職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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9話 仙人の薬、半々仙にも効くって思うじゃん

 

 

 

 

「……はい、迅くん。……あーんっ」

「や、自分で食べれるって」

「…あーんっ」

「…はい」

 

 わたしはしぶしぶ口を開けた迅くんに、ご飯が乗ったスプーンを入れる。もそもそと口を動かす迅くんを見てかわいいなぁ〜って思ったけど、いけないいけないと顔を引きしめた。今はわたし、迅くんに厳しいんだからっ。

 

「……き、綺良々。俺の身体は本当に大丈夫だから、何もこんな看病なんてしなくても…」

「ねぇ、迅くん」

「はいっ」

「……わたし、これでも結構怒ってるの、わからない?」

「……いえ」

 

 そう。今はわたし、迅くんにとっても怒っているのですっ。

 

「…もーっ、なんで黙ってたの?……本当は甘雨さんに分けてもらってた仙力も全然足らなかったんだって。君が1回眠ってから揺すっても叩いても丸々2日間も起きなくて、すっごく心配したんからねっ?」

「……」

 

 あの後、みんなで迅くんをお説教した後、疲れたから寝たいと言った迅くんに布団をかけた。

 

 時間も遅かったし、その日はみんなで群玉閣に泊まることに。迅くんをゆっくり寝かせるためにわたし達は別の部屋に移動してみんなで寝たんだけど、戦ってた迅くんの話をしていたら盛り上がっちゃって、起きたのは昼過ぎだった。

 

 基本的に、迅くんは早起き。だから迅くんも起きてるよねって部屋を訪ねたら、珍しくまだ眠ってた。

 

 安らかな表情で眠る迅くんを見て、わたし達は笑いあった。昨日あんなに疲れたんだもん。好きなだけ寝かせてあげようって、その日は海灯祭が終わって国に帰るみんなを見送ったり。

 

 綾華ちゃんや、エウルアちゃんは先に国に帰った。わたしは迅くんと一緒に居たかったから璃月港に残って夕方に迅くんの部屋を再び訪れて。

 

 

 

 でも、迅くんはまだ目が覚めてなかった。

 

 

 さすがにおかしいってわたしも思った。凝光さんに言って甘雨さんや刻晴さんを呼んで貰ったけど、その2人を待ってる間に、わたしは迅くんに寄り添った。

 

 迅くんの寝顔はとても安らかだったけど、その光景が前の時と重なって、思わず泣いちゃった。

 

 結果、飛んできた甘雨さんに調べてもらって、失った仙力を回復するために寝る時間が極端に長くなってるってことを教えて貰って、わたしは安心してもう一度泣いちゃった。

 

 

 

 そして今日、やっとこさ目を覚ました迅くんは起き上がるなり甘雨さんと刻晴さんに大目玉を食らって、今こうしてわたしにお世話されてるというわけですっ。

 

「……で、なんでそのこと黙ってたの?」

「……仙力って仙人の生命エネルギーだろ?甘雨に分けてもらってるってことはその分甘雨の仙力が減るわけだし…。だから倒れない位で止めておいて後は自力で回復させようと思ったんだけど…」

 

 迅くんは、前に仙力が大幅に増えちゃってからこんなに消費することがなかったから、回復にかかる時間の計算を間違えちゃったんだって。

 

「……ほんとに心配したんだよ?」

「…ごめん」

「……また、目が覚めなかったらどうしようって、……あの時みたいに不安だったんだからね?」

「本当にごめんなさい」

 

 わたしは食べ終わったお椀をテーブルに置いて、迅くんに抱きついた。迅くんも優しく抱き寄せてくれて、頭を撫でてくれる。

 

「……そういえば、みんなは俺の事って…?」

「……うん、ちゃんと伝えてあるよ。みんな心配してた」

「……ご心配をお掛けしました。あとで何かお返しをしないとな」

「その前にちゃんと体調よくして?」

 

 わたしは迅くんから離れると、彼の頭を優しく撫でた。いつもされてるからそのお返しっ。大人しく撫でられてる迅くんがかわいい。

 

 わたしの手を優しく下ろしながら迅くんは周りを見回した。

 

