら店を出る。ブレスレットを着けた影さんはご機嫌で、周りの視線をさっきよりも集めていた。
…そして、そうこうしているうちに人々の噂話の標的がだんだん変わってくる。
最初は影さんの話を皆がしていたが、だんだん一緒に歩いてる俺へと興味が移っていく。
「あれ、あの美人さんと歩いてるの、蒼夜叉さんじゃね?」
「あ、本当だ。……蒼夜叉さんって猫又ちゃんと付き合ってるんじゃなかったっけ?」
「そうだよな。……じゃこれって、もしかして浮気?」
うーん、俺も変装してくるべきだったなぁ。でもこんだけ話題になってからじゃもう遅いし。このまま行くしか無さそうだ。
俺がため息を吐いて店に向かおうとしたその時、影さんが耳に口を寄せてきた。
「…ごめんなさい。貴方の噂の事が頭から抜け落ちていました…。璃月でも有名人なんですね」
「いえ、俺も忘れてたので。気にしないてください」
「ですが…」
「大丈夫ですって。今は影さんが楽しむことが第一ですから」
そういい腕を取って先へ進もうとしたのだが、立ち止まった影さんに俺も止まる。……なにか気に触ってしまったのだろうか。心配して近寄ろうとすると。
「…ふむ、やっぱりこっちの方が落ち着きますね」
その声を同時に、影さんは胸に手を当てる。すると雷元素が身体を覆いあっという間にいつもの着物姿になってしまった。丁寧に薙刀まで背負っている。
「ちょ、影さんっ!」
「ふふ、お忍びであなたと過ごすのも良いですが、やはりやるなら堂々とした方が性に合います。……それに、あなたが悪く言われるのは嫌なので」
むんっ、と自慢げに胸を張りながら言ってくる影さんにこめかみを抑える俺。……そんな様子を周りが見逃す訳もなく。
「…えっ、……え、あの人…いやあのお方って…?」
「ら、らら、雷電将軍…だよな?」
「なんで璃月港に……?あ、っ海灯祭だから?」
「では、行きましょうか」
周りのざわつきなど気にもとめず、影さんは俺の前を歩き始めた。あれだけの人混みが俺たちの道を通すようにどんどん空いていく。
「おや、やはりこちらの方が歩き易いですね」
「そういうことじゃないと思いますけど……はぁ、あとが思いやられる…」
一国の神が、他国の祭りに男連れて歩いてるって世紀の大事件な気がする。周りを見ると、ほら。海灯祭に来てる稲妻人が全員目ん玉飛び出そうになってるよ。通りの端で忍と話してた荒瀧も飲んでた飲み物吹き出して、震えながらこっち指さしてるし。
でも、彼女の表情が少しだけ寂しそうに見えた。
……はぁ、こういうところがダメなんだろうな。
俺の立場を考えればダメなのに。どうしても、秘めたる想いを打ち明けてくれたこの人のその顔は見たくないと思ってしまう。
俺は、自分の前を歩く影さんの手をするりと握った。
「…っ、じ、迅さんっ?何を」
「…こうしたかったんでしょう?……ごめんなさい。気を遣わせて」
「……もう、やっぱり……そういうところですよ…?迅さんは、悪い人ですね」
「返す言葉もございません」
そんなやり取りをしつつも、影さんは離さないとばかりに俺の手を握っていた。突然神と手を繋いだ俺に周りがザワつくが、それを気にせずに俺は彼女の手を引いて瑠璃亭を目指した。
「……バアルゼブル…、極秘の意味を忘れたのか?」
「久しいですねモラクス。…忘れてはいませんでしたよ……一応」
歩いた先から道が開くという海灯祭とは思えない快適(?)な移動で瑠璃亭に到着すると、予約された部屋に呆れ顔の鍾離先生が待っていた。
「それと、迅。苦労をかけたな」
「いえ、苦労って程じゃないですよ。……っと、俺はそろそろ居なくなった方がいいですよね。神様が集まるのでしょう?」
「ああ。だがこの度雷神の眷属になるのだろう?それなら他の神と面識を作っておくのも悪いことじゃない」
そう言われて自分が神と接して良いのかなとか考えたけど、多分もう遅いんだろうな。水神とも知り合いになってしまったし。
「わかりました。でも、草神様と風神様とは初対面なので少し緊張しますね」
「…ん?…ブエルはわかるが、バルバトスとも初対面なのか?」
「はい。記憶にはないですよ?……っていうか、流石に神レベルと対面したら元素でわかりますって」
鍾離先生と影さんに意外そうな顔をされた。…ん?でもこの2人級に「神感」溢れる人にはあったことがない。せいぜい、酔いつぶれてモップのモノマネをしながら「僕ばるばとすぅ〜」とかいってる不敬な吟遊詩人の成れの果てがいたくらいだ。
その事を話すと、おもむろに鍾離先生が顔を逸らした。よく見ると肩が震えてる。もしかして笑い堪えてる?
