職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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8話 蒼夜叉の本気と雷神の暴走

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

「じ、迅くんっ!!」

 

 迅くんが影さんの攻撃を食らって、わたし達の目の前の舞台に叩きつけられる。あまりの勢いに舞台が粉々に砕け散って、轟音と風圧がわたし達の髪を激しく揺らした。

 

「迅っ!」

「兄さんッ!」

「ちょっと?大丈夫なのっ!?」

 

 さっきまでは迅くんの戦いを夢中で見ていたわたし達だけど、この状態にはさすがに慌てて、それぞれ彼の名前を叫ぶ。綾華ちゃんや宵宮ちゃんなんかは目の縁に涙を溜めて心配そうに彼が落ちた先を見つめてた。

 

 刻晴さんも口元を手でおおって、目を見開いてる。エウルアちゃんは今すぐにも彼に駆け寄りそう。

 

 わたしは唇を噛み締めて迅くんが落ちた先を見る。周りのお客さん達も、迅くんのやられように騒然としていた。

 

 空中で迅くんを叩き落としたらしい影さんは、スタッと音を立てて中央舞台に着地する。ひゅんひゅんと音を立てて薙刀を背中に背負い直すと、迅くんの安否を確認しにこっちに跳ぼうとした、その時。

 

 

 粉々になった舞台の下から、ぼんっと音を立てて迅くんが飛び出てきた。割れた舞台の1つに着地する迅に歓声が上がるけど、次第に彼の身体を伝って落ちる「赤」に静かになって行った。

 

「……じ、じんくんっ…」

 

 迅くんは至る所から血を流していた。

 

 額から右目を伝うように血が出ていて、咳き込みながら血を吐き出している。それでも彼の眼差しは真っ直ぐ向こうの影さんに向いているような気がした。

 

 みんな、こうして血を流す迅くんを見るのは本当に初めてだと思う。あの高さから落とされて死んでない時点で物凄い事なんだけど、初めて見る彼の苦しそうな顔と流れる血に、わたしの血の気が一気に引いていく。

 

 じ、迅くん、……大丈夫だよね?

 

 わたしの中で、あの戦いの時……跋掣戦の時の彼がフラッシュバックする。見世物の演武なのはわかってるけど、さっきから迅くんと影さんの雰囲気が変わってきていて、なんだか見ててとても怖いって思った。

 

 わたしが胸の前で手を抑えていると、その手を刻晴さんが包み込んでくれる。見ると、彼女もわたしと同じ顔をしてた。

 

「…綺良々、大丈夫よ。さすがにこれで演武は終わるはずだから」

「う、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 いっ、てぇ……!

 

 ギリギリのところで意識が飛ばずにすんだ俺は、舞台が砕け散って海に沈む前に残った残骸に飛び移る。

 

 海に落ちた霧切も電磁吸引で回収。内臓をやられたのか、咳き込む度に口の中に吹き出る血を吐き出すと、霧切を構え直した。

 

 さて、どうしようか。多分演武って名目ならこれで終わりでもいいけど………。

 

 

 ちょっと、このまま終わりは俺が嫌なんだよなぁ。

 

 その意志を込めた目線が彼女にも伝わったのか、背負い直した薙刀をもう一度俺に向けてくる。

 

 止めに入ろうとしている刻晴や千岩軍達を目線で制し、俺は腰の神の目に手を当てた。

 

 

 

 ………これ(・・)使ったら、終わったあと綺良々達に怒られるんだろうなぁ。仕組み自体は甘雨が言わなきゃ分からないと思うけど、多分ダメなんだろうなぁ。

 

 

 ちょっと、ここでやることじゃないかもだけど。

 

 

 演武なんだから、そこまでやるか?とか言われそうだけど。

 

 

 俺、まだ影さんに1本も取れたことないんだよね。

 

 

 場違いなのはわかってるけれど、ちょっと本気の本気で一本を狙ってみたい。後で一心浄土でもできるだろうけど、今のこの気分はここだけの物のような気がした。

 

 俺の雰囲気を察したのか、影さんは油断なく薙刀を構えている。その瞳の奥で堪えようないわくわくが見て取れて、俺のやる気に一層火がつく。

 

