☆☆☆☆☆
「兄さんっ、あちらに沢山お店がございますっ。行ってみましょう?
「そうだな。順番に見ていこうか」
「はいっ!」
海灯祭2日目…その午前中。
昨日話した通り、今は神里家+aで祭りを楽しんでいる。俺の着物をくいくい引っ張って歩く上機嫌な綾華を微笑ましく思っていると、反対側からも着物の袖が引っ張られた。
「な、なぁ。ほんまにうちも着いてきて良かったん?家族団欒の邪魔になってまうと思うんやけど…」
「全然。な、兄さん」
「ええ。宵宮さんも良く遊びに来てくれますからね。もう家族みたいなものですよ」
「稲妻勢、宵宮だけ置き去りは可哀想だからな」
即答で頷いた2人に感激したのか、左手を握ってきた宵宮は輝くような笑顔を浮かべた。それを見た綾華が頬を膨らませる。
「むぅ…私も構ってください」
「ああ、もちろんだよ。…ほら、あそこに詩集の店があるぞ?」
「本当ですか?」
顔を綻ばせた綾華に腕を引かれて道端にある詩集を置いた出店に歩いていく。当然手を握ったままの宵宮も着いて行って、3色団子みたいになってる。
昨日胡桃と話してる綾華を見て詩が気になったらしい宵宮が詩集を開くが、数秒で頭から『?』マークが飛び出てきた。正直俺も同じなので横から書いてある詩を眺めては、宵宮と顔を見合わせて首を傾げる。
「ふむふむ……稲妻とはまた違う言葉選びですね」
「……うーん…綾華ちゃん、この文字はなんて読むん?」
「ふふっ、詩は普通とは違う読み方を致しますからね。「ふ」は「う」と発音するんですよ」
「えぇ〜……ややこしいわぁ。……迅はこういうの読めるん?」
「まぁ神里時代に綾華が書いた詩を見てたりしたからな。多少ならわかるけど善し悪しまでは」
まだ綾華と綾人兄さんの両親が生きていた頃の話だ。その頃は綾華の遊び相手や習い事の準備を良くしていた。
「ふむ、国が違うと書物の保存方法も違うのですね」
「稲妻は巻物が多いからなぁ。こういうの本にしたのは八重堂が先だし」
「どっちが有用なんだろうな」
男3人で巻物と本を比べて首を傾げる。兄さんが書き物をしてた所を見たことがあるけど、ページをめくる手間が無いのはいいのかな?
そんなやり取りをしていると、見覚えのない屋台が見えてきた。大きな版にパネルがいくつか埋まっている。
稲妻では見たことの無いものに綾華と宵宮が食いついた。
「お、嬢ちゃんたちやってくかい?」
「はい。こちらはどういったものなのですか?」
「この版の中にいくつかの区切られた紙があるだろう?紙の中を人が歩いていくから、紙を入れ替えて扉までたどり着かせるってもんさ」
「…よしなんとやくわかったわ。おっちゃんっ!1回挑戦させてやっ」
宵宮がモラを渡して挑戦するようだ。版に埋まった紙は3枚横並びで、左から人、本棚と扉、植木鉢だ。人だけが独立して動くようで、屋台のおっちゃんが裏から人をゆっくりと右に向かって歩かせる。
「…えーと、これをこうして…」
宵宮は人が歩く左の紙を1番右に差し込んだ。人は番の端に当たるとそのまま戻ってくる。
「そんで、ここやっ!」
そして宵宮は左に移動した本棚と扉の紙と植木鉢の紙を入れ替えた。右から歩いてくる人は紙の右側にある扉に無事入る。
「お、クリアー!」
「やったぁ!」
無事にクリアして景品を受け取った宵宮は嬉しそうに俺たちのところへ戻ってくる。
「えっへへ、どうや!」
「流石。何貰ったんだ?」
「海灯祭の出店で使える食券や。500モラぶんあるで」
「へぇ、なかなか豪華だな」
「次は私もやってきますっ」
その後は綾華も挑戦して、宵宮のひとつ上のレベルをクリア。それを対抗心を燃やした宵宮がそのまたひとつ上をクリアして……。
