人の悩みは数あれど   作:@蛇足

2 / 5


『おはようございます!時刻は8:00になりました!HOT NEWSのお時間です』



洗濯物良し。掃除良し。
あとは洗い物を済ませれば。
あ、三角コーナーの生ゴミ捨てるの忘れてる。
くそ。もういいや。
早く片付けてそろそろ学校行かないと。











2限目 日陰での交流

 

 

 

昨日と変わらぬ朝もよう。

肌寒い風を浴びる中、高校の最寄駅まで辿り着くころ。

ちらほらと慌てて登校する生徒たちが姿を見せる中でも俺はゆっくり歩いていた。

ようやく学校へ到着。

正門を潜り、ドタバタしている正面玄関を抜ける。

のんびりと校舎2階まで上がった先でとても騒がしいことになっていた。

同学年だけでなく、他学年を含めた生徒たちでごった返している。

廊下を塞ぐほど生徒が溢れている先にあるのは俺のクラスがある訳なんだが。

この騒動。

検討はつく。

この人集り。

活気盛んに集い盛り上がってる要因はおそらく今日数日ぶりに登校してきた有名人を見にきているからだ。

 

 

 

「おい!見えたか⁉︎」

 

 

「きゃー舞香ちゃーん!こっち向いて!」

 

 

「やべーよ。本物めっちゃかわいい…」

 

 

「こらおまえたち!もうすぐHRの時間だぞ!さっさと自分たちの教室に帰った帰った!」

 

 

 

 

なんたる誤算。

急いで登校してきたというのに。

時間までに教室に入れなかったら、いつもの遅刻と変わらないじゃないか。

 

敷島先生の呼びかけも虚しく、群衆はすぐに立ち去る気配はない。

気は進まないが突っ切るしかないか。

人混みを掻き分けて、教室を目指す。

近づいていくと、人と人の間から窓越しに写る彼女の後ろ姿が。

熱烈な声援を浴びながらも1人自身の席で、凛とした姿勢で本を読む青柳舞香がいた。

 

 

 

 

「きゃー!舞香ちゃーん!」

 

 

「顔ちっちゃ!ほんとに俺たちと同じ高校生かよ」

 

 

 

気にするな。

俺には全く関係ないこと。

周りの視線を省みず最後の一踏ん張りで人混みを掻き終え、俺は教室の中へ入ることに成功する。

教室に来ただけだと言うのに、なんだこの疲れは。

消費した身体を少しでも休ませるべく、俺は自分の席に着席した。

 

 

 

 

「えっ」

 

 

「うそ」

 

 

「マジかよ」

 

 

 

 

ううっ。

この類いの視線は中々堪えるな。

尋常じゃない量の『お邪魔虫視線』が注がれてくる。

仕方がないだろ。

俺の席はここなんだから。

後ろの席に気配を感じたからか、それとも呼びかける声が少し小さくなったからか。

僅かにだが、前に座る青柳の意識が向けられた気がした。

無論体勢はそのままでこちらに振り返ることはしていない。

ただ背筋が伸び、本を読んでいた視線が上がっている。

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

 

徐ろに携帯を取り出し素早く入力して仕舞った青柳。

数秒後、カバンの中で俺の携帯が震えた。

確認するとメールを受信した通知が。

一度だけ送り主の方の様子を伺う。

目の前の生徒は相変わらずこちらに背を向け本を読んでいて変わらない。

俺は前方の野次馬に気取られぬよう、素知らぬ顔でメールを確認した。

 

 

 

 

『おはよう』

 

 

 

 

なんだこれだけか。

俺は気張った姿勢から力を抜いて淡々と同じ言葉を入力する。

 

 

 

 

『おはよう』

 

 

 

 

返信したメッセージに彼女は気づくと素早く携帯を取り出し、中身を確認した。

背中しか見えない彼女の機嫌が良くなった気がする。

どことなくだが。

それから間も無くして始業時刻を告げるチャイムが鳴ったことで、騒がしかった廊下が一気に静かになった。

 

 

 

 

「おはよう」

 

 

 

 

他のクラスメイトも慌ただしく自身の先に着く中、へとへとの様子の敷島先生が入ってくる。

なぜだかシンと静まり返る教室内。

取り出された出席簿をめくる音が響き渡ると敷島先生は点呼を取り始めた。

 

 

 

 

「青柳…青柳舞香」

 