 

 俺は神の目からではなく、仙力を身体に纏う。

 

 俺の瞳の色が空色から金色に変わり、身体を金のオーラが包んだ。

 

 

 

 

 ────それを、圧縮していく。

 

 再三言うが、俺が蒼雷を作り出せているのは、普段から貯蓄している元素を解放しているからである。そして使い切ったところで別に俺の体になんの支障もない。

 

 だが、今圧縮しているものは元素ではなく仙力。仙人の生命エネルギーである仙力を圧縮にかけるという、甘雨が見たら卒倒しそうなことを今やっている。

 

 次第に、俺の身体の周りを漂う仙力が稲妻を帯びてきた。それを確認した俺は、その状態のまま。

 

「……蒼ノ、雷光ッ……!!」

 

 蒼雷を纏った。

 

 俺の身体を金色の雷と蒼色の雷が迸る。さっきよりもずっと重くなった身体を蒼雷で無理やり加速させる。

 

「………っ」

 

 影さんはそんな俺を見てとても驚いているようだった。目を見開くと、くすりと笑う。あくまで演武として薙刀で戦うらしい彼女は、バチバチと雷が走る薙刀を中段から下段へと構えた。

 

 

 俺はちらりと観客席の綺良々達の方を見る。

 

 みんな心配した顔でこっちを見ていて、ごめんなと心の中で謝ると、脚に二色の雷を集中。その場から消えた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「…っ!?」

 

 薙刀を構えた影は黄金と蒼雷、2つの雷を纏う迅を見て、堪えようのない高揚感を感じた。まだ彼には奥の手がある。それも自分の知らない、見たこともない奥の手が。海灯祭の演武だとはわかっていても、武人としてここで止めることは出来なかった。

 

 直後、衝撃音とともに迅の姿が消えた。……と認識した瞬間に自分の真後ろに膨大な雷元素の塊──

 

 ……迅が二色の雷が迸る霧切を振り下ろしてきた。

 

 万全の構えをしていた影の後ろを一瞬で取った迅に驚きながら、唐竹割りを薙刀の刃で受け止める。

 

 その瞬間、影は今までの迅との戦いで経験したことの無い重さを腕に感じた。轟音と共に弾かれた薙刀を見て、影は目を見開く。

 

 先程の蒼ノ雷光よりも遥かに上がったスペック。続く横なぎを身を倒して避けながら、迅の軸足に神様スペックの回し蹴りを叩き込むが、金色の雷が彼の脚へ集まり、回し蹴りも弾かれてしまう。

 

 

 

 そもそも今の迅の状態はどういうものか。

 

 まず、迅の十八番の雷元素の身体強化というのは、言わば掛け算的な計算式で強化が入る。それに対して仙力の身体強化は、足し算的な感じで強化をするというものだ。

 

 つまり、それを同時併用すると相乗効果でさらに大きな強化が得られるというもの。

 

 数字に例えると元々が10として、蒼ノ雷光で5倍に強化していたところを、仙力強化で5加え、そこをさらに蒼ノ雷光で倍加。強化元のスペックをはね上げてから、蒼ノ雷光でそれ強化するといった仕組みだ。

 

 それに、仙力強化をするともうひとつオマケが着いてくる。仙雷と呼ばれる金色の雷は元素よりも柔らかく、操作や圧縮が格段にやりやすいのだ。

 

 迅の脚に集まった仙雷が今度は霧切へ集まる。彼は深呼吸をすると、霧切へ蒼雷と仙雷をチャージした。仙雷に反応して、彼の霧切の漆黒の刀身に入った青いラインが金色へと染まる。

 

 直後、迅は影の薙刀目掛けて溜めた霧切を鋭く突き込んだ。

 

「───仙光(せんこう)鎬断(しのぎだち)ッ!!」

「……っ!」

 

 金の槍と化した霧切を影も気合いを込めて薙刀で逸らす。影の力を持ってしてもとてつもなく重い突き。それを薙刀を当て込み、身体を捻ってどうにか躱した。

 

 ……が、この技の真髄はここからだった。

 

「……っ、……なっ!」

 