「そういえば、ここってまだ群玉閣だよな?…2日も寝ちゃってて迷惑かけたし、洞天に移らないと…」

「……あ、それなら凝光さんがもう一泊してって良いって言ってたよ」

「そうか?…外は夕方だし、それならお言葉に甘えようかな」

 

 そんな話をしていると、部屋の扉がノックされる。わたしが開けると噂をすればなんだっけ。凝光さんが顔を出した。

 

 

「…具合はどうかしら」

「なんとか回復しました。2日もありがとうございます」

「いいのよ。私も今回は無茶を言いすぎたわ。……ごめんなさい」

「良いんですよ。まさか凝光さんも俺たちの戦いがあんなにヒートアップするなんて思ってなかったでしょうし」

「……貴方はそう言うと思ったけどね。……一言言っておかないと刻晴と甘雨が怖いのよ」

「あはは、お疲れ様です」

 

 もー、迅くんはそう言うけどあの時の刻晴さんと甘雨さん、本当に怒ってたんだからね。……正直いうと、わたしもちょっぴり…ね?

 

 あの日、凝光さんは刻晴さんと甘雨さんに怒られたらしい。まぁ、迅くんに倒せる相手とはいえ本気で恨みを持ってる敵を大量に送って戦わせたんだもん。

 

 それに何より、わたしたちは楽しんで欲しかった迅くんを祭り運営側に引き込んだことが許せなかったんだとか。

 

 迅くんは、俺としては寝込む前にみんなから聞いた「かっこよかった」った感想が聞けて満足なんだけどって言ってたけど、やっぱり心配したよ。

 

 だって、迅くんは優しい。ちょっと優しすぎるくらいにも思うそれは彼の美点だと思うけど……わたし達としては、迅くんにも同じくらい楽して貰いたいし、楽しんで、癒されて欲しい。

 

 わたしと綾華ちゃんは前に、綾人さんから聞いた事があるんだ。

 

 迅くんが優しすぎるのは、もしかしたら昔の神里時代のせいなんじゃないかって。周りから嫌われるのを防ぐために、優しくならざるをえなかったんじゃないかって。

 

 わたしはそれを聞いた時、あの時……わたしが前に迅くんに「押してダメなら引いてみろ作戦」を決行した時の彼の様子を思い出した。

 

 まるで、嫌われることに極端に臆病になってるみたいになっていた迅くん見て、今まで感じてた「好き」って感情以外の新しいものを感じたんだよね。

 

 だから、わたし達は迅くんにももっと楽しんで欲しくて、癒されて欲しくて、わたし達に優しくする暇なんてないくらい、自分のことだけ考えてて欲しい。

 

 こんなことを彼に言うと「いや、俺も普段から十分癒されてるぞ?」って言いながら頭を撫でてくれるだろうけど、それじゃダメなのっ。

 

 部屋を出ていった凝光さんを見送った迅くんがわたしを見て首を傾げてる。

 

「…むーっ」

「わ、なんだよ」

 

 わたしは迅くんをぐいぐい押してベッドに座らせると、自分も隣に腰を下ろした。彼の手をにぎにぎしながら、問いかけてみる、

 

「ね、迅くんはらわたしにして欲しいことある?」

「して欲しいこと…?……うーん、ここ数日心配ばっかかけてるし…、むしろ綺良々のしたいことを聞くぞ?」

「ちがう」

「違う!?」

 

 ほらーっ!そういうとこだよ迅くんっ!わたしを気遣って言ってくれたセリフを即答で否定すると迅くんはびっくりしてる。

 

「迅くんが何かしてくれるのはダメなのっ。わたしがなにかしてあげたいのっ!………ね、なんでもするよ?」

「…な、なんでも…って、……うーん。大抵の事はしてもらってるしなぁ…」

「な、なんなら……え、えっちなことでもいいよ?」

「……アホか。凝光さんに迷惑だろうが」

 

 そんなことを言いつつも視線が一瞬顔からわたしの身体に下がったのわかってるからね?