「綾華と宵宮、仲良いよな」
「そうですね。良く家に遊びに来ますし、迅がいない時も良く一緒にいる姿を見ますよ」
「洞天だとどうなんだ?」
「今思い返すとよく一緒にいるな。だいたいセットのイメージだわ」
「綾華にとって、気負いしなくて済む友人のようですからね。傍から見ると姉妹のようです」
「アレ見てるとどっちがお姉さんかで揉めそうだけどな」
年の差がある姉妹っていうより双子の姉妹だな。屋台の前でやいのやいのしてる2人を眺めながら、俺は思い出したことをトーマに聞いた。
「そういえば、モンドの人に会ったんだろ?」
「ああ。って言っても全員初対面だよ。俺がモンドにいたのはもうずっと前だし。……でも、ちょっと懐かしかったよ」
「……トーマ。貴方さえ良ければ…」
「いいんですよ若。今となっては稲妻の方が知り合いが多いですし、それに何より、今の居場所は神里家だけですから」
「……ふふ、そうですか。……もちろん迅も神里家の一員ですからね」
「わかってるって。………ありがとう」
男たちでそんなやり取りをしていると満足したのか2人が戻ってきた。話を聞くと最高レベルをクリアした綾華に軍配が上がったそうだ。
「私の勝ちですっ」
「うぅ…負けたわぁ……。迅、慰めてやぁ」
「はいはい、後で食べ物奢ってやるから」
「あっ!宵宮さんずるいですっ。兄さん、私にはご褒美をくださいっ」
「了解。考えとく」
君ら本当仲良いね。綾華へのご褒美はどうしようかな。昨日はドタバタしててアンクレット渡せてないんだよね。せっかくのご褒美だから別でなにか用意しようかな。
宵宮に慰めとしてモラミートを食べさせ、綾華にご褒美として青色の蝶柄の髪留めをプレゼントしたあと。
昨日仲良くなったモンドの西風騎士団の人たちと食事の約束している4人と別れた俺は、次の待ち人の方へ向かう。兄さんたちとは新月軒で別れたので、そのまま南のチ虎岩へ歩いていると。
「…迅くーん!」
橋を渡ったところで綺良々とエウルアが待っていた。2人ともかなりの美人なので周りの人の視線が集まりまくっていて、エウルアがちょっと居心地が悪そうだ。
「悪い、待たせちゃったか?」
「ううん、わたし達も今来たところだよ。ね、エウルアちゃん」
「ええ。………それより、ちょっとここから移動しない?」
「ああ、すごい見られてたな」
「この髪色が珍しいだけじゃない?」
モンドだとこんなに見られることもないもんな。肩にかかった空色の髪をクルクルいじりながらちょっと頬を染めてそっぽを向くエウルアを見る綺良々の目線がちょっと危ない。
「こら、気持ちはわかるけど」
「……迅くんも人のこと言えない顔してたよ?」
「え、マジで?」
「ちょっと、何してるのよ。……歩きましょう?」
そんな感じのアホな会話をする俺たちをエウルアが小突く。最近、彼女達同士の仲が良すぎてちょっと驚くことが多いんだよね。特にこの2人は宵宮綾華とはまた違うベクトルで仲良しだ。
ちなみに刻晴は全員とめちゃくちゃ仲がいい。いつも仕事から洞天に帰ってくると、俺よりも先にみんなが出迎えてるくらいだ。
みんなが仲良いのはいいんだけど、最近ちょっと疎外感を感じる。
「2人は昨日でだいたい回っちゃったんだよな?」
「ええ。でも昨日と違う店が結構多いわね」
「だから、今日も楽しいよ?」
歩き出した俺を両側から挟みながら言う2人にちょっと苦笑する。
「そういえば、こうして3人で過ごすのも結構久々だよな」
「わたし達がエウルアちゃんの部屋に泊まってた時以来だね」
「機会があればまた行きたいなぁ」
「洞天からいつでも来ればいいじゃない」
「だってエウルア、空いてる日はそっちから洞天に来てくれるだろ?俺から行っても留守のことが多かったぞ?」
