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神鳥谷天地にとって、この世界―――『異形郷』程うんざりするものはない。
それはもう、心の底から叫びたい程に(というか実際に叫んでいる)、彼はこの世界にうんざりとしている。
好きなキャラクターと同姓同名だが、その容姿はあまりにも現実離れした悍ましさ。
そんな異形達に囲まれて日々を過ごす彼の視点から考えてみれば、日々にうんざりとするのは仕方がない事と言えるだろう。
「つくづく、貴様は愚かだな。我の“運命力”の前では、何をしようと無駄だというのに」
だが、その理由とは別にもう一つある。
彼は人間。その肉体の強度は、決して硬くはない。寧ろその真逆であり、あまりにも脆く弱々しい部類に当てはまる。
故に、彼はこれまで何度も殺されてきた。異形達に何度も何度も、惨殺されてきた。
そして今回も―――『魔王』と呼ばれる存在、レミリア・スカーレットに殺されている。
何度も何度も惨殺され続けている。だから、彼はうんざりとしているのだ。
殺されてるのにうんざりしているで片付けられるとは、これ如何に。
「うるせぇよ、魔おうー☆様」
「その呼び名は止めろと何度も言っているだろう! 不愉快極まりない!」
だが、それはそれでこれはこれだ。
殺されてうんざりとはしているが、そうであろうと苛立つものは苛立つ。
ので、神鳥谷天地は今日も今日とて罵詈雑言を吐きながら煽りまくるのだ。
「そりゃ不快にさせる為に言ってるからな! んな事も分からねぇのか、カリスマ(笑)の魔おうー☆様よ!」
「ッッッッ!!!!!! 殺す、貴様は此処で殺してやる…!」
「殺れるもんなら殺ってみろッ!」
声を荒らげたその瞬間、ドパン……と、神鳥谷天地の頭が弾け飛んだ。
無数に飛び散る桃色の肉塊と二つの目玉。鮮やかな血と生き生きとした肉塊がその部屋を汚し、即座に死臭を漂わせる。
だが―――
「―――――――――――――」
文字通り物言わぬ屍は、しかし動く事を止めなかった。
『不思議』な事に、死んで尚も神鳥谷天地は動き出した。
頭を弾き飛ばされたにも関わらず、死んだにも関わらず、まるで生きているかのように自然と動いたのだ。
拳を固め、右足で魔王の前へと踏み込み、腰を大きく後ろへと下げて、反発する様に戻して拳を振るう。
鋭い風が空を駆け抜け、硬い刃が魔王の顔面を捉えて―――“遥か彼方へと吹き飛ばす”。
本来ならば出来ないであろう、その『不可思議』な事象こそ、今の彼の能力―――『不可思議を操る程度の能力』によって発生した事象である。
不可思議。もしくは不思議。それは、考えても奥底までは知り尽くせないこと。また、異様なこと。怪しいことを指す。
この場合、彼の不可思議な点は二つ。
まず一つ、死んだにも関わらず生きているという事。
次に二つ、彼女を彼方まで吹き飛ばす事ができた事。
とはいえ、霧雨魔理沙やリリーホワイトなどの戦闘で何度も致命傷、もしくは死傷を負っては生き返る彼だ。
死んでも動く事には、大した違和感もないかもしれないが。
「あのおぜう様め、初っ端から俺の頭を吹き飛ばしやがった! 運命力だか何だか知らねぇが、あれチート過ぎんだろ!」
と、死んでも何事も無かったかの様に生き返り、容赦なく顔面を殴る男が申しており。
お前も大概チートだと、この異形郷の住人の殆どが言うだろう。
『ありとあらゆる能力を扱う程度の能力』―――字面だけでなくその内面すらも、彼女の『運命を操る程度の能力』よりも強い能力だ。
この世界の能力、ひいては東方Projectの能力は全てに『〜程度の能力』がついてこそいるが、『程度』という言葉の意味がしっかりと反映されている能力は殆どない。
博麗霊夢の『空を飛ぶ程度の能力』なんか、ラストワードの『夢想転生』では『ありとあらゆるものから浮く』という無敵能力になってる訳だし。
「貴様にだけは言われたくない言葉だ…否、余の『運命力』に囚われる事のない貴様は、存在そのものが異質だな」