 

 迅くんはしばし悩んだ後、迅くんはベッドに横になった。掛け布団をぐいって待ち上げて、こっちを見る。

 

「……じゃあ、…一緒に寝よう?」

「…えへへ、しょうがないにゃぁ〜」

 

 やばいっ。今の迅くんの顔が好きすぎる。ちょっと伺うような感じで、恥ずかしそうに言うの反則だと思いますにゃ。迅くんはカッコイイとこと同じくらい可愛いところがあるのがずるい。惚れた後も、付き合ったあともさらに惚れさせてくるのが迅くんの恐ろしいところだよね。沼だよもう。

 

 そんな迅くんの誘いにわたしはにやけながらベッドの中に潜り込む。えへへ、あったかーい。息を吸う度にする迅くんのいい匂いが最高だし、間近の迅くんの安心したような顔が本当に好きですごめんなさい。なんで謝ったんだろわたし(語彙力低下)。

 

 わたしはすりすりと迅くんに寄り添おうとしたら、なんとここで予想外のことが。

 

「…綺良々」

「ひゃぅ」

 

 迅くんの腕が伸びてわたしをギュッと抱きしめてきた!?

 

「じ、迅くん…」

「…ん、苦しくないか?」

「……て、天国昇りそう…」

「どっちにも答えられるやつやめて」

 

 とは言いつつも腕の力を緩めてくれる迅くん優しい。わたしの背中に回った迅の手がわたしの髪を触ってくる。

 

「迅くんわたしの髪すきだね」

「…うん」

 

 あ、まだちょっと眠いんだ。わたしの髪をさわさわしながらもまぶたが重いみたい。わたしはちょっと体の位置をモゾモゾして変えると、迅くんの頭を胸に抱き込んだ。いつも腕枕してもらってるから今度はわたしの番。

 

「…綺良々」

「なぁに?」

「……ありがとう」

「…ずーっと、こっちのセリフだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「……んぅ……!」

 

 右手に伝わる何やら柔らかい感触と、何かを我慢するような声で俺の意識は睡眠から浮き上がってきた。確か、綺良々のお言葉に甘えて彼女を抱き枕にして眠ったんだっけ。

 

 寝る前の記憶はうっすら残ってる。いつも腕枕する側だったから、逆はちょっと新鮮でよかった。隣で寝てるのは恐らく綺良々だろうし、ここはもう1回抱きしめておこうと腕に力を込める。

 

「…ん…、迅……どこ触ってるの…?」

「……え?」

 

 耳に届いた声が綺良々のものでは無いことに気がついた俺は、ゆっくりと視線を下の方…自分の布団の中に移す。

 

 俺の腕の中にすっぽりと収まり、こっちに背中を向けている金髪の少女が肩越しにこっちを振り向いている。その顔がほんのりと朱に染まっていて、彼女の体の前側に俺の右手が回されていた。

 

「………蛍…?」

「…んっ、……とりあえず…手…」

「……本当にごめんなさい」

 

 俺は蛍の衣装の胸元に突っ込まれていた手を引っこ抜いた。というか寝てる間になにしてんの俺。綺良々が蛍へすり変わってたことより自分の寝相に驚いた。

 

「迅が謝ることないよ。触らせたの私だし」

「いや何してんの?変態か」

「この前君に変態にされましたけど?」

「やめて」

 

 こいつ攻撃力高すぎだろ。……自業自得か。綺良々はどうしたのかと聞くと配達が溜まってるとかで狛荷屋へ行ったんだとか。それを伝えに来てワープで送り届けた蛍が綺良々とバトンタッチして俺の抱き枕になったそうな。

 

「……ところでパイモンは?」

「さっきまで一緒だったけど、私が迅の顔に色々してたら真っ赤になってどっか行っちゃった」

「いやほんとに何してんの?」

 

 よく見ると服も少し乱れてるような気がする。

 

 すすっと逃げようとする蛍を捕まえるように抱き寄せると、少し嬉しそうな顔をしてこっちを向いた。その顔ずりぃんよ。

 

「……で、なんの用だよ」

「ただの看病だけど?私も2日も寝っぱなしって聞いた時は心配したんだからね」

 

