たいっへんお待たせ致しましたああああああああ!!!(4回転捻りジャンピング土下座)
言い訳をしますと、少し原神のモチベが下がってしまいして、筆が進まず、1話書いても出来が気に入らなくて書き直す。ってことを繰り返していたひと月が過ぎようとしていまして、大急ぎと気合いで完成までこぎ着けました。
綺良々ちゃん回です。どうぞっ!
「ぅん……」
影さんとの手合わせを終え、意識が戻ってきた俺は、ゆっくりと瞼を開けた。俺の視界に、黒い2つの半球があって、思わずそちらに目が引かれた。
「迅くん?」
その向こうから声が聞こえ、綺良々と目が合う。え、この角度で目が合うって事は、俺、膝枕ーー
「わっ!ごめ「まって」」
現状を理解した俺は綺良々の膝から起きようとしたが、万力のような力の腕に抑えられ、それは叶わなかった。頭に?を浮かべながら綺良々の方を見て、俺は固まった。
綺良々の瞳孔がまん丸になっていたのだ。人間の目の中にある網膜に入る外界からの光の量を調節する瞳孔は、どの生物でも暗いところでは丸く大きく、逆に明るいところでは小さくなるものだ。
ただ、猫が瞳孔を広げる時にはそれ以外の理由がある。集中している時と、何かの感情が強く現れている時ーーー
「迅くん」
「お、おう」
「…エウルアって、誰?」
「え?」
なんで綺良々がエウルアを知ってるんだ?思わぬ質問にしつこくまとわりついていた眠気が一気に吹き飛ぶ。そんな俺を尻目に膨れっ面になった綺良々は頬を染めてそっぽを向いた。
「今、起きる時に薄目で私を見てエウルアって呟いてたから。私の知ってる人じゃないし、稲妻人の名前でもないでしょ?だから、気になって…」
あっ、まじ?俺、綺良々に膝枕されてる時に違う人の名前出てきたの?多分、寝にくい格好で寝てた俺を気遣ってくれた綺良々に対してかなり失礼なことをしてしまった。名前が出てきた人物が人物なだけに冷や汗をかく。俺は優しく綺良々の手を退けて起き上がると、座り直して彼女に頭を下げた。
「その、綺良々。悪かった、気遣ってくれた人に失礼だったよな」
「謝らないでっ。別に怒ってないから。私はその、こういう時にも名前が出る人ってどんな関係だったのかなって思っただけなの!」
そんな事を言いながらも頬は膨らんでいる。目を覚ましたときに見えたあの目からして、決して怒って無いなんて事は無いだろうなと感じた俺は、大人しく事情を話すことにした。
「エウルアは…まぁ、一言で言うなら俺が稲妻を出てた間で1番世話になった人、かな」
「世話になった?」
「そ。璃月で活動してた時に俺、ひとつやらかしてさ。逃げるようにモンドに移ったんだ。やさぐれて戦いまくってた俺が死にそうになった所を助けてくれたんだ。その後にエウルアの伝手で仙人達に弟子入りもできたし」
「そうだったんだ…。やらかした、って何があったの?」
「ん……面白くない話だけどいいか?」
エウルアの話をするなら俺の過去の最大のやらかした話は避けられない。諦めたように聞くと、俺の表情を見た綺良々は真剣な顔で頷いた。
ーーーあれは稲妻を出て半年くらい経った頃だろうか。その時の俺は神の目を授かった直後で若干…いや、かなり調子に乗っていた。
神の目を持っている冒険者はかなり少ない。それに嬉しくなった俺は雷元素を練習しながら依頼をこなして行った。冒険者協会に届けられる依頼はおつかいからヒルチャールや遺跡系の討伐などと多岐にわたり、特に討伐系は神の目を持っていたこともあって差程苦戦はしなかったことが更に俺の自信を確かな物にしていった。