 突きを躱して後ろへ下がった影の薙刀から、突如元素が剥がれ落ちた。見ると薙刀の元素が金色の雷に「喰われて」いる。紫電を食い尽くした迅の仙雷は、そのまま薙刀へ居座り、影が元素を送っても瞬く間に喰い荒らす。

 

 つまり、影はもう薙刀に元素を込められなくなった。引き剥がせなくはないのだが、先の蒼雷一閃レベルの集中と元素が必要だ。今の彼を前にそんな余裕は無い。

 

「……ふ、…ふふっ」

 

 影は、思わず笑っていた。

 

 まさか、自分がここまで力を出しても倒れないどころか、自分の知らない技で一矢報いて来るなんて。

 

 ああ、楽しい。ずっと永遠に、彼とこのまま戦い続けたい。影は自分の顔が熱くなるのを感じた。

 

 観客からは遠くて見えないが、目の前の迅にはまるで恋をした乙女のような顔の影がよく見える。そんな彼女を見て苦笑をした迅は、脚に雷を込めて踏み込んだ。

 

「…シッ!」

 

 迅の金色の霧切の横なぎを薙刀で受ける。攻撃の重さに薙刀が押されるが、影はその力に逆らわずにすり足で迅の身体を回り込むようにして移動。首に腕を巻き付かせる。

 

 迅は首に回った影の腕に絡め取られるならその方向に一緒に動いて彼女を投げようとしていた。

 

 

 

 

 ………していたのだが。今の影ちゃんは、先程までの演者モードではなく、今の迅を見て暴走している1人の乙女であったことが、完全に彼の予想の外を突いていた。

 

 

 

 …ちゅ。

 

 

「!?」

 

 首を極められるかと思いきや、頬に極上の感触とリップ音が混ざったことにより、迅の頭の中が「!?」で埋め尽くされる。

 

 同時に首に回っていた手が迅の頬を撫で、そのまま解放される。

 

 後ろに飛んで影さんを見ると、じーっと迅の顔を見ている。

 

 迅は今何が起こったのか、状況的にありえないことが起きたと困惑していた。少し考えて、たぶん気のせいだと。唇が当たったのもなんかの事故だと結論づけた迅はもう一度影へ踏み込む。

 

 金色の雷で威力が増大した袈裟斬りを、影は先の先を取り入身をした。タイミングも完璧だったので迅の背筋に冷や汗が伝う。

 

 いちばん怖いのはカウンターの膝蹴り辺り。それを避けるために半身になったところで、俺の顔に影さんの手が伸びてきた。一瞬見えた手の形は平手。目潰しかと袈裟斬りの体勢のまま転がって手ごと逃れようとしたところで、伸ばされた手が俺の頬に着地した。そしてそのまま……。

 

 

 ちゅっ。

 

「!?!?」

 

 今度は逆側の頬に柔らかい感触が。今度はさすがに気のせいじゃ片付けられなくなった迅は、頬を抑えて後ずさる。

 

 観客席からは遠くて見えていないのが幸いか。「何してるんですか!?」と視線で問うが、影は迅の顔をじっと見て離さない。何やら少し頬に朱色すら見える。

 

 一体どうしたんだと迅が困っていると、彼の周りを夥しい量の元素が囲いこんだ。

 

 その元素達が迅と影を周りを覆い尽くして、観客席から声が上がる。綺良々達もそれぞれ彼の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 攻撃に備えて霧切に仙雷を集める迅。

 

 しかし、直後彼に加えられた攻撃は予想を遥かに越していた。

 

「……迅さん……!」

「…ちょ、影さんっ!?」

 

 元素で周りからの視線が遮断された瞬間、影がそのまま飛びついて来る。

 

 なんかの攻撃かと身構えた迅に密着し抱き着いた影は、もう我慢出来ないといった様子で、迅へ顔を寄せた。

 

「ちょ、影さん何をんむっ!?」

「…んっ、…迅…さん…んんっ……!」

 

 飛びついて唇に吸い付いてきた影に迅は盛大に混乱する。そのまま床にべしゃっと押し倒され、上に乗った影は上気した顔で迅を見詰めた。

 

