職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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 衝動的に書いた、迅くんが女の子だった世界線のテイワットに迅くんが行っちゃった話。

 女の子迅くん、もとい蒼ちゃんの見た目は本編で女体化した時の姿まんまです。

 息抜きにどうぞ〜。


番外編 蒼夜叉少女との邂逅
女の子ってだけで、結構色々違うのね


 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 ……どういうことだこれは。

 

「……え、えと…貴方は…わ、私…なの?」

 

 俺の目の前の美少女は、大きな空色の目をぱちくりさせながら俺を指さす。

 

 黒地に水色の稲妻のようなラインが入った着物に、その奥から見える黒のインナーと黒手袋。俺と違うところは下の黒地のプリーツスカート。ただ、後ろ腰に差した黒刀「霧切の凱旋」が彼女が"俺自身"だということを教えている。そして腰まで伸びた髪をひとつに纏めていて、髪色も俺と同色。

 

 閑雲さんの機械を試して色々協力した後に俺の洞天に現れた、いや、現れてしまった彼女は、俺を驚いた顔で見ている。

 

「……えっと、君も、神里迅…なんだよな?」

「…迅?…ううん、私の名前は蒼だけど…?…そこは性別の違いなのかな」

 

 「私の場合は目の色が由来みたいだし」と呟いた彼女…蒼はちょっと俺を見たあとふいっと視線をずらした。まぁ自分自身とか凝視してられないよな。

 

「んんっ、…君も閑雲さんの研究を手伝ってこうなったってことか?」

「うん。多分大体の流れも君とおんなじ。確か3日で元に戻るって聞いたけど、……ここはどっちの洞天なんだろ」

 

 蒼が俺と同一人物と言うことなら、洞天の作りも同じはずだ。俺たちは目配せをして洞天に入る。

 

「………んー」

「……あはは」

 

 扉を開けると、ふわっとしたいい香りが俺の鼻を叩いた。うん、もうだいたいわかってたよ。だってもう外にいる時点で嗅いだこと無いいい香りがすんだもん。どうやら連れてこられたのは俺の方だったらしい。

 

 そして、中の家具やらも俺のものとはちょっと違う。置いてある物の種類は同じだが、どこか女の子してるデザインが多く見れられる。

 

 ただ、いちばん違うところは、綺良々達の私物が少ないところだ。

 

「あれ、蒼は綺良々達とどういう関係なんだ?」

「ん、友達だけど?ここには私が住んでて、みんながちょくちょく遊びに来るって感じ。そっちは違うの?」

「…あー、まぁ、同じかな」

 

 なるほど、こっちだと俺が女の子だからみんなとは恋人にはなってないということか。それなら俺の方は黙っておこう。

 

 つまり、この洞天は完全に女の子しか来ない聖典というわけで、そこに俺が「俺の方は恋人として付き合ってるよ。それに皆とも」なんて言ったらドン引きされる気しかしない。いくら自分相手と言っても蒼はめちゃくちゃな美少女なわけで、そんな子に引かれたらダメージは負う。

 

「ちなみに、この洞天から出たら…?」

「多分、私の方のテイワットになると思うよ」

「ということは無闇に外にも出れないわけか。蒼が蒼夜叉として有名なら、その男バージョンが出歩いてたら大騒ぎだもんな」

「私としては名前が入った蒼夜叉よりも、前の方が好きなんけどね…。確かに大騒ぎになったよ?貴方も体験したでしょ?」

「ああ、そっちも俺と逆の現象が起きてたわけか」

 

 話を聞くと、大抵の出来事は同じ。だけど性別が違うことでちょこちょこ相違点があるみたいだ。

 

「…あ、立ち話なんだし、入ってよ」

「お、お邪魔します?」

「あははっ、自分の家なのに?」

 

 そして、話しててわかったけど、蒼は俺と比べて明るい性格のようだ。促されるままにリビングのソファに座らされると、蒼は台所からお茶を持ってくる。

 