そんな日々を続けていったある時、俺は1人の新人冒険者に懐かれ、一緒に行動する期間があった。名を龍斗という活発そうな雰囲気の少年で、ヒルチャールに追いかけられていた所を助けて知り合った。他界した両親が元旅人であった為、冒険者としてお金を貯めて世界を旅するのが夢だと言っていた。俺の戦う姿に魅了されたらしく、パーティを組んで欲しいと頼まれた。
こう誰かに懐かれるのにあまり経験が無かった俺は、褒めちぎってくる龍斗に心地よくなり何度か一緒に依頼を受けることとなった。
そうして行動を共にすること一月程。一緒にヒルチャールの討伐に向かうことになったのだが、問題があった。数が多すぎたのだ。報告では炎斧暴徒1に木盾2、弓矢1だったのだが、複数のアビスの水魔術師がヒルチャールの分隊を作っており数はその3倍にもなっていた。少し偵察をすればわかったことなのだが、馬鹿な俺は集落の外にいるヒルチャールの数のみで判断し、戦闘を仕掛けてしまった。
そのような事に戦闘を仕掛けた後で気が付いた俺は、真っ先に司令塔のアビスを潰すべく、我武者羅にヒルチャールを切り伏せアビスに突撃した。まだ使いこなせていない雷を纏ったせいで身体を傷付けながら霧切に雷を纏わせ、シールドを剥がした。アビスはシールドが剥がれてから貼り直すまでに時間がかかる。だからそこで一旦龍斗の方を見るべきだったのだ。周りのヒルチャールは倒したからと、慢心していた。アビスが再度シールドを張るのを恐れ、俺は全力で霧切を突き込んだ。
ーーーしかしアビスは、その突きを、水泡に閉じ込めた龍斗で防いだ。
迸る鮮血。アビスの水泡がみるみる紅く染まっていく。俺は目を見開いて目の前の自分が起こした惨状を呆然と見つめた。刀は綺麗に彼の心臓を貫き、即死させていた。その顔に張り付き、二度と変わることがない表情は、閉じ込められ何も出来ない恐怖と、付き合いが短いながらも俺に対する、信頼と、それを裏切られた、驚愕……。
……そこからは良く覚えていない。気が付いたらヒルチャールと、アビスは全滅し、俺は全身傷だらけで、周りに仮面だの地脈の枝などの、素材が沢山落ちていた。俺はせめて遺体を供養しようと、龍斗の亡骸を探したのだが。
ーーー龍斗の遺体は、多くのヒルチャールに踏み潰され、ぐちゃぐちゃになっていた。 殆ど原型は残っておらず、発見したのは母の形見だと言っていた白い槍のみ。
俺はその亡骸の前で膝から崩れ落ちると、自分の無力さに咽び泣いた。
全て俺のせいだ。俺がちゃんと偵察しなかったから、俺がちゃんと新人の方を気に掛けなかったから。俺が、油断、慢心しなければ、あいつは死ななかった。
何が神の目を授かっただ。何にも守れてないじゃないか。
…俺は人殺しだ。信頼してくれていた仲間をこの手で殺した、罪人だ。
この日、俺は自分の無力さを知った。
「ーーーって訳で、神の目貰って調子こいてた罰が下ったってことだな。その後モンドに移ってーーって綺良々?」
「……えぐっ…ぐすっ……迅、くん……たいへんだったんだねぇ…」
鼻をすする音で俯かせて話していた顔を上げると綺良々がガチ泣きしていた。慌ててハンカチを渡すと、「ありがとぉ〜」と翡翠色の瞳から流れた涙を拭い始めた。
「別にそんな泣くことねぇと思うんだけど…」
「ううん、…だって、事故とはいえ一緒にいた人を手にかけちゃったんでしょ?そんなの辛すぎるよ。その、迅くんは今、平気なの?」
気遣う様なその質問に、俺は少し考え、首を横に振った。
「平気、ではないかな。個人的に1番堪えたのは、あの後璃月に帰っても璃月に潜む脅威を事前に止めたって誰もが俺を賞賛した事なんだ。龍斗の家族はあいつ以外他界していたから、真実を言っても誰も俺を罵らなかった。……それを言われて心の奥底で安堵してしまっていた自分が心底嫌になったよ」