「……ふふ、まだそんな力を隠していたんですね…。……もう、本当に貴方という人は………。そんなの、我慢出来るはずがないじゃないですか」

「で、でも今演武中…!」

「…む、貴方だって私に本気になったじゃないですか。あそこで終わらせようとしましたのに、あんな奥の手を……。……あぁ、迅さん……んっ」

 

 影は今だけは神だと忘れさせて欲しいと言わんばかりに、唇を重ねてくる。

 

 それに困惑して、迅の雷が解けてしまった。こうなってはもう戦いも続けようがない。ため息を履いた迅は、起き上がりながら上に乗って抱きしめて来たせいで影の胸元に顔が埋まりジタバタする。

 

「……その、この続きはまた一心浄土で。今日のところはここまでにしませんか?」

「……ええ。さすがにこれ以上やって璃月港に被害が出かねませんね」

「わかりました。………あー、今回で影さんから1本取れると思ったんですけどね」

「……ふふっ、………1本なら、もう取られました」

 

 自分の胸を抑えて楽しげに笑う影に、迅は思わず目を奪われた。

 

「……それでは、迅さんを軽く向こうの舞台に飛ばして、貴方を眷属と認めたことを伝えますね」

「わかりました。……やっぱり演武ってそれが目的だったんですね」

「ふふ、後で先の技も説明してもらいますからね?」

 

 迅の言葉にくすりと笑った影さんは薙刀に力を込める。彼も霧切を構え直したところで、笑顔の影は薙刀を思い切り(・・・・)振り抜いた。

 

「え?」

 

 衝撃。

 

 カッ飛んだ迅はさっきと同じようにチ虎岩の舞台に叩きつけられる。

 

「じ、迅くんっ!?」

 

 綺良々達からすれば雷元素に包まれて見えなくなったかと思ったら、猛烈な勢いでこちらへ飛んできたのだ。そりゃ心配もする。

 

 痛む身体を抑えて立ち上がった迅の前に影が現れた。トドメを指す気かと周りがザワつく中で、彼女はくすりと笑う。

 

「……見事でした。……貴方を我が雷神の眷属として、認めましょう」

「……ありがとうございます」

 

 そう言われた迅が膝をつき、頭を垂れると、周りから歓声が上がった。迅が雷神の眷属となるのは昨日璃月港と稲妻に広められており、観客もだいたいが知っている。2人の様子を見てこの催しの意味を理解した観客も頷いて拍手を残した。

 

 お互い一礼をしたところで、影はもう一度観客に向かって一礼。雷元素となってその場から消える。

 

 一人残された迅は歓声をあげる周りを見回し、最後に綺良々達へ手を振った。怪我はしているが無事そうな迅に、5人は安心した顔をする。

 

 安心した綺良々達を確認した迅は、風の翼を展開。その場で跳躍してそのまま高度を引き上げ、群玉閣へ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 この戦いは、後に璃月港の講談屋で1番の人気を誇ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

「あ〜、疲れた」

 

 何とかあの場を乗り越えた俺は、ふらふらと風の翼で飛んで群玉閣に辿り着いた。

 

 あの場では何とか平気を保っていたけど、実は全然平気じゃない。生命エネルギーを圧縮して消費し続けたってことは、その分死に近づくことに他ならない。

 

 実際残量的にギリギリだ。ぶっちゃけ今意識を保ってるのも割と奇跡。

 

 それでもどうにか群玉閣に着くと、俺はその場にへたり込んだ。

 

 あーだめだ、もう動けん。……せめて、中には入らないと。こんなとこでぶっ倒れたら後でこっち来るだろう綺良々達に要らん心配をかける。

 

 俺は気を振り絞って立ち上がろうとした。……でも、やっぱりダメで、ぐらりと倒れそうになった。

 

「………お疲れ様。迅」

 

 あー無理か〜とか思ってたら、誰かに肩を支えられた。横を見ると、俺を心配そうに見る金髪の女の子。

 

「……蛍?」

「もう、無茶して。……ほら、ひとりじゃ歩けないんでしょ?中まで運んであげるから」

 

