なんで幻想郷じゃなくて異形郷なの?   作:全智一皆

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今章、完。


第十話「知っているものを作り出す程度の能力」

■  ■

「第一回幻想破壊に参加してほしいのですけど、どうです?」

「嫌だね。誰が参加するかよ」

 

 異形郷の住人(本人は決して認めたがらない)である神鳥谷天地は、幻想破壊に参加する様に言い伝えに来た射命丸文に対して悪態をついていた。

 幻想破壊。それは、東方異形郷において登場した言葉であり、彼女達が行ってきた許されざる悪行。

 幻想破壊とは文字通り、『幻想郷を破壊する』事。彼女は原作を含めて四回もの幻想破壊を行っており、今回の誘いは記念すべき第一回のものである。

 だが、それを記念すべきとしているのは異形達のみであり、東方Projectという原作を愛する彼からしてみれば、それは何が何でも防ぐべき行動だ。

 

「そこを何とか!」

「嫌だわ。つか何故に俺? 霊夢の野郎とかマリッサとか色々と居るだろ。なんで俺を選ぶ?」

「天地さんの能力は非常に強力ですから。第一回幻想破壊の初手は、天地さんの能力を使って混乱を招きたいとの事で」

「うん可怪しいね? もうその言い方だと、明らかに俺が参加するの確定してるよね? 絶対に参加しないからね?」

「いやいやいや、そんな御冗談を」

「俺がお前等に冗談言った事あるか? 基本的にマジでやってる筈なんだが、もといぶっ殺してるんだが」

 

 神鳥谷天地の異形嫌いは、まさしく底抜け。あるいは人並み外れていると言っても良いだろう。

 彼はこの異形郷に来てから今の今まで、異形という存在に対して容赦や躊躇をした事は一切としてない。そう、一切としてだ。

 初対面から自分を殺そうと、けらけら笑いながら襲い掛かってきた異形に対して容赦や躊躇などする筈がない、というのは確かな意見だ。

 だが、注目すべきはそこではない。最も注目すべきなのはそれまで彼は、一度足りとも自らの手による生物の殺害という悪行を犯した事がない、にも関わらず一切の容赦なく異形という生物を殺す事が出来たという点だ。

 異形という特定の生物に対して、人間という感情ある生物でありながら文字通り一切の容赦がないというそれが、どれだけ異常なものであるか。

 その異常性もまた、八雲紫が先に彼を幻想破壊のメンバーに加えていた理由である。

 

「ちなみに、決めたのは紫様です」

「あんっっっのクソババアがァ! 死んで尚も俺に対する嫌がらせを止めない辺り、マジで終わってるわ! よーし決めた、さらに意思を固めました! 私、神鳥谷天地は絶対に幻想破壊には参加致しません! だから帰れ! 帰らなかったら焼鳥にしてミスティアの店の出し物にしてやる!」

「やや、それはご勘弁をー!」

「なら帰れ! んでもってその話題持って二度と来んな!」

「じゃあ別の話題なら良いんですか?」

「ポジティブかよ。ダメだわ、二度と来んな阿呆鴉」

 

 酷いですねー、と言いながら文は渋るでもなく、普通に山へと帰っていった。

 あ、普通に帰ってくれるのねと天地はそれを意外に思った。

 が、それはそれとして。今は深く考えるべき事がある。

 

(遂に幻想破壊がスタートか。これが第一回で…東方異形郷の方は確か第六回か。その前の第三回幻想破壊が、かなり激しい戦いだったのは異形のアリスの言葉で分かる。一番気になるのは『最終焉』だが…あれは東方異形郷でも全く説明されてないからな。一応の考察を立ててはいるが…あくまで俺の予測でしかないからな。おそらくは異形共が言う『地雷』が鍵になる)

 

(それが的を得ているかどうかは全く分からない状態だし…だがまぁ、異形共の言葉から鑑みれば彼奴等にとって『最終焉』は全く好ましいものではないのは確かだ。デンカの野郎が覚醒チルノと対峙した時に第三回幻想破壊の時と同じと言ってたし、ゆうかりんの時は異形のアリスが“これでは最終焉に辿り着いてしまうな”って言い方からして…うん、やっぱ『最終焉』は異形共にとっての最悪の事態って訳か。)

 

(いや、そこら辺も別に確定ではないか。だとしても、最悪の事態でなくとも、彼奴等が困る事であるのは確かだ。地雷を踏み抜いた事でパワーアップした幻想郷の存在、もしくは元から強力だった奴等がおそらくは『最終焉』に辿り着くんだろうな。多分、第三回幻想破壊は結果的には成功だったんだろうが、殆ど失敗みたいなもんだったんだろうな。『最終焉』を経験したのもそんくらいか?)

