主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!   作:true177

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夏祭り一日目
010 未帆は未帆でした


「よっ、横岳! もう来てたのか」

「こんにちは、かな? こんばんは、かな? ……どっちでもいいよね。とにかく来たよー、横岳くん」

「……なんで屋台を出す張本人が遅れると思うんだよ」

 

 夏祭り会場の中学校に着くと、既に横岳は既定の場所で、グラウンドの上に屋台の骨組みを広げていた。

 

「……なんで、こんなに屋台の柱が太いんだよ」

 

 普段祭りで見る屋台の柱は軽い金属製のものだが、今広げられているのは太く、それでいて重たそうな雰囲気の金属のものだ。

 

 先の方が鼎(かなえ)のように三つに分かれている。きっと立てたときに重量を分散させるためのものだろう。

 

「ああ、それな。俺の親父の手作りだから。安全性には問題ないらしいし、学校にも許可取ってるらしいから、問題ない」

 

 倒れたら危険な金属棒のお手製屋台を許可した学校は、どうなっているのか。お偉いさんに、一度聞いてみたい。

 

「霧嶋、骨組み立てるの手伝ってくれ。西森さんはいいから」

「あいよ。でも、未帆は普通に手伝えるんじゃないか? 力だけなら、並みの男子より明らかに強いし……」

 

 男子よりはパワーに劣る女子に骨組みは任せられない、ということなのだろう。確かに、この太い金属の棒が普通の中学生の女子に持ち上げられるとは思わない。

 

 ただし、それは未帆には当てはまらないと思うが。

 

 横岳は、しばらく頭を掻いたあと、

 

「あー、それもそうだな。よし、それじゃ西森さんは、そっちの柱持って」

「……いくら私の力が強いからって、こんな重そうな柱が持ち上がるわけが……」

 

(それはフラグじゃないか?)

 

 未帆が『重くて持てそうにない』と言いたげに、両手で柱をつかみ、そして起こした。

 

「ほら、こんな重たそうな柱、持ち上がるわけな……。持ち上がった!?」

 

 持ち上がった柱を見て、未帆が驚いていた。試しに亮平も同じような柱を持ち上げてみようとするが、地面から浮かせるのが精いっぱいだ。

 

「だから、未帆は自分の力の強さがよく分かってないだけで、男子以上の力を持ってるってわけ。動物でいうと……」

「その先を言ったら、どうなるか分かってるね?」

「……はい」

 

 始業式の二の舞になるところだった。思ったことを口に出そうとしてしまうのが、亮平の欠点だ。

 

 未帆は自身の力がどれほど強いか分かっていないのだが、少なくとも平均的な男子よりは力は強い。なにせ、亮平ですら未帆に腕をつかまれて引っ張られると、抵抗できずにずるずると引っ張られて行ってしまうからだ。

 

 一つ言うことがあるとするのならば、『はっきりと手加減をしてほしい』ということだ。未帆が自身の力の強さの自覚がない以上、仕方のないことなのだが、未帆にとっては普通に力を入れたつもりでも、一般人にとっては痛みが残るような力になる。

 

 どうして亮平の思考に『手加減してくれ』ということが浮かぶのかと言えば、

 

(未帆は握ってるだけに感じてるだろうけど、十分痛いから)

 

 亮平の右腕が、未帆に握られているのだ。未帆自身が力を入れているのか入れていないのかは分からないが、少なくとも皮膚が悲鳴を上げるぐらいには痛い。

 

「予定変更。霧嶋はこっちに来て俺と一緒に棒持ち上げるのを手伝ってくれ。西森さんは一人でヨロシク」

「一人だとケガするかも……」

「大丈夫。西森さんの力なら、倒れてきても受け止められるはずだから」

 

(ああ、危ないなあ)

 

 ケンカに強ければだいたい力は強いが、力が強ければケンカが強いわけではない。それと同じで、力が強いからと言って、倒れかかってくる重い物を瞬時に受け止めるだけの判断能力が未帆には無い。

 

「下が三つ又に分かれてるでしょ? それが重量分散するから、倒れてくることはないはず、だけど」

 

 不安は消えない。しかし、ほかに適当な人材もいない。結局亮平は、未帆一人に任せることにした。

 

「ほらよ、っと」

 

 横岳と力を合わせ、柱を起き上がらせる。柱は勢いで反対側に倒れることはなく、やがて静止した。

 

「次、次」

 

 横岳が『射的屋』と書いてある暖簾(のれん)が付いた金属の細い棒を、柱の上部にあったスペースに乗せた。

 

 ひとまず、これで簡易屋台は完成である。普段祭りで見るものとは見劣りするが、外見だけで客が来なくなるわけではない。 

 

「そんなに重かった、この柱?」

 

 未帆が、屋台の柱を指さした。

 

「重かったにきまってるだろ。男二人がかりで持ち上げるような重さなんだから」

「ふうーん」

 

 手を握ったり開いたりして首をかしげる未帆。一般人にとっての『普通』がどれくらいのものなのかを理解するのに四苦八苦しているのか。

 

「まだ、セッティングが出来てないから、三人で手分けしてやろ……。あ、来た来た」

 

 横岳が、亮平と未帆のさらに向こう側に視線を向けた。つられて亮平も後ろを振り返る。

 

 澪が、こちらに向かって足を残像が残る程ばたつかせているのが見えた。

 

「私が一番遅かったか……。それにしても、屋台の柱、やけに太いねー。持ち上げるの大変だったんじゃないの?」

「えーっとね、それは……」

 

 未帆が、答えに窮した。『自分は一人で持ち上げた』とは口が裂けても言えないのだろう。

 

 半袖とズボン姿の澪が、どう言えばいいか悩んでいる未帆の様子を、しばらくの間不思議そうに眺めていた。

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