「これはこの前作った…って、知ってるか」

「ああ。なんか…すげぇ変な感じだな」

「まぁまぁ。とりあえず戻るまではここで過ごすんだから、もっとリラックスして」

 

 お互いに隣に置いた霧切を見てクスリと笑う。

 

 とんでもない事になっちゃったけど、自分と会話することなんて滅多にないからな。ここはひとつ楽しんで……。

 

 その時、洞天の外からチャイムがなった。この音は……。

 

「あ、綺良々達かな」

「え、あ、俺は…」

 

 隠れといた方がいいんじゃ。

 

 そう口を開く前にどたどたと足音が近づいてきて、扉がばんと開く。

 

「蒼ちゃん、ただいまぁ〜」

「綾華ちゃんと遊びに来てんけど、みんなとタイミング被ってもうたみたいや」

「お邪魔します、お姉様」

「こっちも仕事が終わったわ」

「同じく、任務帰りよ」

「みんな、いらっしゃいっ」

 

 扉の奥から、綺良々達が揃って顔を出した。俺側からは見えないが、向かいに座っていた蒼が立ち上がり、5人を出迎える。

 

 さて、これはどうしたもんか。みんなが遊びに来るくらいと聞いてたからそんなに会わないと思ってたんだけど、まさか速攻で全員と遭遇するとは。

 

 俺がとりあえず横の霧切を掴んでいると、綺良々がソファの背もたれから飛び出す俺の後頭部が見えたらしい。

 

「あれ、蒼ちゃん、お客さんが来てるの?」

「うん、お客さんというか、家主というか……」

「いや、お客さんの方で間違いないとは思うぞ?」

 

 観念して立ち上がった俺に、みんなの視線が集まりまくる。

 

 こっちの5人も、俺の方と変わりは無いようだった。

 

 さっきまで騒がしかった洞天に静寂が訪れる。すると、息を吸い込んだ綺良々が俺に指を指し。

 

「あ、蒼ちゃんが男になって分身したぁ!?」

「あんまり間違ってないのがね」

 

 まぁ周りから見たらそうにしか見えないよね。他の面々も似たような反応で、やっぱり蒼の男体化の時に俺の顔は見た事があるらしい。

 

 ただ、こういう時やっぱ女の子同士で固まるのは共通のようで、5人全員蒼の方に駆け寄って色々心配している。

 

 うん、予想はしてたけどアウェー感すごい。そりゃ友達の男版突然出てきたら警戒するわな。

 

 そんな中、蒼が説明をしてくれた。

 

「あのね、実は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほどね。ということは貴方は男性の世界線の蒼って認識でいいかしら」

「ああ、名前は迅って言うんだ。多分詳細は大体蒼と同じだと思う」

「はぇ〜、確かに蒼とそっくりやなぁ。って、同じやから当然かぁ」

「つまり、私にとってのお兄様ということなのですね…」

「姿は男体化の時に見た通りだけど、2人横並びだと違和感すごいわね」

 

 説明を受けて納得した5人が俺と蒼を見比べてそんなことを言う。

 

 俺としては似てるって感じがしないんだよな。女体化のときもおもったけど、ちょっと美人すぎる気がする。そんな中、蒼が口を開いた。

 

「というわけで、迅君が戻るまでの3日間ここにいてもらうから、そこのところよろしくね」

「なんか、お世話になります」

 

 どうやら休日が被った綺良々達で3日間のお泊まり会的なことを企画してたらしい。それなら俺は邪魔かなと3日間絶雲の間にでも行こうかと提案したらみんなに止められた。なんでも俺とも話をしてみたいらしい。

 

 俺としても新鮮な体験だからそればいいんだけども。

 

 ……ただ、なぁ。

 

