主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!   作:true177

25 / 31
022 言い訳下手

 「……」

 

 さしもの亮平も咄嗟に出てくる言葉が無かった。まさか前日に自らが純粋な疑問として提示した現象が、自分の目の前で起こるとは、亮平でなくとも予測できないだろう。

 

 亮平は、視線を変えることが出来ぬまま固まってしまった。頭の中がパニックになってしまって、うまく情報が整理できなくなっていた。今だけ神経を進む信号の速度が二分の一になったかのように、情報処理スピードが遅い。何とか外界からの情報流入量より脳の演算速度が上回った時には時すでに遅し。数秒の長く、重たい刻が経過していた。

 

 と、未帆が勢いをつけて起き上がった。何があったのか分からないような表情になっている。その見開かれた目が亮平の方を向き、そして軽蔑の目に変わった。

 

 「……何か見えた? 正直に!」

 

 殺気すら感じる未帆の迫力に押されて、亮平は身をたじろかせた。

 

 (確かにパンツは見えた。でも、ここで正直に言っても無駄だろうし、嘘ついても通用しないだろうしなぁ……)

 

 母親の『怒らないから正直に言って』と同じくらいの脅威だ。亮平がどう出ようが、結果は全て同じ。どうなるかは、想像しきっている。

 

 「……何かは見えた。見えたけど、別にパンツが見えたとは限らないだろ? 上にまだ何か履いてる可能性もあるし、『何かが』見えただけだから内部の浴衣の柄かもしれないし?」

 「……ごまかさなくていい。何かが見えてる時点で、もう私の中では確定しちゃってるから」

 

 我ながら何を言っているんだろうと思う。それは遠回しに自白しているのと同じではないのか。

 

 自らの失敗も相まって頭の中が混乱した亮平は、とんでもない失態を犯してしまう。

 

 「あのなぁ、し、白いどう見てもパンツらしいものが見えたとは一ミリも言ってないからな!」

 

 これにて、亮平がパンツを見てしまったことは確定である。本来未帆にしか知りえないはずの情報を漏らしてしまったのだから。謎解き小説やアニメなどでよくある『当事者しか知らないはずの情報漏れ』である。

 

 ワンチャンス未帆が聞き逃してくれることを期待したが、現実そう甘くは出来ていない。

 

 「それはもう見えたって言っちゃってるじゃん……。亮平のバカ!」

 

 唇をかみしめられ、目をきつくつぶられて吐き出されたその言葉が、精神に突き刺さる。わざわざ自分から火に入っていく蚊のように自滅したこともあるが、簡潔な一言の方がダメージが大きい。

 

 仮に未帆の立場に亮平を置いたとすれば、亮平はどう思うか。『見られた』ことは、相当ショックになる。相手の身になってやると、分かりやすい。

 

 「遠回しに言うにしても、なんかこう、もっと穏便な方法があったんじゃない? ……状況が状況だからあんまり思いつかないけど」

 

 回避案があったかもしれないことをつぶやきつつ、その肝心の方法は無い。それを言われると、亮平としてはお手上げ状態である。元々亮平が100対0で悪いのだが、それが限界突破して101対-1になってしまうほどの威力はある。

 

 (じゃ、どうすればよかったんだよ……)

 

 答えは、『最初に目をそらさずに固まってしまった時点で詰み』。他者には人の本心が見て取れるわけではない。他者から見えるのは、亮平が数秒間視線をそらさずにじっと未帆の浴衣裏を注視していたという『事実』だけなのだ。今回のケースではないが、例えばボーっとしていて何も見た記憶が無かったとしても、事実がある限り状況は覆らない。

 

 「そういわれても、回避手段が……」

 「なら、こけて、その……。 浴衣が浮き上がっちゃった瞬間に、なんで後ろ向くとか、目をつぶるとか、そうしなかったの? 固まって見られたら、誤解されててもさっきみたいなことは口走らないわけだし……」

 

 それはフリーズしていたからです、とは言えない。何にフリーズしていたのかと追及が飛んできたときに紛らわしくなりそうな予感がした。

 

 「何が起こったのか分からなくなって、気付いたら時間たっちゃっててだな……」

 「……亮平ならありそう。弁解としての説得力的には無いけど」

 

 ありたきりの説明をして『起こりえる』と思われる亮平。普段のよく言えば無心、悪く言えば無気力さの結晶だろう。説得力が無いのは亮平に限らず、この場面で誰がこの立場で言っても同じだ。根っからの馬鹿正直がいたときくらいしか通用はしなさそうだ。

 

 「とにかく、じーじーつーはーじーじーつーでーしょー! いくら亮平だからって許せるようなことじゃないんだから……」

 

 前半部分の威勢のよさはどこへやら、後半になると聞こえないくらい小さくなるくらい尻すぼみになっていった。『いくら亮平だからって』が抜けていればどのようなことになっていたかは想像するにたやすい。まあ、いつも未帆にくっつかれている亮平だからこそのこの事故なのかもしれないが。

 

 「ごめん! 絶対に、絶対にわざとじゃない! 悪かった……」

 

 かえってわざとらしく聞こえてしまうかもしれないが、今の亮平にはこの手段しかない。反復の二回目を強調して、無実は無理でも減刑を要求する。

 

 それにしても、亮平が本気で反省するのは人生で何度目だろうか。数えるほどしかない。亮平が本気で反省することの内容が限られている(横岳とか友佳など、特に親しい・親しかった人に関すること)ことは踏まえても、久しぶりである。

 

 「んん……。……」

 

 未帆は唇をかみしめて、何も言わない。不平顔である。

 

 何か要求を言われればそれに対応すればいいのだが、無口にされるとどう対応していいのか分からなくなる。『無言』もそれほどの力を持っているのだ。『ペンは剣よりもつよし』とは言うが、これは『無言は饒舌よりも強し』と言えるのではなかろうか。もっとも、おしゃべりはおしゃべりで長所があるので何とも言えないが。

 

 「何か言ってくれよ……」

 

 亮平は、後に引けば取り返しのつかないような気を感じながら一字一句を慎重にえりすぐりしている。それは未帆も同じだろう。この場の間に入ってくれる、『瞬間冷却剤』なるものがあればいいのだが、あいにくそんな聞いたことも無い製品は持ち合わせていない。あれば団扇の代わりに使っている。

 

 行き場の無い未帆のモヤモヤは、時間経過で癒えるまで続いたのであった。

どのキャラが好きですか?

  • 亮平
  • 未帆
  • 横岳
  • 友佳
  • 細川
  • 好きな人はいない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。