なんで幻想郷じゃなくて異形郷なの?   作:全智一皆

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第三回幻想防衛
第十八話「神々廻(ししば)(かい)という人物」


 

■  ■

 神鳥谷天地は、現在進行形で困惑していた。分かりやすく言うと、イベントで推しに出会う為に行ってみたら全く知らない人物が居た時と同じくらいに困惑していた。

 此処は、皆様ご存知『幻想郷』。神々に愛されし幻想郷である。とは言っても、少しばかり語弊があるというか、言葉が足りないというかなんというか。

 より細かく説明するのであれば、()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 第三回幻想破壊。異形郷による幻想郷の破壊において、異形の霧雨魔理沙が全力を出す事でようやく破壊するに至った出来事である。

 原作の異形郷にとって初めて苦戦を強いられた幻想郷と言っても過言ではないこの幻想郷に、神鳥谷天地は異形郷の連中よりも一足とは言わず三足も早く辿り着いていた。

 ざっくりかつさっぱりと結論から言ってしまうと、第二回幻想防衛はなんとか無事に成功を収めた。そう、誰一人として欠ける事なく終わったのだ。

 最終決戦となる場面でチルノと影狼が致命傷を負ってしまうという事態が起きはしたものの、神鳥谷天地と幻葬狂のチルノは何とか異形郷を撃退し、念願の初白星を手に入れた。

 だが、それだけで異形郷の進行は終わらなかった。完全に撃退した筈の異形達は、しかしやはり異形のアリス・マーガトロイドの手によって蘇っていた。

 彼が予想した通り、異形の死体を回収して回る異形のアリスは死亡した異形をリスポーンさせる為の必要な人材だ。第二回幻想防衛を終えて異形郷に帰還し、改めて確信を得る事が出来た事実だ。

 様々な確信を得ていく中で、彼は第三回幻想防衛を執り行うつもりで、この幻想郷へとやってきた。

 まず最初に、博麗神社に向かい霊夢とコンタクトを取る。そのつもりでいたのだが―――と、ここで最初に戻るのだ。

 神鳥谷天地は、困惑していた。

 

「ん? なんだ、博麗の神社に珍しくお客さんだ」

 

 其処には博麗神社の巫女である少女、博麗霊夢は居らず。

 巫女服ではなく現代服に身を包んだ黒髪碧眼の青年が神社の階段に座っていて、そして神鳥谷天地を目にして驚いた表情を浮かべていた。

 

(えぇー…だ、だれぇ? いや、マジで誰だ? え、こんなキャラクター居ないよな? うん、絶対居ない。だって明らか服装が幻想郷の住民のそれじゃないもん、めちゃくちゃ現代的若者のファッションだもん。黒いブルゾンとブラックパンツとスニーカー履いてるし、めっちゃオールブラックメンズコーデしてるし。オリキャラか? いやそんな事あります? だってこれまで渡った幻想郷は原作キャラしか居なかったじゃん。なのに、え? もしかして此処って普通の幻想郷じゃなくて二次創作世界の幻想郷なの? 第三回幻想破壊の場所なのは間違いないとして、だとしたら彼奴等って他の人が創り出した作品の世界荒らしてたって事になるぞ? そんな酷い三次創作あります? 下手すりゃ炎上もんだよ? 或いは俺と同じ転生者か? でもそれにしては反応が薄い様な…)

「ありゃ、固まってらぁ。おーい、もしもし? 聞こえてますかー?」

「ふぁ、ほい!」

「ほい!? ぶはっ、なんだその返事の仕方!」

 

 思考を巡らせていた最中、とんとんと肩を叩かれて声を掛けられた神鳥谷天地は腑抜けた声で大きく返事をしてしまった。

 腑抜けた声に噴き出し、面白いなと声を上げて笑う青年。

 神鳥谷天地は大変恥ずかしい気持ちになっていた。異形郷でも幻想郷でも全く味わう事のない羞恥である。

 