「よーし、それじゃそろそろ日没だし、晩御飯作ろうかな」

「わたしも手伝う〜!」

「うちもー!」

「私達は今のうちにお部屋の掃除やお洗濯をしてしまいましょうか」

「そうね。……蒼…じゃなかった、迅はどうする?」

「手伝う…って言いたいところだけど、勝手が違うし俺は動かない方が良さそうだな」

 

 刻晴に尋ねられて、俺はあげた腰を戻した。何せ女の子オンリーのお家だからな。洗濯は論外だし掃除も危険がありすぎる。

 

 そんな俺を見て、エウルアがソファから立ち上がった。

 

「それはいいけれど、貴方服とかはどうするの?ここに男物はないわよ?」

「あー、そうだった。どっかに買いに出ないとな」

「それなら、モンドで揃えなさい。蒼が男になった時、モンドには行ってないから騒ぎにはなりにくいわ」

「うん、いいと思う。迅君、私のことは気にしなくていいから行ってきちゃって?」

「じゃあ、お願いしようかな」

 

 今度こそ立ち上がった俺に視線が集まる。瞬きをした俺に蒼が答えた。

 

「……なんでしょうか」

「…あ、ごめん。その、背が高いなって」

「…なるほどね」

 

 確かにここのメンツでいる時に人の顔を見上げるってことしないもんな。蒼も綺良々と同じくらいの身長だし。

 

 咳払いをして出発するかとエウルアの方を見たら目が合ってふいっとそらされた。え、なんなんですかさっきから。

 

「じゃあ、私の通行証を開くわね」

「了解」

 

 エウルアに開けてもらったゲートをくぐると、見慣れたエウルアの部屋。

 

「……って、そうだったわね。…ここ来るの初めじゃないのよね」

「なんかごめん」

 

 俺が部屋に入った時にちょっと強ばったエウルアに謝っておく。そうだね、多分男入れたの初めてかこっちは。

 

「……て、あれ。ここって元々蒼の部屋じゃなかったっけ?」

「そっちだとそうなの?ここには私が元から住んでたけど」

「細かいところが違うんだなぁ」

 

 とりあえず服を買わねば。エウルアの部屋から出て階段を降りていると彼女が尋ねてくる。

 

「そういえば、貴方の方の私たちはどんな感じなの?貴方とは友達って聞いたわ」

「…大体は同じだよ。俺との関係性もまぁ、変わらないかな」

「…………ねぇ」

 

 それとなく返すと、エウルアに呼び止められる。首だけで振り向くと、エウルアのジト目を頂戴した。おぉ、なんかすごい久しぶりな感じだ。最近甘え顔ばっか見てたから。ちょっとドキッとした。

 

「嘘でしょ」

「…いや?本当だよ」

「やっぱり嘘ね。私にはわかるわよ?……性別が変わってもやっばり同一人物ね」

 

 エウルアは勝ち誇ったような顔で腕を組む。なんでこう、この人は俺に対してこんなに強いんですかね。俺はとりあえず歩を進めながらどうしたもんかと悩む。

 

「………」

「黙り込むってことは図星でしょ?」

「………言ったところでいい事ないからな」

「ということは、私たちに気を遣って隠すような関係性ってことね」

「深掘らないで?」

 

 やっぱり、俺はどこの世界線でもエウルアには敵わないらしい。俺はちらっと横を歩くエウルアを見て「他のみんなには言うなよ」と釘を刺す。

 

「………付き合ってるんだよ」

「…へぇ〜。誰と?」

「皆」

「………………へぇ!?」

 

 素っ頓狂な声をあげたエウルアは、ちょっと俺の後ろにリポジションしながら顔を朱に染めた。その顔も懐かしいな。

 

「……ほ、本当なの?」

「…ああ。証明になることは沢山言えるけど、多分お互いに幸せにならないと思うよ」

「…なっ…!?……っ」

「ごめんってば」

 

