「……んんーっ…」
くそかわ。
お昼寝をしてた綺良々が起き上がり、人の姿のまま猫みたいに伸びをしている所を見て、俺は内心叫んだ。
綺良々お気に入り魚のぬいぐるみが置かれた猫型の丸ソファから起き上がった彼女は、ふわぁ〜とこれまた可愛らしい欠伸をしながら、辺りを見回し俺を見つける。するとふにゃっと表情を崩しながら、そのままハイハイして俺の脚に顔を擦り付ける。
あ、これ自分が猫の姿と勘違いしてるな。たまにあるんだよこれ。
「綺良々、今人の姿だぞ?」と教えてあげたいところだけど、寝ぼけて勘違いして俺の膝に頭突きしてる綺良々が可愛すぎる。
「…にゃーん」
「……」
はぁ、まじで死ぬ。可愛いの過剰摂取で死に至るよこれェ!
思わず手を伸ばして頭を撫でる。綺良々はすりすりとほっぺを擦り付けたあとに俺の手の甲をぺろっと舐めた。猫の姿だと普通のことなのに女の子がやってると考えるとものすごい絵面だ。
綺良々はそのまま俺の膝の上に寄って丸まろうとしたところで、ようやく自分のサイズが猫ではないことに気がついた。ぱちくりと瞬きをして、自分の身体を見下ろす。
そして、みるみる顔が赤くなった。
「……ぁ、…ぇ?………じ、迅くん……」
「……あーもう、本当に可愛いなぁうちの猫は」
綺良々は両手で顔を覆い、声にならない声を上げて俺に寄りかかってきた。
「……うぅ、見ないでぇ…」
「あははっ、猫と勘違いしてたのか?」
よほど恥ずかしかったのか、覆った手から覗く耳が真っ赤だ。俺は綺良々の頭をぐりぐり撫で回しながら微笑む。
「……猫の時の夢みてて…、寝ぼけて勘違いしちゃったみたい。…はずかしいよぉ」
「どうもご馳走様でした」
「ど、どういう意味っ」
もういいもんっ、と綺良々は猫の時みたいに俺の膝の上でゴロゴロ転がる。それが可愛くて思わず手を伸ばすと、目を細めてそれを受け入れる。
「…迅くん」
「どうした?」
「……えへへ」
ふにゃふにゃの綺良々は、そのまま俺の膝の上に乗り辛抱たまらんとばかりに抱きついてくる。綺良々のひだまりの様な暖かい香りが鼻を叩き、ゴロゴロとなる喉の音が耳元で聞こえた。
「綺良々のそのごろごろ、落ち着くなぁ」
「…ふふ〜ん、…そお?」
「なんか大きい猫抱いてるみたいで良い」
「女の子みは感じてくれないの?」
「もちろん感じてるよ。…俺の鼓動聞こえてるだろ?」
「……迅くん、まだ私とくっつく時ドキドキしてるんだぁ……」
「当たり前だろ」
自分の好みど真ん中で、めちゃくちゃ可愛いくて、俺のこと好きな女の子が膝の上に向かい合わせで乗って抱きついてくるんだぞ?それにちゃんと女の子の部分が色々と俺に当たってますし。
「……そういう綺良々はどうなんだよ?」
「…確かめてみる?」
「あ、この流れは……忘れてた…」
「んっ…、えへへ…油断してたでしょ」
そういやこの件に覚えがあるなって思った時にはもう遅く、綺良々に取られた俺の右手が綺良々の心臓の上…つまり左胸に堂々着弾、指がめり込んでいた。
「……ぁー、確かに綺良々もドキドキしてる」
「…ぅ、ん…、さりげなく揉まないで?…迅くんのえっち」
「自分からしておいてそれ?」
すまん手が勝手に(馬鹿)。胸から手を離そうとするけど、綺良々が抑えてて離れない。
「……えっちなのはどっちだよ」
「…………わたし」
「自覚あるんかい」
綺良々は、自分で手を動かしながら俺に流し目を向ける。普段元気で人懐っこい子がそういう顔するのが最高にずるいですありがとうございます。
「…でも、迅くんのせいだからね?迅くんが魅力的すぎるから、止まらなくなっちゃったんだよ?」
「…それみんなから言われるんだけど、実感ないんだよなぁ」
「…だって、今日なんか朝早くお仕事に行く刻晴さんとエウルアちゃんにそれぞれ違う朝ごはん作ってあげてたじゃん。…昨日迅くんが帰ってきたの2人が寝たあとなのに」
「寝たあとだから、サプライズで朝ごはん作れたんだよ」
なんか2人が次の日の仕事ダルそうだったって帰りがけの綾華から聞いたから、ちょっと仕込んでたんだよね。だから次の日の朝に刻晴はエビたっぷりの海鮮粥、エウルアには超煮込んだクラムチャウダーを出してみたら出発2分前まで俺から離れない事件が発生した。
「だって、迅くん料理作ってたの2時とか3時だったじゃん。……それで、今日も配達だったんでしょ?……2人には休みって嘘ついて。…そういう所だよわたしたちが君を大好きところ」
「……昨日は綺良々も手伝ってくれたもな。ありがとう」
「ふにゃ……って、ちがーう!……もう、迅くんもちゃんと休んでね?」
頭なでなでで気を逸らそうとしたけど失敗した。…まぁ言いたいことはわかるんだけど、やっぱり俺としてはみんなの喜ぶ顔が見たいわけなんですよ。
「……迅くん」
「……なんだ?」
「……大好き」
「俺も大好きだよ」
「……えぅ……、迅くんの大好き…反則」
こんな会話してる最中も未だに離れてない俺の右手から伝わる鼓動がさらに少し速まった。
俺はもう片方の手で綺良々を優しく抱きしめる。まるで寝てる猫を撫でるような優しい手つきで撫でてあげると、手に伝わる鼓動がゆっくりになってきた。
「……迅くんの方からがぎゅうしてくるのも反則…!」
「いつも、やろうとする前に綺良々が抱きついてくるからできてないだけなんだけどな」
「……んふ、…気持ちいいよぉ…。……もっとして?」
「どっちの手のことを言ってる?」
俺の問に、綺良々は黙り込む。すると、自分の頭を撫でていた手をとり、今度は自分の後ろ際の下の方へ。尻尾の付け根をとんとん叩いてみると綺良々の腰が反った。
「…っ、……ぅ、……ん、…こっちも」
「……やっぱり綺良々ってさ…」
「……にゃぁん」
俺の視線に対して、綺良々は猫の振りをしながらそっぽを向いた。