職場の先輩がウチの飼い猫に似ている件   作:猫好きの餅

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お待たせしました将軍回です。

一応待たせた日にちと文字量は比例する。……はず(10000文字超)


影ちゃん回なので戦闘多めでも、問題ない、よね?


7話 甘味好きの武闘派お姉さん

 

 

 

 

 

「……すぅーっ、はぁ〜…」

「んにゃっ…にゃぁ〜…」

 

この前の出来事から猫吸いにハマった俺は、今日も今日とて回復に勤しんでいた。あ〜^癒される〜。それを見ながらばあちゃんはあらあらと微笑んでいる。

 

あ、別にこれは俺が強要してるんじゃなくて、きららの方から膝に仰向けで乗ってきたからやってるだけだ。どうやらきららの方も猫吸いは嫌いじゃないらしい。あれからお腹や肉球も触らせてくれるようになったので遠慮なく愛でている次第だ。

 

「よしよし」

「にゃっ、にゃぁ、っんにゃ〜」

 

猫吸いの後は頭や耳、腹を撫で回す。きららは猫吸いの後のこれが好きなようで、気持ちが良いのか蕩けた様な鳴き声を漏らしてされるがままになっていた。

 

きららも変わったなぁ。なんで急に肉球や腹を触っても嫌がらないようになったんだろ。

 

それに変わったと言えば綺良々もだ。この前から俺に対する距離感がめちゃくちゃ近くなった。いや元々近い方ではあったんだけど、最近はマジでやばい。

 

配達で並んで歩く時は肩が殆ど触れている距離感で歩いているし、2本ある尻尾に至っては時々俺の手にしゅるりと絡みつかせて来るのが大変くすぐったい。それで歩いている時に宵宮やトーマに会うと素早く離れ、2人になるとまた寄ってくる。猫かな?(猫だよ)

 

余りにも近すぎて、それを伝えると、ちょっと悲しげな顔で「嫌だった…?」などと聞いてくる。その顔は反則ですよ。そんで「いやそんなことは無いけど…」ともごもご返すと綺良々は、ぱぁぁと笑顔になってまた寄ってくる。………ふぅ、可(以下略)。

 

ひとしきり撫でた俺はくたりと脱力するきららを座布団に降ろす。

 

ふぃ〜。これで仕事の疲れも大分癒された。猫吸いはあれから1日置きにきららが膝に腹を向けて乗ってくるので嫌がらないか確認してからやってる。1回騙されたとおもってやってみて欲しい。マジで良いぞ。

 

俺はそろそろ寝るかと敷いてある布団に入りながら座布団のきららを一撫でする。きららはビクンと反応すると力ない鳴き声を発した。ごめん。びっくりさせちゃったか。

 

 

 

 

翌日。朝起きるときららは家に居なかった。遊びに行ったのかな。

 

俺は朝食と申し訳程度の家の手伝い(ほぼ無い)を済ませると城下町に繰り出した。

 

目的は団子牛乳を飲む為だ。前に綺良々と遊んだ時に飲んだのだが、これめちゃくちゃ美味かった。それに、今日は試したいことがあって、モンドからあるものを持ってきた。2本買って片方はそれを使おう。

 

そう考えながら露天に着くと運良く団子牛乳が売れ残っていた。1度食べてから何度かまた買いに来ているのだが、大抵売り切れていたので実は今回で2度目だったりする。

 

俺は団子牛乳を2本買うと、城下町外れのベンチに移動して座った。ここは人通りも少なく、近くに生えている大きな桜が日除けになって居心地がいい。俺は早速瓶の封を開け、団子牛乳を飲んだ。

 

牛乳、という名前だが、団子がすり潰されて入っているのでもちもちとした食感があるが、牛乳にほぼ溶け込んでいて口当たりはまろやか。

 

なんとも不思議な食べ心地だ。団子に砂糖を使っているので丁度いい甘さが牛乳全体に広がってて美味い。ただ、他の飲み物の様にごくごくと飲むと喉につっかえるので1口毎軽く咀嚼して飲む。

 