 とりあえず、今のことは他言無用なと話を締めて、手頃な服屋に入った。エウルアを待たせ無いようにさっさと3日分の服を選んで購入して店を出ると、未だ赤い顔の波花騎士様の視線を頂戴する。

 

「…じゃあ帰るか。……だから言いたくなかったのに」

「……別に、私から聞いたんだから良いわよ。ちょっと驚いただけ」

「そうすか。まぁ、でもこっちのエウルアも懐かしくて良いな」

「な、なによ」

 

 なんか、このツンツン具合が良い。街の様子を見るにちゃんと蒼もローレンスの風評からエウルアを守ったみたいで良かった。

 

 そっから家まで歩ってる時の後ろがやかましかった。「な、懐かしいって、そっちの私……普段どんな顔してるのよ…?」とか、果ては「ほ、他の皆ともどこまで進んでるの……?ま、まさか私たちだけに飽き足らず、アンバーやバーバラまで…!?」とか飛躍しだしたので流石に突っ込んだ。最近プレイボーイじみてきてるのはガチの悩みだから、あんまり突っつかないで欲しい。

 

 そうこうしてる内にエウルアの部屋に着いたので、なんか赤い顔でじっと見て来るエウルアに再度釘をさして、通行証をくぐる。邸宅の中に入ると、食事がちょうど出来たらしく、いい匂いが漂ってきた。台所から、綺良々と綾華、宵宮が顔を出す。

 

「あ、おかえり〜。服買えたの?」

「ああ、とりあえず3日は持つと思う」

「おかえりなさいませ。…に、兄さん?」

「ただいま綾華。…別に無理して呼ばなくてもいいからな?」

「いえっ、そんなことは…!」

「綾華ちゃんはな、蒼が男になった時いちばん照れてたんやで」

「よ、宵宮さん…っ!」

 

 そんなふたりのやり取りを微笑ましく思ってると、隣へ綺良々が近づいてきた。何やら俺をじーっと見つめて来る。

 

「どうした?」

「…んーん、なんかすごい新鮮だなぁって。……えっと、迅くん…って呼んでもいい?」

「ああ。向こうでもそう呼ばれてたから助かるよ」

「えへへ、そうなんだ。じゃあ、迅くんもわたしの…」

 

 上目遣いの綺良々が可愛いですはい。思わず頭を撫でそうになったのを間一髪我慢した。

 

「うん、飼い主だよ」

「…そうなんだぁ」

 

 何だこの子くっそかわいいんだけど。自分のところの綺良々ならもう抱き上げてなでなでしてる頃だ。

 

 俺が葛藤してると、台所からエプロン姿の蒼が顔を出す。

 

「おーいっ、ご飯できたから運んで〜」

「あ、手伝うわ」

「ありがとっ」

 

 人数の関係で皿が多いので、皿の下に電磁付与をして宙に浮かせて運ぶ。横を見ると全く同じ運び方をしてる蒼と目が合って笑い合った。

 

 食事中は大抵俺の話で持ち切りだった。驚いたのはこの洞天に刻晴が住んでないってことだ。「え、住み着いてるの?」と驚いてる刻晴に奥の部屋を指さしてそこが刻晴の部屋だったと話したらすごく驚いてた。

 

 ただ、さっきからずっとエウルアの視線を感じる。やっぱ無理やりにでも誤魔化せば良かったかな?

 

 様子を見ていてここのみんなは本当に仲がいいんだなと感じた。俺のところ恋人関係としてそっから結束力が強まった感じだけど、全員友達同士って感じが俺のところにはない雰囲気を作ってる。

 

 食事が終わったあとはみんなでお風呂に入りに行った。俺はゆっくりしててって言われたけど、今の隙に皿を洗ってしまおう。

 

 1人、無言で皿を洗いながら物思いにふける。こっちに来てみてやっぱりひとつだけ思ったこと。まぁ、蒼やみんなにはちょっと申し訳ないんだけれども。

 