 

「はい」

 

 

 

 

ただ名前を呼ばれ、ただ返事をしただけだというのに。

クラスメイトたちは感動の瞬間に立ち会ったかのような顔をしていた。

 

 

 

 

「久しぶりだな。元気していたか青柳」

 

 

「はい。おかげさまで。長い間学校に来れずすみません」

 

 

「別にかまわん。元気そうなら文句なし。ただ卒業となりゃ話は別だ。しっかりと授業に出席して、学生としての本文を忘れぬように」

 

 

「わかってます」

 

 

「よし。次。青柳祐己」

 

 

「あ、はい」

 

 

 

 

しまった。

1番最初に呼ばれることに慣れてきたせいで完全に気を抜いていた。

 

 

 

 

「おい。なんだその適当な返事は。しっかりしろ」

 

 

「うっす…」

 

 

「次。石関」

 

 

「はい」

 

 

「江田」

 

 

「はい」

 

 

「大友」

 

 

「はい」

 

 

 

 

いつもと変わらない点呼の時間。

そして変にフワフワしている雰囲気の教室内。

久々にクラスメイト全員揃った2年2組。

今日もまたいつも通りの生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敷島先生さよならー」

 

 

「はいさよならー」

 

 

 

 

放課後。

長かった1日が終わり、ようやく羽を伸ばすことができるこの時間。

今日はこの後予定があるため、羽を伸ばすのはもう少し先の話になるが、大した問題じゃない。

いや。

やっぱり問題だろうか。

目の前で繰り広げられる青柳を囲む人だかりを見て判断を訂正する。

放課となってもなお、青柳への集客はとどまることを知らない。

朝からこの時間まで、授業を除く休み時間には必ずと言っていいほど人が集まっていた。

これも田舎特有の習性なのだろうか、己の衝動にまっすぐ従い躊躇いもなく近づける図太さに感服する。

幸いなのは彼女が邪険にしてないところ。

かといって相手にしているかと言われたら最低限の反応を示すだけ。

お高くとまっているように見せず、かつ嫌味を残さないその所作はさすが芸能人といったところか。

 

 

そんな彼女を尻目に、荷物をまとめた俺は1人図書館に向かうことにした。

教室を出る際敷島先生と目が合う。

敷島先生がコクンと頷くと俺も返事の意を込めて頷いた。

図書室は隣のB棟の1階奥。

この時間図書室は閉まっているが、そこは問題ない。

図書委員長という肩書きを持つ俺が図書室の先生から、予め許可を得て鍵を預かっている。

 

 

図書室に辿り着くと鍵を開け中に入る。

カーテン閉め電気をつけ環境を整えておくこと数十秒。

整ってしまった。

あの様子じゃ青柳もすぐにはやってこれないはず。

適当に本でも読んでのんびり待つことにしよう。

カーテン越しに差し込む西陽が徐々に光を失っていく。

青柳がやってきたのはそれから更に30分経ってからの事だった。

 

 

 

 

「よっ」

 

 

「おう」

 

 

 

ガラガラと音を立てて図書室のドアが開く。

読んでいた本を閉じ、俺は来訪者へ挨拶を返した。

放課後になって今日初めて交わす短い会話。

申し訳なさそうに入ってきた青柳舞香は俺の相向かいの椅子に座るとスクールバッグを枕代わりに置いて頭から突っ伏した。

 

 

 

 

「今日一日だいぶお熱い歓迎をされたようで」

 

 

「おかげさまで。以前よりだいぶ勢い増しておりました」

 

 

 

 

状態はそのまま、顔だけあげてこちらに向かってはにかんでくる。

俺は自分のスクールバッグから敷島先生から受け取ったプリントを取り出すと彼女の目の前へ差し出した。

 

 

 

 

「これ。敷島先生から。休んでいた分の授業プリント」

 

 

「もう本題?久々に会うんだからもっと話すことないの?」

 

 

 

 

あからさまな不満を漏らし、青柳は顔を上げて文句を言う。

それならば。

俺は更にスクールバッグからあるモノを取り出すと、それをプリントの上に広げた。

 

 

 

 

「なにこれ。写真?」

 

 

「ああ。修学旅行とこの前の文化祭のやつ」

 

 

「おお。そうそうこういうのよこういうの。へー。やっと修学旅行のやつ見れるのか。文化祭のはもう現像されたのね」

 

