■ ■
幻想郷の住人達にとって、神鳥谷天地は不思議な存在だった。
突如としてこの世界に現れた彼を、最初はまた八雲紫が連れて来た外の世界の人間だろうと思っていた。
だが、その八雲紫は彼の事を知らないと言う。スキマを開いた覚えも全く無いと。
だから、まぁ―――当然と言うべきか。侵入者にも相応しい彼を、その世界の全員が殺そうとした。
というか、実際に殺した。だが―――不思議な事に、全員が返り討ちにあった。
全員が思う―――今でも思う。
彼は、神鳥谷天地は―――不思議な存在だと。
「カチカチカチカチ」
「それで喋んな、普通に喋れ。お前は普通に喋れるでしょ、他の奴らと違って―――“モノホン”なんだし」
「カチカチ」
「頑なだな、お前は……。まぁ、分からん訳じゃないけどさ…でも読者側は困るんだよなー、カチカチだけだと。ん、俺が翻訳すれば良いって? 面倒なんだが…あー、はいはい。分かりましたよ、翻訳すりゃ良いのね」
『言葉を理解する程度の能力』―――それが、神鳥谷天地の能力。
という訳では、勿論ない。その程度の能力では、本当に『その程度』の能力では、この世界を生き抜く事など出来ない。
この異形ばかりの狂った世界で生きていく事など、出来る訳がない。
彼は転生者だ。もしくは、転位者と言った所だろうか。
此処とは別の『位相』からこの『位相』に転がってきた漂流物。此処とは別の『世界』からこの『世界』に転生してきた異物。
そんな彼は、一つの能力を持ってこの世界に転生し、『多くの能力』を授かって、転移していた。
「“本当に便利ね、『ありとあらゆる能力を扱う程度の能力』。なんでも出来るじゃない”」
「まぁな。とはいえ、この『異形郷』じゃ、俺の能力もめっちゃ強いって訳でもないのが何ともな…何回死んだっけ?」
「“昨日、レミリアに殺されたから10回を達成したわ”」
「まだ10回か、ならマシだな。いや、死んだ回数が二桁も行ってる時点でアウトか…ヤベェな、感覚が可怪しくなってる」
「“良いじゃない、貴方もこの世界に染まってきた証拠だわ”」
「そんな歓迎は受けたくなかったよ…それに、この世界に染まるなんて御免だ」
廃れた神社の縁側から立ち上がり、眩しい太陽を見上げて顔を顰める。
東方Project。その世界への転生を望んだのに―――その結果は、東方Project二次創作の中で知る限りでは最もグロテスクかつ狂気的な世界『東方異形郷』の世界。
まだ『第六幻想侵攻』が始まってこそいないが、いつかは原作の様に多くの者達が死ぬ事になる。
本来の世界が、壊される事となってしまう。
(そんなの、許せる訳がない。俺が好きなのは原作だ、異形郷じゃない…)
原作が好きだから転生先に選んだんだ。皆が好きだから、転生を選んだんだ。
この世界は、そうじゃない。愛した皆が、大好きな皆が、コイツ等に無残に殺されていく様が流れ続ける地獄だ。
「俺は、味方じゃない」
「“そうね。知ってるわ”」
「いつか、お前達を裏切る」
「“その時は、戦うだけよ”」
「ハッ…よく言うぜ―――元“楽園の素敵な巫女”さんがよ」