職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

69 / 80




 今回、糖分は控えめです。申し訳ない。


7話 璃月港は一心浄土でした

 

 

 

 

 

 ─────蒼夜叉。

 

 璃月港の英雄。依頼達成率100%の凄腕冒険者。半々仙の雷を纏う夜叉。

 

 色々と呼び名はあるが、どれにしても璃月近辺でその名を知らない人は珍しいが実の所、蒼夜叉の素性を知っているものは割と少ない。

 

 顔写真が出回らないテイワットらしく、有名人の噂は新聞や人ずてで主に広がっていく。特に璃月港やモンド城の住民が彼の事を聞いた時、ほとんどの人が口を揃えて言う。「……あぁ、あの親切な人か」と。

 

 璃月港のある住民はこう言った。あ〜!あの人ね!この前落し物を一緒に探してくれた人なんだ。こっちじゃ珍しい服きてたから、親切な旅の人かと思ったけど、あの人があの蒼夜叉さんなんだ、と。

 

 稲妻城で飲食店を営む青年はこう言う。……蒼夜叉…?…あ〜、狛荷屋の配達員さんのことかな?時々港から牛乳を届けてもらってるんだ。とても気遣いのできる、親切な人だよ。……刀を差しているのは見た事あるけど、あの人が蒼夜叉……ってことは凄く強いのかな?、と。

 

 そしてモンド城に住んでいる女性はこう語った。…蒼夜叉?……もちろん知ってるわ。とっても親切な人で、買い物ついでに世間話をしたことがあるけど…不思議な雰囲気の人だったわね。以前のエウルアさんの騒ぎの時も見ていたけど……とても、義理深い人よ。モンドの人にとっては欠かせない大切な人だわ、と。

 

 大抵、蒼夜叉の事を人に聞くと好意的な印象を話される。むしろそちらの方の印象が強いようで、蒼夜叉と彼の事が結びつかない人の方が多い。

 

 強い強いと噂されておきながら、その姿を見たことがある者はあまりいない。彼が戦う時は基本的に国規模の大きな戦いの時か、人目につかない任務、雷神の部屋くらいだ。

 

 

 

 つまり、何が言いたいのかと言うと。

 

 

 

 

 ────ほとんどの人が、彼の戦っている姿を見るのが初めてだということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────迅は、顔へ目掛けて突き出された槍を首を捻って躱す。そのまま入身をして腹へ膝蹴りを叩き込み、他の宝盗団の方へ投げ飛ばした。

 

 倒れ込む1団を尻目に1人が殴りかかって来るが、手にした黒刀…霧切の凱旋の腹で受け止めながら首に腕を絡めさせ、体勢を崩したところにもう片方から来た別の宝盗団を蹴りで迎撃。別方向に拳術家を背負い投げして自分を包囲させない。立て続けにやられた仲間を見てたたらを踏んだ宝盗団達の隙を見逃さず、迅は舞台の上を駆けた。

 

 突然始まった蒼夜叉と宝盗団の戦い。最初は戸惑っていた観客たちだが、知らぬものはいない蒼夜叉の戦いが見れると、徐々に喧騒が歓声へと変貌を遂げていく。

 

 今も中央舞台上で戦う迅が1人を打ち倒す度に歓声が上がっている。

 

 その中の5人である迅の恋人たちも、彼の戦いに例外なく目を奪われていた。

 

「……すごいです」

「…すごいわぁ」

 

 1体30。その圧倒的な数の差をものともせずに迅の四肢が淀みなく動き、流れるように宝盗団を倒していく。突っ込んできた槍持ちを半身になって躱しながら穂先を掴んだと思いきや、それを手ごと捻りあげつつ槍の柄で飛んできた矢を防いだ。肩関節を極められて動けなくなっている槍使いの脚を刈り、飛来する二の矢を右手に持った霧切の袈裟斬りで迎撃。返す刃を裏返し、後ろから来た拳術士を峰でたたき落とす。

 

 そんな彼の動きに感嘆したように、綾華と宵宮は声を漏らした。

 