 ……んー、やっぱ、アウェーよね。完全に俺。

 

 本来は仲良し女の子5人のお泊まり会に俺が完全に異物になっとる。まだ、綺良々達と蒼が親密な関係なら良かったんだけど、同性ってのもあってこっちの関係は仲がいい友達止まり。だから俺のことも「友達のパラレルバージョン」

としか見れないわけだ。

 

 ただ、俺の方は違うわけで。

 

 俺からすると彼女たちは「恋人」という感覚が強い。だから、こっちの彼女たちは俺視点「恋人という繋がりが無くなった世界線」の人物に、どうしても見えてしまう。

 

 目の前にいるのは、間違いなく俺が恋した彼女たちその人なのに、実際はそうでは無い。そんな状態でノーダメージな程、俺も強くはないわけで。

 

「……はぁ」

 

 洗い物が終わり、テーブルも綺麗に拭いたところで小さなため息が出た。

 

 多分蒼達はまだ風呂から上がらないだろうし、何をしていようか。

 

 その時、邸宅の扉が開いた。

 

「…あ、洗い物やってくれたの?…ありがとう」

 

 何やら慌てた感じで蒼が戻ってきた。バツが悪そうな顔をして頬をかく。

 

「ごめんね。洗い物は後にやろうとしてたんだけど、エウルアが彼の性格が私と同じなら、代わりにやるんじゃないかって言ってて」

「はは、そりゃドンピシャだな。…って、だから急いで出てきたのか?髪とか、まだ濡れたままじゃんか」

 

 お風呂上がりだからか、下ろされた蒼の紺色の髪はしっとりと濡れていた。俺が言うと蒼は恥ずかしそうにタオルを取り出す。

 

 そんな蒼をみてたら、なんかうずうずしてきた。最近お風呂上がりの綺良々達の髪を拭くのが日課になってたし、ちょっと手が寂しい。

 

 まぁ、自分相手ならいいか。

 

「……ほら、俺がやってやるよ」

「…え!?……迅君がっ?」

「向こうじゃ綺良々の髪をよく拭いてたから。嫌なら辞める」

「…う、じゃあ…お願いしてもいい?」

「ああ、髪触るぞ」

 

 蒼からタオルを受けとり、ソファに座らせる。こちらを向いて貰って、長い髪をタオルで挟むようにして水気を取り始めた。

 

「髪、長いな」

「うん、色んな人から伸ばせって言われて……」

「確かに、これを伸ばさないのはもったいないな。めちゃくちゃ髪質良い」

「あ、ありがとう…」

 

 髪を拭いている最中に蒼の華奢な肩や細い腰が目に入る。急いで出てきたせいかホットパンツとキャミソールという露出過多な格好は流石にちょっと目に毒だ。

 

「ヘアオイルも塗っちゃうか」

「あ、うん…お願い……迅君、お手入れ上手だね」

「ずっとやってる内にな。…って、身体もあんまり拭けてないじゃんか。…やっぱ他に気を遣って自分が疎かになる所は一緒なんだな」

「……うぅ、……じゃあ、迅君がお風呂出たら私も髪拭くからね?」

「はいはい」

 

 なんか、話してて思ったけど俺ってよりは同名の別人と可愛い子に見えてきた。だって俺女になっただけでこんな感じになるのん?

 

 髪の手入れを終えて、ついでに髪を結ってあげる。終わってから流れで最後までやったことに気がついたけど、べつにいやがられなかったな。むしろリラックスした顔をしてた気がする。

 

「うん、ありがとね」

「こちらこそ」

「こちらこそ?」

 

 なんか、蒼と話してたら少し気が晴れた。外を見ると、ちょうど5人もお風呂上がりで帰ってきた。

 

 「お風呂空いたよー」とそれぞれが言ってくれる中、エウルアだけがちょっと厚着なのが面白い。じっと見てるとエウルアが顔を赤くしてキッと睨んできた。……そ、そんなに嫌なの…?