 

 

 

パラパラと重なっていた写真を手に取り、青柳はゆっくりと見始めた。

修学旅行は4ヶ月前。文化祭はもう終わって1ヶ月が経つ。

イベント中撮られた写真。

修学旅行、文化祭共に撮られた写真は数百枚を超えたため、最初こそ全て現像してもらえる予定だったのが希望する写真を選択して購入するシステムに変更になった。

俺はもちろん彼女も好きな写真を選んだものの、学校へ届くころには彼女がおらず、受け取るタイミングが合わなかった。

敷島先生に昼休み放課後のことを伝えると、思い出したようにそれならばと授業プリントと共に受け取った。

他のクラスメイトたちに遅れて、彼女が購入した写真を今日ようやく渡すことができた。

 

 

 

 

「修学旅行とか最早懐かしいんだけど。写真届いたのいつ?ってはなし」

 

 

「仕方ないだろ。お前が学校いなかったり、こうして会ったとしても写真のこと忘れたりしちまうんだから」

 

 

 

微笑みながらまた視線を落とす青柳。

修学旅行では俺と同じ班だったな。

文化祭ではうちのクラスはアイスを売ったんだっけ。

どれも懐かしい思い出が写る写真であるが、その中に青柳が映ってるものはひとつもない。

いずれも、仕事で参加できなかった日だ。

 

 

 

 

「不思議に思ってるでしょ。自分が参加してない行事の写真をどうして買ったのか」

 

 

「ああ。まあな」

 

 

「この学校の生徒だったっていう証が欲しかったんだ。思い出なんて時間が経てば色褪せてくものでしょ。記憶なんて特に。だったらまだ形に残ってるものの方が確実に、聡明に思い出せる。例えその瞬間に自分がいなかったとしてもね」

 

 

「なるほど」

 

 

「なにそれ。珍しくものわかりいいじゃん。ほんとにわかってる?」

 

 

「もちろん。よくわからないと言うことがよくわかった」

 

 

「張っ倒す。」

 

 

 

 

談笑してふと時計を見ると、時刻はもうすぐ18:00。

日も完全に暮れており、カーテンの向こうは既に真っ暗になっていた。

 

 

 

 

「もうこんな時間だ。そろそろ帰ろう。急がないと部活組の終わる時間と被る」

 

 

「うそ。もう?」

 

 

 

 

素早く戸締りを終えて図書室を後にする。

正面玄関に向かう途中に見えた部活棟からは何人かの賑やかな声が聞こえてきた。

青柳が見つかるとだいぶ目立ってしまう。

早めに後にしないと。

駆け足で向かっている中、ふと後ろから青柳の気配が消えたことに気づいた。

振り返ると青柳は少し離れたところで足を止め、中庭の方を見つめている。

 

 

 

 

「どうした。忘れ物か?」

 

 

「喉乾いた」

 

 

「はあ?」

 

 

 

 

青柳が見つめる中庭には隣の棟と繋ぐ通路の途中に自動販売機がある。

なるほど。

青柳は自動販売機を見ていたのか。

 

 

 

 

「今から買って出たら鉢合わせになる。家まで我慢しろ」

 

 

「さっと行って帰ってくるから。ちょっとだけ待ってて。ね?」

 

 

 

 

両手を合わせた青柳が片目をつむって許しを請う。

そーっとドアの鍵を開けて外に出ようとする丁度その時。

部活棟から自動販売機へとやってくるサッカー部員の姿が見えた。

 

 

 

 

「青柳!待て!」

 

 

「ふぇ⁉︎」

 

 

 

外に出ていた青柳の手を掴み、急いで引き戻し身を隠す。

開いているスライドドアからは部員たちの話し声が聞こえてくる。

こちらの声が聞こえぬよう暴れる青柳の口許を抑えると、俺は息を殺して懸命に気配を消すよう努めた。

 

 

 

 

「いいなー。お前ら青柳舞香生で見たの?」

 

 

「マジっすマジっす。めっちゃ人いましたけど、ちゃんとこの目で見れました」

 

 

「俺なんて目が合いましたから!めっちゃ可愛かった…」

 

 

 

 

どうやら話題は登校してきた青柳についてのようだ。

朝の女子といいコイツらといい、ほんとにどこでも出てくるな青柳の話は。

 

 

 

 