「…相変わらず、感知能力が異常ね」

「…そうなの?」

「ええ。あんなにスムーズに多対一をこなすには、高い精度の元素視覚が必要よ。普通、あんな数の死角からの攻撃を視たら頭がパンクしちゃうわ」

 

 腕を組み、食い入るように戦いを見つめているエウルアが言葉をこぼし、綺良々が聞き返す。元素視覚、と聞いて前に綾華と模擬戦をしていた光景を思い出した。

 

 舞台の上の迅も正面の相手をしながら後ろから飛んでくる矢やら元素ビンやらを避けたり弾き返したり掴んだ宝盗団に当てたりしている。

 

 そんな中、刻晴がちょっと頬を朱に染めて言う。その言葉はこの場の彼女ーず全員が思っている事だった。

 

「なんか……こういうこと言うのはアレかもしれないけど、戦ってる時の迅ってあんなに雰囲気が違うのね」

「だよね。ちょこちょこ洞天で綾華ちゃんと模擬戦やるときもあんな顔しないよ」

「はい。……今はなんと言いますか、敵を見るような顔つきで……格好良いです…」

「「わかる」」

 

 綾華の言葉に肯定した綺良々と宵宮の言葉がハモる。エウルアと刻晴も同意のようで頷き合うのもそこそこに視線を愛しの彼に戻した。霧切の凱旋を閃かせて舞台を舞う凛々しい顔つきの迅は、彼女達の新たな扉を開きそうになっていた。

 

 その時、チ虎岩に設けられた舞台の空間が歪み、宝盗団の増援が現れた。ザワつく観客に構う余裕が無い様子の宝盗団が手にしたボウガンに元素ビンを装填する。装填されたのは氷元素と水元素で、凍結させて迅の脚を止める作戦だろう。

 

 それに気がついた迅は力比べをしている宝盗団のハンマー使いの持つハンマーの頭目掛けて雷元素付きの前蹴りを叩き込む。ちょっと蹴りとは思えない轟音を響かせて振り下ろされたハンマーを拮抗の余地もなく吹き飛ばした。海まで飛んでいく己の得物を呆然と眺めている宝盗団に霧切の峰打ちを左右から叩き込み、トドメにすり足の体重移動を加えた横凪を繰り出す。それを顔面に貰った宝盗団は慣性に従ってまるで派手に滑ったかのように逆回転しながら舞台に倒れ込んだ。

 

 そのひとりを処理するのにわずか3秒。その間に装填が完了したボウガンが一斉に中央舞台へ向けて放たれた。物理的に避けきれない量のビンにチ虎岩から悲鳴が上がる。

 

 が、そんな程度でやられるほどでは蒼夜叉などと呼ばれてはいない。

 

 迅は自分の右脚に雷元素を圧縮させる。1秒とかからず圧縮が完了し、ギチギチと軋んだ音と共に色素が濃くなった雷が脚を纏い、そしてそのまま舞台を踏み抜いた。

 

 ズドォン!と爆発音を轟かせながら猛烈な速度で迅の身体をチ虎岩舞台までひとっ飛びさせる。途中で夥しい数の元素ビンに囲まれるが、迅は元素を固めて空中で足場を作り、それを蹴って再度跳躍。空中で逆さまになりながら身を捻り、飛んでくるビンの大群を文字通り飛び越えると呆然としている宝盗団に霧切を振り下ろした。

 

 さっきまで向こうにいた迅が一気にこっちに飛んできて、観客達の目の前で戦い始める。そんな光景に観客の気持ちにも一気に熱が入った。

 

 弓の有効射程内に来られたのでナイフを抜いて応戦する宝盗団達を前に観客に配慮して振り回しにくい霧切を納刀。両手で捌きながら、仙人直伝の体術で倒していく。

 

 突き出されたナイフを持った手の甲を叩いて軌道を逸らし、外側に回り込みながら迅も踏み込んで、両者の衝突エネルギーを掌底に変換。それを容赦なく水月に叩き込む。

 

