主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか! 作:true177
『えー、今回は5つの景品を用意しています。まず、……』
景品の個数以外は毎年同じ文だ。脳で日本語として処理されず、そのまま排出されていく。決まりきった文をただ述べるだけの回は、例外なく外れである。
亮平はまだ明かされていない自分の番号を知るべく、入場時に配られた番号が書いてある紙をペラっと開けた。
『あなたの抽選番号 936』
少なくとも去年は、番号に一つも掠らなかった。せめて今年は一回でもドキドキ感を味合わせてほしい。
「それじゃあ、番号見せ合いっこしようよ」
言うが早いか、未帆が亮平の手のひらにその紙を差し出した。
『あなたの抽選番号 294』
一人として桁の中の数字がダブっていない。これはよくあることなのか、それともレアなのか。異次元に計算が早い人がいれば教えてほしい。
『それでは、まず一つ目の景品、お菓子詰めあわせセットです。まずは、百の位から順番に発表していきます』
宝くじの当選番号が発表されるのと似ている。ルーレットで決めているわけではないのが違いか。
『百の位 2』
これで、亮平の当たる可能性は無くなった。毎年恒例行事は、今年も欠かさず実行された。この世の中に幸運の神など存在しないのだ。
『続きまして、十の位 9』
(!?)
そんなに都合よくいくものなのだろうか。初回からストレートで番号がヒットしている。
「あ、当たるかも……。こういう系、当たったこと一度も無いのに……」
(未帆、それは大丈夫。大体の人は当たったことないから)
未帆を見ると、複雑そうな表情をしている。亮平は、当たればそれでいいという考えになりかけて、止まった。
今の『お菓子詰め合わせセット』が当たるということは、すなわちそれ以降の景品は絶対に当たらないということなのだ。運が絶望的にない亮平でも、ゲーム機が当たる希望はわずかながらにある。先に当たってしまうと、それすらなくなるのだ。完全なる『ゼロ』だ。
「んな贅沢な……」
当たらない人、例えば亮平などがいるのだ。当たるだけまだいい方だと思うのだが。
「誰だって、ゲーム機は欲しくなっちゃうから、贅沢だと思っててもつい……」
「未帆、まだ俺は何が贅沢なのかは言ってないぞ?」
「!? ……誘導?」
亮平に誘導しようという気は全くなかった。が、『贅沢』というキーワードがきっかけで未帆の本心を引き出してしまったらしい。未帆が目線を逸らして、顔が地面に向いている。
「誘導したつもりは……。ただ勝手に推測した結果がそういう感じだっただけで、まさか本当にそう思ってるとは思わなく……」
「はい、私が贅沢でした! 当たるだけでもいいことなのに、さらに欲をかいて申し訳ございませんでした!」
言い訳の常習犯となっていることが災いし、未帆が興奮している時は何を言っても言い訳にしか捉えてくれなくなってしまっている。
熱冷ましのジェルシートが必要なぐらいにまで未帆を加熱してしまうと、なかなか止まってくれない。行動、言動、全て勢いに任せて突っ切ってくる。
『最後に、一の位です。 一の位 4』
あっけなく、最後のキーは開かれた。
「……意外とあっさりだな……。いいのか、これで……」
当の本人はというと、特に驚くわけでもなく、かといって残念がるわけでもなく、そのままいつもの足取りで本部の方へと歩いて行った。
しばらくして、未帆が両手いっぱいに包装紙に巻かれた箱を持って、亮平と影島さんの元へと帰ってきた。時々片手で持っているので、重いわけではなさそうだ。
「放送ではお菓子詰め合わせって言ってたけど、子供が食べる駄菓子みたいな奴とは違うみたい。お土産屋さんで売ってるような、ちょっと高級な方」
なるほど、お菓子詰め合わせでも大人が満足できるようになっていたという事だ。
(大人が駄菓子もらったって、たいして何にもならないし)
「亮平にはあげるつもり、無いからね」
「……むしろ被害降りかかってるからもらいたいぐらいなんだけども」
何回やるんだ、この未帆が勘違いして亮平が結果的に被害を受けるこのパターン。
『続いての景品の抽選に移ります。次の景品は……』
どうせ当たらないだろうと半分聞き流し状態の亮平、番号を聞き逃すまいとしている影島さん。そして、もう二人の番号が当たるかどうかを見るぐらいしかやることのない未帆。
「……別にちょっとぐらい欲があったっていいじゃん」
一人しゃがんで外を向いた未帆から、寂しそうな独り言がぽつりと漏れた。その独り言だけは、聞き流し状態の亮平の耳にも、何故か深くまで残った。
(故意にしろ結果的にしろ、自分が未帆を傷つけちゃってないといいけど……)
その思考は、ぼんやりとした亮平の思考回路にいつまでも残り続けるのであった。
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