 そう言いながら蛍は俺のほっぺを摘んで引っ張る。それに謝りながら身体を起こし、外を見るともう暗かった。

 

「…いま何時だ?」

「21時くらい。……じゃ、私は行くね。パイモン探しに行かなきゃだし」

「……はいよ。看病ありがとうな」

「…いま、ちょっと寂しく思ったでしょ」

「そりゃな」

「…ぅ」

 

 ニヤニヤした蛍が頬を突っついてくるのが鬱陶しかったので、即座に肯定してやると、今度は逆に蛍の頬が朱に染まった。扉に手をかけた彼女が肩越しに振り向く。

 

「…ね。私、もう少ししたらフォンテーヌに行こうと思ってるんだ」

「ああ、スメールからそのまま北に行くのか」

「うん、ナタと迷ったけど。………迅は?」

「俺は……、まぁ用事がなくもないからな。向こうから呼び出しされるかもだし、きっと会えるよ」

「……そっか。……えへへ、…じゃあ、フォンテーヌで会った時はまた一緒に冒険しよ?」

「…ああ」

 

 蛍は俺の言葉に笑いながら頷くと手を振って部屋を出ていこうとして、もう一度振り返る。

 

「……どうした?」

「……また、あの日みたいなキス……してね?」

 

 あの日のキスと言えばひとつしかない。熱に浮かされたような表情で見てくる蛍に目を奪われた俺はゆっくりと頷く以外の行動が取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、何か申し開きはありますか?」

「…………いえ、ありません」

 

 蛍も帰ったことだしよーし改めて寝るかと思った直後、トビラがノックされた。誰だろうかと扉を開けたら、目が笑ってない顔の(甘雨)が佇んでいたので扉を閉めたんだけど。

 

 仙力が回復しきってない俺に勝てる訳もなく。普通に扉を押し上げて入ってきた甘雨と申鶴がベッドに正座している俺を腕を組んで見下している。

 

「全く、……本当に全くっ。……仙力を圧縮するなんて無茶をどうしてしたんですかっ」

「…いやぁ、返す言葉もないよ。ただ、理論的にはああした方が出力が…」

「それで死んだら本末転倒ですっ。……見ていて卒倒しそうになりました」

「…我は仙力のことはよくわからんが、無茶は良くないぞ。迅」

「面目次第もございません…」

 

 正座したまま項垂れた俺を見て、ため息を吐いた甘雨は懐から何かの包みを取り出した。差し出されたそれを受け取って中身を見ると錠剤がいくつか入っている。

 

「…これは?」

「留雲借風真君と不卜廬の店主さんが調合してくださった仙人用の薬です。仙力の回復速度をあげる効果があります。それを寝る前に飲んでください」

「…わかった、ありがとう。……で、こっちの薬はなんだ?色が違うけど」

「こちらは…留雲借風真君からの選別、だそうです」

「え、怖」

 

 嫌に目を引く赤い効果不明の錠剤を思わず窓から投げ捨てそうになるが、甘雨が慌てて止めて来る。

 

「…あまり嗅いだことの無い匂いだ。用心した方がいい」

「用心するもん送って来ないで欲しかったなぁ」

 

 鼻を寄せて匂いを嗅いだ申鶴が言ったセリフにこめかみを抑える。本当になんの効果なんだよ。

 

「甘雨は何か聞いてないのか?」

「特には…。ただ、この香りが仙獣の薬に似ているような気がします」

「仙獣の?」

 

 仙獣というのは、その名の通り仙人たちの獣の姿という意味だ。理水畳山真君や削月築陽真君のよく見る姿がまさにそれで、山で生活するには仙獣の姿の方が何かと便利らしい。魈様は戦うことが多いので人の姿が多いんだそうな。

 

「……って、言っても俺は仙人の血が薄いから仙獣にはなれないんだけどなぁ……あれ、甘雨って仙獣になれるのか?」

「ええ、一応なれますよ。今は璃月港で生活しているので山に入っても滅多になりませんが」

「姉君は確か麒麟だったはず。……すこし興味があるな」

「申鶴に同じく」

「…え、えぇっ?」

 

 話がだいぶ脱線するのを自覚しながらも、俄然興味が湧いてきた。麒麟だからふわふわもこもこなのかな?なにそれ超触りてぇ。

 

「こ、ここでですかっ?…ダメですっ!」

「えー。見たいのに」

「我も興味がある」

「だめったらダメですっ!」

 

 俺たちが頼み込むが甘雨は顔を赤くして身体を腕で隠して後退りする。そんなに恥ずかしいもんか?