「そりゃあれだけ顔とスタイルが良かったらモデルデビューもするよなぁ。大久保先輩も青柳舞香がこれだけビッグになるってわかってたら、きっとフラなかっただろうな」

 

 

「大久保センパイ?」

 

 

「忘れたのか?去年いた、俺たちが1年のとき3年だった副キャプテン」

 

 

「あー!思い出した!大久保秀俊先輩か!」

 

 

 

 

大久保秀俊…。

久々に聞いたな。

今聞いてもムカつく…嫌な名前だ。

 

 

 

 

「大久保先輩あの青柳舞香とヤったんですかね」

 

 

「いいなー。もしホントだったらオレもヤりたいんだけど!」

 

 

「先輩だったらどうします?もし青柳舞香とヤるとしたら?」

 

 

「えー?そうだなあ」

 

 

 

 

3人の部員は話しながら自動販売機で飲み物を買うと、部活棟の方へと戻っていく。

低俗な話題へと移り変わり、あまりにも聞くに耐えない生々しい内容が繰り広げられたため、俺は顔を背けた。

終始周りを憚らない騒がしさと内容に耐えていると胸元をペチペチと叩く衝撃が走った。

 

 

 

 

 

「あ、すまん」

 

 

 

 

 

長い間口を押さえていたせいで真っ赤になってた青柳が唸っている。

かよわい衝撃の正体は彼女の必死の抵抗だった。

彼女を見て、自分の思っている以上に押さえつけていたことに我に返り、俺は急いで手首と口を開放した。

 

 

 

 

 

「ぷっはぁ…!い、いつまで塞いでんのよ!」

 

 

「悪い。平気だったか?」

 

 

「へ、平気なわけないでひょ!壁に腕押さえつけて口も塞ぐとか普通しないから!」

 

 

 

 

慌てて立ち上がった青柳が不足した酸素を急いで補おうと大きな深呼吸をし始めた。

どうやら相当青柳の身体に負荷をかけてしまったらしい。

 

 

 

 

「もう最悪!あんたのせいで余計に喉が渇いた!今度こそ行くから!」

 

 

「ちょっとまて。俺が行く。まだ他に人がいるかもしれないし、それに…」

 

 

「な、なに…?」

 

 

 

 

ドアから顔を出し、周りを確認する。

微かに部活棟側から話し声は聞こえるが、こちらにくる気配はなさそうだ。

俺は素早く自動販売機まで移動すると、小銭を入れひとつドリンクを2つ購入した。

そしてまた素早く青柳の元へ戻り、ドアを施錠する。

 

 

 

 

「ねえ!買うなら買うで私が何飲むか聞いてから…」

 

 

「ほら。乳酸菌ソーダ。2つ買ってきた」

 

 

「え…じゃなくて。なんで2つも」

 

 

「それは…さっき怒らせちゃったから。お前の異変に気づかずずっと押さえつけて申し訳なかった」

 

 

 

 

ジュースを差し出し、頭を下げる。

青柳、少し表情が綻んだ顔がすぐに険しい顔に戻ってしまっていた。

まさか、自分が思っている以上に怒らせてしまったのでは。

反省の気持ちを込めて青柳の好きな乳酸菌ソーダを2本買ってきたが…それだけじゃ足りなかったか。

 

 

 

 

「…ほんとに反省してる?」

 

 

「ああしてる。ほんとに」

 

 

「なら許す。そのかわりジュースは青柳のオゴりね」

 

 

「ああ」

 

 

 

 

伸ばしていた手から冷え冷えの缶の感覚が消える。

しかし、消えたのは片手、1缶分の感覚だけだった。

 

 

 

 

「…?」

 

 

「なに」

 

 

「いや。これもお前の分なんだが」

 

 

「そんなにいらない。青柳が飲めば?走って喉乾いたでしょ」

 

 

「だが…」

 

 

「いいって。それともなに?また私の機嫌損ねたい?」

 

 

「いや。そういうことなら遠慮なく」

 

 

「うゆ。素直で良し」

 

 

 

 

プルトックを開けてジュースを飲む青柳。

彼女にようやく笑顔が戻った。

何はともあれ、これで一件落着か。

 

 

 

 

「よし。じゃあ、行くか?」

 

 

 

 

人気のない校舎を進み、正面玄関から外へ出る。

途中アクシデントに見舞われそうになりながらも俺たちは無事帰路に着くことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。