「…迅くん」
「今でも、たまに夢に見るし、殺したときの感触は鮮明に思い出せる。忘れたい。って思ったこともあったけど、これは俺が背負って生きるべき罪なのかなってさ。そう思わせてくれたのも彼女のおかげなんだ」
それを聞いた綺良々は少しだけ俯いてぽそりと聞き取れない位の小さな声で呟き、顔を上げると綺良々はいつもの花が咲くような笑みを浮かべた。
「話してくれてありがとっ!迅くんの過去が知れて嬉しかったよ」
「いや、こちらこそ聞いてくれてありがとな。じゃ、日も傾いて来たし、そろそろ戻「でもっ」ん?」
「ちょっと私、迅くんに言いたいことがあるの」
「な、なんでしょうか」
長椅子から立ち上がった俺の着物の裾を摘みジト目を向けてくる綺良々。
何を言われるのかと内心冷や汗を書きながら待っていると、またもや頬を膨らませ、こんなことをのたまった。
「迅くん…ちょっと女の子の知り合い多すぎない?」
「へ?」
想像よりも可愛い文句に俺は素っ頓狂な声を上げる。ぱちくりと瞬きをしながら彼女を見ていると、だって、と綺良々は続けた。
「綾華ちゃんでしょ、宵宮さんでしょ、旅人にパイモン、それにエウルアさん。伝手で璃月の仙人様に弟子入りしたって言ってたけど他にお弟子さんとかいなかったの?」
「……種族の関係で歳がかなり離れてるのと、同じくらいの歳に1人ずつ」
「性別は?」
「………2人とも女性です」
「ほらぁ!…因みになんだけど、伝手でってエウルアさんの口利きでってこと?」
「いや、エウルアの友達に璃月の法律家がいるんだよ。その人が半仙…仙獣と人のハーフで、その人の紹介で仙人達に会えたんだ」
「どうせその半仙の人も女性でしょ?」
「……ハイ」
じと〜〜っとした視線に耐え切れず目を逸し座り直す俺。
違うんです。狙ってるんじゃなくて、行く先々で関わる人に女性が多いだけなんです。これは言い訳ではありませんよ。事実を言っただけですっ(影さん構文)
「その中でも、エウルアさんが1番仲が良かったってこと?」
「あー…ま、そうだな。向こうは絶対認めないと思うけど、1番絡んでたな」
「え?認めないってどういうことなの?」
素直で活発な綺良々にはピンと来なかったらしい。
「ああ、アイツ、恩やお礼を恨みって表現するんだよ。エウルアが言う復讐を返すって意味で、外から見ると仲がいいって訳じゃないんだけど、お互い世話を焼いて焼かれてみたいな関係だった」
旧貴族の生まれで先祖の罪を背負って育ったエウルアと仲間を手にかけてしまった俺。お互いに質は違えど「罪人」みたいな認識があったから絡むようになった。
別に自分が犯した罪ではないのにそれを何食わぬ顔で背負って歩き続ける姿を見て、立ち直るきっかけを貰ったのも事実だ。
そのことや、エウルアとの馴れ初めを話すと最初は訝しげな顔で聞いていた綺良々も次第に表情を柔らかくしていき、最後には「とってもいいひとなんだね」と笑っていた。
「ーーあ、やっべ、もうこんな時間か」
「わわっ、話しすぎちゃった。もう日が沈みそうだよ」
気がついて当たりを見回すと少し暗くなってきていた。2人揃って慌てて立ち上がると並んで歩く。
最近のブームらしい俺の着物の裾を摘んで歩いている綺良々が思い出したかのように言った。
「そういえば、そろそろ国外配達が始まるよね」
「あ、俺も社長から言われた。1回璃月とモンドに行って国外配達の契約をしてもらって、2つの国に配達が行き届くようになったらスメールにも行くんだったか」
「そうそう!しかもその時の旅費は会社持ちだって!経費旅行〜!」