 

 俺は申鶴と顔を見合わせる。

 

「…迅、姉君の反応を見たら、ますます気になってきたぞ」

「同感。このままじゃ気になって夜も寝れないぞ」

「そ、そんなにですかっ!?」

 

 甘雨はモジモジしながら「うぅ〜」と唸る。なんかあともう一押しで行けそうな雰囲気。悩んでいると、そこに申鶴が耳打ちをしてきた。内容が内容だけに俺もダメージを食らうが、甘雨の仙獣姿が見れるなら、これくらいは我慢してやろう。

 

「……ねぇ、どうしても?」

「…ぅ、…だ、だめです」

 

 縋るように聞いてみたらちょっと揺れた。俺は勝負を決めるべく、内心転げ回る俺を抑えて、「わがままを姉に懇願するかわいい弟」の顔を作った。

 

 ベッドに正座しているせいで立ってる甘雨からは上目遣いに見えるであろう角度も利用して、俺は精一杯の弟を演じた。

 

 

「甘雨姉……どうしても、……だめ、かな?」

「……っ!」

「迅、我にもっ、我にも言ってくれぬかっ?」

「申鶴はちょっと黙ってて」

 

 キラキラした顔で食いついてきた申鶴が俺の肩を揺らすが、それよりも甘雨だ。

 

 

 まるで稲妻の直撃を食らったような顔で固まった甘雨は、しばし俯くと、しょうがないなぁと言いたげな顔でため息を吐いた。

 

 

「……もう、仕方がないですね。……ええ、迅は弟…。躊躇うことなどありません」

「…え?…お、うん。ありがとう?」

 

 俺が弟だと何を躊躇う必要が無いのかさっぱりわからないけど、とりあえず生返事を返す。

 それが仇となった。

 

 甘雨はいきなり、胸元の紐を解いたのだ。

 

「えっ」

 

 甘雨の衣装の胴部分を覆う白い生地がまとめてすとんと床に落ちる。そん中そんなんになってたんすかと言いたくなるようなハイレグのインナーと黒タイツ姿になった甘雨に俺が声をかける前に、 頬を朱に染めた彼女は真剣な顔で手袋と腕の装飾を外すと首元の紐をしゅるりと解いた。

 

 首裏で固定されてた生地が解けたことにより、甘雨の上半身を隠す布がずり落ち、ギリギリのところで腕に抑えられる。

 

 そこまで呆然と眺めてしまってた俺はここでようやく思考が追いつき、なおも服を脱ごうとする甘雨に慌てて声をかける。

 

「甘雨さんっ!?何をしてるんですかァ!?」

「…む、敬称が着いてしまってますよ?それに敬語です」

「今そんなこと突っ込んでる場合っ!?……なんで脱いでんの!?」

「何故…と言われましても。服を着たままだと仙獣になれません」

「………あっ、…そりゃそうか……。って、なら大丈夫だから!別に見せなくてもっ」

「いいえ、私はもう迅から頼まれてしまいましたので。………べ、別に見ても良いですよ?……何せ迅は弟なので」

 

 なんなのその絶対な弟への信頼っ!?

