なんで幻想郷じゃなくて異形郷なの?   作:全智一皆

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第十三話「血液を操る程度の能力」

 

■  ■

 神鳥谷天地は、この戦いにおいて圧倒的に不利な縛りを己に課せている。

 『幻想郷の住人を誰一人として殺させない』―――そんな、達成など出来るかと叫びたくなったしまう程の困難極まりない縛りを。

 幻想郷の住人よりも基本的スペックが上である異形を相手にしながら、主要人物以外の存在すら守ろうなどという行為は、はっきり言ってしまえば無駄でしかない。

 だが、神鳥谷天地はそれを承知で、その達成困難な縛りを破らずに撃退してみせようと尽力している。

 彼は決して、『東方Projectの主要人物』という特定群のみを愛しているという訳ではない。

 彼は、『東方Project』という作品そのものを愛し、その東方Projectに登場するキャラクターの全員をこよなく愛している。

 原作は勿論だが、のみならず二次創作の東方作品なども閲覧・傾聴してきた彼にとって、ただ其処に居るだけの住人ですら確かな主要人物なのだ。

 そういったイラストや漫画を見てしまえば、もうそれだけで想像は膨らんでいく。

 ただ物語に関わっていないというだけで、もしかすれば原作のキャラクターと関わりを持っている人物が居るかもしれない。

 そう仮定したとして、もしその人物が死んでしまったなら。

 その人物と関わりがあった原作のキャラクターは、果たしてどんな感情を抱くだろうか?

 考えれば考える程に―――神鳥谷天地は、縛りを課さざるを得なくなっていく。

 

「いったい俺がどれだけ多くの作品を見てきたと思ってやがる! かみむやさんの『告白幻想郷』やぶーわさんの『東方赤面萌』、俺と海さんや月わにさんの『東方男性未経験シリーズ』だって見てきた俺が、数多くの二次創作作品や音声作品を見て聞いて尊死してきたこの俺が、大いなる可能性が秘められた彼らを守らん訳がなかろうがッ!」

 

 まるで格好いいセリフの様に叫んでいるが、全く格好良くない。

 ほら見てみろ、人里の人たちも何を言ってるんだ彼奴は…? みたいな怪訝そうな目を向けているぞ。

 だが、そんな事など知らんと言わんばかりに、神鳥谷天地は全力で駆け出して―――

 

「死ね、クソ車ッッ!!!」

 

 自分の方へと全速力で廻り廻って走ってくる大きな車輪の側面へと、鋭い蹴りを穿つ。

 顔面のついた車輪―――輪入道の様な姿をしたその異形こそ秋静葉。

 秋を司る神。異形郷に秋をもたらす異形にして―――東風谷早苗の信者。

 バギッッッ!!!! と、穿った蹴りは秋静葉の顔面を捉え、その前歯を粉々にする。

 絶叫は上がらない。何故ならば、今の彼女には意識など無いのだから。

 

「異形とは言え、一応は肉体を持ってるんだ。なら血くらいは通ってるだろ。つか出血するしな、お前ら」

 

 『血液を操る程度の能力』による血液操作。

 その顔面に張り巡らされた血管を流れ続ける血液の全てを停止させ、血が脳へと送られなくなった事による機能停止。

 異形という存在は異形でしかないが、しかしこの世界に存在している以上はその他の生物と同様に、肉体という型を持つ。

 肉体には血が巡り、その頭には脳がある。エイリアンやプレデターといった地球外生命体にすら、それらの機能は存在している。

 ならば、異形にもそれはある。それがあるならば、血液を操れば造作もなく仕留められる。

 

「とはいえ、何されるか分からんし―――さっさと殺すか。“神鳥谷流血操”」

 

 

「血刀ノ壱『朱刃金』」

 

血刀ノ壱

朱刃金

 

 

 どこぞの『技名を叫んでから殴る漫画』をリスペクトし、神鳥谷天地はその右手に、自身の血液によって創り出された日本刀を顕現させた。

 自身や他人の血液を流出し、僅かな血液で質量を持った武器や現象を創り出す技術―――『血操』。

 ついさっき、思い付きで彼が考えた技術である。

 