ってあ、内緒だったのに。エウルアは俺の方を見てちょっと目を見開いている。
「……来てくれてたの?」
「…………うん」
出来ればこんな空回りしてるところ、かっこ悪いから言いたくなかったのに。なんか最近、喋りのついでに余計なことを口走ることが多い気がする。
気恥ずかしくてそっぽを向いてそう答えると、するりと左手に指が絡みついてくる。チラリとそちらを見ると、エウルアも頬を朱に染めてそっぽを向いていた。
「………そういうところよ」
「……な、なにが?」
「………ばか」
「あの、そろそろいいですか?」
反対側から聞こえたひっくい声とべしべしと俺の腰に当たる2本のしっぽ。
「迅くんとエウルアちゃんって、気がついたら2人の世界に入ってるよね」
「…そんなことないぞ?なぁ?」
「ええ」
「………エウルアちゃんがご飯の当番の時とか、迅くんさり気なーく手伝ってキッチンで二人の世界作ってるの知ってるんだからね」
「っ!?」
まさかバレてんの?正確に言うと手伝ってるっていうか教えて貰ってるんだけど、煮込んでる時とか暇な時にすりすりくっついてくるエウルアを見るのが楽しみなことは変わらないので、2人で全力で目を逸らす。
「……ちなみにみんなは?」
「え、もちろん知ってるよ?いつもみんなで覗き見してるし」
「……」
あ、エウルアが固まった。今度はほっぺだけじゃなくて耳まで赤くしながら、俺の肩に顔を押し付けて隠している。
「……あーあ、どうすんだよこうなったらしばらくこのままだぞ?」
「えへへ、正妻だからね〜。……ごめんねエウルアちゃん、なにか食べ物奢るからぁ」
「……あ、後で覚えておきなさいよ…」
その後も3人で並んで歩きながらチ虎岩を巡る。途中万民堂でご飯も食べた。璃月料理に興味津々だったエウルアが頼もうとした激辛料理を2人で必死に止めて、甘辛系のやつに留めさせる。
「なるほどね……。迅が作ってくれた料理はだいぶ辛味が抑えられていたのがわかったわ」
「甘辛系でもしっかり辛いよな。刻晴でさえ唐辛子そのまま食べてたりするし」
「文化の違いなのかなぁ?スメールも辛いのが多いよね」
「璃月とはまた違う辛さだよな」
外国の料理を色々食べてみたけど、やっぱり稲妻の料理が1番好きだなと感じた。美味しいことはもちろん美味しいんだけどね。
「……私の料理は?」
「ナチュラルに心読んでくるね君。エウルアの料理は殿堂入りだから比べるとか無いよ」
「……迅…」
「…まだ、言ってない迅くんとエウルアちゃんのエピソードあるけど?」
「「!?」」
最近、うちの飼い猫が地獄耳な件について。一体どこまで知ってるんだよ。
「……ち、ちなみにどういうの?」
「……この前、エウルアちゃんの部屋からエウルアちゃんの髪色と同じ色の猫耳と猫しっ「もうわかったっ!もう言わなくてもいいぞっ!」
「な、なんで知ってるのよ…?」
「正妻なので」
「綺良々にとって正妻ってどういう存在なんだ…?」
あの時確か俺ら以外に洞天にいなかったはずなんだけど…。猫耳と言うと、なんかこの前に帰ってきた俺に猫耳カチューシャ付けた全員が出迎えてきたことがあって、その日の記憶がないんだよな。消える直前の記憶だとちゃんと全員色合わせてきたし、多分玄関から吹き飛んだんだろ。
前までは個々で攻めてきたみんなが最近団結してくるようになって、非常に大変なんです。これが普通の家とかなら周りを気にして〜とかできるんだけど、洞天は言ってしまえば密室。中で何してもなんの影響もない。それをわかってやってるのが本当にタチが悪いと思います。
だからそれらの誘惑に今のところ負け越してる訳だけど、それをまさか全部知られてるってことか…?