 

 そんなことを言いながらも顔は赤い甘雨がストッキングに指を掛けて下ろし始めたので俺は回れ右をして後ろを向く。そんな俺に申鶴が追い打ちをかけてきた。

 

「……迅、お姉ちゃんの着替えは見る物だと、かの本に書いてあったぞ?」

「それ絶対全年齢じゃない奴だろ。……え、それ読んでたの?」

「読んでたも何も、姉君の部屋に大量にあったぞ」

 

 うっそだろ。なんでも俺や綺良々の関係を見て、甘雨も恋愛系の小説を読むようになったらしい。だからって年齢制限かかってるのは読まないで欲しかった。……例え対象年齢が100倍以上超えちゃっててもね。

 

「……お、終わりましたよ。…迅、見ても大丈夫です」

「…はい、ほんとに大丈夫……じゃないねェぇぇ!!?」

 

 振り返った俺は神速でそのまま一回転して後ろを見直す。こういう時の仙人の視力が本当に厄介だ。何故か鐘の首飾りだけ付けた、胸と下を手で隠した裸の甘雨が見えた気がしたけど気にしないことにする。

 

「……で、では、行きますよ……えいっ」

 

 後ろを向きながらも顔を覆っていた俺の耳に、ぽんっと軽い音が届いた。恐る恐る振り返ると、そこには水色の毛玉がいたのだ。

 

「……きゅるっ」

「お、おおおお」

「これは…」

 

 想像よりも大きい。甘雨の仙獣姿をみて、最初に感じたことはそれだった。跨がれそうな位のサイズにアップした、2本の角が特徴の仙獣甘雨はふるふると鼻を鳴らすと俺に擦り寄ってくる。

 

「わ、ふわふわ」

『ふふ、いかがですか?』

「干したての羽毛布団のような手触りだな」

 

 手で触れてみると、軽い触感のふわふわの毛がとても気持ちいい。水色の体毛はきめ細かく、モコモコしてるのに指が一切引っかからない。

 

「……抱きしめてもいいか?」

『ええ、どうぞ』

 

 意を決して首周りに抱きついてみるともう天国。ふわふわで暖かいからこのまま寝てしまいそうだ。この姿だと口からは鳴き声がしか出ないようで、体の奥から響くように彼女の声が聞こえてくる。

 

「きゅる、きゅる〜」

『…久しぶりにこちらの姿になりましたね…』

「姉君の鳴き声…新鮮だ」

『は、恥ずかしいので感想はやめてくださいっ。……迅、貴方が良ければ、今夜はこのまま寝ますか?』

「え、いいの?」

『はい。まさかこんなに喜んで貰えるとは思いませんでしたし。もう夜も遅いので』

 

 仙獣甘雨はのしのしとペットに登るとゴロンと横になった。体を伸ばすと俺より少し大きいくらいのサイズ感でこのまま寝たら気持ちよさそうだ。申鶴を見るともとより戻る気はなさそうだ。ベッドは大きいから3人で川の字でも狭くは無いだろう。

 

 よくよく考えたら甘雨と申鶴と一緒に寝るっていうなかなかアウトな状況だけど、申鶴は甘雨を挟んで反対側だし、甘雨はモコモコだしでなんかもう気にする気も起きなくなって来た。まだ仙力が回復しきってないので眠くもなってきたしで、俺は導かれるままにベッドに潜り込む。

 

「……迅、薬はどうする?飲むか?」

「うん、せっかく貰ったし、こっちの赤いやつも飲むか。流石に悪い効果のやつはないだろうし」

 

 俺は備え付けの水で薬を2錠飲み込んだ。片方の仙力の回復促進は本物のようで、一気にまぶたが重くなる。

 

 ベッドに入って、甘雨を枕に目を閉じる。ふわふわモコモコに包まれながら、俺はすぐに眠りに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 マジで昨日の俺殴りたい。

 

 ちょっと考えれば想像できましたよね?

 

 

 目が覚めた俺は、隣で寝息を立てる真っ裸の甘雨に布団をかける。そりゃそうだよ。寝ても仙獣のままなんて保証どこにもねぇじゃんか。

 

 気がついたら何故か申鶴が俺の隣に移動してるし、窒息するかと思った。

 

 俺は苦労して申鶴の下から這い出すと、寝ぼけ眼で立ち上がる。顔を洗おうと1歩踏み出したところで、脚が出ずに転びそうになった。

 

 …んぅ?なんなんだ?……つか、申鶴の下から出たのに胸がなんか重いんだけど。

 

 俺は肩と耳にかかる(・・・・・・)自分の髪を払う。で、なんで足が動かないのん?俺は視線を下に移動させた。

 

「…って、ズボン脱げてんじゃ………ぇ?」

 

 え、誰この声?……俺の声?……え、…誰の声(混乱)。つかなんでズボン脱げてんの?