「そっ、そんな笑うんじゃねぇ! 考え事してたからびっくりしたんだ、仕方ねぇだろ!?」

「それでも、ほい! はないだろ、ほいは! くっはははははははっっ!!!! はー、腹痛え! あはははははは!!!!! げほ、げほっげほっゲホゲホっっっ!?!?」

「咳き込んでんじゃねぇか! いくらなんでも笑い過ぎだろ、失礼にも程があるぞ!?」

 

 腹を抱え、膝をついた青年は笑い過ぎて咳き込んでしまった。

 な、なんだコイツ…マジで誰なんだ? 神鳥谷天地はそれだけで頭が一杯になっていた筈なのだが、目の前の青年を見ると何故だかいちいち気にしても意味がない様に思えた。

 ひとしきり笑った青年は、息を整えて目元に溢れた涙を指で拭い立ち上がった。腹を抱えている辺り、笑い過ぎて筋肉痛っぽくなっているらしい。

 

「はー…笑った笑った。笑い過ぎて腹いてぇ」

「そりゃあんだけ笑えばな…」

「そう拗ねんなよ、悪かったって。初対面なのに爆笑しちゃってごめんな!」

「別に拗ねてないわ! はぁ…ったく、霊夢が居るかと思ったら、まさか全く知らんオリキャラが居るとはな…」

「おぉ、そうだった。博麗と知り合いか? 悪いが、博麗は今は出掛けててな。人里に買い物に行ってるんだよ」

「……え、霊夢が買い物に? そんなお金あんの?」

「おう、俺のな。居候させてもらってる代わりに俺の給料アイツにやってんだよ」

「ど、同棲だと…!? 貴様、なんと羨まけしからん!」

 

 目に炎を宿し、煮え滾る様な嫉妬を醸し出す。言い訳のしようもない、完全なる私怨である。

 

「俺としちゃ勘弁してほしいぜ。そりゃ色々とありがたくはあるが、我儘が過ぎるんだよアイツ」

「それもまた霊夢の良い所だろうが!」

「えー、そうか? 俺には全く分からん」

「なら俺が語ってやる! いいか、今から俺が博麗霊夢という人物の素晴らしい部分を長い長い時間を掛けて説明してやる、布教だ布教!」

「それどんくらい時間掛かるやつ?」

「最短で5時間、最長で10時間」

 

 青年は愕然とした。マジで言ってるのかコイツ?

 少しの間固まった後に、青年は冗談じゃねぇ! と声を荒げた。

 

「最短も最長もどっちも時間掛け過ぎだろ!? 博麗の魅力を説明するのに5時間とか冗談だろ!?」

「冗談かどうかは今から分かる! そこに直れィ!」

「勘弁してくれよ、長い話しは苦手だ! 昔から先生の話しを聞いてると頭が痛くなっちまう!」

「問答無用だ!」

「嘘だろ……あぁ、いや待て! タンマタンマ!」

「なんだ? 時間延長か?」

「な訳ねぇだろ、アホかッ! 名前だよ、名前。俺ら自己紹介してないだろ?」

「あ…そういえば、そうだな」

 

 出会ってから十分―――殆ど青年の爆笑に取られた時間―――という時間が経って、ようやくそこに気付く。

 名前。そう、名前だ。彼らは互いに互いをよく知らず、正体も何ら分からない。

 どう言ったものか。転生者ですとバカ正直に言うか? だが、目の前の青年が転生者である可能性は確信的ではなく、あくまでも予測に過ぎない。自らの正体を堂々とバラすのも些か…

 と、悩む彼よりも先に青年は己が名を明かす。

 

「俺は海。神々廻(ししば)(かい)だ。名前でいいぜ、お前は?」

「……神鳥谷天地だ」

「おっけ、天地な。かっけぇ名前だな!」

「そういうお前はありきたりだな」

「んだとー? 良いだろ、海って名前。それに名字は珍しいだろ、神々が廻る、だぜ?」

「こっちは神の鳥だし天と地だが? 俺の方がカッコいいんだが?」

「はぁー?」

「あぁー?」

 

 幻想郷の住民、

 神々廻(ししば)(かい)

 能力名――――――『領域を操る程度の能力』。

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