俺はたちまち1本飲み終えると、もう一本を軽く飲んでかさを減らし、そこに持ってきたコーヒーを少し入れた。そのまま蓋をして軽く振り、団子コーヒー牛乳?…なんか語呂悪いな、…団子カフェオレ(妥協)を作って飲む。

 

「うわ、うんま」

 

思わず声が漏れる。牛乳の比率が多いので甘めのカフェオレの味に団子の食感が合わさってマジで美味ぇ。

 

俺が一口飲んではコーヒーを足し、比率を変えて楽しんでいると。

 

「ほう、そのような飲み方があったのですね、知りませんでした」

 

綺麗な声がしてその方へ振り向くと、いつの間にか、俺の座っているベンチの前に人が立っていた。

 

紫色の動きやすそうな着物に女性にしては長身、同じ色の艶やかな髪を後ろで三つ編みに纏めている。そして人形かと見紛うばかりに整っている顔で穏やかに微笑んで髪を耳に掛けながら、女性ーーーこの稲妻の神、雷電将軍が声を掛けてきた。まさかの人物との邂逅に驚愕で俺は座りながら器用に飛び上がった。

 

「し、将軍様!?」

「しーっ、です」

 

雷電将軍は人差し指を口に当て、俺の声を止めた。

 

「今お忍びで来ているのです。少し静かに」

 

俺は口をつぐんでコクコクと頷くと、雷電将軍はくすりと笑ってベンチに散った桜を払い、隣に腰掛けた。え、俺今将軍様と同席してるけど、いいんすか?

 

「し、将軍様は何故こんなところに…?」

「そんなにかしこまらないで下さい。以前、食べた団子牛乳が好みの味だったので、時々食べに来るんです。それと、今の私は将軍ではなく、影、と呼んでください」

 

そう言い、抱えた紙袋から団子牛乳を出す将軍の醸し出す雰囲気は以前行事などで遠くから見たそれとは違う。前は隣に座っただけで斬られそうな威圧感を放っていたのだが、今の雷電将軍は団子牛乳を一口飲んではほにゃりと表情を崩して味を楽しんでいる。というか、ほぼ別人?

 

ん?雷電将軍ーー影さん?が俺が持つコーヒーをじっと見つめている。

 

「えっと、これ入れるとちょっと苦くなりますけど、どうですか?」

「えっ、甘くならないのですか…?」

 

甘いのが好きなんだろう。残念そうに肩を落とす雷電将軍ーー影ちゃん。俺の中での雷電将軍の印象がこの短時間で変わりまくっている。

 

あ、そうだ。一応持ってきたあれがあった。渡してみるか。

 

「これならどうでしょうか?練乳って言う牛乳に砂糖を入れながら加熱して甘くしたものなんですが。コーヒーに入れると風味はそのままで甘くできますよ」

「ほう!」

 

影さんは、容器のなかにコーヒーと練乳を入れてよく混ぜて再度口をつけた。すると、表情がぱぁぁと輝く。

 

「これは、美味しいですっ。このこーひー?とやらにコクがあって、練乳を入れたことによりまろやかな甘さもでて、とっても好みの味です」

「それは良かったです。…その、影、さんは、雷電将軍なんですか?」

「ええ、まぁそうですが、どうかしましたか?」

 

1本たちまち飲み終え、袋からもう一本取り出した影さんに言う。

 

「いやその、俺の知っている将軍様と、今の影さんとでは随分雰囲気に差が…」

「普段は張り詰めていますからね、今の私は、…息抜きモードとでも呼びましょうか。時たま疲れを癒しにこういう甘いお菓子を食べに来るんです。いつもはここで食べているのですが、先客がいて、知った人だったので話しかけてみたのです」

「え?俺、影さんとこうして話すのは初めての筈じゃ…?」

 

そう言い、2本目のMAXコーヒー団子(適当)を飲み干し、袋から三本目を取り出した。

 

「私は旅人さんと友人なので、彼女から貴方の事は色々と聞きました。相当、腕が立つとか」

 

知ってた(白目)。アイツまじで俺の事に対して口軽すぎだろ。将軍と友達な事にも驚きだが、まさかこの人にまで喋るとは…。今度国外配達行く時シャベル持っていくか。(外道)

 