正妻の恐ろしさに震えていると、空いていた右手に綺良々が抱きつく。ちょっと唇を尖らせて、俺の顔を上目遣いで見て…。
「……だから、わたしにもかまって?」
ふんぐっ。
危うく往来で変な声が出そうだった。それはエウルアも同じのようで、こめかみを手で抑えている。
やっぱこの子が最強だわ(n回目)。祭りだからと気を引き締めていた俺の感情を、ジャブの一撃で粉々に粉砕してくる。え、この子俺の飼い猫なの?可愛すぎるんだけど。
思わず、手が綺良々の頭に伸びる。猫の時に撫でるようにわしゃわしゃと手のひらで頭頂部を撫でてあげると、目を細めて喜んでくれる。
「えへへ、ありがとっ」
綺良々はするりと俺の腕を離すと、ぽんと音を立てて猫の姿に戻った。そしてそのまま俺の肩によじ登り、頭の上に乗る。
肩に後ろ足を乗っけて、お腹を俺の頭にもたれ掛かるような体勢になった猫綺良々はご機嫌そうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「ここはわたしの特等席だもーん」
そんな綺良々を見てエウルアと笑いあった俺は、そのまま3人で刻晴を迎えに緋雲の丘を目指して歩き出した。
「迅、夜はどうするの?」
「ああ、その事なんだけどな、ちょっとお仕事が入ったんだ」
「お仕事?また影さんの護衛?」
「いや、凝光さんから。みんなは音楽祭を楽しんでてくれ」
「……そうなんだ…」
俺抜きの音楽祭と知って、きららはちょっとしょぼんとする。エウルアですら袖を引いて、ちょっも寂しそうだ。2人の顔にやっぱ行くの辞めようかなぁとか思いかけるが、裏で色々凝光さんにはお世話になったので断る訳にもいかない。まぁすぐ会えるんだけどね。見世物として。
「えっ、迅、これから仕事なのっ?」
合流した刻晴も知らなかったようで驚いた顔をした。って、まぁ口止めしたの俺なんだけどね。刻晴はちょっと疑わしげな目で俺を見る。
「貴方、また去年みたいになってる訳じゃないでしょうね?」
「いやいや、違うってば。詳しくは言えないんだけど、ちゃんと後で会えるから」
「……でも、音楽祭見るの、宵宮ちゃん達も楽しみにしてたんだよ?」
「ああ、音楽祭が終わったら会えるからさ。それにちょっと凝光さんに借りがあるから、それを返したいんだ」
俺が謝りながらそう言うと、着物の裾をぎゅっと3人から握りしめられる。
「……本当に、すぐ会えるの?」
「ああ。約束する」
「………破ったらどうするの?」
「……それは、みんなの好きにしてくれ。なんでもする」
「今何でもっていった?」
「言った」
俺が即答すると、3人は渋々頷いた。いやホントに1時間くらい離れるだけなんだけど、3人からそれぞれ抱きつかれる。
ちょっとして合流した宵宮と綾華にもちょっと不満そうな顔を向けられて平謝りしていると、日没の時間になったのか空色が暗くなってきた。海灯祭の提灯が沢山あるので暗いわけではない。
「よし、じゃあ行ってくる」
「ねぇ迅くん」
「ハイなんでしょう」
そそくさと離れていこうとする俺の腕を綺良々が掴んだ。合計5人分の疑わしい視線を受けて俺は冷や汗を流す。
「……ほんとのほんとに、危ない任務じゃないんだよね?」
「おう、そうだってば。みんなが心配することは何も」
「じゃあ、なんで刀とお面持っていくん?」