 宝盗団は、クロスカウンター気味に放たれた掌底で沈む仲間を飛び越えて空からナイフを突き降ろすが一方下がって避けた迅のローキックが顔面に炸裂。ローの回転を活かした後ろ回し蹴りで奥へ蹴り飛ばし、次の相手の首狙いの斬撃を繰り出す腕を取ってすれ違うように入身。肩関節と肘を極めながら四方投げで背中から叩きつける。

 

 迅は今しがた投げた敵の肩を踏み台に跳躍。空中で逆さになりながら雷を纏うと、着地と同時に放電。周りにいた宝盗団を3人一気に感電させ、今度はバチバチとスパークを放つ腕で感電によるダウンを狙っていく。

 

 目の前で見せつけられる迅の技の応酬に、観客の歓声が鳴り止まない。

 

 綺良々達も迅の戦う姿に完全に目を奪われ、視線に熱がこもっている。特に綾華は興奮して今にも自分も参加しそうになっていた。それを止める宵宮の横で、エウルアも一緒に戦いたいと宿に大剣を取りに行きそうになるのを寸前で堪えている。

 

 チ虎岩の舞台に飛んできてから1分足らずで増援の15人を倒して迅は冷めた目で中央舞台を見る。ちなみに倒された宝盗団は仙人全面協力の元、勝手に転移させられているので舞台が倒れた宝盗団の山にならずに住んでいる。

 

 静かに佇む迅に、宝盗団のリーダーは周りのメンバーにボウガンで矢の装填を命じた。観客に手を出すなどの警告を受けていたが、もうそんな事を気にしている余裕が無さそうだ。観客は演出だと思っているのか、パニックにはなったりしていない。

 

 それを気がついた迅は舌打ちをすると身体に纏う元素を高圧縮し始めた。それに応じて増す彼の威圧感にチ虎岩の観客たちが息を飲む。

 

 ギチギチと圧縮された元素が迅の身体を迸る中、彼は腰の霧切を静かに抜刀した。

 

 それと同時に彼の周りを雷元素の奔流が吹き荒れ、観客達の服や髪をたなびかせる。明らかに何かを始める雰囲気に、その場の全員が息を飲んだ。

 

 濃い紫色に変色した雷元素が彼の右手、霧切を持つ手に集まり螺旋状に圧縮される。

 

 その状態のまま、迅はまるで弩弓を引き絞るかのような体勢をとった。右手を向けて溜めをつくり、左手を切っ先の横に添えて狙いを定めているようにも見える。

 

 すると、迅の纏う元素に変化が訪れた。彼の体を迸るスパークがきめ細かくなり、圧縮された音も「ギチギチ」という軋む音から、「キィィィン」といった甲高い音に変化する。雷元素の出力が1段階上がった証拠だ。

 

 雷の色も濃い紫から、濃い青、そして彼の瞳と同じような透き通る蒼に変化していく。それらが螺旋状に絞り込まれながら右腕の霧切の刃を覆っていき、最終的一本の青白い雷槍が出来上がった。

 

 チャージが完了し、あまりの圧縮倍率に迅の足元が陥没する。迅の目が細められたと同時に、向こうのボウガンも矢を放った。

 

 舞台を覆うようにして飛来する矢に、自分らに当たる軌道の矢もあると気がついた観客がザワつく。綺良々達も警戒体勢を取りながらも、迅が何かしてくれると信じた顔で見てきていた。

 

 

 

 周囲のざわつきの中、迅の言葉だけが妙に響いた。

 

 

「……蒼雷一穿、───破吭(ハコウ)

 

 直後、雷槍が螺旋を描きながら突き出された。まるで空気が破裂したかの様な轟音が轟き、圧縮された雷元素を解放しながら放ったことによって異次元の出力と化した雷槍は、発射とほぼ同時に中央舞台に到達する。

 

 当然飛んできた矢も一瞬の内に跡形もなく消し飛ばし、何も出来ずにいる中央舞台の宝盗団を吹き飛ばしながら突き進む。

 

 海灯祭の喧騒が雷槍の発動を境にピタリと静まり返る中、残心を解いた迅はバチバチと蒼いスパークを起こしながら霧切を振り抜いた。

 

