なんで幻想郷じゃなくて異形郷なの?   作:全智一皆

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第十二章「価値を決める程度の能力/ありとあらゆるものを焼き尽くす程度の能力」

 

 

■  ■

 命は平等だと、誰もが言う。

 命に差異はなく、全てが等しく尊く美しいものであり、失って良い命などこの世には無いと。

 だが、神鳥谷天地は「そんなことは絶対にない」と断言する。

 

 命にも無価値がある。命には差別がある。全ての命が、等しく尊く美しいものである筈がない。

 醜く穢らわしい命もある。決して許してはならない、隔絶せねばならない命が、この世界には有る。

 異形。ただ平穏を荒らすだけの無価値な存在。存在するだけで最悪をもたらす危険物。

 故に、神鳥谷天地は命に『価値』を付ける。異形という存在は安いと断定する。

 異形の命は無価値であると断言し、その醜く穢らわしい埃を振り払う様に消し去る。

 そこには躊躇も容赦も存在しない。憎悪と嫌悪を煮え滾らせる彼にとって、異形という存在は誰もが等しく『無価値』な存在でしかないのだ。

 故に。

 

「死ねマリッサァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 悪意だけが籠もった怒声と共に、パァンッッッ!!! と、魔法使いの体が弾け飛ぶ。

 此処は妖怪の山、その麓。現在進行系で、神鳥谷天地と異形の魔理沙が戦っている場所である。

 

「くク苦…その程度じゃ、俺様は死なネぇ是?」

「相変わらず腹の立つ不死性だな、あ゛ぁ゛!?」

「ソウ声を阿良げるなよ、耳が痛異ぜ」

「気遣う必要なんざねぇなッ!」

 

 死合が始まる。人間と異形の殺し合いが。

 ボキボキボキボキッッッ!!!! と肉々しい音と共に巨腕と化した魔女の腕が、その大きさに似合わぬ速さで韋駄天の如く神鳥谷天地へ駆け抜ける。

 が、意味はない。神鳥谷天地はその巨腕を蹴り上げ、宙へと捨てる。

 『価値を決める程度の能力』―――その能力の強さは、純子の『純化する程度の能力』に比肩する。

 価値があるか、価値がないか。そのどちらかしか決められないが、しかし、そのどちらかを決められる事がそもそも強力なのだ。

 価値があると定められたものは、そう簡単には壊れない。何故なら価値のあるものは厳重に保管され、守護されるものであるからだ。

 だが、その逆に価値がないと定められたものは簡単に壊れる。何故なら価値のないものは基本的には捨てられる運命にあるからだ。

 価値がない事とは意味がない事と同義。価値はないと決められた命には、強さなんて大層なものは存在しない。

 ただ脆いという悲しい現実だけが、その体に残るのだ。

 故に、魔法使いの体も脆い。それこそデコピン一つで弾け飛ぶ程に脆い。

 だが―――その程度でやられるくらいなら、彼女は最強の魔法使いを名乗ってはいない。

 

「『大現実付き』! 価値がなかった事を『ある』事にした!」

「球磨川先輩のスキルを真似てんじゃねぇぞ、クソキノコッッッッッッ!!!!」

「アハハ、亜刃派羽!!! 矢張りお前と多々かうのは樂しいゼ!」

「死ねッ!」

 

 突如として、その空間に戦車が顕現する。本来ならば其処には存在しない筈の物体が、虚空から取り出された。

 砲塔を握り締め、その大きな車体を振り上げ、魔法使いは人間を叩き潰す様に容赦なく振り下ろす。

 それは幻想郷の住人であっても、決して容易には受け止められない重撃。

 それを受けるのが普通の人間であるなら、内蔵ごとぺしゃんこになって血潮で地面を染め上げることだろう。

 そんな凶器が、遠慮なしに振り下ろされたのだ。

 ガゴンッッッ!!!! と、戦車が人間を叩く。が、人間が内蔵ごとぺしゃんこになって死ぬ事はなく、

 

「痛ってぇ―――なぁッッッ!!!!」

 

 両腕でそれを受け止め、枕を投げるかの如く呆気なく、それを握っていた魔法使いごと彼方へと放り投げた。

 価値のないもの。そう言われると、皆は何を思い浮かべるだろうか?

 道端にある石ころ?

 使い捨てのティッシュ?

 家の隅の埃?

 中身のないペットボトル?

 ゴミ?