そう、みんなの前で戦う上で蒼夜叉の象徴となる霧切と夜叉の仮面は欠かせないものだ。それを腰に下げて行こうとしている俺に、警戒の視線が突き刺さる。
「………ご、護身用だよ?」
「つまり、護身をしなければならないという任務なんですね?」
「違うよ?」
「それに護身にしても、その仮面はいらないでしょう?刀だけでもいいじゃない」
「……や、そういう訳にも」
「じゃあ、なんでわたし達に秘密なの?」
「……………」
『…………』
い、言えねぇ〜。只々サプライズで登場して戦って、君らにかっこいいとこ見せたいだなんて。だって、そうじゃん。たまにはみんなにいい所見せたいじゃん。ココ最近ずっと赤面しか見せてないし、ここらでカッコイイって思って貰いたいじゃん。
そんな子供っぽい俺の企みをここでバラすのは恥ずかしすぎる。
だからといってこのまま躱し続けるのも無理なので……、
「………行ってきますっ」
「あっ、待ってっ!」
俺は限りなく優しく綺良々の手を外して雷を纏って上に跳躍、電磁離斥まで使って翼を広げ、上空へ飛び去った。
「悪いっ!本当にすぐ会えるからっ!」
「ちょ、ほんとだよね!?信じるからねぇ!?」
下から聞こえる綺良々の声に頷きを返すと、そのまま俺は群玉閣まで飛んで行った。
「あら、遅かったじゃない」
「誰のせいだと思ってるんスか…」
色々と下に爆弾を作りながら群玉閣に着いた俺は、ため息を吐きながら凝光さんの部屋に入った。そこには彼女の他に夜蘭さんもいる。
「………貴方がいる時点で俺もう帰りたいんですが」
「随分な挨拶じゃない。私がキミになにかしたかしら?」
「去年たっぷりとね」
凝光さん、夜蘭さん、俺の組み合わせは丸々去年の謎魔物大群を思い出させる。
早速げんなりとする俺に、凝光さんは微笑を浮かべる。
「安心なさい。今回の貴方の演武は仙人達も全面協力よ」
「どういうこと?」
「使うのは海に浮かべた特製の舞台よ。チ虎岩にもサブの舞台を置いてあるからそっちも好きに使って頂戴」
「サブの舞台?…え、俺何と戦うんですか?」
てっきり、ちょこっと千岩軍と剣交わせて終わりかと思ってたんだど。
そこに、夜蘭さんが写真を見せてきた。
「宝盗団?」
「ええ。その中でも、みんな貴方を敵視しているわ」
「……ああ、俺が七星専属だったときのか」
俺が稲妻に帰る前の事だ。七星専属で任務に着いていた俺は数え切れないほどの宝盗団を引っ捕えた。この地域には魔物自体はそもそも仙人が倒してしまうせいでそんなに数がいないんだ。だからテイワットの中でも宝盗団の数が圧倒的に多い。その処理をしていたんだけど。
「で、その俺に恨みを持っている宝盗団をどうするつもりなんです?」
「あ、雇ったから。その人たち」
「ちょっと何言ってるか分からない」
「雇ったって言うより焚き付けた方が正しいかしら。璃月の催しで蒼夜叉と戦わせてあげるから、彼に勝ったら褒美をあげる、的な」
「えぇ……」
「でも、あなたも手加減せずに戦えるでしょう?」
今回の目的は俺の力を各国に見せつけること。千岩軍と戦って演技だとか言われるのを防ぐためらしいけど……。
「そいつらはどうやって呼び出すんですか?」
「仙人全面協力と言ったでしょう?洞天通行証を通じて舞台に転送するわよ」
「ばぁや………」
もう俺ここに味方いねぇんじゃねぇの?