「……だ、そうだが?」
「……ほら言ったろ?全然信じてくれないって」
「ん?」
後ろから聞き覚えのある声に振り向くと、椅子に座っていじけながらグラスを傾けてる吟遊詩人の姿が。
この時、俺の脳が止まった。
「……」
「ふっふっふ、何度も言っただろう?この僕が風神バルバトスだってね。……ねぇねぇ今どんな気持ち?あれだけ信じなくて、果てはバチ当たるなんて言ってた吟遊詩人がホンモノって知って…今どんな気持ち?」
ねぇねぇ、とつんつん頬を突っつかれながらも、俺の思考は少しずつ動き出した。
「…うっそだぁ。…………コレが?」
と、指をさして鍾離先生に確認をする。頷く先生。
「………コレが?」
あの、飲み会始まったらいつの間にか参加してて、さんざん飲んだ挙句に酒代払わずにどっか行くのが?自由の神?……まぁ自由っちゃ自由だけどさ、…違うじゃん?
「うそぉ」
「むぅ〜、そんなに信じられない?」
「割と」
「即答!?」
そんな俺たちのやり取りに珍しく鍾離先生が腹を抱えて蹲っている。
ぶーたれてるウェンティに「とりあえずツケ返したら信じるわ」と言っていると、横から着物の裾を摘まれる感触がした。
横を見ると、視界の下側に白と緑が見えたのでそのまま視線を下げると、白髪の小さい女の子が立っていた。一見幼女に見えるが、溢れる草元素力で只者じゃないとわかる。
「貴方が蒼夜叉かしら?」
「はい。貴方は…草神様でしょうか?」
「ナヒーダよ。貴方のことは旅人から聞いているわ。よろしくね」
出されたちっちゃな手に握手して応える。翡翠色の瞳と目が合うと、なにか心の中を見透かされているような気がした。
「ふふ、貴方、なかなかに面白い事になっているようね」
「…っ」
「ブエル」
「バアルゼブル、大丈夫よ。…貴方もそんなに警戒しないでちょうだい?」
どうやら、草神様には心を読む能力があるようだ。くすりと笑った彼女は握手を解く。
「旅人から聞いた通りの人ね。スメールへ来た時はシティの聖処に来てちょうだい。歓迎するわ」
「あ、ありがとうございます。……ちなみに蛍のやつ、なんて言ってました?」
「色々言ってたけれど……1つ意味がよくわからない物があったわね。…はーれむ野郎…って何かしら」
よし、アイツも海灯祭来てるだろうし、あったらタダじゃ済まさんわ。
口元をヒクつかせながら周りに助けを求めるが、影さんは目を逸らし、鍾離先生は咳払い、ウェンティは大爆笑している。おし折檻する人が増えたな。風神だろうか知ったことか。
「え、えとその、なんというかあんまりいい意味の言葉じゃないので知らない方が……」
「それはだめよ。わたくし知識の神だもの。知らないことが目の前にあるのに放置は出来ないわ」
「ですよねぇ…」
最早せっかく言ったんなら意味まで教えとけよと思ったまである。なんで自分の気にしてるとこを解説せねばならないのか。
俺はため息を吐くと、ちょっと捻って。
「意味は…まぁ、恋人、ないしそれに準ずる女性が周りに多くいる男性…みたいなやつの事です。ハイ」
「なるほど」
このタイミングのなるほどが1番キツイんだよ!