 そのどちらもが、価値のないものと言われれば納得出来るものだろう。

 一言で価値のないもの、と片付けられるものはかなり多く、想像しやすいものばかりだ。

 この能力によって決められた価値のないものは、それらの様に扱う事が出来る。

 つまり―――能力によって価値がないと定められた存在は、道端の石ころの様に蹴飛ばす事は出来るし、使い捨てのティッシュの様に捨てられるし、家の隅の埃の様に掃除出来るし、中身のないペットボトルやそこらのゴミの様に捨てる事が出来るのだ。

 

「高く飛んだなァ、ホームランか?」

「無い余★」

 

 吹き飛んだ筈の魔法使いは、一瞬にして彼の眼前に現れる。

 うんざりとした空気を包み隠さず、神鳥谷天地はチッと舌を打つ。

 

「ですよねぇ…マジで面倒だよ、お前」

「褒meるなよ、殺死ちゃうゾ!」

「やってみろよ、やれるもんならなァッ!」

 

 口こそ平常。だが、神鳥谷天地の内心は決して穏やかなものではなかった。

 異形一人に時間を掛けていれば、他の被害が広がる。

 何より相手が悪い。異形の霧雨魔理沙は異形郷に存在する異形達の中でも極めて厄介かつ強力な異形。

 その不死性もまた厄介。それこそ、老いることも死ぬこともない程度の能力を持つ藤原妹紅に匹敵する。

 命を価値のないものと定めて尚、魔法使いは蘇るのだ。

 

(どのみち、この能力じゃ決定打に欠けるな…とはいえ、マリッサを抑えられる能力なのも確か…滅光魔法の一つでも使えれば楽なんだが…はぁ。仕方ない、一か八か、“バグ”試してみるか―――)

 

 東方Projectという作品に長く触れてきた彼だが、そんな彼も『能力』について完全に理解している訳ではない。

 程度の能力と称されるその力は、本当にその程度のものから程度という言葉では言い表せないものまで幅広く存在する。

 東方Projectという世界において、一つの肉体に幾つもの能力を持っている人物は居ない。

 故に、仮に複数の能力を持っている存在が居たらと想像してみると、一つの疑問が生み出される。

 

 一つの能力を別の能力に切り替えた時、その一つの能力の効果は消えるのか、それとも残るのか?

 例えば、八雲紫の『境界を操る程度の能力』。彼女はその能力によって『スキマ』と呼ばれる境界の裂け目を作り出す事が出来る。

 その『スキマ』は、基本的には一度開けば彼女の意思ですぐに閉ざされる。

 だが、稀にスキマは閉まらず、その空間に開かれたままの状態になっている時がある。

 東方の二次創作においては、そういったスキマに偶然入る事で『幻想入り』を果たすものが殆どだ。

 ここで問題なのは、能力によって作り出されたスキマは能力を使用していない状態になっても消えないという事だ。

 一度作り出されたスキマは、彼女の意思によって閉めない限り消える事はない。能力を使用していない状態に在っても、スキマは消えない。

 それが何を意味するのかと言うと、能力を使って作り出されたモノは、能力を使わない状態になっても自然的に消滅する事はないという事だ。

 故に、神鳥谷天地は考えた―――魔法使いの命は、もう既に『価値のないもの』と定められたのだから、この能力から別の能力に切り替えてもその効力は失われないのではないか? と。

 ゲームにおけるバグ技。複数の能力を持っている者のみに許される技術。

 神鳥谷天地は、即断即決で瞬時に能力を発動し、すぐに別の能力へと切り替える。

 

「その魂は無価値。薪にもなれない灰燼―――さっさと燃え尽きろッッッ!!!!」

 

 黒い炎が、龍を象って地を翔ける。

 『ありとあらゆるものを焼き尽くす程度の能力』―――ただ燃やすのではなく、燃え滓すらも残さず焼き尽くすという一点のみの力。

 他者の命すらも焼き尽くす黒い炎。原作の藤原妹紅や異形の藤原妹紅が扱う炎よりもさらに上を行く、己が命すらも焼き尽くす死の炎。

 無価値と断定された魔法使いの魂を、黒い炎が焼き尽くす。

 

「篤いねぇい…そぅれがお魔えの選択か?」

「死ね。何も喋らず、燃えて死ね。」

「最後ま出ツンデレ」

「―――喋るなつったろ」

 

 ボウッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 炎が天を煽る。肉体と魂が焼き尽くされる。

 

「……これで、面倒な奴が一人消えた」

 

 清々しい笑顔を浮かべて、神鳥谷天地は先を急ぐ。




―――『大現実付き』
そこに『有る』ものは、絶対にその存在を否定することは出来ない。

「甘ぇよ。だがその甜さ、嫌いじゃにゃいぞ!」
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