でもまあ、中途半端に見世物になるよりは幾分かマシになった。
「……それに、スペシャルゲストもいるから、楽しみにしていてね。仮面を被るかどうかはあなたに任せるわ、たぶん、意味ないと思うけど」
そう言って頬をヒクつかせる俺の方を叩いた凝光さんは、微笑を浮かべたまま出ていった。残ったのは俺と夜蘭さん。
「……夜蘭さん」
「ま、頑張りなさい。終わったら私が一緒にお風呂入ってあげるから」
「着々と俺を破滅に導く道を整備するのやめて貰えます?」
☆☆☆
「胡桃ちゃんの歌良かったねー」
「ええ。元気に歌っていらっしゃったので、こちらも楽しくなってきました」
1時間前に始まった海灯音楽祭ももう終盤。先程辛炎と胡桃の歌が終わり、チ虎岩は盛り上がっていた。他にも色々な人達がステージで曲を披露してて、中には観客に手拍子などで音頭を取ってもらったりと、綺良々達もそれぞれ祭りを楽しんでいる。
「それにしても、あそこのでっかい舞台はいつ使うんやろ?」
宵宮が指さした方を見ると、海の上に大きな舞台が鎮座していた。その他にもこのチ虎岩の海側にも少し広めの舞台がせり出すように作られている。
「……私もこれを何に使うのか知らないのよね。てっきり音楽祭の中のどこかで使われると思ったのに」
海灯祭のステージ設営担当も知らない舞台にみんなで首を傾げる。
それに気になるのは迅の事だ。すぐ会える、とは言っていたものの、観客を見渡しても姿が見えない。
「……迅くんは何してるんだろ」
「すぐ会える、とは言っていましたが……」
もう一度周りを見渡すと、観客の中にはやはりいない。その代わりにモンド勢や荒瀧派などの稲妻勢、スメールの格好をした人も何人かいる。
そんな中、海灯祭音楽祭が幕を閉じた。拍手を送りながら、5人はそれとなく迅を探す。
その時。
今まで使われていなかった舞台に突然たくさんの人が現れた。
「え、な、なにっ!?」
「ほ、宝盗団っ?」
どこからともなく出てきた男たちは中央の舞台とチ虎岩の舞台に広がる。全員合わせて30人ほどだろうか。全員が武器を持ち、騒然とする観客達に脇目も降らずにしきりに周りを回している。
「だ、大丈夫なのかな?このまま見てて」
「緊急時を告げる鐘がなってない所をみると、これも演出のようね。それにしてはやけにリアルだけど」
配られている海灯祭のパンフレットに緊急時の記載が詳しく載ってあるので、少しざわついた観客も落ち着きを取り戻している。宝盗団側も間違っても観客には手を出すなと夜蘭から警告されているので、それよりもどこにいるかわからない蒼夜叉を探すので必死のようだ。
その中で、リーダー格っぽい男が大槌を振り上げながら叫んだ。
「蒼夜叉はどこだぁー!!出てこいっ!!引導を渡しに来たぞっ!」
その言葉に蒼夜叉を知る者はみんな目を瞬かせる。男が叫んだ後もほかのメンバーの蒼夜叉はどこだと呼びかける声が舞台中に響き、綺良々たちは彼の言っていたことを理解した。
「もしかして、凝光さんに頼まれた仕事って」
「この舞台のことだったのね…」
何も知らされてないわよと刻晴がこめかみを抑える。綾華と宵宮はこれから始まる迅の舞台に胸を躍らせていてとても楽しそうな表情だ。
「じ、迅はどこから出てくるん?」
「兄さんが戦う所を見ることが出来るのでしょうか…」
宝盗団の呼びかけにつられて、観客も蒼夜叉を探し始める。綺良々達もあちこちに目線を動かすが、さっき探した通りやっぱりいない。
その時。
バチチッ!