「つか、なんでその契約の手引きが俺なんだよ。普通社長だろ」
「なーんか、向こうから指名されたって聞いたけど?」
「えっ?マジで?」
心当たりしかねぇ。脳裏に白髪美人の七星様の笑みが浮かんだ。指名の依頼を鎖国終わったからってブッチして帰国したのを根に持ってるのか?でも七星専属で働くのは帰るまでの契約だし、俺は悪くない、絶対。
つか俺の反応でまた察せられた。まーた女かコイツ。みたいな目で見てきている。普段はにぱーっと笑う綺良々の本気のジト目はかなり効くのでやめて頂きたい。
カタカタ震える俺の反応を見て満足したのか、綺良々はふふっと笑うと裾ではなく俺の手を引いて歩いた。
「まぁ、いいや。経費旅行楽しみだし〜!それと、エウルアさんにも会わせてね?色々と話してみたいし、言いたいこともあるからねっ」
……背中に走る謎の悪寒を振り払い、俺も腕を引かれて帰路に着いた。
あ〜^味噌汁うめぇ〜。
影さんとの手合わせと綺良々による尋問の休日から一週間程。
早めに起きて霧切の素振りを済ませた俺は今日もばあちゃんが作ってくれた朝食にありついていた。
品目は白米に豆腐と油揚げ、葱と海草の味噌汁、だし巻き玉子に紺田煮という稲妻の一般家庭にしては豪勢な朝食。
ウチは、ばあちゃんが元神里家の給仕長で今でもたまに手伝いに行っている時の給金と、俺の狛荷屋の給料と冒険者時代の貯金で結構懐に余裕があり、俺が毎朝鍛錬することもあってばあちゃんが多めに作ってくれる。マジでばあちゃん様々。頭が上がらん。
それにしてもばあちゃんの作る飯はマジで美味い。外国で食べる味が強い物も嫌いではなかったが、やはり故郷の食べ慣れた食事が1番だ。やや濃いめの味付けの紺田煮の鶏肉を食べ、米をかっこみ、それを味噌汁で流し込む。そしてたまに挟む肉厚で出汁が溢れるだし巻き。控えめに言って最高です。
横を見るときららも一心不乱にねこまんまをかっ喰らっていた。どうやら今日のねこまんまは会心の出来らしく、食べる勢いがいつもよりすげぇ。
そんなこんなで食べ終わり。満足してお茶を飲んでいると、対面で箸を置いたばあちゃんが口を開いた。
「迅」
「ん?」
「あんた、彼女できたの?」
「「ぶはぁ!?」」
いきなりの爆弾発言にお茶を吹き出す俺。咳き込みが横からも聞こえたので目線をやるときららも水を吹き苦しそうにしていた。そんな俺を見てばあちゃんはうふふと笑っている。
「と、突然なんだよばあちゃん」
「いやね。この前あんた、凄く可愛い女の子と並んで歩いてるのを見かけてねぇコレじゃないのかい?」
そう言いながら小指を立てて見せるばあちゃん。その表現まだ使ってる人居たのか久しぶりに見たわ。
「違うよ、職場の先輩。狛荷屋に入った時に俺の面倒を見てくれてそのままコンビ組むことになったんだ」
「ホントかい〜?職場の先輩って距離じゃなかったよ?」
「うっ」
痛いところをつかれた。多分ばあちゃんに見られたのはココ最近の距離感バグった綺良々のことだろう。あの時はだいたい肩が付く位の感覚で歩いてたからそう見えてもおかしくはない。
「ま、なんでもいいけどね、その娘、今度家に連れてきなよ」
「はぁ!?」「ニャ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる俺。きららも驚いていたが、何故なんだろう。そんな俺に頬杖を着いたばあちゃんは言った。
「彼女じゃなくても迅が世話になってるのは事実だしね。一言お礼を言いたいだけさ。軽くでいいから連れてきな。なんなら今日でもいいよ?」