 

(デンカの野郎は焦ってたが、異形のアリスは随分と余裕だった…一回経験したからか? それとも何か対処法があるからなのか…或いは、あの魔おうー☆様が流れを握っていたからか? マリッサも『運命力』は恐ろしいって言ってたからな。それを信頼しての余裕だったのかね…チッ、色々と分からない事が多過ぎるな。ただまぁ、幻想破壊が行われる事を知れたのはラッキーだな、これでようやく俺らしく活動が出来る)

 

 神鳥谷天地は転生者。彼は東方異形郷という物語の半分を知っている有識者だ。

 だが、東方異形郷は完結はされていないし、重要であろう単語も細かくは語られていない。つまり、しっかりとした設定が説明されていないのだ。

 故に、その殆どが彼の考察と予測ばかりであり、幻想破壊に関しても最終的な目的こそ分かるがそれに至るまでの原因が不可解だ。

 幻想破壊の目的は、その幻想郷を破壊する事。だが、気になるのは幻想郷を“完全に”破壊する理由にこそある。

 ただ幻想郷を破壊するだけならば、博麗の巫女と博麗神社を破壊してしまえば、それだけで幻想郷は崩壊する。幻想と現実の境界線が無くなり、その世界を保てなくなってしまうのだから。

 しかし、異形達は幻想郷を完膚なきまでに蹂躙していた。その幻想郷を、楽園を地獄へと変貌させていた。

 それはつまり、単なる破壊では収まらない何かがあるという事だ。それがお前達の世界を壊したいというだけの理由か、八つ当たりなのかは全く分からない。

 彼としては、幻想郷を壊そうとする異形の思考など理解したくもないのだが。

 そんな彼自身の目的の一つが、異形達と似ているというのは何とも皮肉なものである。

 

「さて。それじゃ、さっそく準備するか。ゲストのチルノさーん?」

「普通に呼びなよ。なに、今から妨害工作の準備でもするの?」

「その通り。色々と作ろうと思ってね」

「作る…となると、君の武器かい?」

「そんなところ。異形にも有効な武器があるから、それを作るつもり」

「異形にも有効な武器…レーザー砲とか?」

「パイルだけど」

「…はい?」

「やっぱ化け物に放つは太っいパイルバンカーでしょ。とっつきとっつき、とっつきは全てを解決すんだよ。パイルがあれば、コジマも獣もコーラルも怖くないね」

 

 パイルバンカー。それは巨大な金属製の槍、あるいは杭を火薬や電磁力などにより高速射出し、敵の装甲を撃ち抜く近接戦闘装備である。

 基本的にはロボットなどの巨大兵器が装備する武装なのだが、人でも扱える程度の大きさのモノも存在する。

 そう、某企業のゲームにも度々登場するアレである。

 今回の神鳥谷天地の能力―――『知っているものを作り出す程度の能力』があれば、それすらも造る事が出来るのだ。

 

「どうしよっかなー、オーバードウェポンみたいに改造加えようかな? そうでもしないと、あのクソ鳥と腐れ竹野郎に効果ねぇし」

「…なんで態々、自分から近付く様な武器を選ぶんだい?」

「そりゃ…浪漫がありますから。え、パイルって格好良くない?」

 

 何を当たり前な事を、みたいな表情を浮かべる天地。男とはそういうものである。

 チルノにはよく分からないようだ。

 

「あたいにはよく分からないし…それ、周りに被害が出る代物じゃないの? 幻想郷で使ったら、人里とかはどうなるのさ」

「あっ…それはいかんな。阿求や小鈴、慧音先生に被害が出る様な事はあってはダメだ、俺が耐えられん。じゃあ、やっぱブラボみたいな感じでやるかー。ちょこっとACみたいな細工もして」

「結局、近付く事に変わりはないんだね…」

「この手で葬らないと、殺した気がしないからね。アニメみたいに魔法とかビームで“やったか!?”みたいなフラグ立てたくないし。あ、そうだ。あの船また作るから、操縦よろしくね」

「…もう君の言葉にはいちいち驚かないよ。分かった、任せて」

「ありがたい。さて、じゃあ―――こっちも記念すべき一回目だ、全力で邪魔してやるよ」

 

 第一回幻想破壊―――異形郷。その数、不明。

 第一回幻想防衛―――神鳥谷勢力。その数、僅か二人。

 数で言えば差は明らかで、しかしその結果が全くとして分からない、両者が必ず死する攻防戦が幕を上げる。




次章、第一回幻想防衛。
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