俺が固まっている間にMAXコーヒー団子を飲み干し、袋から5本目を…ってどんだけ買ってるんだこの人。もしや貴方が品薄の原因か。

 

「団子牛乳、好きなんですね。何本くらい買ったんですか?」

「えっと、今日は10本程ですね」

「団子牛乳、最近ずっと品薄で買えなかったんですよね。…まさか?」

「えっ、あっ、違いますよっ?店主に話を聞いた時に売れ行きが宜しくないと言っていたので、私がそれに貢献しようと…味も好みですし、だから別に、私は食いしん坊ではないんですっ」

「……」

「そ、そんな目で見ないで下さい。これは言い訳ではありませんよ?事実を言っただけですっ」

 

俺がそう言うと、影さんは顔を赤くし捲し立てる。雷電将軍といえば冷酷な印象だったけど、なんか可愛いなこの人。

 

影さんはいじけたのか、ふんっとそっぽを向いてしまった。MAXコーヒー団子を持ったままなのがなんとも可愛らしいが、流石に不敬だったと冷や汗をかいて、高速で影さんの前に跪き頭を垂れる。

 

「将軍様相手に無礼でした!申し訳ございません!」

「かしこまらないで、と言いましたよ。そこまでの謝罪は不要です。…どうしてもと言うのなら、そうですね。1つ、私から頼みがあるのですが?」

「全力で聞かせていただきます!」

「それは良かったです。では」

 

下手したら首が飛ぶかもしれん。俺が内心震えていると、影さんにおでこを指で突かれた。その途端に意識が浮き上がるような感覚、寝る時に近いだろうか。浮き上がった意識はすぐに地面に降りた。

 

目を開けると不思議な空間に俺はいた。石のような材質で出来た広円の床。その周りにたくさんの鳥居が乱立している。

 

「ふふ、この場所に人間を呼ぶのは旅人さんに続き2人目ですね」

 

辺りを見渡していると、声が響いた。見ると霧切と同じ紋様が描かれた薙刀を携え、影さんが楽しそうに微笑んでいる。大方何を頼まれるか察した俺は顔を引き攣らせる。

 

「篠田 迅。貴方はこの私を下した旅人さんよりも、強いそうですね」

「違いますが!?アイツとまともに戦ったことなんて、ほとんどありませんが!?」

「なので、私と腕を磨き合いませんか?これが私の頼みです」

「あの、瞬殺される未来しか見えないのですが?あと影さん、笑顔が凄く怖いので、出来れば他の頼ーーー」

「断りの言葉が聞こえないということは、同意したとみなして大丈夫ですね?ふふ、ではっ万全の準備を整えて下さい!私、手加減しませんのでっ(早口)」

「あっダメだ。………ご教授の程、よろしくお願い致しますッ(諦め)」

 

俺は覚悟を決めると、腰から霧切を引き抜いて、脇構えをした。

 

影さんは半身になり薙刀を中段で構える。

 

「いつでも良いですよ」

「では、……行きますっ!」

 

声と共に俺は両脚に雷を纏い、左脚の踏み込みで脇構えのまま突進した。

 

脇構えは刀を後ろへ持っていき、自分の身体で刀身を隠してこちらの斬撃を読まれ難くくする構え。下半身の防御に優れるが、刀の出が遅いのが欠点だ。その構えで突っ込んで来た俺に影さんは一瞬目を見開くが、半身になっている俺の背中側に冷静に袈裟斬りを繰り出した。軌道は当然俺の首筋。

 

それを予想していた俺は、袈裟斬りが俺に当たる寸前でまだ右脚に残っていた雷で更に踏み込んだ。移動する時の踏み切りの強化に使う元素を両脚の2つに分け、影さんの迎撃に合わせてもう一歩踏み込んで二段階で加速する。

 

そのことにより穂先に刃が付いている薙刀では俺を斬れずに柄が俺の肩に当たる。それと同時に俺は影さんのガラ空きの胴に霧切を振った。

 

しかし相手はあの雷電将軍、タダでは食らわない。影さんは袈裟斬りが外れるや否や向かってくる俺の進行位置に膝蹴りをしてきた。それを急遽霧切の向きを変え、腹で膝蹴りを受ける。

