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あの後、瑞希を宥めるのに少し時間がかかった。
俺、別に治ったなんて言ってないんだけどなぁ……。ただ瑞希は少し落ち込んでしまった。ちょっと申し訳ない。
先程彼女に見せてしまった悪夢は本当に見たやつ。というか、常日頃見てるやつ。慣れってすごいね。悲しきかな、俺の自意識を形成した元でもあるんだよね、これが。
で、なんでこれを放置してるのかって言うと、理由は1つあって。……話したら周りがドン引きするから誰にも言ってないんだけど。
たださ、アレあると何時でも羅刹心(殺意むき出すやつ)が使えるんですよ(アホ)。俺が習った戦闘術は特に「意念」が大切になっていくんだけど、その中で威嚇や牽制、フェイントにまで役に立つ「殺気」って呼ばれるのを手っ取り早く出せる。
感覚で言うとムカつくことを覚えておいて、その時に思い出してムカムカを引き出す的な?
実際、今更あんなん見ても慣れすぎてなんも感じない。同じ話を数千回数万回見ちゃうともう飽きてくるじゃん?それと一緒一緒。これ見て起きたあとも隣に寝てるみんなを抱きしめるだけで回復するし。
だからなんで平気かと言われても、慣れたとしか言えないのよね。
瑞希には本当に申し訳ないことをした。……反応からして、アレは初めて見たやつっぽいし…綾華に見せたやつはもっとマシなヤツか。よかったぁ。
俺は苦虫をかみ潰したような顔をして部屋に戻った。中で座ってた綾華が立ち上がって駆け寄ってくる。
「随分お時間がかかっていましたが……なにかありましたか?」
「ちょっと給仕の人と話してただけ。……綾華、ありがとうな」
「………はい…。…そういえば、途中で瑞希さんにお会いしませんでしたか?彼女も兄さんの事を心配してたので……」
「あー、うん。診てもらったよ。今はもう大丈夫みたいだ」
「そうですか……よかったです」
とりあえず、俺の悪夢を見た話には触れないことにしておいた。まぁ気になるけどね?どこまだ知ってるのとか、綺良々たちは知ってんのとか聞きたいことはあるけど、触れない方が安全だと判断した。
俺は落ち着いて部屋を見る。あのころはこうしてゆっくりしたことなんて無かったから。
「……なんか、いいな。こういうのも」
「だろう?」
兄さんは足を伸ばして座ってる俺の頭をポンポンと優しく撫でる。いつも撫でられる側だから、こういうのむず痒いな。
神里でリラックス出来るった何年ぶりか。そうして兄妹とトーマとゆっくり話していると、時刻は夕方に。
「……そろそろいい時間かな?……俺、一度洞天に……」
「…っ、お、お待ちくださいっ!」
「あ、綾華?」
洞天に人が集まってるのはわかってたから、気になってたんだけど、綾華が慌てた様子で立ち上がった。どうしたん?
「……も、もう少しゆっくりされては…」
「んー、でももうすぐ5時だし、夕飯の準備しないと…」
「……それならっ、今日は綺良々さんたちが作ると言ってましたよっ」
「え、そうなの?」
「そうなんですっ」
なんか今日の綾華は一生懸命だな、可愛い。
思わず頭を撫でると顔を赤くしながら俯く。じゃあお言葉に甘えて、もう少し団欒を楽しむとしますかね。
そして1時間後。俺は神里屋敷を出た。皆は泊まっていけばいいのにと言ってくれたが、平身低頭な従者達の前でやっぱり落ち着かなかったのが大体の理由。あんなになるって綾華は一体どんな説明したんだ?
でもまぁ、とりあえず洞天には顔を出そう。さっきまで結構出入りが激しかったけど、今は落ち着いている。みんな中にいるってことかな?