「英雄、色を好む…と言いますしね。彼には適切な言葉でしょう」
「それはフォローしてるんすか?それとも追撃してるの?」
胸に手を当ててすごいことを言い出した影さんに突っ込む。適切って言われたんだけど。
その後、俺は話もそこそこに瑠璃亭を脱出した。4人…4神に同席しないかと誘われたが、流石に神の間に座る度胸は無い。
…しかし、ウェンティが風神ってマジかよ。自由の神とは言ったけど自由過ぎだろ。
瑠璃亭の外は時間帯も夕食時、人がさらに多くなった気がする。ひとまずみんなに合流しないとな。
ただ、この人混みの中で5人組で美人揃い(惚気)とはいえ人探しは骨が折れそうだ。
俺はとりあえず高いところにでも行こうかと玉京台に向かって歩き始めたところで。
「………あ」
「…………あ、迅」
ナヒーダ様に俺の悪評を吹き込んだ奴にばったり会った。パイモンは連れていないらしく、俺の顔を見てぱちくりと瞬きをしている。
……さて。こいつ、どうしてくれようかな。
多分、ここで「おい良くもナヒーダ様に俺の事ハーレム野郎だとか吹き込みやがったな」と詰めたら一目散に逃げ出すに違いない。この人混みの中だ。1度見失ったらもう見つかるまい。
だから、俺はにこやかに接することにした。
「迅も来てたんだ。みんなは?」
「ああ。みんなは別行動だ。さっきまで影さんの護衛しててさ」
「あ〜、やっぱり神で集まるの本当だったんだ」
「そう。今解放されたんだけど綺良々達がどこにいるかわからないんだ。だからさ、ちょっと時間あるか?」
「え?」
よし、このまま接近して逃げられなくなってから詰めよう。
罰は…そうだな。俺のフォンテーヌでさくっと集めた蛍の持ってない良い聖遺物を見せびらかして、目の前で雷怒に合成してやるか。
そのままは可哀想だから出来た聖遺物は蛍にあげるけどさ。
そんなことをな企みながら提案したのだけど、蛍の反応は俺の予想から外れていた。
「う、うん。……いいよ?」
「へ?…お、おう」
あれ?想像だと「え、ナンパ?お祭り気分に当てられて浮気?」とか言われそうなところだけど、髪を指先で弄りながら頷いた蛍に気の抜けた声が出た。
「……あ、っと。その」
「それでどうするの?今、パイモンは屋台回ってるし……結構暇だけど…」
「そ、そうか。……じゃ、少し歩くか?」
「うんっ」
なんか、思ってたのと違うけどとりあえず誘い出せた?チ虎岩に歩き出した俺の着物の裾が摘まれてつんのめる。
「蛍?」
「人多いから、迷子になっちゃうよ?」
「それもそうだな」
並んで歩き出した蛍の指はまだ着物を摘んだまま。ちょっと嬉しそうな顔で歩く彼女の顔を見て、俺は1つ感じることがあった。
……ほんとは、兄貴と来たかったんだろうな。
多分、俺が誘った時の反応もそうなのだろう。折檻するとか思ってたけど、そんな笑顔を見たらそんな気抜けてくる。
「ちょっと人多いし、どっか入るか?」
「うーん、多分この調子だとお店も混んでるよね」
「なら適当に露店回るか。パイモンとも再会出来るかも」
ちなみに露店で出ている料理は稲妻の物が多い。個人的に祭りといったら稲妻の方が印象深いなぁ。……ま、神里時代はアレだったしほぼ行ったことないんだけど。
俺は鼻歌を歌いそうな勢いでご機嫌な蛍を眺める。
「随分機嫌がいいな」
「迅、前の海灯祭は群玉閣にいなかったもんね。だから一緒に歩けて嬉し……って何言わせるのっ!」
「お前が勝手に言ったんだろ!?」
あと、あれ?兄貴と来たかったからじゃなくて、俺…?
俺が蛍の真意を聞こうとしたところで。
……流れ流れで頭から抜けてた事がありました。
「…………へぇ?」
声が、人混みの喧騒を縫って後ろから聞こえた。声の主は、聞き間違いもするわけも無い、世界一大切な女の子。
動きどころか呼吸も瞬きも完全に静止した俺の背中に絶対零度の視線が、更に4本追加される。
「……ふーん、影さんの次は蛍ちゃんかぁ。……随分と大事な任務なんやなぁ?」
「ええ。影さんはまだ任務だと納得出来ますが……」
「任務が終わったあとに、私達じゃなくて蛍とデート…」
「……しかも私達と遭遇する可能性がある大通りで……ね?」
あかん、俺死んだかも。
目線だけを動かして蛍の方を見ると、向こうも同じ感じだった。涙目で俺に助けを求める視線を向けてくる。
トドメに、俺の肩に妖力付きの手がガッ!と乗っかる。
「いくらわたしでも、猫以外に嫉妬する時くらい、あるんだよ?」
「………いえ、その、これにはワケが」
「訳?影さんにはキレーなブレスレットプレゼントしてて?」
「イヤソノッ、ちゃんとみんなのぶん「迅くん♡」………ハィ」
恐る恐る振り返ると、超笑顔のみんなが俺の手を引いてくる。
ニコニコの刻晴が親指で上を指した。
「今ちょうど月海亭空いてるから、そこ行きましょうか」
『賛成』
「えっ、わ、私はただ迅に誘われただけで…!
「……あ、もちろん蛍ちゃんもだからっ。……この前、迅くんと2人で遊んだ時のこと、聞きたいし」
「…はい」
俺たちは為す術なく綺良々に引きずられて行った。