 

影さんは膝を引くと同時に流れるように薙刀を回転させ石突で顎を狙ってきた。俺は体を反らして躱したが、その隙に襟を掴まれ綺麗に背負い投げをされる。

 

それを途中で抜け出し宙を舞う俺は、投げ飛ばされた地点に影さんが居ないのを見るや、勘に逆らわず俺の落下地点に霧切を振り下ろす。

 

衝撃音。

 

「…何故、わかったのですかっ?」

 

案の定、着地地点で俺をお手玉する気満々だった影さんが、俺の斬撃を柄の部分で受け止めながら楽しそうに聞いてくる。つか、なんで刀の刀身を薙刀の柄で受け止めて斬れないんだ?

 

「…勘です」

「ふふふっ」

 

影さんニッコニコ。可愛いのにすっごい怖いです。

 

俺は力比べの状態から一気に脱力し、影さんごと後ろに倒れ込み、そのまま巴投げ。すぐ様起き上がりながら左手で刀印を結び、雷元素で楔を作って影さんに飛ばした。刻晴のように楔まで高速移動は出来ないが、俺の唯一の遠距離攻撃だ。投げられた側の癖に俺より先に体勢を立て直した影さんはそれを難なく躱し、高速で空いた距離を詰める。

 

迫ってくる影さんに俺は霧切で横薙ぎに振るったが、身を捻った跳躍で避けられ、空中から高速の打突が見舞われた。

 

俺はそれをどうにか捌いていく。ここまで見るとまだ善戦している方だとは思うが、まだ影さんは元素を使っておらず、こちらの雷による身体強化はとっくに最大だ。これ以上の強化も出来なくはないのだが、俺の肉体的な反射神経や動体視力がついて来れない。

 

俺の顔面目掛けて放たれた突きを首の傾きで躱し、薙刀を掴むが、その隙に肘や膝などを使った体術が襲いかかり、対応している内に薙刀の有効範囲、つまり刀の有効範囲外に追いやられる。

 

ならばと急に身を倒して足払いをかけるが、軽く後ろに飛んで避けられて俺の頭上から薙刀が振り下ろされる。それを倒れたまま半身になって避けながら、両手を地面に付かせながら頭を下げた勢いで脚を上げ、卍蹴りを叩き込むが、薙刀の柄で受けられる。蹴りを戻した勢いで霧切を斬り上げるが、そこに薙刀の刃を合わせられ、霧切に込められた元素が炸裂し両者の距離を大きく空けた。

 

「ふふふっ、良いですね。私相手にここまで戦えるとは、予想以上です」

「お気に入られて良かったですけどね。勝てる気がしないんですが」

「そう簡単に神に勝てたら、稲妻はとっくに滅んでいますよ。最初の踏み込み、とても良かったですね。虚を突かれました」

「虚を突かれた人の動きじゃなかったんですが」

「ふふっ、神様、ですので」

 

影さんは本当に楽しそうに笑うと、こういうのはどうですか?と手に雷元素を込め、手刀で虚空を薙いだ。すると影さんの頭上に紫色の眼が現れた。

 

「では、2合目ですねっ」

「ちょっ、まっ!?」

 

上段からとてつもない速度で振られた薙刀をギリギリ霧切で受ける。が、それと同時に虚空から雷の刃が襲いかかって来て、髪を数本斬り飛ばされる。何だその技!?

 

影さんは雷の追撃によって体勢が少し崩れた俺を、薙刀の返す刃で狙って来る。俺はそれをバク宙で躱した。この時、追撃は来なかった。なるほど、攻撃を受け無ければ追撃は来ない。と、言うことはこの人の攻撃を受けずに全て避けなければならず、避けることに専念すれば薙刀の距離でいいようにやられてしまう。

 

「迅さん?」

「…なんですか?」

「奥の手は、使わないのですか?」

 

何故バレてるし。

 

実の所、この人に勝てはしないけど、一矢は報えそうな奥の手は1つある。でも、あれを使うと日常生活に支障をきたすレベルの代償があるから、おいそれと使う訳にもいかない。

 