家に着くと、珍しくばぁちゃんもいなかった。首を傾げながら洞天に入る。
「………ん?」
暗い。
洞天に入るといつもは明かりが付いていて外まで談笑の声が聞こえてくるのに、中は真っ暗では物音ひとつしない。するとなると、中には誰も居ないってことか?……でも綾華は綺良々達で夕飯の準備をすると言っていた。
「………」
俺は無言で仙力を纏う。この洞天に外部から人が入れるというわけでないが、通行証を使ってるところを後ろから襲われれば話は別。
俺は霧切をゆっくりと鞘から抜く。そのまま玄関を開けると、中は暗闇で、物音ひとつしない。
しかし、中から何者かの気配がする。それも多数。
「………っ」
一体何が。
そう考える前に、俺は中の敵を殲滅することに脳のスイッチを入れ替えた。
身構えていると、闇の中の気配がこっちに近づいてきた。俺はそのまま踏み込んで、霧切を…!
その瞬間、明かりが着いた。
「………へ?」
「じ、迅くん?」
綺良々が俺を見てぱちくりと目を見開いている。ど、どういうこと?
俺が仙力を解くと、後ろからパンパンッ!と火薬が響いた。
呆然としてる俺の髪に、飛んできた紙吹雪が乗っかる。周りを見ると、綺良々の他にさっき別れた綾華や兄さん、トーマに宵宮やエウルア、刻晴、甘雨や申鶴にばあちゃんが立っている。
そしてクラッカーを食らって固まってる俺に、みんなで声を合わせて。
『迅、誕生日おめでとう!!』
……えっ?
突然の展開すぎて、全く反応を返せない。……え、誕生日?……だれの?
「…………ぇ、……俺……?」
「そうだよ迅くんっ、…忘れてたの?」
忘れてた。めっちゃ忘れてたというか意識してなかった。俺はとりあえず構えてた霧切を納刀する。
「……び、びっくりした……。……もしかして、今日はみんなが考えてくれたのか?」
もしかして、影さんも?と奥を見ると、奥からひょこっと顔を出した。あなたもですか。いたずらが成功したような顔で微笑んで、エウルア作のプリンを食べてる。
俺が驚きで立ち尽くしていると、手をそれぞれ宵宮と綾華に取られた。
「兄さん、お席に座りましょう?」
「ご馳走もぎょうさんあるで!」
「あ、ああ…」
2人に引かれて席に座らせられると、隣に座った刻晴とエウルアがお酒を注いでくれた。
「……え、えっと」
「その様子だと、まだ飲み込めてないみたいね」
「凝光に聞いといて正解だったわ。…私たちの誕生日はお祝い欠かさないのに、自分だけおざなりなんだから」
「…え、なんで凝光さんは俺の誕生日知ってるの?」
正確には誕生日じゃなくて、俺が拾われた日なんだけど。
すると、今度は後ろから甘雨と申鶴、兄さんがやってきた。なんか兄姉でいつの間にか仲良くなってる3人にぱちくりと瞬きしてると、優しく俺を見て微笑む。
「迅、お誕生日おめでとうございます。…凝光様に昨日迅の誕生日を聞いて、私たちで急いで準備したんです」
「どうだ、驚いたか?」
「…うん、びっくりしたよ」
まさかこんな盛大な誕生日会を開いてくれるなんて。もう一度周りを見渡すと、目が合った皆が笑顔を返してくれる。
そこに、綺良々が駆け寄ってきた。
「迅くんっ、全員に飲み物が回ったから、乾杯の音頭とって?」
「…お、おう」
