それは宏近が冥琳に意見を聞こうと、廊下を歩いている時のことだった。
祭「バッカもんっ!」
突然曲がり角から祭の声が聞こえ、その方向へ歩き、角から顔を覗かせると――
祭「まったく、この石頭め!何度、同じことをいったらわかるのだ!」
冥「・・・・申し訳ございません」
この光景に宏近が驚いた。普段、冥琳に怒られることが多い祭が、冥琳を説教しているのだ。
祭「良いか、周公謹。人生の伴侶とは酒と戦だぞ?それを忘れて知のみを追求するような者に、人は着いていかんのだ!」
冥「はあ・・・・」
祭「幼い頃から聞かせておるだろう。儂の言葉を忘れたのか!」
冥「いいえ、そういうわけではございませんが・・・・」
祭「ならば、つべこべ言わず、黙って儂に酒を飲ませぬか!」
冥「し、しかし、祭殿・・・・」
何か様子が変だと宏近が気づき、二人の前に出る。
宏「廊下で何をしているのですか?」
冥「・・・宏近」
祭「おお、小橋でないか!ちょうど良いところに現れた!この頭でっかちな小娘に、お主からもズバッと言ってくれんか!」
宏「先ほどから少し聞いていましたが、何があったのかよく分かりませんので・・・。最初から教えていただけますか?」
祭「ふ、ふぅ~む・・・・。儂が酒を飲んでいた。公謹に見つかった。叱られた」
いろいろ端折り過ぎです・・・・、祭殿・・・。
宏「それだと祭殿が一方的に悪いように聞こえるのですが・・・・」
祭「ま、待て、早まるな!ちと言い方が悪かった!」
冥「・・・・・・」
冥琳は頭を押さえて、小さなため息を漏らす。もしやこの言葉で状況を全て的確に表しているのでは・・・?
祭「えぇ・・・・まずは、台所に酒が置いてあってのう・・・・・、これがなかなか良い器に入っており、香りを嗅いだだけでも、逸品とわかる上等な酒であった」
宏「なんとなく読めましたが・・・・、祭殿はその酒を勝手に飲んだというわけですね?」
祭「勝手とはなんじゃっ!勝手とは」
宏「毒見と称して飲んだ酒が、美味で手が止まらなくなり、飲み干してしまったと・・・・」
祭「うっ、うむ、その通りじゃ・・・。それをこの冥琳が・・・」
宏「しかし、ここで疑問が一つ・・・・、ただの高価な酒ですと買いなおせば済むと思うのですが・・・、何か隠してませんか?」
祭「んん?」
宏「冥琳の事です。そんなに怒るのは他にわけがあるはずです」
祭「ぎく」
冥「さすがだな、宏近。そのとうり、祭殿は最も重要な点を話しておられぬ」
祭「ぎくぎくっ」
宏「思ったとおりですね」
祭「そ、それはだのう・・・・」
宏「きちんと話していただけないと、庇い立てできませんよ」
祭「・・・実はだな・・・・、その台所にあった酒・・・・、帝へ献上するものだったのだ」
驚愕の事実に冥琳と顔を合わせるが、冥琳は困り果てた顔で頷く。
宏「祭殿・・・・」
祭「味方をする気になったかの?」
宏「味方をする前に、祭殿が全面的に悪いことがわかりましたよ」
祭「なんじゃと?お主も儂を悪者にしおって」
宏「だって、その通りじゃないですか」
祭「ええい、冥琳も何か言わんか」
冥「・・・・私にどうしろと?」
祭「よってたかって、儂をイジメおって・・・・、良いか人生と酒というのはな・・・・・!」
それから、祭殿の『人生と酒』論を聞かされるハメになった。
あのように、逆ギレする祭殿の扱いに慣れている冥琳は、あれを甘えているのだと言う……。
――結局、新たに帝へ献上する酒は祭殿が見つけることとなり、その金は給金から引かれることになった。そのことで祭殿は泣く泣く酒を控えるハメとなった。