「そりゃどうも、褒め言葉として受け取ってやるよ」
「格下であるにも関わらず、上から目線で喋るなよ、下郎が」
「その下郎に呆気なく吹き飛ばされたビッチには言われたかねぇな。マジでその格好なんなの? 羞恥心とかないわけ?」
「余の美貌を隠し切れる服が、この世界に無いというだけの事よ。貴様ら人間とは訳が違うのだ」
「マジで言ってんのか、コイツ…ん? いやでも、他の異形に比べりゃ確かに美貌か…?」
自らの肉体を美貌であると豪語するレミリアに、顔を顰めてドン引きしていた彼。
だが、すぐに考え込んでみた。目の前の吸血鬼を、他の異形達と比較してみる。
「うん、そうだな。他の異形に比べればお前はマシな方だわ。全体的に格好良いし、魔王って名前に相応しくはある」
マシ。断然マシである。
風見幽香という存在を忘れている訳ではないが、彼女の場合は上半身だけだ。下半身は植物以外の何者でもない。
それに比べて、魔王レミリアは人間的だ。全体的に、かなり人型だ。
加えて、実に男心を擽られる格好良さも備えている。
「ふっ…当然だ。貴様もようやく、余の美しさを理解したか」
「深く考えりゃな。此処の世界ってマトモなの居ねぇし…性格的にも肉体的にも。それに比べれば、お前はマシだ。比較的な」
「良いぞ、余を褒め称える事を許す。光栄に思えよ? 従者でもなければ客でもない他人に、褒め称える事を許すのは貴様だけだ」
「あっそ。この世界を支配するであろう魔王サマに言われるたぁ、そりゃありがたいや…あーあ、もう疲れちまった」
ばたん、と、魔王レミリアを不本意ながら褒め称えた神鳥谷天地は大の字で倒れ込んだ。
昨日は春の妖精という名前の白竜を撃退し、その前には最強の魔法使いと祟りの現人神とも戦ったのだ。
たった一日で疲れが取れる訳もなく、彼は今も尚、疲弊しているのだ。
そんな状態でも能力を使って魔王を吹き飛ばしたのだがら、恐ろしいものである。
「厄日が続くのも、あのクソカエルの所為なのかねぇ…」
「そのお陰で妖精達に好かれるんだ、善い日になるではないか」
「(彼奴ら嫌いだから)俺は好かれたかねぇんだよ。いつか此処から居なくなる奴を好んだところで、余計になるだけだろ」
「ふっ、相変わらず愚かだな。貴様のその点こそが、奴らに好まれる原因だろうに」
「は? その点って何だよ。俺はただ、彼奴らが面倒だって事を言ってるだけだろ」
「知っているぞ、お前のそれはツンデレと言うのだろう?」
「はぁ!? 誰がツンデレだよ気持ちわりぃ! 悪寒がする様なこと言ってんじゃねぇよ!」
飛び上がる様に体を起こし、迫真とした表情で気持ち悪いと言う天地。
だが、それも当たり前である。何せ、彼は別に妖精達が好きではないし、何方かといえば嫌悪している方である。
殺したところで意味がないから殺していないし、毎日向こうが手を出している訳でもないから殺していないのであって、それ以上はない。
誰が何をしようと、誰が何を言おうと、神鳥谷天地が好きなのは幻想郷だ。決して、異形郷などという偽りではない。
この世界に存在する全ては有象無象。それ以外の何者でもありはしない。
愛すべき者達を殺すであろう存在と仲良くするなど、原作を愛する彼に出来る訳がない。
嫌悪、厭悪、憎悪。この三つだけを抱き、彼は彼女達と接しているのだ。
そんな彼にとって、自分がツンデレ―――即ち、半分ではあるものの彼女達にデレているという言葉は地雷も良い所だった。
「ないない、本当にない。彼奴らに限らず、俺はこの世界そのものを嫌ってんだぞ? デレる訳ねぇじゃん、鳥肌立つわ」
「ふふっ、貴様のその嫌悪に満ちた顔を眺めるだけで、少食な余もワイン数杯はいける」
「この性悪め…」
「貴様も飲んでみるか? 今日の余は気分が良い、特別に晩酌を許可してやる」
「…一応聞くけど、血じゃねぇよな?」
「この世界の血は不味いものが多いから使っていない、安心しろ」
「それ聞いて安心した。じゃ、もらうわ」
はい、夜にかんぱーい
風情がないな。だが、それで良い