玉京台の方から稲妻の音が轟いた。驚いて見上げた観客の視界に、玉京台から飛び降りた人影が映る。
20mはある高さから人が飛び降りたという光景に悲鳴が上がるが、その人物の背中から翼……モンドの風の翼が広がり、真っ直ぐにチ虎岩の舞台に向かって降りてくる。
「ちょっと!?誰よあんな飛び方してる人っ!?」
モンドの偵察騎士の悲鳴が一際響く中、舞台に墜落するかのようにその人影は着地をした。
降りてきた「彼」は、膝を折り曲げた体勢からゆっくりと身体を起こして立ち上がる。
目にかからない程度に切りそろえられた艶やかな闇色の髪。稲妻とフォンテーヌのデザインが混ざった髪色と同色の着物に包まれた身体と、その腰に下げられた蒼のラインが入った漆黒の刀に、無機質な仮面。
立ち上がった彼……蒼夜叉こと神里迅は、閉じていた空色の双眸をゆっくりと開けた。同時に観客から歓声が迸る。
特に、普段の彼を余すことなく見ている5人は、まず彼の雰囲気の違いに驚かされた。
最近平和だということもあって、綺良々達は迅が戦うところを間近ではあまり見た事がない。
だから、普段の優しくてかっこよくて可愛い迅と、今の「戦闘モード」の迅とのギャップが5人の胸を撃ち抜いた。
「で、出てきやがったな蒼夜叉っ!今日、ここでお前に引導を渡してやる」
「………」
チ虎岩から30mほど離れた中央舞台でリーダー格の男が迅に武器を向けてそう言う。
その言葉に反応を返さない迅に苛立ったリーダー格の男は突然クロスボウを彼に向かって放った。迅の後ろは観客だ。避けられないと考えた男はニヤリと笑う。
が、その笑みは数秒とさえ持たなかった。
「………な、……?」
再三言うが、別にこの戦闘は演出では無い。宝盗団は本気で迅を殺しにくるし、観客がいようがいまいが関係ない。普段は略奪しかしない宝盗団だが、何度も何度も邪魔をしてくれた蒼夜叉には逆恨みの敵視を超えて憎悪を抱いていた。
なので最初から殺す気で矢を放ったのだが。
その矢は、冷めた目でこちらを見る迅の数センチ手前で止められている。
その矢には雷元素が纏わせてあり、迅の身体と同じ磁極が付与されてある。
迅に矢が当たってないことを理解した観客がざわざわと騒ぐなか、迅の声が静かに響いた。
「……返すぞ?」
直後、大砲を撃ったのかと勘違いするような轟音がチ虎岩に響き渡る。
「……は?」
雷元素を纏った矢が突如反転し、迅がノーモーションで作り出した電磁加速のリングを通って音速を突破。リーダー格の男の顔面の横を掠めて舞台に着弾し、大きな穴が出来上がった。
中央舞台に着弾した矢に周りがざわついている中、迅は腰の刀「霧切の凱旋」に手をかけ、ゆっくりと引き抜き始めた。
その瞬間、迅から放たれるオーラが一気に変わり、ざわついていた観客がピタリと止まった。その静寂の中で、鞘から刃が抜ける音が嫌に大きく響く。
最後に抜ききった霧切を真横に勢いよく降った。観客に見せつけるようにして伸ばした、光も反射しないほどの漆黒の刀身に雷元素が迸る。
抜刀した迅は唯一、事前に用意されたセリフを言い放った。
「……海灯祭は、この蒼夜叉が護り抜く」
迅は、後ろから響く歓声に背中を押されながら、雷を纏って璃月港の夜空を舞った。
(ああああああああぁぁぁ恥ずかしいいいいいいいいいい)
迅は若干涙目だったが。
次回、ゴリゴリ戦闘回