「あの、1つ質問なんですけど」

「はい、なんですか?」

「戦い始めた手前、凄く今更ですが、ここで受けた傷は現実世界でも残りますか?」

「いいえ、今の貴方は精神だけを此処『一心浄土』に送られています。なので肉体のダメージは現実に戻ったら元通りです」

「それなら良かった。なら、安心して奥の手を使えますね」

「はい!どんなものが来るのでしょうかっ。楽しみです」

 

影さんが目を輝かせている。果たして存在がバレてる状態の技を奥の手と言っていいのだろうか(白目)

 

俺は少し影さんと距離を空けると目を閉じて深呼吸をした。そして、身体に纏わせていた雷を、自分の『眼』に集中させる。

 

その状態で目を空けると、視界から色が消えていて、全ての物が遅く見える。

 

そして俺は霧切を今までとは違った構え方をした。

 

「神里流、流水」

 

今行ったのは、雷によって知覚能力を爆発的に上げる俺の奥の手で、使うと3日は視力がほぼ無くなる。そして、10年学んだ神里流でひとつだけ習得した奥義。流水は、敵の攻撃が受けられないくらい強力で、目で負えないくらい早い場合、敵の挙動をつぶさに観察し、目線や重心移動、呼吸、関節の動きなどで敵の攻撃を『流れ』として捉えて未来予知的な回避を可能とする。

 

ま、要は、影さんの攻撃を受けたら雷の追撃が守りを超えて飛んでくるから受けられない、で、そもそも攻撃速すぎてほぼ見えないから、回避特化の流水に奥の手の知覚強化で対応しようと言う訳。

 

俺は薙刀を構える影さんの全体像ではなく、相手の目をしっかりと、後はぼやっと抽象的に見る。

 

「どうぞ」

「はい。では、いきますよっ」

 

そう言い影さんは先程と同じ速度で詰めてくる。奥の手を使う前はその走りだけでも視認が難しかったが、今はハッキリと、なんなら少し遅く見えた。その様子を強化された眼でしっかりと見る。

 

影さんの目線は俺の首。重心は左脚から右脚へ。 肩が上がり、薙刀の刃先も同時に上がる。ーーー首狙いの袈裟斬りの流れ。

 

影さんの目線や重心移動を見極め、薙刀を振り下ろす前から袈裟斬りの軌道から体を外す。俺が半歩ズレた直後に薙刀が通り過ぎ、影さんの目がハッキリと見開かれた。

 

次。目線は俺の顔、重心移動は左脚を軸に反時計回りに回転の流れ。ーーー目線はフェイント、回転足払い。

 

俺は影さんが足払いのモーションに入る前に軽く飛んで薙刀を避ける。

 

次、目線は俺の腹。重心は丹田から蹴り足の右に。薙刀を直線に構えて腰を落としーーー鳩尾狙いの突きの流れ。

 

流れを見た俺は突きの軌道から身を反らそうとした時、影さんの声が響く。

 

「ちょっと本気出します」

 

は?

 

声と共に膨大な雷元素で覆われた薙刀が知覚強化をしていてもちょっと見えない速度で突き出された。

 

音速を軽く突破した突きは、流水での攻撃よりも先に身体を外していた俺を衝撃波だけで吹き飛ばそうとしてくる。ソニックブームをこの距離で食らったら気絶は免れないだろう。

 

「なんのォ!」

 

俺も負けじと雷元素で身体強化の倍率を更に上げる。普段、ここまで上げてしまうと自分の視力が動きに着いて来れないが、知覚強化をしている今なら視界を確保出来る。

 

「なっ!?」

 

影さんの驚く声。ちょっと嬉しい。俺は薙刀を雷を纏った左手で掴むと無理やり突きの速度を音速以下に下げて衝撃波を吹き飛ばない程度に抑えた。流石に手は無事では済まず、鮮血が迸り、雷の追撃が頬を裂くがそんなことはどうだっていい。俺は掴んだ手を支点にして逆立ちの要領で反転すると、薙刀の峰を全力で踏みつけた。

 

ズドンッと衝撃音と共に地面が陥没して放射状にヒビが入る。そんな勢いで踏みつけたのに折れない薙刀を尻目に俺は武器を失い、驚いた顔のまま隙だらけの影さんの胸に向かって、霧切に雷元素を圧縮し、全力で突き込んだ。