 

 起き抜けから意味がわからないことが多すぎて頭が回らない。というか、まずそもそも足元が凄く見えにくいんだけど。俺の視界に映る邪魔してんのなんだこれ。俺は手を呼ばしてよかそうとしてみる。

 

 むにゅ。

 

 ………おん?

 

 俺の掌にとんでもなく柔らかい感触が伝わると同時になんかぴりっと変な感じだ。そして俺の胸に手が触れる感触。………つまり、俺の胸ってことだ。

 

 ………?

 

 ダメだ、理解ができん。

 

 膨れた胸はとりあえず置いといて、なんか視点が低くなった気がする。上に来てた服もブカブカで袖が余ってるし、ズボンが落ちて下着姿になってる下半身を見ると、なんか妙に体のライン丸みを帯びてるような気もする。

 

 俺は襟を引っ張り中身を見てみる。……うん、おっぱいだ。結構でかい…めっちゃ形綺麗だし…うん………おん……?

 

 それに、明らかに髪が長くなってる。頭を降るとサラサラとした俺の紺色の髪が視界に映りまくる。ひと房とって見ると背中くらいまで伸びていた。

 

「……ぇ、……えっ……えぇ……??」

 

 理解後追いつかなくて漏れ出る声も可愛らしいソプラノ。シャツの裾を捲ってみる。くびれほっそ。……えっ、えええっ?

 

 俺は最後の砦の下着を見る。……これがなかったらもう決定的だ。俺はずり落ちたズボンから足を抜くと、意を決して男物のパンツを下げる。

 

 

「………な……なぃ……………」

 

 

 顕になったところには、……あるべきものが無かった。俺は恐る恐る、怖くて見れなかった立ち鏡の前に歩いていく。

 

 もう、正直答えは出てる。出てるんだけどそれを受け入れられない。

 

 俺は、鏡の中の「美少女」を呆然と眺める。当然ながら鏡の中の彼女も呆然と俺のことを見てきていた。

 

 背中まである艶やかな紺色の髪。空色の大きな瞳はぱっちりとしていて、その下のずっと通った小ぶりな鼻に桜色の唇。その下の男物の服を押し上げる大きめな膨らみに、折れそうなくびれ、そしてサイズがもろ違う男物のボクサーパンツが落ちないくらいにボリュームがある腰とお尻。下着なせいで剥き出しの脚にはシミひとつなく、肉感も細すぎず太過ぎずな絶妙の美脚。

 

 一言で言うと、絶世の美少女がそこにいた。

 

「………う、………うそ、………だろ?」

 

 そして声も完全に可愛らしい女の子の声に変わってしまっている。

 

 そして、現実を理解した俺は、もう叫ぶしか無かった。

 

 

「……ぎゃああああああああああ!!!??」

「…ッ!敵襲かっ!?」

「迅っ、どうし……なんで私裸なんですかぁ!?」

 

 俺の声に2人も飛び起きた。自分の格好に気がついたら甘雨は真っ赤になって服を着るのを尻目に、ベッドから降りた申鶴が俺に視線を向けている。

 

「……そなたは誰だ?」

「し、……しんかく……」

「誰だと聞いている。……なぜ我の名を…」

「お、俺だよ俺っ!……迅だよっ!」

「……迅……?……何をとぼけたことを」

 

 迅だと言い張る俺を、申鶴は上から下へと見回して、首を傾げた。そらそうだよねっ!

 

 続いて着替え終わった甘雨も俺も見て目をぱちくりとさせる。

 

「………えぇ、っと………どちら様ですか?」

「甘雨っ、俺だってばぁ!」

「……俺…?………っ、その仙力は……え、…ええええっ?」

「……本当に、迅なのか…?」

 

 目の前の女の子が俺だと気がついたら2人は目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きたら、女の子になってたんだけど。………どうすればいいんでしょうか?

 

 

 

 

 

 続く。

 






 次回、くっそ可愛くなった迅ちゃんが周りの脳を破壊する話

女体化迅くん

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