 それと同時に観客から割れんばかりの歓声が上がる。

 

 おおよそ普通の人の人生では見ることも叶わぬような威力の攻撃だ。中央舞台に陣取っていた宝盗団達も雷槍に吹き飛ばされて強制転移されている。

 

 綺良々達も、初めて間近で見た迅の必殺技に別の意味で撃ち抜かれ、視線が油断せずに舞台を眺める迅に固定されている。無表情と言っていいような普段のにこやかな彼とは違う様子と戦う時の技のキレ、予想外のことをされても眉ひとつ動かさずに一人で圧倒した迅に、まるで初めて恋を自覚した時のようなドキドキが再来する。

 

 彼の顔を見たいのに直視出来ないという謎の状態に全員でなっている彼女たちを見て、迅はくすりと笑ったような気がした。凛々しい顔立ちのその笑みの破壊力は抜群で、その彼の様子に観客席が色めき立つ。

 

 綺良々達が、迅に熱を籠った視線を向ける他の女性客達を見て愕然とした顔になったその時、中央舞台に突如落雷が落ちた。

 

 迅も、一度納刀した霧切の柄に手をかけて、油断なく舞台を見つめている。

 

 宝盗団は全滅したはずだ。迅は身体に元素を立ち上らせながら嫌な予感が胸をよぎる。思い出すのは先程の凝光の言葉。

 

 

 

 ──────スペシャルゲストもいるから。

 

 

 

 落雷が収まり、その中央から人影が映り出す。身体のシルエットは………女性。

 

 右手に薙刀らしき物を持ち、ゆっくりと歩いて出てくる。辺りを支配する迅を遥かに超える密度の雷元素。最早元素自体に重みがあるのでは無いかと言うほどの威圧感。

 

 それを纏いながら、その女性は着物の袖を翻し、濃い紫色の長い三つ編みを揺らしてチ虎岩舞台の迅を見据えた。他の客からはただ眺めているように見えるだけだが、迅は彼女の瞳の奥に隠しきれないほどの高揚感があるのが見えた。

 

 観客席では、綺良々達はもちろん、海灯祭に来ていた稲妻人全員が顎が外れんばかりに口を開け、飲みものを飲んでいた者は例外なく吹き出し、瑠璃亭の一室から見ていた七神の3人もこめかみを抑えていた。昨日目撃情報が出ていたのでこの祭りに来ていることはわかってはいたのだが、よもやこんな催しに「彼女」が参加するとは。

 

 

 

 

 

 

 

「──────璃月の蒼夜叉。………貴方に、私の薙刀が受けられますか?」

 

 周りが騒然とする中、薙刀「草薙の稲光」を翻した雷神……スベシャルゲストの影ちゃんは微笑みながら蒼夜叉を見詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 ……………いや、何してんのあの人。

 

 

 

 凝光さんが言ってたスペシャルゲストが誰かと考えなかったと言うと嘘になる。正直怖くて誰かなんて深く考えてはなかったけど、まさかまさか、出てきたのは無表情の奥でめちゃわくわくしてる影さんだった。

 

 さっきの宝盗団までは良かったのよ。想像より数が多かったけど、綺良々達がいるチ虎岩の舞台にも出てきてくれたから見世物としても映えたみたいだし。

 

 俺は腰に納刀した霧切の柄に手を掛けて影さんを見つめる。恐らく中央舞台で戦う気だろう。こっちにやってくる感じはしない。

 

 周りをチラリと見ると、みんな影さんに視線が釘付けになってる。そりゃそうだ。普通に過ごしていたら神をその目で見るのなんて国単位の出来事くらいだし、最近出歩いている姿を見ている稲妻人はまだしも、他の国の人達は生で見るのすら初めてだろう。

 

 そして、今しがた影さんが放った台詞に観客がざわついている。まるで俺の腕を試す、といいだけな言葉に、場の雰囲気が段々と高揚していくのを感じた。

 

 ………みんなごめん。ちょっと無傷は厳しそうだ。

 