 俺の身体の様子を見てちょっと怒った顔をした蛍は、自分の肩に俺の腕を回す。

 

「……み、見てたのか?」

「うん、ここから全部ね。………凄くかっこよかったよ?」

「あ、ありがとう?」

 

 俺を群玉閣の中に運びながら向けられた蛍の流し目に、俺は目線を逸らした。

 

 群玉閣には凝光さんはおらず、何人か残っていた係員が駆け寄ってくる。事情は伝わってるみたいでそのまま部屋に通された。ベッドに座らされた蛍が濡れた布巾で血の付いた顔を拭いてくれる。

 

「…自分でやるってば」

「だーめ。そんなこと言って、本当はもう動けないんでしょ?」

「そ、そんなことはないけど」

「嘘ばっか。……もうすぐ甘雨がこっちに来るって言うから、それまでじっとしてなさい」

「…えー…甘雨来るの?」

 

 仙力を分けてくれるのはありがたいけれど、その間お小言を貰いそうだ。げんなりしながら顔を拭いてもらうと、今度は蛍の手が俺の上着に伸びてくる。大人しく脱がしてもらい、インナーになると、蛍の手は止まらずに俺の腰に伸びてきて…ってちょっとぉ!?

 

「も、もういいから!」

「なんで?楽な格好にならなきゃでしょ?」

「甘雨が来たあと自分で脱ぐからっ」

「……別に、昨日見たし今更じゃん」

「やかましいわ」

 

 蛍とズボンの裾のしのぎを削っていると、さすがにそれで体力を使い果たしたのか、一気に意識が遠のいてきた。

 

「……ぅ…」

「……っ、迅っ!」

 

 蛍の俺を呼ぶ声がどんどん遠くなり、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ…………んくん……迅くんっ!」

「………っ」

 

 多分、綺良々の声。

 

 呼びかける声で意識が浮き上がってきた俺は、目を閉じたまま周りの気配を探る。

 

「……ちょ、綺良々ちゃん落ち着きぃ」

「……う、ぅ、でもぉ〜」

「綺良々さん、迅は大丈夫です。疲れて眠ってるだけなので…、仙力が送り終えたら直に目を覚ますと思います」

「……よ、よかったぁ」

「…兄さん…」

「迅、やっぱ無茶しとったんか…」

「これは目を覚ましたら、みんなでお仕置ね」

「そういえば、刻晴さんはどちらへ?」

「凝光さんの所へ行ったみたいです。……ちょっとお灸を据えに、と」

「そうですね……。私も少し、今回のことは思うところがありますので」

 

 わぁ、なんかすごいことになってら(現実逃避)。

 

 俺の周りには綺良々と宵宮、綾華にエウルアが居て、俺の手に甘雨が仙力を送ってくれてるんだろう。そこまではいいんだけど、最後の綾華と甘雨の雰囲気がちょっと怖かった。

 

 多分俺を見世物にして、怪我させたのを怒ってるんだろうけど……。凝光さんからしても予想外だったと思うけどなぁ。

 

 とか考えたら、頭の中に突然人の声が響いて、思わず飛び起きそうになった。

 

『迅さん、聞こえますか?』

『そ、その声は影さんですか?』

『……はい。雷神の眷属となったことで、こうして私と交信できるようになったんです。………体の方は大丈夫ですか?群玉閣で倒れたと聞いたので心配で…』

『そうだったんですか。……身体の方は何とか大丈夫です。お気遣いありがとうございます』

『……よかったです。皆さんには後ほど謝りに行きますので』

『え、いや、別に大丈夫ですよ?』

『神としてではなく、生物としてのケジメです。貴方にも今度改めてなにかお返しをしたいと思っています』

『わ、わかりました。とりあえず、今は回復に専念しますね。……では、また』

『はい。お大事にしてください』

 

 便利だなぁコレ。影さんとの交信が終わって聞き耳を立てていると、刻晴が戻ってきたらしい。周りが更に騒がしくなってきていた。

 

「……戻ったわよ。甘雨、迅の様子はどう?」

「もう大丈夫です。外傷よりは仙力の欠乏が酷かっただけなので。………だけ、では少し片付けられないことではありますが…」

「そうね。……凝光にはさっきたっぷりキレて来たけど、甘雨も後で行くかしら?」

「刻晴さんが言ってくださったので、私は大丈夫です。……ですので私が話す相手は、目の前で狸寝入り決め込んでるおバカさんの方にします」

 

 ……おっとぉ…バレてんの?