俺は注いでもらったグラスをもって立ち上がった。席に着いたそれぞれの顔と、反対の上座に座った影さんと目が合う。
「……え、っと……、その、まだちょっと状況が飲み込めてないんだけど、……ひとまず、誕生日会を開いてくれて本当にありがとう。こんな、みんなに祝ってもらうっていうのが初めてだから、どういう顔をして話せばわからないけど……。とにかく、今年1年……またよろしくお願いしますっ!……………乾杯っ!」
『乾杯っ!!』
みんなの声が邸宅に響き、そのままどんちゃん騒ぎに移行する。
酒を飲み干しひと息ついて席に座ると、両側から刻晴とエウルアがおかわりを注いできた。ありがたく貰って口をつけながら周りを見る。
「料理はみんなで用意してくれたのか?」
「ええ、大体は私とあなたのおばあさんよ。みんな貴方の好きなやつでしょ?」
「ああ、助かるよ。…ばあちゃんのもだけど、エウルアのが一番好きなんだ」
「…そ、そう…」
あ、エウルア顔真っ赤。その横で「私も海鮮の食材を用意したのよっ?」とアピールする刻晴に癒されながら料理を頂く。俺の好きな稲妻料理とモンド料理、璃月料理がひしめいてるから和洋折衷がすごい。すこし食べたらみんなに挨拶に行こうかな。
俺は食事もそこそこに席から立ち、最初に綾華や宵宮の所へ。
「兄さん、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとさん!」
「おう、ありがとうな。…もしかして結構前から画策してたのか?」
「せやで。各国の皆に共有して、影さんと綾華ちゃんに迅を外に連れ出しとる間にみんなで準備したんや」
「……やっぱり影さんもグルか…」
影さんの方をチラっと見るとお酒を飲みながら微笑んでいた。そういうことですかい。
綾華は心配そうな顔で俺の顔を見上げてくる。
「……兄さん、本日は…いかがでしたでしょうか…?」
「……ああ、すっごい助かったよ。…神里を俺のために再編成してくれたんだろ?」
「…はい。兄さんは今、神里の人間です。それですのに実家に帰る度に気を遣わせては行けないと思いまして……」
「はは、大抵の事は瑞希に聞いたよ。……宵宮も、準備ありがとな。さっきの手花火も宵宮作だろ?」
「おっ、ようわかったなぁっ。今度出るうちの新作や!」
2人にお礼を行って、次に影さんの所へ。最近ちょこちょこここに来るようになって、よくエウルアのスイーツを食べてるイメージ。今食べてるプリン何個目なんスか?
「ふふ、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。……まさか昼間の将軍が企んだものとは…」
「……実は少し違うんです。元々、私が貴方を迎えに行こうと思っていたのですが…、将軍が自分が行くと聞かなくて…」
「な、なるほど」
確かに将軍、結構いじけてたしなぁ。影さんはくすりと微笑むと、胸に手を当てて提案をしてくる。
「誕生日にはやはり贈り物ですね。…皆さんはそれぞれ用意したらしいですが、私からは…」
「え、霧切がどうかしましたか?」
影さんは立ち上がると、俺を手を引いて外に連れ出す。途中で綺良々とかに見られて口をポカンと開けられた。あ、逢い引きとかじゃないからな?