 俺は脚に元素を込めて走り出すと舞台の端で跳躍。スパークを散らせながら中央舞台に着地する。

 

 そういえば、この状態で影さんと戦うのは初めてだな。俺は仙術の1つ、心法「羅刹視」を発動させながら、影さんを睨みつける。

 

 心法とは、数ある仙術のなかで主に精神的な方向性のものだ。以前タルタリヤに使った「羅刹心」の簡易版で、相手を倒すべき敵と強く認識して自身の動きを最適化させるもの。前に神里屋敷で綾華と手合わせをした時も発動させたのがコレだ。

 

 今の俺は、普段の鍛錬の時とはまるで雰囲気が違って見えるはず。そんな俺を見て、近くにいる俺にしかわからない程度に小さく笑った影さんは半身になって薙刀を中段に構えた。

 

 対する俺は、納刀している霧切の柄に手を添える。掴むと言うより親指と小指のてこを使って柄自体を絡めとる感じ。もちろん雷元素を纏い、元素視覚を全開に────

 

 ドォ!

 

 元素視覚を広げた瞬間、俺は音を置き去りにする速度で影さんへ踏み込んだ。彼女へ肉薄すると同時に鯉口を切り、鍔と鞘の間に斥力を付与して速度を上げる。

 

 普通の相手なら防いでも武器ごと真っ二つか、余波だけでも間合いの外まで届く剣圧で斬られて吹き飛ぶ威力の斬撃。

 

 それを草薙の稲光の石突で止めている影さんに、俺は内心で乾いた笑いを漏らした。

 

 直後、止められた霧切に衝撃。影さんは弾いた動作のまま流れるように薙刀を斬り上げる。しれっと持つところを下の方にしてリーチを伸ばし、下がっても斬られるように振っている。

 

 俺は雷を纏った脚で舞台を踏み砕き、残された退路である空へ跳ぶが、影さんの打ち込みがこの程度で終わる訳が無い。影さんの頭上に雷の「眼」が出現したと思いきや、空中の俺の首を刈る軌道で虚空から雷元素の刃が飛んで来た

 

 俺は何とか身体を回転させて元素刃に霧切を合わせ、命中コースの刃を逸らすことに成功………したところで、地上の影さんが身を屈ませるのが見えた俺は、元素を固めて足場を作り、空中を全力で下がる。

 

 次の瞬間、俺が今までいた場所を跳躍しながら薙ぎ払った薙刀が通り過ぎる。まさかの空中戦に移行してきた影さんに驚く俺の進路上にまたもや元素刃が襲いかかり、空中の足場や霧切の柄までも駆使して何とか捌く。

 

 観客からは、空中の俺を囲むように刃が襲いかかっているように見えているだろう。とんでもないスパンで襲いかかって来る刃は、どれもこれも雷元素がアホみたいに圧縮されていて、踏ん張りが効かない空中なのも相まって普通に受けると崩されてしまう。

 

 霧切一本では到底捌ききれなくなったので、俺は左手に元素を固めて短剣を作り出して、両足には薄く圧縮した雷元素のブレードを展開。両手両足でとてつもない連撃を何とか弾き返していたが、そのうちの一つが俺の守りを抜けてきて、頬を浅く切り裂いた。

 

「…チッ!!」

 

 俺はこの時点で出し惜しみしていられる相手じゃないと、身体の元素を高圧縮せて"蒼ノ雷光"を発動した。圧倒的な強化倍率で出力が引き上げられた蒼く光り輝く両腕で、先程までは弾くのが精一杯だった刃達を一刀でまとめて破壊する。

 

 まるでガラスが割れたような破砕音が璃月港に響き渡るなか、俺は元素を今一度固めて蹴り抜き、先程とは比較にならない速度で着地した影さんに真上から襲いかかった。

 

 その一撃だけで、あの時の跋掣の首くらいなら吹き飛ばせる程の威力。そんな唐竹割りを、影さんは薙刀の柄で滑らせるように斬撃を凌ぐ。なんでその薙刀の柄は斬れないんだよとツッコミたくなるが、着地した俺は続けて身体を倒すと、防いだことで影さんの重心が乗っている右脚に足払いを仕掛ける。