 

 甘雨の言葉に反応した綺良々達もこっちに集まってくる。

 

「迅くん、起きてたの?」

「……起きてないよ?」

 

 目を閉じたままそう返してみたけど、やっぱりダメか。

 

 仙力を送ってくれた甘雨にありがとうとお礼を言い身体を起こす。

 

 至る所から嬉しそうに名前を呼ばれ、みんなの目を見ながら俺は微笑んだ。

 

「えっと、心配かけてごめんな」

「うん、でも無事でよかった…」

 

 俺の手を握って来る綺良々の頭を撫でる。くすぐったそうに片目を閉じた受け入れくれた彼女は俺の顔を見て笑顔を浮かべた。

 

「迅がこっちにカッ飛んで来た時はほんまに心配したんやで?…せやけど、戦う迅が、めっちゃかっこよかったわ」

「おう、ありがとうな」

「兄さんが悪漢を次々倒すところは、私とても興奮しましたっ!……その、あの時の目を、次の模擬戦でして頂いてもよろしいでしょうか…?」

「え、アレで綾華のことあんまり見たくないんだけどなぁ」

「……でも、何でもするって言ったじゃない?」

 

 あ、そういえば言いましたやん。俺の頬に手を伸ばしたエウルアは優しく俺の頭を撫でた。いつも撫でる側でこっちは慣れてないから、ちょっと気恥ずかしい。

 

「だから、ちょっとは労わせてよね」

「うん、……ありがとう。…刻晴も、凝光さんに言ってくれたんだろ?ありがとうな」

「もう、言ったそばから私達の知らないところで無茶するじゃない。…聞いたけど、あの宝盗団達、雇ったんじゃくて本当にあなたに恨みを持ってる奴らだったんでしょ?…また、貴方ばっか泥を被って……貴方はそれでいいって言うだろうけど…それならいつ、迅がちゃんと祭りを楽しめるのよ。それを聞いて我慢ならなかったわ」

「刻晴…」

 

 刻晴は申し訳なさそうな顔で俺の手を握った。

 

「だから、ちょっとやりすぎよってさっき凝光に言ってきたの。凝光も凝光でちょっと反省してたわ」

「…そっか。……俺のために怒ってくれて、嬉しいよ。ありがとう」

「いいのよ。いつも助けて貰ってばかりだから」

「そうだね。迅くん、いつもありがとっ」

「うちもっ、ありがとうなぁ」

「ありがとうございます」

「ありがとね」

 

 そう言いながら、みんなで俺の頭を撫でてきた。それがくすぐったいけど、なんか嬉しかった。

 

 場が和やかな雰囲気で満ち溢れる。体調も戻ったことで、俺はお礼を言いながらベッドから出ようとしたところで。俺を真っ直ぐ見た綺良々が笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よしっ、……じゃ、お説教タイムね?」

「えっ」

「…そうです。…相手が雷神とはいえ仙力を圧縮するなんて……死にたいのですか?」

「いや、えっと」

「それを甘雨さんから説明してもらった時、うちら震えが止まらんかったんやで?」

「その、ごめん…」

「兄さん……居なくならいでください……兄さんが居なくなったら、私……っ」

「わああっ、綾華っ、ごめんっ、ほんとごめんっ」

「もう、本当に勘弁してよね。……貴方にはまだ、返してない恩が沢山あるんだから…」

「大変申し訳ございませんでした」

「あー、迅が綾華泣かした〜」

「蛍っ、助けっ」

「そういえば、旅人も涙目だったぞ?」

「うっ……」

 

 

 

 ………当分の間、彼女達に俺の頭が上がることは無さそうだ。

 

 

 

 続く。

次の章、どちらが読みたいですか?

  • フォンテーヌ編「正義を覆う曇天を」
  • 迅くん過去編「落ち夜叉と波花騎士」
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