「先日、貴方の仙力が強化されましたね?……ですので霧切を調整しようと思います」
「…おっ、本当ですかっ」
「はい。それでは、私に近づいてください。…あ、霧切はまだ抜かなくていいですよ」
「え、でも抜かないと……影さんっ?」
邸宅の外に出てそのまま裏手に回ったところで、俺は影さんにいきなり抱き着かれた。影さんはそのまま俺の首筋に顔を埋め、脇の下を通してぎゅっと抱きしめてくる。
「…あ、あの?」
「……将軍ばかり、ずるいです」
「それと逆のことを昼間言われた気がするんですが」
「……将軍と、接吻してましたね?……私より深く」
「…ま、まさか……?」
影さんは肩を押して俺に座らせると、そのまま脚の上に跨るようにして乗ってくる。身長差が逆転して少し見上げる場所にある影さんは頬を種に染めながら俺の頬を何かをねだるように撫でた。
「……将軍に出来なかったことを、私にしてください…。その後で霧切を調整しますので」
「で、ですが…」
「ふふっ、早くしないと貴方が居ないことを気がついた綺良々さんたちが探しに来ますよ?」
「……もう」
俺的にはもうこれが誕生日プレゼントです。小さい舌を「れっ」って出して待ってる影さんが本当に目の毒だ。
俺は影さんの腰を抱き寄せた。後頭部を支えて逃げられないようにすると、そのまま出されてる舌を包み込むようにしてキスをする。
「…んぅ……ん…」
影さんは舌を舌で擦られるという感触に腰が動いていた。そのまま腰に回した腕に力を入れて自分の身体に押し付けながら舌を絡める。
「……ん、…ちゅ、……んっ…ぁ…ん」
俺は神様になんてことしてんの(今更)。
ただ、こう……、みんなの喧騒が聞こえてくる中、外に出てこういうことをしてるのにちょっと背徳感が湧いて出てくる。そんな状況にしてくれた目の前の神様にちょっと八つ当たりするように、俺は舌の動きをさらに激しくした。
「……んちゅ、…ん、…ぁう…っ?……ぁ、んっ…じゅ……ちゅ…!」
腕の中の影さんの力が抜けてきたところで唇を離すと、影さんが見たことない顔で惚けていた。熱に浮かされた顔で、荒い息を吐きながら舌を出したままで俺を見つめている。
「……はい、これでいいですか?」
「……っ、…は、……はい…」
「自分から誘っといて……」
「……は、初めての体験です…」
ふにゃふにゃになった影さんは大変可愛らしかった。少し待って彼女が落ち着いたら霧切の調整をしてもらう。
「……あの」
「なんですか?」
「いくら元素と仙力を同時に送る必要があるからってそんなにくっつきますか?」
「……言わなければわかりませんか?」
「いえっ、大丈夫ですっ」
影さんははにかみながら繋いだ俺の手をにぎにぎする。仙力送るのに集中する必要があるんだからそういうことしないで貰えますぅ!?
程なくして霧切の調整、もとい強化が終わった。さらに澄んだ漆黒の刀身が少し重みを増した様な気がする。最近軽すぎて手応えなかったから、こういう感じの方が好みなんだ。
「…ありがとうございます。……そういえば、神里の方でもお世話になったとか」
「ええ。私も過去の神里家については個人的に調べていましたから。綾華さんが相談に来た時は僥倖でした」
影さんは、優しく俺の頬を撫でた。
「………申し訳ありません。…私が一心浄土の中にいなければ、もっと早く…」
「…いえ、影さんが謝ることじゃないですよ。…でもお気遣いありがとうございます。……えっとその、影さんは俺の過去をどこまで……」
「……つい先程、瑞希から見せられました」
「……マジですか」
ということは、昼間の酷い方を見たってことだ。冷や汗が流れる俺を影さんは憂いを含んだ顔で見ている。彼女にそんな顔をさせたくない俺は、笑顔を作った。
「…今はもう大丈夫です。あの悪夢だって今は有効活用してますから」
「……有効活用?」
「はい、あそこから殺気を練り上げられるのでむしろ見れなくなるとちょっと困るくらいです」
俺がそう言うと、ぽかんとした影さんは可笑しそうに笑った。
「…あなたはもう……本当に…、どうしようもないくらいに……私の好みの殿方ですね」
「…あ、ありがとうございます…?」
これの破壊力が強すぎて顔が熱くなった。その熱を誤魔化すようにそっぼを向いて話題を変える。
「…そういえば瑞希はどちらに?後で顔を出そうとしてたんですが」
「今は神子のところにいますよ。貴方のことを心配していました」
「そりゃそうですよね。…後で謝りに行かないと」
「ええ。……ですが今夜は、目一杯楽しんでくださいね」
「……はい」
俺は影さんと頷き合い、洞天に戻ろうとしたその時。
洞天の入口が光った。
「…ん、来客かな」
「ですが、通行証を持っている人は全員ここにいるのでは?」
「……っと、たしかあと一人に渡してるんですよ。………ってことは」
俺が通行証を渡した人がフォンテーヌに1人だけいる。
光が収まると、予想通りの人物が帽子を抑えながらきょろきょろと辺りを見回していた。
その人物は、俺を見るなりあっと声をあげる。会うのは3ヶ月ぶりくらいかな?