「血液の凝固を利用した、武器の象り。うん、我ながら実に格好いい技だ」

『…それ、単なるパクリなんじゃないの?』

「パクリって言わないでくれます!? オマージュ&リスペクトの精神だから、これ!」

『君では、血闘神の足元を遥かに下回る結果しか出せないだろうけどね』

「比較対象が強過ぎねそれ。なんで比較対象にあの世界における人類最強出しちゃってんのさ」

『早く刺しなよ、時間時間』

「扱いに慣れているどころの話しじゃない…!」

 

 赤い刀身を振り上げ、地面ごと叩き斬る勢いで顔面へと振り下ろす。

 血の刃に、敵の血が染み付く。車輪は真っ二つに、しかし砕ける様に斬り裂かれた。

 それと同時に―――蛙が泣いた。

 

「やっぱ来るよな…さて、どうすっかな」

『……君、祟りの対処法は』

「不屈の精神で何とかするしかないかな。今の能力だと、血液操作による擬似的な感情操作しか出来んが―――取り敢えず、あのクソ蛙は殺すわ」

「そう殺気立たないでくださいテンチ樣」

「え、お前喋れんの!? うわ気持ち悪ッ! くっそ気持ち悪いわお前さっさと殺す」

『やっぱり酷いよね、君』

「異形に掛ける情けなんざ欠片も無いんでね―――」

 

 血管が浮く。感覚が尖る。

 血液操作による神経の強化に加え、血中成分の操作による身体能力の活性化。

 肉体の負荷など全く考えないそのバフ掛けは、まさしく諸刃の剣。

 血液の操作という能力は確かに強力だが、その弱点もまた酷い。

 負傷時に応急処置しかする事が出来ない上、相手が機械であった場合は血液の操作など出来ない。

 サナエさんと呼ばれるその存在が、ただの悪夢であったならば―――そこには血液など存在しない。

 だが、サナエさんは此処に居る。現実に現れた。

 ひとえに―――神鳥谷天地に会いたいが為に。

 

「……やばい、めっちゃ悪寒がした。マジで早く殺した方が良いなこれ」

 

 祟りへのそれとは、また異なる身の危険を察知し、神鳥谷天地は即座に駆け出した。

 今すぐ殺さなければ、自分が危ういと感じたのだ。主に貞操的な。

 何故そう感じたのかは、考えたくもないのだ。

 地面を蹴り、抉って血刀を構えて馬鹿正直に悪夢へと猛進する。

 

 世界が変わる。見覚えのない、にも関わらず既視感を覚える謎の教室。

 気が付けば、神鳥谷天地は席に着いていた―――が、

 

「飽きたっつーの」

 

 バゴッッッ!!! と、その席を遠慮なく蹴り飛ばし、教卓に立っていた祟りの主へと剣を抜いた。

 巫女の首が飛ぶ。三日月の様に裂けた口が笑みを象り、恐怖と狂気を迸らせる。

 だが、それよりも―――神鳥谷天地は、腹が立った。その笑顔に。

 

「笑ってんじゃねぇぞ…クソカエル―――」

 

 ヒュンッ―――と、細く鋭いソレが空を裂く。

 血の糸。かの斗流血法に習うならば、刃身ノ弐『空斬糸』。

 だが、この糸はまさしく文字通り―――空を斬る糸。

 血の流れ。血液の循環。血管内における血液の速度は、時速200km以上。即ち新幹線並のスピードである。

 細い刃を巡らせた糸の中身は、血管内の血液が循環し続けている無限の移動運動。

 即ち、常に時速200kmを叩き出す新幹線が休む事なく常に循環し続けている事と同義。

 高速回転するソレはまさしく―――韋駄天の如き速さで動き回るチェンソーと、何ら変わりない…!

 

「血刃糸」

 

 

血刀ノ弐

血刃糸

 

「蜘蛛切り」

 

 十指十糸。高速で動き続ける十糸の赤き刃が―――津波となって、巫女を裂き続けた。

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