 

直後、爆音にも似た凄まじい衝突音。

 

しかし、手応えはあまり無かった。右手に伝わってくるのは何か硬いものに阻まれているという感触。

 

「あ、危なかったです…」

 

煙が晴れ、声がしたのでその方を見てみると、俺の渾身の一撃は、影さんの胸から出現した刀によって辛くも防がれていた。刀身はまだ抜けきっては無く、抜刀途中の刀の腹で霧切の切っ先を受け止めている。

 

「ふぅ、私としたことが今のは焦りました。ふふ、中々興味深い技でしたね、あそこまで完璧に私の攻撃を予測し回避するとは。驚きました」

 

そう楽しそうに言った影さんは、胸の刀『夢想の一太刀』を抜刀しながら俺の霧切を吹き飛ばす。全力を尽くした直後なので耐えられるはずも無く、俺は無様に体勢を崩した。

 

「では、十分楽しみましたし、そろそろ終わりにしましょうか」

「えっ、ちょっ待っ」

「稲光、すなわち永遠なりっ」

 

えいっという声の後、俺の視界が紫色に染まり、意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

あーやっべ、なんも見えねぇ。

 

夢想の一太刀の峰打ちとかいう死ぬんだか死なないんだか良くわからない攻撃を受け昏倒した俺は、知覚強化の後遺症でほぼ見えなくなった視界に四苦八苦していた。まぁ、帰ったら元通りなんだけど、短時間とはいえ目が見えなくなるのはかなり不便だ。

 

「はぁ…、至福の時間でした…」

「そりゃ良かったです」

 

俺の視界の、影さんであろう紫色の靄から恍惚とした声が聞こえた。結局この人終始笑顔だったな。それだけ余裕があったって事だろう。最後に驚いた顔をさせただけ良しとするか。

 

「貴方、人間の中ではかなり強い方ですね。私の知る中では上位に入ります。どこでそこまでの力を習得したのですか?」

「数年前、璃月の仙人達にしごかれたんですよ。それと、俺は元素の扱いが他の人より優れていたみたいです。普段人と戦っても宝盗団か野伏衆なので自分がどれくらい強いかはあんまりわかっていなかったんですが」

 

正直、わかってはいたが殆ど歯が立たなかった。影さんと戦ってて何が辛いかって、フィジカルが違いすぎる所だ。こっちは人間には視認が難しい速度で刀振ってるのに、それを普通に目で見て躱すし、それでいて攻撃は元素纏ってないのに死ぬほど重いし、虚実も使ってくるし、体術もヤバいし、あの謎追撃もあるし。トドメに夢想の一太刀だ。ムリムリ、こちとら一撃入れるのに(防がれたけど)視力失ってるし、元素の電圧も掛け過ぎたせいで体はボロボロ。やっぱ神様は次元が違うなぁ。

 

俺は立ち上がって影さんの方へ、頭を下げた。

 

「その、俺からもありがとうございました。とても、勉強になりました」

「こちらこそ、ありがとうございました。…あの、もし貴方が良ければなのですが」

 

俺の目の前の紫色の靄がモジモジと動く。クッソこの瞬間だけ視力戻らねぇかなぁ!めちゃくちゃ見てぇんだけど!

 

「時間がある時にまた私と手合わせに付き合って貰えませんか?」

「はい。いい鍛錬になりますし、時々よろしくお願いします!」

 

俺がそう返すと、影さんはこちらに歩み寄ると、手を俺のおでこに当てた。そのまま耳元で囁く。

 

「良かったです。実は、結構痛めつけてしまったから断られるんじゃないかと少し不安だったんです。今後、用がある時は私の方から出向きますね」

 

はい。とこちらが返事する前に俺の意識は再び遠のいていった。

 

 

 

ーーーん、戻ってきたか。あれ?俺寝てる?

