第十一話「一から清浄までを操る程度の能力」
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それは非情なくらい突然だった。
何の前触れもなく、ある日ヤツらは幻想郷に現れた。
―――その直後だった。
その“人”が来てくれたのは。
「きゃははははは!!!!!!!!!!!」
「あぁ、最近は聞いてなかったから忘れてたよ―――本当にうるっせぇんだよ、このクソ野郎どもォォォォォォォォォぉぉッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
幻想郷、魔法の森。その中心部にて。
木々が切り倒され、其処に住む妖精達が無惨に殺されそうになっていた瞬間に、神鳥谷天地はその姿を現した。
いや、神鳥谷天地はその姿を晒してはいない。より正確に言うのであれば、その場に居る誰一人として神鳥谷天地という人間の存在を目視する事が出来ていない。
それが何故か? 答えは単純―――視界に収めることはおろか、認識する事が出来ない程の速度で彼が動いたからだ。
清浄。それは数単位における最小、刹那の瞬間すらも超越した最速瞬時の時間。
十のマイナス二一。十垓分の一の速度。蓬来山輝夜の能力『永遠と須臾を操る能力』における須臾よりも小さく速い、誰にも認識されない寸分の時間。
神鳥谷天地の能力―――『一から清浄までを操る程度の能力』によって可能とされる、認識不可能な完成された瞬速による打撃。
それは痛みすらも感じさせる事はなく、されど音すら置き去りとする速度から放たれる拳は、確かに妖精の体を殴りつけ、そして穿いた。
『自然破壊による休みの阻止、そして破壊された自然による有利環境の再臨。異形郷の妖精がやる事は大して変わらねぇのは読み通りだ』
「流石は天才。他の奴らの探知は出来た?」
『今の所は問題ないよ。博麗神社には博麗霊夢、紅魔館には霧雨魔理沙、迷いの竹林には上白沢慧音、妖怪の山には秋の神姉妹、地霊殿には星熊勇儀だ』
「やっぱりか。面倒なのはマリッサとロボ勇儀、となると―――此処は最低でも三秒勝負だな。不安が無くもないが…幻想郷を守る為だ、んなもん気にしてらんねぇよ―――なッ!」
清浄を身に纏い、駆け抜ける。瞬きする暇すら与えず、体感にして一秒にも満たない時間で妖精の顔面へと蹴りを上げる。
―――0秒。妖精の顔面が崩れる。次へと移る。
―――0.1秒。拳を振り抜く。妖精の体が弾け飛ぶ。次へと移る。
―――0.4秒。両手を振るう。妖精の手足が千切れ、顔面が潰れる。次へと移る。
―――0.7秒。妖精の半数が死ぬ。まだ終わらない。
―――1.0秒。妖精を掴み、剣の代わりに振り回す。計三体が欠片となって宙を舞う。
―――1.3秒。パイルを構え、猛進する。計六体が粉々に爆ぜる。
―――1.6秒。魔法の森を駆け抜ける。異形妖精を潰す。幻想郷の妖精達の安全を確認する。
―――1.9秒。木を登り、空へと駆け上がる。戦闘機の形をした異形を目視する。全力を掛ける。
―――観測不能。誰に認識される事もなく、時間が立つ事を認識される事すらもさせず、神鳥谷天地は異形の河城にとりを撃滅した。
「うし。んでもって、後は…異形妖精の対処か」
『彼女達は不死身なんだろう? どうするつもりだい?』
「休み時間を無量大数にする」
『何その小学生みたいな字面…』
「言わんでくださいよ、自分でも気にしてんだから! えっと、簡単に言うと、俺の能力を使って彼奴等の一回休みの時間をほぼ無限まで引き伸ばすって感じ」
妖精とは、自然環境から発生する一種の概念的存在。彼女は皆等しく完全に死ぬ事はなく、『一回休み』というシステムによって少し時間が経てば死んでも蘇る。
だが、それは逆に言えば、自然環境が完全に壊れてしまえば、自然環境から発生した妖精という存在は生きていられないという事でもある。
その点に異形郷の住人達は目をつけ、異形の妖精達がその幻想郷の自然を破壊する事によって妖精達の不死性を完全に省略した。
が―――この神鳥谷天地、もう既にその対処法も考案済みである。
『なるほど。…でもそれなら、十六夜咲夜の能力でも良かったんじゃないの?』
「あれは咲夜さんが使うから良いのであって、俺が使っていい能力じゃないんです!」
『君の原作愛ってやつは、本当に面倒だよね』
「うるせぇよ! こだわりがあると言っていただきたいね!」
『はいはい。それじゃあ、さっさとやって終わらせて。早く次に移らないと危ないよ』
「…それもそうだな。早く行かないと皆が危ないし」
惨状のまま地に伏せる異形の妖精達。神鳥谷天地はそれらを無視し、下から自分を見上げる妖精達の方を見る。
手足にある傷。頬にある傷。涙が流れた跡。
それらを見るだけで、心臓に針が刺された様な痛みが走る。
「……(もっと早く助けられなくて)ごめんな」
異形の妖精共の休み時間を無限に至るまで引き伸ばし、同時に自然にもそれらを付与してから、神鳥谷天地は瞬時に博麗神社へと向かう。
その謝罪を、異形妖精達が自分達に対するものであると勘違いした事を、神鳥谷天地は知る由もなかった。