「迅っ!」
「ナヴィア?」
突然の来訪者にして、フォンテーヌの自警団
「久しぶり。何かあったのか?」
「うんっ、今日の昼間に例の事件に進展があったの」
「えっ、本当かっ?」
確か、原始胎海の水の危険性が広まってから被害がピタリと止まったはず。俺が聞き返すとナヴィアは頷く。
「うん、そのことを伝えに来たんだけど……騒がしいけど中でなにかやってるの?…それとそっちの人は?」
「ああ、今中で俺の誕生日会をみんなが開いてくれててさ。……で、こっちのお方は雷神です」
「へぇ、今日誕生日なの……えっ……ら、雷神ッ!?」
あ、威力が違う情報を同時で出したからナヴィアが混乱してる。一気に背筋が伸びたナヴィアに影さんは微笑んでそんなに畏まらないでくださいと声をかけてる。
「……じゃあ、俺はどうすればいい?まだ詳細も聞いてないけど……ナヴィアは夕飯食べた?
「……まだだけど……もしかして中で話すっこと?…お誕生日会の最中でしょ?邪魔する訳には…」
「もし応援って事になったらどの道みんなに話さないと行けないし。……この時間に来たってことは結構まずい状態なんだろ?」
「……相変わらず鋭いね…」
じゃ、少しお邪魔しよっかなとナヴィアが頷いたところで邸宅の扉が開いた。中から膨れっ顔の綺良々が出てくる。
「もー、影さんとふたりで何してたの…って、あれ…ナヴィアさん?」
「…綺良々ちゃん!……久しぶりねっ!」
「もごぉっ!?」
そういや前あった時もそんなんだったな。綺良々を見るなり飛びついたナヴィアの胸に顔が埋まり、綺良々がもごついた声をあげる。その声に他の面々もこっちに近づいてきた。……違うからね?ナヴィアは違うからね?そんな「また新しい女…!?」みたいな顔して来ないで欲しい。
「……ってわけ」
「……なるほど、大体はわかった」
そしてみんなにナヴィアの紹介を済ませて、ソファに座らせた彼女から事のあらましを聞いた。
リネとリネットという双子のマジシャンが開いたショーで死人が出る事故が起こった。確か壁炉の家の子達だったっけ。その子たちとナヴィアも友達でショーを見に来てたところ、事件が起きて丁度その場に居た蛍と調査を開始。
紆余曲折あって、犯人は連続少女失踪事件の次のターゲットの少女をマジックショーの舞台まで上がらせ事故を装って殺害しようとしたところ、その少女からモンド生まれのスリの少女がチケットを盗み取り、ショーに参加。
裏手で殺害を企てた犯人と格闘し勝利したスリの少女が犯人を事故に装って水檻を落として破壊する予定だったボックスに押し込めたと。
その事実が蛍やナヴィアの捜査によって判明し、犯人達が殺害ついでにその罪を
しかし、その証人は舞台の上で急に溶けて水になってしまった。
その出来事で現在フォンテーヌの国中が騒ぎになっているそうだ。
ひとまず、これで失踪事件の犯人も原始胎海の水を使っていることが判明した。まだそのまま連れ去ったのか、その場でかけて溶かしたのかはわからないが
「そういえば蛍は?」
「さっき審判の祝勝会?的なのをやって、今は休んでると思うよ。なんでもフリーナ様に会いたいらしくって。明日歌劇場を尋ねてみるって」
「そっか。……で、俺はどうすればいい?…聞いた感じ俺もそっちに行った方がいいかなって思うけど」
どの道、蛍もこの審判で相手側に顔が割れた可能性が高い。ここは俺が加わった方がいいだろう。俺の提案にナヴィアはチラリと綺良々達を見た後に小さく頷いた。
「…うん、頼めないかな?」
「もちろん行くさ。…明日にでもフォンテーヌに向かうよ」
そう答えた俺は、みんなの方を見た。当然、みんなは少し心配そうな顔で俺を見てる。俺はそれに笑顔を返した。
「……というわけだから、今日は目一杯楽しまなきゃな」
「……うんっ、そうだねっ!」
綺良々は俺の意図を汲んでくれたらしい。一瞬だけ不安な顔をしたけど、すぐに笑顔をもどった。
その後は戻っていくナヴィアをも見送り、誕生日会を楽しむ。
料理も酒も美味かったし、みんなからそれぞれプレゼントも貰った。なんならその後誰のがいちばん嬉しかった発表させられたし。
ちなみに個人的1位は甘雨から貰った仙力で作った麒麟のお守り。手触りが最高すぎたんだけど、これ何でできてるんだ?そう甘雨に聞いたら顔を赤くしてしーってされた。ほんまになに!?