「だああ!わかったわかった。頼んでみるけど期待はしないでよ。じゃ、俺仕事行ってくる!ごちそうさん!」
「はいはい。行ってらっしゃい」
このまま話してたら色々ボロだしそうだと判断した俺は霧切を引っ掴んで逃げる様に狛荷屋へ出発した。
まさか了承してくれるとは。
仕事を終えた俺は今、紺田村の入口にいる。別に当たり前の話なのだが、イレギュラーがひとつ。
「へ、へぇ〜。ここが迅くんの住んでる所なんだー」
やけに棒読みのセリフをいいつつ辺りを見渡す職場の先輩。
狛荷屋に着いてからダメ元で頼もうとタイミングを計っていたところ、合計56回というなんかの賞を取れそうな回数のチラ見を頂戴し、思い切って頼んでみたら、なんと二つ返事で了承、帰宅時にここまで着いてきたという訳だ。
あの時の綺良々の返答のレスポンスは凄かった。「よかったら仕事終わりに家寄ってくか?ばあちゃんが綺良々と話したいって言っててさ」の半分も言い終わらないあたりで「行くッ!!」って即答してたから、内容的には前半の彼氏みたいなセリフしか伝わってないと思うんだが。
「突然誘っといてアレだけど、大丈夫だったか?いつも仕事終わりは早く帰るタイプだったろ?」
「へっ?…あぁいや、大丈夫だよ!」
綺良々は基本的に仕事が終わったら俺と一緒に帰るか、先に1人で帰る事が多い。割合で言えば後者の方が多いので、いつも何かしらの用事があるからすぐに帰っているのかと思ったけど、違うのかな?
2人で紺田村の中を歩く。綺良々は物珍しいのかその間もキョロキョロと周りを見ていた。程なくして自宅に着く。この時間なら、ばあちゃんは晩御飯の支度を始める頃。綺良々が即日で来るとは思っていなかったので当然伝えていないが多分大丈夫だろう。
「ただいま」
「コ、コンニチワ」
緊張で声が裏返っている綺良々に苦笑しながら戸を開けると、案の定ばあちゃんは料理中だった。ばあちゃんはこちらに振り向くと綺良々を見て驚いた表情を浮かべる。
「あら、もう連れてきたのかい?迅ったら気が早いねぇ」
「そんなんじゃないって。今日たまたま綺良々の予定が空いてただけだ。紹介するよ。こちらが俺の仕事の先輩で、一緒に配達している猫又の綺良々」
「は、はじめまして!」
「あらあら、いらっしゃい。うちの迅がお世話になってます」
緊張で体が固まっている綺良々がお辞儀をすると、ばあちゃんはくすくすと笑い、こちらに歩いて来ると、買い物かごを俺に手渡した。
「迅、帰ってきてすぐで悪いんだけど、丁度お塩を切らしちゃってねぇ。
ちょっと行って買ってきてくれるかい?」
「ええ!?今かよっ?」
「そうそう。綺良々ちゃんとも女同士で話したいしね、ほらさっさと言ってきな」
渋々了承して、綺良々の方を向くと彼女は直立不動のまま、目で「おいてかないでぇ」と懇願してきたが「すまんっ」と目で言うと「ふええ」と目が潤んだ。
「じゃあ、ちょっと買ってくるよ。綺良々、呼んどいてごめんな」
「う、ううん、大丈夫だよ?」
片言で虚勢を張る綺良々とくすくすと笑っているばあちゃんを尻目に俺は家を出た。
☆☆☆☆
ど、どうしよう。
迅くんが買い物に出掛けてから少し、私はまだ玄関から1歩入った状態のまま固まっていた。人間の姿でこうして玄関から入るのも、おばあちゃんに会うのも初めてで、何度も見ているはずなのに視点が違うだけで別の物に見てくるのが不思議〜。
「ほら、綺良々ちゃんも上がりな?」
「は、ハイ、オジャマシマス」
うぅ〜。緊張で声が上手く出ないよぉ。
そんな私を見て、おばあちゃんは笑いながら言った。
「なんだい、いつもここ通って家に入ってくるのに、今更、何を緊張してるんだい?」
……
………………んん?
