主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!   作:true177

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021 涼風

 未帆の射的は、結論から言うとノーヒットに終わった。景品を倒せなかったのではなく、そもそも当たらなかったのだ。射撃センス値はゼロだったようである。代金は亮平負担となった。

 

 「……ほんっと、暑いー。団扇か何か、持ってくればよかったかな?」

 

 未帆が射的をしていたころと比べると、また一段と人が多くなったような気がする。それに伴って、校庭内もだんだんと蒸し暑くなってきていた。もう夜の八時だというのに。夏というものは、恐ろしいものだ。

 額から汗がダラダラと流れている未帆が、団扇を持って扇いでいる人を遠目に見ながら手で風を顔へと送る。

 

 「……それなら、人のいない場所にでも行こうか?」

 

 そして、暑いのは亮平にとっても同じである。射的前にのむ羽目になった甘ったるいかき氷のシロップが溶け切った液体もなかなかに冷えていたはずだが、密集による蒸し暑さによって吹き飛んでしまったらしい。

 

 人がいないところとなると、屋台が全く立ち並んでいない薄明かりの場所しかない。そこ以外で人が密集していない場所は皆無に等しかった。

 

 「一旦そうしよっかな。食べてばっかりでもつまらないし、涼しい場所に行きたいっていうのもあるし」

 

 未帆は暑さにオーバーキルされてしまったらしく、すぐ賛同してきた。こう来るのであれば話は早い。

 

 亮平達は、屋台の裏側、刈り取られていない雑草群が伸び放題になっているところまで移動した。たまに草で切れることがあるため、慎重に一歩ずつ中へ進んでいく。

 

 学校の敷地と外を隔てる仕切りは網状のフェンスなため、風通しが良い。人が密集していると感じない風の流れを、今は存分に感じ取ることが出来る。

 

 (汗が蒸発してるって感じる……)

 

 汗が蒸発するときに熱を奪うだとか、そういう化学系の話はどうでもいい。過程はどうであれ、涼しければそれでいいのだ。

 

 「涼しーい! 今日ずっとここにいてもいいかも……」

 

 それは言い過ぎだろう。いくら八月の絶賛灼熱地獄とはいえ、夜にぶっ通しで風が吹くところなんかに居たら、風邪をひくにきまっている。

 

 「……ところでさ、亮平。あと一時間くらいしかないけど、他に行きたい屋台ってある?」

 「別に買いたいものがあってもコンビニで買うから大丈夫だし。アイスとか、ジュースとか……」

 「コンビニって……。リアリティー無いこと言わない!」

 

 未帆には、『夏祭り』という行事に『コンビニ』という現実をねじ込むのが気に食わなかったらしい。

 

 「ごめんって。でも、未帆だって同じようなこと考えたことあるんじゃないの?」

 「……あるけど、だからって心で思ってること全部声に出して言わない!」

 

 (本音が口から出ていくのは、俺にも止められないんだよ……)

 

 ただ、そこまで強く言うことではないと思う。亮平以外、例えば横岳が同じような発言をしたとして、未帆は同じような反応をしただろうか。未帆が亮平とかなり親しいという事実もあるが、それでも過剰な気がする。

 

 「話戻すけど、亮平に行きたいところがないんなら、私が決めるよ? もう一回かき氷行くとか」

 「それは勘弁してくれ……。またあのクソ不味いシロップを飲む羽目になりたくない……」

 

 思い出したくない記憶が掘り返される。いかにも健康に悪影響を与えそうな色付き激甘液体が喉を通過するときの感触、そしてなおこびりつくシロップの成分……。二度と経験したくない。

 

 「……それは亮平が不注意だっただけなんだけど」

 

 そして、それも本当のことだ。亮平は氷は溶けないものと思っていたのか、あろうことか夏の夜に十分ほどもかき氷を放置していたのだ。その間にトラブルが起きたといえば起きたのだが、亮平のせいなので自業自得だ。つまり、そのシロップ溜まりを作成したのも亮平なのだ。

 

 「……体熱いから、ちょっと風に当たってくる」

 

 未帆は、団扇を強く扇ぎながらより風が入るフェンスの方へと歩いていった。ゆったりとした動作からは、未帆の優美さが溢れ出ている。

 

 乗用車が時々通過する街灯にほんのりと照らされた道路をフェンス越しに、団扇を扇ぎながらぼんやりと夜空を眺める。田舎の癖して、一等星くらいしか見当たらない。マイナーな星たちは、田舎が嫌いなのだろうか。

 

 「……亮平もおいでよ。ここ、ちょうど何もなくて……」

 

 涼む絶好のスポットを見つけたらしい未帆が、手招きして一歩亮平の方へ寄ったその時。

 

 地面がくぼんでいるのを、暗さもあってか未帆が気付かず、足をすくわれてしまった。元々浴衣で歩きにくそうにしていた未帆。派手に後ろへと転倒し、大きなしりもちをついた。

 

 だが、本当の事件はそこではなかった。

 

 「未帆、大丈夫か……ぁ?」

 

 亮平は絶句し、動きが完全に固まってしまった。転倒時にY字に開いてしまった両脚と、あろうことか衝撃で跳ね上がってしまった浴衣の末端。その先に見えている白い布で作られたもの。

 

 それの正体は、パンツだった。

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