そして1位を掻っ攫っていった甘雨に彼女ーずからのジト目が刺さるのでした。
「………ん…?」
そうしてどんちゃん騒ぎが幕を閉じて、いつもの5人と一緒にでかい布団で寝てたんだけど。
夜中に急に目が覚めた俺はむくりと起き上がる。手が抜けない上になんか柔らかいのでそっちを見ると、エウルアのキャミソールの中に入ってる上にそれを抱きしめられてた。俺の寝相は悪くないはずなので多分向こうが自らやったな?
手を動かしてエウルアを起こし、「……ふふ、…どこ触ってるの…?」とか言ってたので俺はそのまま唇を奪ってもう一度寝かせた。15分もかかったんけど……。苦労して手を抜いた俺は部屋を出る。寝室にいなかった1人を探して庭に出ると、やっぱりいた。
「……あ、迅くん」
「起きちゃったのか?」
「……うん」
きららは外に置いてある長椅子に座って脚をパタパタさせていた。俺を見るなりにっこり笑う綺良々の隣に俺も腰掛ける。
「……明日からまたフォンテーヌだね」
「ああ。すぐ終わらせてさっさと帰ってくるよ」
「んふふ、…うんっ」
綺良々はいつものように俺に抱きつき。ジト目を向けてくる。
「エウルアちゃんの匂いが凄いするんだけど」
「…部屋を出る前にちょっとね」
「……ん」
綺良々は、もう話さないとばかりにギューッと抱きついてくる。その様子がいつもと違う気がした俺は、頭を撫でながら尋ねてみた。
「……どうした?」
「……さっき、ナヴィアさんの話を聞いてたら……ちょっと怖くなっちゃった。…もし迅くんがあの水を被っちゃったらって考えたら…」
「確か、フォンテーヌ人しか効かないって話だけど」
「それでもっ。……大丈夫、なんだよね?……迅くんは強いから大丈夫だと思うけど……やっぱり危ない目にあって欲しくないよ」
「……ああ。そりゃあ俺もだよ」
綺良々は俺の頬にすりすりしてくる。それを優しく撫でながら、綺良々の体温を感じた。
「……明日はどうやって行くの?」
「普通にこの脚で行こうと思うよ。本気で飛べば1日かからないだろうし」
「…ふふっ、ほんとにすごいね、迅くんは。………気をつけてね?わたしも配達でフォンテーヌに行ったら絶対会いに行くから」
「ああ、俺もできるだけ洞天に帰るようにするよ」
「うんっ」
俺と綺良々はそのまま明るくなるまで、ずっとくっついていた。
── 蒼夜叉受難ノ章 3幕.完。
4幕に続く。
やっとフォンテーヌ編に入れる…………!
蒼夜叉受難ノ章 4幕 「正義を覆う曇天を」乞うご期待!!!