 

 それを下がって避けた影さんはくるりと薙刀を回すと屈んでいる俺を消し飛ばすような勢いで得物を振るう。舞台の床がごっそり削られていくのを尻目に横に転がって避けた俺は、起き上がりながら飛んできたローキックに前蹴りを合わせた。

 

 蒼雷を纏っているというのに影さんとの蹴りの力比べで負けて、脚が上がりそうになるが既のところで脚をズラしそれを免れた。抑えてた足が退いたことによって脚が上がった影さんの膝裏に手を入れた俺は、そのまま持ち上げて転ばせにかかる。

 

 影さんは流れに逆らわずに手を床についてバク転をしながら、猛烈な勢いでサマーソルトキックを繰り出してくる。それをギリギリ顔を逸らして避けるが、あまりの速度の蹴りに風圧発生して顔を打つ。それにより、一瞬目を閉じてしまった。

 

 追撃を警戒して身構えた俺だが、結果としては追撃は来なかった。バク転から跳躍をして距離をとった影さんは手のひらに雷元素を集め、地面に手を当てる。

 

 嫌な予感がした俺が防御体勢を取った瞬間。俺と地面との間にとてつもない斥力が働いた。

 

 俺の十八番の電磁付与だ。気がついた俺が元素を引き剥がそうとするがもう遅く、為す術もなく空に巻き上げられる。

 

 さらに、目を疑う光景が俺の目に入った。薙刀を腰だめに構えた影さんは集中するように息を吐き、夥しい量の雷元素が薙刀へ集まっていく。5秒程で薙刀の穂先の雷元素が軋み、青白い稲光へ変化した。そして、蒼雷がさらに圧縮される気配。

 

「…うっ、そだろっ…!?」

 

 俺の背筋が盛大に泡立ち、警鐘がガンガン鳴る。あまりの元素の密度に舞台が陥没し、蒼い薙刀を携えた影さんはそのまま真っ直ぐに斬り上げた。

 

「……蒼雷一閃、断空」

 

 それ俺の技ァ!?

 

 とか言ってる暇も正直無さそうだ。放たれた蒼い剣閃が俺を両断せんと迫ってくる。

 

 磁力で拘束され、回避は不可能。蒼雷一閃シリーズの特徴としてどれも弾速がイカれてるので、放った瞬間にはもう俺へ到達してしまう。

 

 そこで俺は、最近習得したある技を祈るような気持ちで発動させる。

 

 蒼雷を霧切に集中させ、あえて圧縮させずに迫り来る剣閃に割り込ませる。霧切の刃と剣閃が激突し、空中の俺が押し負けて空へ昇って行く。

 

「………うぉおおおおおおおおお!!!」

 

 気がつけば、俺は声を張上げていた。受け止めた剣閃の雷元素を霧切と併せ、仙力へ変換しながら取り込んでいく。仙力、元素力共に親和性の高い霧切の凱旋だからできることで、取り込んだ元素を身体に纏い直す。

 

「…なっ!?」

 

 さすがに影さんとこれには驚いたようだ。彼女の驚いた顔にちょっと満足しながら、今しがた吸収した元素を地上の影さんに向けて撃ち放った。

 

 

 直後、断空とほぼ同じ出力の元素刃が中央舞台を一撃でふたつに割る。

 

「……ぐっ……」

 

 俺は体内の急激な元素の乱れに空中で顔を顰めてこめかみを抑えた。そのせいで、数秒の間とはいえ影さんを見失ってしまう。

 

 それが致命的だった。

 

「……がァ!?」

 

 ほとんど勘で胴体を守るように霧切をかざす。その直後、強烈というのも生易しい衝撃が俺を襲い、猛烈な勢いでチ虎岩の舞台に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ…………迅くんっ!!」

 

今作の戦闘描写について

  • どうなっているかわかりやすい。
  • 迅くんの技や動きがかっこいい
  • ちょっとわからないところがあった
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。