おばあちゃんの台詞の中の聞き捨てならない部分に、私はまたもや固まる。
え?
そんな私を見て、おばあちゃんはニコニコだ。してやったりといった顔で私を見ていた。
「あっはははっ、まさか、私が気づいてないとでも思っていたのかい?」
「えええっ!?じゃあ、ホントに私が猫のきららだって……」
「そりゃもちろんだよ」
ええぇぇぇーーー!!??
えっ!?ナンデぇ!?ボロは出てないはずなのにぃ!
「いっ一体何時から……」
「1年前くらいからかねぇ。外で遊ぶ時間がすごく長くなった時期があっただろう?その時に心配して後をつけた時があったんだよ。そしたらびっくり。まさかうちの猫が人間になれるなんてねぇ」
「そっそんな前から……うぅ〜」
おばあちゃんはしょぼくれている私に近寄ると優しく抱きしめた。ふわっと香るおばあちゃんの優しい香りに猫の時に撫でられた時を想起した私はおばあちゃんを抱き締め返した。
「ごめんなさい…。ずっと黙ってて…」
「そんなこと気にしてないよ。何か理由があるのかと思っていたし、こうして直接会いに来てくれたのも、なにかの決心がついたからなんだろう?」
「う、うん。あのね、おばあちゃん。私…」
「なんだい?」
私は抱きしめられたまま、おばあちゃんの目をしっかりと見た。
「迅くんの事が、男性として好きなの。だから人間の姿で1度おばあちゃんに会ってみたくて……」
「…まぁ……!」
おばあちゃんは私を離すと優しく頭を撫でてくれる。
「ああ〜、ほんとに可愛いねこの娘は…!……全く、これに気づかないうちのバカ孫には困ったもんだよ」
「ううん。迅くんも最初は怪しんでいたけど私がはぐらかしたんだ。…迅くんには私を飼い猫扱いして欲しくなくって…その、ちゃんと女の子として見てもらいたいから…」
「ふふふ、それならしょうがないね。ほら、こんなところより、ちゃんと向こうで話をしようか」
「うんっ!」
すっかりご機嫌のおばあちゃんに手を引かれ、居間の座布団に座る。ちゃっかり自分が猫の時に座ってる座布団を出している所を見たおばあちゃんはさらに笑顔になる。
「はぁ〜。今日は嬉しいことがいっぱいだね。寿命が10年は伸びたよ」
「あははっ、おばあちゃんったら…」
私の猫舌に気を遣って冷たい麦茶を出してくれたおばあちゃんに感謝をしつつちびちびと飲んでいると、対面に座ったおばあちゃんは、それで、と口を開いた。
「それで、迅にはこの事は伝えないほうがいいのかい?」
「うん。もっと仲良くなってから私から打ち明けるつもりなんだ」
「ふーん。個人的にはもう打ち明けてもいいと思うけどねぇ」
「でも、今やっと私のことを女性として見てくれるようになってきた所だから…、今打ち明けたら私のことを猫としてしか見てくれなくなっちゃう」
最近の猫吸いの件から距離を詰めていき、迅くんはちゃんと私に反応してくれることがわかってきた。その、節操がないと思われそうだけど、私の身体を押し当てると体を固まらせる迅くんの反応が嬉しくてついついやっちゃうんだよね。
「そうなのかい?でも、この前、仕事行く前の迅が機嫌が良かったから「なにか良いことがあったのかい?」って聞いたら、可愛い人が先輩になった。仕事が楽しみだ。って言ってたよ?」
「ふええええ!?」
迅くんが私を可愛いってぇ!?そんなこと、私に直接言ってくれても良いじゃん!!
