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船は塵も残る事なく燃え尽きた。無論の事、その船に広がった鮮血や死体、肉片も全てだ。
幻葬狂という勢力は、たった一人の人間による狂気と能力によって呆気なく壊滅となり、異形郷から姿を消した。
あぁ、だが。少しばかり訂正、もしくは補足が入るかもしれない。
確かに幻葬狂という勢力は滅びたが、全員が死んだという訳ではない。全員が無惨に殺戮されてしまった、という訳ではないのだ。
幻葬狂を壊滅させた張本人である神鳥谷天地は、利用価値があるという理由から一人の少女を手中に収めた。
チルノ―――IQ200以上の天才であり、これから彼のビジネスパートナー的立ち位置に就くであろう存在だ。
だが、当然と言うべきか。異形郷の者達は、はいそうですかと簡単にはそれを受け入れられなかった。
異形郷を崩壊させんと行動した者達の一員というだけでも殺意を抱く対象だというのに、彼女は幻葬狂が異形郷に攻める事が出来た理由を創り出した張本人だ。
幻葬狂の船、マッドシップ。幻葬狂の者達が乗っていた船にして、異形郷の結界を破って侵入する事を可能とした兵器。
それを創り出したのはチルノ本人であり、間接的にでこそあるが、彼女が主犯だと言われても否定は出来ない。
が―――そんな事、神鳥谷天地は知った事ではない。
「俺が誰を仲間にしようが俺の自由だろ。お前等になんか言われる筋合いねぇよ」
「カチカチカチ」
「これ以上、女をぉ増やしてどおする、だとよ」
「これ以上って何? 以下ですけど、つかゼロなんですけど。そもそも女作ってねぇけど?」
「ヒドイ! 私太刀とは遊びたっだのね!」
「鳥肌立つ様な事を言うな! 本当に気持ち悪っ!」
霊夢も魔理沙も、チルノが彼の仲間になる事は批判的だった。
彼女達は昔馴染み。霊夢が子供の頃、魔理沙と出会う以前から神鳥谷天地はこの世界に存在していた。
霧雨魔理沙という異形が誕生して数日も経たぬ間に、神鳥谷天地は『結界を潜る』という“過程をすっ飛ばして”、異形郷に生まれ落ちた。
誰もが驚き、誰もが襲い掛かった。自分達とは姿も形も全く異なる存在が、突如として現れたのだから。
神鳥谷天地は、そこで初めて死んだ。異形郷に来て僅か数分で、呆気なく殺された。
が、様々な過程をすっ飛ばして生き返り、さらに過程をすっ飛ばしてその場に居る全員を殺害した。
そして、その中には無論の事、マリッサも入っていた訳で。
「付き合いのながーいマリッサ様を置いて、別のをんなを取るとは何事か!」
「お前が無理に絡んでくるから長ぇんだよ! 絡みたくもねぇ奴と絡まれるこっちの身にもならんかいボケ!」
「カチカチカチカチカチ」
「あ゛ぁ゛!? うるせぇよ喧しいよ、仲良くねぇよ!!!」
「あたいにも仲良しにしか見えないけどね」
「御免被るね! こんな見た目の幼馴染みなんざ欲しくもねぇわ!」
ほぼ野箆坊みたいな魔女と顔が陰陽玉の異形がヒロインのギャルゲーなんざ流行ってたまるか。
とは言ったものの、異形の創造主が悪巫山戯で実際にギャルゲーを作ってしまっているものだから、何とも言えない。
エロゲー作ったり異形達でギャルゲー作ったり、マジであの人よく分かんねぇな(褒め言葉)。
「…そういえば、あたいと貴方はなんで此処に居るの? 確か落ちた筈なんだけど」
「『過程を飛ばす程度の能力』を使って着地する結果に至った、はい終わり。カス二人の所為で説明面倒だからあとは自分の頭で考えやがれください」
「カチカチカチカチカチカチ、カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。カチカチカチカチカチ、カチカチカチカチカチカチ」
「彼女は何と?」
「落下するとう『過程』をフッ飛ばす事で、着地するまでに至る自由落下の法則やら落下加速が消え右せる。その結果、五体満足で地上に居るというワケでぜ」
言語が苦手な彼女の言葉を更に翻訳するとこうである。
神鳥谷天地とチルノという物体は、高所から『落下』するという過程を得て『着地』し、そこから『死亡』という結果に至る。
だが、神鳥谷天地は『過程を飛ばす程度の能力』を使用して、『地面に向かって落下する』という過程を文字通り飛ばした。
その過程が飛ばされると、彼らが本来ならその過程で得る筈だった『自由落下による重力加速』や『質量の問題』といった様々な法則が省かれる。
因果律の関係で言うならば、『原因』と『結果』によって成り立つ事象の『原因』が無くなった為、『結果』だけが訪れるという形になる。
落下するという過程が無くなる過程で様々な法則が消え失せたが故に、二人は無事に『着地』する事が出来たのだ。
「此奴が悪化う能力の仲じゅあ、最も対処し難い能力だぜ」
「する動作全部がノーモーションかつ予測可能回避不可能だからな。ゲームだったらクソモブ扱いだろうよ」
「じゃあお前はクソモブだぁな!」
「はっはっは、随分と死にたいようだな貴様。殺ってやろうか? ぶち殺したろか、おん? その気になれば生きる過程をふっ飛ばしてお前を殺す事も出来んだぞ?」
「いやーん、こわーい★」
「よっしゃ殺す!」
殺意の言葉と共に、神鳥谷天地が一歩を踏み出し
「よし」
霧雨魔理沙を殴り殺すまでの過程をふっ飛ばした。