 

 俺はなんとなくお風呂上がりのみんなの格好を見ないように邸宅を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✧✧✧✧✧

 

 

 

 

迅君が邸宅を出ていくのを見送ると、綺良々が私の髪を見る。

 

「あれ、さっき急いで出てっちゃってたけど、髪のお手入れ終わってたの?」

「うん、迅君がやってくれたんだ」

 

 私がそう答えると、みんなからええっと驚いた声が上がった。

 

「迅ってそういうことできたんや…やっぱ蒼だからってことかぁ?」

「……でも、手入れはちゃんとしてるのね。縛るのもやってもらったの?」

「うん。髪濡れてたから心配された」

 

 そう答えると、みんなからくすくす笑い声が起こる。そんな中、綾華が迅君が出ていった扉の方をじっと見ていた。

 

「…ですが、兄さんは…何やら私達と距離を取っているようにも思えます」

「そうよね。いくら別世界と言っても関係性は変わらないはずなのに」

「だよね。ただ照れてるだけとか?」

「………」

「エウルア?…どうしたの?」

 

 エウルアだけは、なんか複雑そうな顔。私が声をかけると、なんでもないと首を振った。

 

 そこまで会話したところで、みんなから私の格好が無防備すぎとお叱りを受けた。た、確かにちょっと薄着すぎたかも…?

 

 私は自室に着替えに行きながら、肩に掛かる髪を手に取った。自分でやるよりもつやっつやで、お手入れにかなり慣れてるのがわかった。

 

 綺良々の髪をやってるって聞いたけど、綺良々と私じゃ髪質のベクトルが違うのに…。まるで色んな人の髪を日常的に触ってるみたい。

 

「……ま、いっか。…よしっ、玄関でタオル持って待機しないと…!」

 

 さっきは平気を装ってたけど、結構恥ずかしかったんだからね?

 

 少し待つと、迅君が戻ってきた。邸宅に入ってきたのを見計らって、私が駆け寄る。

 

「迅君はいっ、頭出して!」

「…はい」

 

 みんながいる前で恥ずかしそうにしてる迅君をソファに座らせて髪を拭いてあげる。こうして見るとやっぱ男の人だなぁって感じ。

 

「…わたしもやっていい?」

「いいよー」

「え、俺に決定権は?」

 

 短く切りそろえられた私と同じ色の髪を拭いていると、近寄ってきた綺良々にタオルを渡す。綺良々が優しく拭きながら迅君の顔を覗き込むと、彼はふいっと顔を逸らした。あ、照れてるな〜?

 

 

 そしてその騒ぎがひと段落すると、もう寝る時間。早寝早起きな綾華が目を擦り出すので、私はみんなとの打ち合わせ通りに仙力を使ってテーブルやらソファやらを片付けた。

 

「ん、なんで片付けるんだ?」

 

 目をぱちくりさせてる迅君を尻目に空いた広間に布団を7人分敷き詰める。布団の数を数えた迅君は頬を引き攣らせてるけど気にしない。

 

「え、まさか…?」

「よし、みんなで寝よっか」

「うち真ん中ーっ!」

「わたし蒼ちゃんの隣ーっ!」

「わ、私もお姉様のお隣で…」

「ちょ、待て待て待て」

 

 ち、流れでそのまま引き込もうと思ったのに。私は逃げようとする迅君の両腕を刻晴と掴む。布団は4、3で別れて向かい合うように敷かれてるので、その内側に迅君を引き込もうとする。

 

「え、ちょ普通俺は別室じゃねぇの!?……男が入っちゃまずいだろ!」

「私達は構わないわよ?」

 

 迅君の腕を引っ張りながら、刻晴が即答する。ばっと他の子達を見るけど、それぞれみんな頷いてくれてる。

 