 

意識がゆっくりと現実に戻って来たが、朝の寝起きのように瞼が重い。

 

体の感触からして、どうやら俺はベンチで横になっているようだ。ただ1つ違和感があるのが、頭の位置が少し高いこと。まるで枕を使ってるかのように柔らかいものが俺の後頭部にある。そして、俺の頭を何かが撫でた。

 

この感触、前に覚えがあるな。

 

1年ほど前、モンドにいる時に俺は星拾いの崖の斜辺で昼寝するのが好きだった。あそこはそよ風が気持ちよくて、南向きの斜面だから太陽も当たってぽかぽかしていた。そこでうとうとと微睡んでいると、いつも彼女は。俺が起きるまで待ってくれていた。俺が目を覚ますと、決まって呆れた顔で小言を言ってくる。その人の名はーーー

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

ふわぁ〜……。全くこんな時に呼び出さなくてもいいのにぃ!

 

朝から山に行っていた私は大あくびをしながら城下町を歩く。ほんとは前みたいに偶然を装って迅くんと団子牛乳飲みに行こうと思ったのに。

 

私が人間社会に溶け込もうとしている理由なんだけど、おばあちゃんや迅くんへの恩返しの他に、山で大妖怪になりたくないからっていうのもあるんだ。もし大妖怪になっちゃったら、あんの妖狸に日夜こき使われることになるの!それがぜぇーったいにイヤ!迅くんの家のご飯の味を知ったらもう離れられないよ!

 

それに、……猫吸いもあるし。

 

私は、あの時から猫吸いをされるのに、ハマった。あれはヤバい。お腹に迅くんの顔があるってだけでぶっ飛びそうなのに、その後になでなでされるのがなんか、その、ものすっごく気持ちよくて……。

 

あの時のなでなではいつも撫でてもらう時とはなんか、質が違うというか…。身体に電気が走るみたいな?…うーん、今まで感じたことないからわからないや。

 

そんなことを考えつつ、それとなく迅くんを探しながら歩いていると、町外れの椅子があるところにたどり着いた。……あ!

 

迅くんは桜の木の下の長椅子で横になっていた。あはは、仰向けで寝てるから身体に桜の花びらがいっぱい積もってる。

 

穏やかな顔で寝てるけど、頭が直接硬い椅子に当たってるからちょっと寝苦しそう。枕になるもの何かないかな?

 

あ、そういえば、この前妖狐さまが言ってたっけ。男に膝枕をすればイチコロじゃ!だったっけ。

 

私は椅子に腰掛け、迅くんを起こさないように気を付けながら頭を持ち上げる。そこに自分の太ももを横から入れて、迅くんの頭を乗せた。

 

おお〜、なんだろこの感じ。無防備な人が私の膝で寝てるって所がなんか良い。私はおもむろに迅くんの頭を撫でた。いつも私が撫でられているからそのお返し〜。

 

迅くんの藍色の髪は少し硬め。でも髪質がいいからサラサラで指にも引っかからない。その下から覗く整った寝顔は、普段の雰囲気とは裏腹に、子供っぽいあどけない表情で、これがまた庇護欲を刺激する。

 

そうしてしばらく撫でてたかな。私は撫でるだけには飽き足らず、頬を突いたり引っ張ったりして遊んでいると、彼が身動ぎをして、うっすらと目を開けた。ふふっ、この状況にびっくりするだろうな〜。さっ、なんて言うの?

 

「……ん、…エウルア…?」

「……………」

 

…ん〜〜〜?

 

迅くん、その雌、ダレ?

 

 

 

 






次回迅くんの運命や如何にィ!!

・影ちゃん
新しい鍛錬相手ができたとウキウキ。この日から時折配達員指名の天守閣当ての届出が出るようになった。最近、蛍に練乳を作って欲しいと頼み込んでいるらしいが、ドバドバ入れる為にダメッと断られ、今日も塵歌壺でしょんぼりしている。

・迅
知らぬ間に綺良々に色々とんでもない事をしていることを知る由もない。恐らく現在影ちゃんと戦っている時よりも大ピンチ。

・綺良々
猫吸いとかいう、最早ただの愛撫にハマっているムッツリにゃんこ。
膝枕した男から知らない女の名前が出てきて、瞳孔がどんどん丸くなっている。迅くん逃げてっ。



あと数話したら璃月モンドにも配達に行くのでお楽しみに。
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