「後はこの前、迅が綺良々ちゃんを変わった撫で方していた次の日とか、「ばあちゃんヤバいどうしよう。先輩が可愛いんだけど」って真顔で言ってきて頭を疑った時もあったねぇ」
アレめちゃくちゃ効いてたぁーー!!
えへへへへ〜。なんだぁ、優しい顔でなでなでしてくれたから嫌では無いんだらうなって思ってたけどちゃんと可愛いって思ってくれてたんだぁ!嬉しいっ!
「だからどうだい?この後打ち明けるってのは?」
なんか今日打ち明けても良い様な気がしてきた…!今言ったらどんな反応するのかな?
私が打ち明ける。
↓
えっマジでか!?つーことは今まで膝に乗せて撫でていたのも、一緒に寝てたのも綺良々って事かっ!?……じゃあ俺は綺良々に猫吸いとか言う卑猥な事を堂々と………
うにゃああああああああ!!!
猫吸い忘れてたぁ!どうしよう、急に恥ずかしくなってきたよぉ…。
「…やっぱりもうちょっと後にシマス…」
うん!今日はやめとこう!また後日!あとちょっとだけ仲良くなってから打ち明けよう!迅くんが私のことをちゃんと女として見てくれているのはわかったし!
私の決断()にあら、残念と返したおばあちゃんは私をマジマジと見ると、顔を綻ばせた。
「ん?どうしたのおばあちゃん?」
「いやね、こうして人になった猫がお家で座ってるって状況が夢みたいでねぇ。猫又って言ってたけど、元からそうだったのかい?」
「ううん。元々はただの猫だったよ?何年か前に妖力に目覚めて尻尾が2本になって猫又って妖怪になったんだ。本当は山に帰らなきゃいけないけど、この家にいたくて狛荷屋に入ったの」
私とおばあちゃんはこの後も沢山話した。少しして買い物から迅くんが帰ってきて、私とおばあちゃんの打ち解けように驚いていたのが面白かったなぁ。
その後は3人で夕飯を食べた。おばあちゃんの作る人用のご飯は初めて食べたけどめちゃくちゃ美味しかったし。私用にお刺身も作ってくれて、とっても嬉しかった!
食べた後は一緒にお皿を洗い、迅くんとはお別れの形として玄関から出るとすぐに猫になってまだ玄関から入る。それを見たおばあちゃんと私はおかしくてくすくすと笑いあった。
私は居間を通って縁側に座ってる迅くんの膝に飛び込むと、迅くんは優しく撫で撫でをしてくれた。それが気持ち良くて目を細めながら喉を鳴らす。
とりあえず、好きな人の家族には挨拶出来た!これでエウルアさんよりは1歩リードかな。
エウルアさん。迅くんから話を聞いた限り、相当仲がいいんだろうな。迅が恩を感じている相手だし、何度も膝枕してあげるとか、絶対迅くんのこと良く見てる人だよ!
モンドに行ったら会って色々と話してみたいな。好きな人の話で盛り上がるとか1度やってみたいもん!
撫で撫での後は一緒の布団に入って一緒に寝る。ふふ、これができるのも飼い猫の強みよぉ、ぜったいにまけないんだからぁ(激眠)。
こうして私は、大きな一歩を踏み出したのだった。
・綺良々
エウルアに対抗心剥き出し。実際飼い猫ポジは爆アドだね
・エウルア
迅の過去の恩人。多分最大のライバル。モンド編で登場予定。
お次は宵宮回です。2週間以内には投稿しますので、お楽しみに。