「わたし、もっと迅くんとお話したいよ?」

「うちもや。なんかこっちに来てから色々気ぃ遣わせてばっかやしな」

「はい。1人だけ仲間外れは寂しいですので」

「……っ、でもなぁ…」

 

 それでも渋る迅君。そんな彼の背中をエウルアが押した。

 

「良いって言ってるでしょ?早く布団に入りなさい」

「ちょ!?…うわっ!」

 

 押されてバランスを崩した迅君は敷かれた布団に顔面ダイブ。その様子に綺良々と宵宮が声を出して笑う。

 

「……うぅ、わかったよ…」

 

 観念した迅君は、4つ敷いた布団の列の端に陣取った。その横に綺良々、私、綾華。向かいの3列にエウルア、宵宮、刻晴がそれぞれ入る。

 

 いそいそと布団に入って寝ようとする迅君を綺良々が飛びついて起こして、彼の話を聞く体勢に。

 

「…って言っても、大体聞いたことある話じゃないか?」

「そうかな?こうして見てても結構気になるところあるけど…」

「そうか?」

「そうね、じゃあ…どうしてそんなに肌を隠してるの?首から手首までインナー着てるじゃない」

「それ、うちも気になってたわ」

 

 綾華やエウルアも気になってたようでこくこく頷く。今の迅君の格好は黒のシャツとスエットなんだけど、その下にぴっちりとしたインナーを着てる。暑くないのかな?

 

 私たちの問いに、迅君はぱちくりと瞬きする。

 

「え、前に1度……って、あー、そうか」

 

 私をチラッと見て納得する迅君。ど、どういうこと?

 

「どういうことや?」

「蒼は身体に傷跡とかないもんなって。俺は……ほら」

「えっ」

 

 迅君はインナーの手首を捲り上げる。その奥から覗いた夥しい量の傷跡にみんなは息を呑んだ。

 

「ど、どうしたの?その傷…?」

「仙人との修行や、戦いで色々と。…蒼に無いって事は、魈様に優しくして貰ったのか?」

「え、魈様?…私の師匠は留雲借風真君だけど…」

「え、…まじか、こういう所も違うのか。…っとことは修行方法とか、体得してる技とかも結構違うのか?」

「多分、そういうことになるんじゃないかな。……でも、その、痛くないの?」

「ん、もう慣れたよ。だいぶ前のだし」

 

 綺良々が恐る恐る腕の切り傷痕に触れるけど、迅君は平気そう。そんな中、今度は綾華が小さく手を上げる。

 

「その、兄さんも社奉行のお手伝いをされているのですよね?」

「え、手伝い?」

「さ、されていないのですか?」

「…どんどん違うところが出てくるわね」

「…えーっと、蒼は社奉行の手伝いをしてるのか?」

「え、うん。むしろそれが私の本業だよ。稲妻に帰ってきて、家の手伝いを申し出たの」

「へぇ……俺は狛荷屋に入って、綺良々と配達をしてるんだ」

「ええっ、わたしとっ?」

「ああ。最近だとフォンテーヌに行ったぞ」

 

 えぇ〜、そこも違うんだ。色々と自分のことを出してみると、一致しないことが結構ある。

 

 迅君は稲妻から帰ってきて狛荷屋に就職して。私は稲妻に留まって社奉行として働いてる。

 

 興味深い話が沢山聞けたところで、迅君が私に怪訝そうな目を向ける。

 

「………でも、なんでまた?」

「なんでって?」

 

 何気なく聞き返した私。迅君はみんなの顔を見て、大体を察した顔をした。もう、さっきから1人で先に行かないで欲しい。

 

「綺良々達って、俺や蒼の神里時代のことって聞いてたりする?」

「……多少は、って程度よ。蒼が拾われ子で、14歳くらいまで神里屋敷で育ったって」

 

 迅君の問にエウルアが答える。なるほどと呟いた迅君に、私は問いかける。

 

