主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか! 作:true177
追いかけてくるのかを気にして、後ろを振り返った。八条学園の男子たちが後を追ってくる気配はない。後を追うには危険と判断したようだ。
(……未帆達に、何かがあったら……)
前襲撃された時に未帆も一緒にいたので、狙われている可能性は十分にある。トップのあの細川のことだ、本人に直接アタックするより周りの牙城から切り崩していった方が効率が良いのは分かっているはずだ。
亮平はそこまで考えて、それを否定する。
(いやいや、あの人ごみの中でどう誘導すると……。人が少なくなってくる時間帯ならともかく、今は夏祭りで一番盛り上がる時間。襲撃まではかけてこないだろう)
未帆たちが人気の少ない場所に行っていなければ、と付け加える。
亮平にとって未帆たちも気になるが、八条学園の男たちの動向も同じくらい気になる。流石に撤収しているだろうが、トイレ前に残っていないかどうか確認したい。
亮平は校舎の裏側を大回りし、側面を通ってトイレ正面付近まで移動した。
トイレ付近はもぬけの殻だった。トイレ内に誰か入っている様子もない。
(今回だけで一気にケリつけたかったんだけど、な……。また機会が来るまで辛抱強く待つか)
不穏因子は早いうちに片付けておきたかったのだが、逃げられてしまったものは仕方がない。そう易々と機会が巡ってくるわけではないだろうが、その時を待つ以外に選択肢はない。機会が巡って来なければ、帰路で未帆達が危険な目に遭う確率が格段に上がってしまうのだから。
一つ、大きなため息をついて亮平は夏祭り会場に戻ろうとした。が、しかし。
(不穏だな……)
亮平の歩みが止まった。亮平の勘という敏感なアンテナが何かを検知したのだ。空気がいつもとおかしい。殺気だっているように感じる。
それほど詳しく目視していなかったが、校舎の陰に誰かが隠れているかもしれない。いざという時に備え、筋肉に力を少し入れておく。
『シュッ!』
空気が切り裂かれる音がしたかと思えば、先ほどまで亮平が立っていた場所に、銀色に怪しく光るカッターナイフが突き立てられていた。咄嗟に右方へ転がり込んでいなければ、弁慶の死体となっていただろう。
(殺す気か!?)
今までにも、カッターナイフや包丁で襲われたことはあった。だが、それは全て脅しのためか、実際に行使するとしても皮膚を浅く切る程度。殺意を持って胴体の中央を狙われたのはこれが初めてだ。
「……人を殺すつもりで来るってことは」
亮平も、それで腰が抜けて動けなくなるほどのタマではない。ここでおびえてしまうようなら、未帆達を守ることなど一生かかってもできない。
ボソボソと独り言をつぶやいている間にも、カッターを持った八条学園の男であろう人物は亮平に再突撃しようと狙っている。
カッターが再び胴体の目前へと迫る。が、亮平はその男の突っ込んでくる勢いを殺さず、受け身で後ろへと逸らした。鈍い音がした後に、痛みに耐えきれなかった悲鳴が薄暗い校舎周辺に響く。
「それは、殺されてもいいってことだよな?」
どすの効いた低い声が辺りに広がった。カッターを持って亮平の胴体へと突っ込んできた八条学園の男子であろう人物は、カッターこそ両手で握りしめているがガタガタと震えており、とても反抗してくるようには思えない。
「だ、だって、先輩から霧嶋ってやつを思いっきり刺してこいって言われたから……。弱いから大丈夫だって伝えられたのに……」
他人に責任転嫁しようとするとはいい度胸だ。どうせコイツ自身には、戦おうとする心構えがないのだろう。武器を持っていなければ弱者相手にすらタイマン張ることが出来ないような輩だ。
「じゃあ、お前はもし俺がその弱い奴だったら、迷わずに刺してたのか?」
「そ、そんなこと……。そ、そうだ、寸止めするように言われてたんだった。だから、相手は無傷で……」
ここを窮地脱出の糸口ととらえたのであろう、一気呵成に口でまくし立ててくる。
(どう返答されようとぶん殴るつもりだったけども、最後まで罪から逃げようとするやつだったか。これは、同情の欠片も見いだせないな)
後からならどうにでも付け足せる。亮平がまともに返答を聞いて解放することなどあり得るはずがないということに、この男はまだ気づいていない。
「……ということで、俺は嫌々やらされてたんだよ。だから、解放してくれよ!」
その懇願を相手がしてきた時、コイツは何べん踏みにじってきただろうか。それとも、自分の会話術なら説得できるとでも思っているのだろうか。
「……分かった。解放してやるよ」
固く握った拳がプルプルと震える。
「流石、物分かりが良いことで。俺は無実だってわかってくれたんならいいや」
『無実』という言葉を平気で使う目の前の男に対して、とうとう亮平の理性のストッパーが外れた。
重苦しい打撃音がして、亮平の力いっぱい固められた拳が、目の前の男の鼻より少し上にブチ当たった。かなりの衝撃が伝わったらしく、目の前の男子が後ろにのけぞった。
「お前が無実になるわけないだろ! 本気で人を刺そうとして、自分が負けそうになったら『危害を加えるつもりはなかった』って……。ただの殺人未遂だろうが!」
追撃しようとして、拳が止まった。いつのまにか復活していた理性が、亮平の暴走を制止したのだ。地面に落ちていたカッターだけを拾い上げ、刃を収めてポケットに放り入れる。
「……で、まだ言う事ある?」
「な、ないです……」
鼻血を出している八条学園の男が、目線を逸らして亮平の目の前から逃げ去った。亮平も、無理に追いかけようとはしない。
(あいつらは絶対に許さない。……でも、感情に任せてボコボコにするだけじゃ、細川達と全く同じだ)
怒りを制御できなければ、タダの暴走マシンと化してしまう。それは絶対にやってはいけない。
いつまでもここにいても仕方ないと、トイレの方から夏祭りの本会場のグラウンドの方に向いた亮平は、あることを思い出した。
(あっ……。未帆を放置したままだった。……雷が落ちるのは覚悟しないとだめそうだな)
先ほどまでの憎悪感が消えたわけではなかったが、かなり和らぐ。亮平は、大慌てで屋台が立ち並ぶグラウンドへと小走りでかけて行った。
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