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実を言うと、神鳥谷天地には家という家が無い。
異形郷に生まれ落ちた時から彼には家がなく、それは今日に至るまで全く変わっていない。
いや、家が無いというのは語弊があるかもしれない。正確に言うのであれば、有ったという方が正しい。
もしくは、作っていたというのも正しいか。
彼は確かに家を作っていた。だが―――作る度、作る度に異形達によって家が跡形もなく粉々にされてしまうのである。
ちなみに、異形には何ら悪意がない。ただ単純に、仲の良い友達の家へと遊びに来たよー程度の意識である。
だが、家を壊された当の本人としては知った事ではない。全身全霊と逆鱗憤怒に身を焦がして殲滅し尽くすのみである。
だが、それが終わった後には虚しさが残るのだ。せっかく作った家は、もう二度と帰ってこないのだという虚無感が。
その為、神鳥谷天地には住居という住居が存在しないのである。可哀想にね。
「遂に天にすら嗤われた…あの天人くずれめ、八つ当たりでぶち殺すか?」
「君は物騒な発言しかしないの?」
「いや、異形共には欠片程の情けも掛けてやる義理ないので。大嫌いな奴らに遠慮する必要ある?」
「その割りには、皆を生かしている気がするけど」
「生かしてるんじゃなくて、彼奴等がしぶといのッ! マリッサなんてその代表だよ、何度ぶち殺したと思ってんの!? 殺す度に生き返ってくるんだから…あぁ気持ち悪い。同時に腹が立つ。はよ死ねよ」
「本当に口が悪いね。」
「いや、幻葬狂のカス共に比べれば幾らかマシでしょ。この程度の愚痴は序の口だよ、序の口。彼奴等への憎悪や嫌悪なんて、まだまだ有り余る」
「…君のそれは、愛憎の類に感じるけどね、あたいは」
「あーあ、チルノくんまでそういう事を言うんだねー! ほんっとに勘弁してくれよ、彼奴等に欠片の愛情友情なんざ抱くならそれこそ自殺しますけど!? まぁ、自殺したら呪いにでもなって異形郷諸共アイツ等全員を祟り殺すけど」
「死んで尚も憎むんだね…」
若干、引き気味になるチルノ博士。しかし、神鳥谷天地の目的は変わらない。
必ず殺す。必ず滅ぼす。異形郷と、異形郷に存在する全ての異形を悉く。
第三次幻想侵攻―――即ち、本編での残虐非道な地獄が繰り広げられるまでの日数は一切として分からない。
だが、もし行動に移すのであれば必ず何らかの動きがある。異形魔理沙や異形霊夢などが姿を表さなかったなら、それが証拠となる。
だが、それでは遅い。そうなる前に、準備を進めてあちら側へと行かなければならない。
そして、その準備の為に、彼女を仲間として引き入れたのだ。
「まぁ、それは兎も角として。まずは俺の目的云々について詳しく話すか。そこが分からないと意味ないし」
「…異形郷と異形達の絶滅が、君の目的じゃないの?」
「間違ってはいない。けど、それだけじゃないんだなー」
「……」
「異形郷の破壊、異形達の絶滅は勿論だ。これは絶対に外せない。決定事項って言うべきか。で、その次の目的も決定事項なんだけど―――俺が愛する幻想郷へと移住する事」
「……え?」
腑抜けた声が漏れる。
予想していた様な大きな目的から逸れた、実に小さなその目的に、チルノは面食らった。
地面に崩れ落ち、ばんばんと地面を叩きながら、神鳥谷天地は想いを叫ぶ。
「本当に、ほんっっっとに早く移動したい! 此処で過ごしてきた最悪の日々は、あの世界でだけ癒やされる! つか癒やされたい! レイマリ見たいしレミ咲も見たいんだよ! キュンキュンしたいんだわ! 此処は化け物と馬鹿しかいねぇしな! キュンはおろかヒュッとするばっかでクソみたいだ!」
「………えっと、それだけ?」
「いや? あと一個あるよ」
「…あんまり期待はしないでおくよ」
「期待される様な答えなんて持ってませんよー。馬鹿みたいに単純で、クソみたいに面倒な事だ――――――
異形郷や幻葬狂みたいな
顔を上げ、幻葬狂の船で霊夢達に見せた様な無表情を浮かべて、宣言する。
仮に、異形郷を壊す事が出来たとしよう。異形達全員を完全に殺害し、絶滅させたとしよう。
そうすれば、後は幻想郷へと移動して暮らしていけば幸せだろう。神鳥谷天地としての望みを果たす事が出来るだろう。
だが―――その平和が、常に続くのだろうか?
異形郷や幻葬狂は、様々な技術で以て別の幻想郷へと渡った。
異形郷が幻想郷を滅ぼす侵攻が、第三次幻想侵攻と言われていた。それはつまり、第一次と第二次があったという事である。
つまり、彼女達の手によって二つの幻想郷が滅ぼされたという事。
幻想郷へと渡る力。それを持つのが異形郷だけであるという確証が、果たしてあるだろうか?
否、否だ。可能性がゼロであるなど誰にも言い切れない。1%であろうと、そこには必ず可能性がある。
ならば―――その可能性がある幻想郷を、他の幻想郷を滅ぼそうとする幻想郷を滅ぼす。
そうすれば、彼が暮らす幻想郷が何者かに侵入され、愛する
「―――それは」
「憎たらしいさ。此処の奴らを嫌う俺が、此処みたいな事をしようとしてる。だが、あの世界の皆が誰かに踏みにじられるのはマジで嫌なんだ。だから、ぶっ壊してやるんだよ」
「…随分と頭が回るね。一つの憎しみに囚われて、周りが見えてないとばかり思ってたけど」
「『法性と無明を操る程度の能力』で頭フル回転させた結果ね。俺は別に頭良い訳じゃないから、これ使うと頭痛くなるけど。ま、それは兎も角として。これが俺の計画ね」
これからが楽しくなるな、チルノ。