「迅君は違うの?」

「結構違うな。……その、ちょっとアレな話になるけどいいかな?……特に、綾華はちょっと聞き難い内容なんだけど…」

「聞き難い…ですか?…はい、大丈夫です。一体何があったのですか?」

「まぁ、俺の時は───」

 

「…ぇ」

 

 

 迅君の口から語られた話に、私達は……声が出せなかった。

 

 迅君は、神里時代に酷い迫害を受けて育ってきたんだって。

 

 拾われてから数年は大丈夫だったのに、前当主…綾華と綾人兄さんの両親が亡くなられてから急激に扱いが悪化。特に食事方面が酷くて、毒を盛られたのも1回2回じゃ効かないって。

 

 私の時も扱いはいいとは言えなかったけど、最低限の暮らしの安全は保証されたし、成長するにつれて区別されるのもなくなっていった。だから今も私は社奉行として過ごしているんだけど、迅くんは私とは正反対だった。

 

「……とまぁ、こんな感じだな。……綾華、大丈夫か?」

 

 自分でも思い出したくない辛いことを話してくれたのに、綾華を心配する優しい迅君。

 

 綾華はわなわなと肩を震わせて、唇を噛んだ。

 

「……兄さんがそんな目に遭われていて……そちらの私は、一体何をしていたのですかっ」

「……俺の方の綾華も精一杯庇ってくれたさ。…だけど、今話した酷い方は…多分知らないと思う。綾人兄さんも、トーマもね。……もう過ぎたことだし、今更苦労自慢する趣味もないし」

「ですが…」

「いいんだ。ありがとうな」

 

 ぽろぽろと涙を流した綾華に手を握られた迅君は、握られた手を包み込んで優しく言った。

 

「…迅くん」

「……あー、ごめん重苦しい雰囲気にしちゃって。……でもさ」

「っ」

 

 迅君は私の方を見る。その目はすごくやさしげで、心から安心しているように見えた。

 

「この話が初耳ってことは、蒼は辛いこと無しで神里時代を過ごせたんだろ?」

「…うん、……ごめん。…その、私だけ…。君は大変だったのに……」

 

 今の話を聞いて、らくらくのうのうと過ごしてきた私はすごい罪悪感を抱いた。それのせいで目を逸らして言った私に迅君は。

 

「えっ、なんで?…蒼が謝ることないだろ?」

「え、…で、でも…」

「俺はむしろ安心したんだぞ?俺みたいな経験してる人が何人もいるのはそれこそ申し訳ないし。……なによりさ」

「……」

 

 迅君はまっすぐ私を見て、ここに来てから初めて見せる…、はっきりとした笑顔で私に言った。

 

 

「蒼が神里で幸せに過ごせてて、本当に良かったよ」

 

 ……どくんっ。

 

 え、な、なにこれ。

 

 迅君が目が合うと、私の胸が高鳴った。服の上から胸を抑えると、さっきよりも鼓動が速くなってる。

 

 綺良々や宵宮に頭をなでなでされて照れてる迅君はもう私に視線を向けてはないけれど、私は何故か目が離せなかった。

 

「………迅…君」

「ん、どうした?」

「え、あっと…その。…ありがとう」

「礼を言うの俺の方なんだけどな。……みんなも、ありがとう」

 

 迅君の言葉に皆が気にしないでと返したところでいい時間に。

 

 全員でおやすみと言って、布団に入る。暗くなった部屋で私はなんとなく自分の右側を見た。

 

「…んー、蒼ちゃんどうしたの?」

「……ん、なんでもない」

 

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら布団の中を近寄ってきた綺良々の頭を撫でながら、ちらりとその奥の姿を見る。

 

 私たちに気を遣ってこっちに背中を向けて布団に入った迅君。……多分、まだ1人で抱えてることがあるんだろうな。

 

 彼の支えに、どうにかなれないかなぁ?

 

 

 

 薄れる意識の中、それだけははっきり覚えていた。






 
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