―現代・聖フランチェスカ―
一刀達三人が行方不明となって一ヶ月が過ぎた。三人の行方が分からなくなった当初は学園全体でも大きな騒ぎとなったが、滅多に顔を出さないフランチェスカ学園総長が集会を開き三人は長期海外留学に行ったと説明し騒ぎは落ち着いた。
しかし、それに不満を持つ一人の人物がいた。聖フランチェスカ大学附属病院の院長であり、大橋狛傅と小橋宏近の師である嘉田 元(かだ はじめ)先生だった。彼は総長が発言した海外留学という言葉を信用していなかった。嘉田は内密に人脈を使って国外へ出た渡航記録の中に三人の名前があるか調べてもらったが、そんな記録はなかった。他にも嘉田は海外の知り合いに三人の写真を送り、情報提供を頼んだがこれも収穫がゼロだった。
嘉田は自分の後継者となりえるのは二人しかいないと思っていた。これまで彼に教わって医者になった者の多くは国内外で活躍しているが、神の手(ゴッドハンド)の異名を持つ自分と同じ領域に辿り着けるのはあの二人だけであった。
―嘉田side―
嘉田「ふむ、これだけ探しても見つからんとは・・・・」
(自分が医師となって何千人もの重病患者の命を救ってきたが、頭を悩ませることはなかった。まさかワシがあの二人のことで頭を悩ませるとはのぅ・・・)
パソコンでメールフォルダを何度もチェックする。・・・・が、有益な情報は入ってこない。コーヒーを啜りながら、開かれるメールの多くは医師会の会議内容や自分が執刀する手術の日程、その内容などの確認などであった。
嘉田「一体どこに消えたというんじゃ!」
ストレスも溜まっているのか、一人しかいない部屋で大きな声で叫んだ後、一つの仮説が脳裏によぎる。
嘉田「・・・まさかとは思うが、いやまさかな」
それは嘉田がまだ医者として多くの人を救おうとした頃に起きた事である。病院からの帰り道、一人の老人が蹲っているのを見つけ放っておけず声をかけた。その老人が嘉田を見るやいなやこう言った
老人「お主を探しておった。今から外史へ誘う。その世界を救ってくれ。我が名は南華老仙。頼んだぞ」
そう言って老人がパチンと指を鳴らすと、嘉田は見たこともない世界に飛ばされてしまった。
目が覚めると嘉田は小さな村の住人に保護されていた。村人の優しい心遣いに感謝し、その恩を病や怪我で倒れた村人を救うことで返していった。嘉田が三国志の世界だと知ったのは、村に住み始めて一月ほど経ったときである。腕のいい医師がいるという噂を聞きつけ、嘉田のもとには村の住民だけでなく、近隣や遠方の村や町からも患者が来るようになった。嘉田はどんな患者でも受け入れ、分け隔てなく治療にあたった。その熱意、高い治癒率に感動した人たちから「神医」と称されるほどになった。
その噂を聞きつけ、魏の国王・曹操に招かれたとき嘉田はただの三国志の世界ではないと知る。曹操が女性であり、周りの主要な人物も女性であったのだ。偏頭痛を治してほしいと彼女に言われ身体の診察、頭部マッサージを施し、頭痛に効く薬を調合した。診察の中で酷く罵声を放つ者もいたが・・・。
頭痛の緩和に成功すると、その功績を認められ軍医に迎えられ戦場で、数多の命を救ってきた。しかし嘉田は自分の知る知識を使ってしまい赤壁の戦い後、現代へと戻ってしまう。ある人物と共に・・・。
この話を嘉田は二人と酒を飲んだときに話した事があった。無論二人は、面白い作り話だといって笑っていたが・・・。
すると・・・・
?「どぅふふふ。それじゃあ三人の居るところへ連れて行ってあげましょうか?」
と声が聞こえた。辺りを見回してみても一人しかいない。
嘉田「何者じゃ?」
突然部屋から眩い光が当たりを照らしだした。嘉田は耐え切れずに眼を瞑る。しばらくすると、
?「もう眼を開けても構わんぞ」
先程とは違う声が聞こえたので、少しずつ眼を開く。
そこには二人の巨漢が立っていた。普通の人がこの状況を見たら、固まるか悲鳴をあげるだろう。見た目が変質者なのだ。だが嘉田は天然なのか二人の格好は気にせずに骨格や筋肉のまじまじと見ている。二人は嘉田の視線に気づくと
?「あら、いやだわぁん。そんな目であたしをみつめないでぇ~」
?「そ、そうだぞ。そんな目で見られると照れるでないか」
と身体をくねらせながら言う。普通の人が見たら、吐き気を感じるかもしれない。しかし嘉田から出た言葉は、
嘉田「素晴らしい・・・」
二人「「えっ?」」
嘉田「これほど完璧な筋肉のつき方など、医師をして30年間診たことがない。今まで診てきたアスリートの患者でも、どこか筋肉のバランスがとれていない人達が大半じゃった!!しかもワシの観察眼が正しければ、栄養剤や増強剤も使用しておらん!!どうじゃ?」
嘉田の言葉に二人は歓喜する。
?「あらぁ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。ねぇ、卑弥呼?」
卑弥呼「そうだな、貂蟬。しかも我らの身体の鍛え方も見抜いておる」
貂蟬「そうみたいねぇん。さすが南華老仙が一目をおく人ねぇ~」
貂蟬の口からでた南華老仙の言葉に嘉田は驚き、貂蟬に問う。貂蟬から返ってきた答えは、三人(南華老仙も含む)は外史の管理者であり、ある外史を成立させるために三人(一刀、狛傅、宏近)を送ったという。嘉田はそれを知ると、安堵の表情を浮かべる。ようやく、三人の居場所が分かった。いずれ帰って来ることがあると信じ、卑弥呼、貂蟬に三人のことを任せたというと、二人は頷いて消えていった。
それから一分も経たぬうちに嘉田の部屋の戸が開く。そこには、和服を着た褐色の肌に銀髪美人の女性が立っていた。
?「何じゃ、誰かと話しておった声がしたと思ったのじゃが・・・」
嘉田「気のせいじゃろう。まつり」
まつりと呼ばれた女性は、嘉田の妻である。
あの三人がもし、嘉田の妻の顔を見ていれば、あちらの世界で驚いていたであろう・・・。
まつりは嘉田の嬉しそうな表情を見ると、それを察し、
まつり「三人の居場所が分かったのかの?」
嘉田「まあの」
嘉田はそういいながら机の引き出しから酒とグラスを二つ取り出し、それに酒を注ぎ一つをまつりに渡す。
まつり「久しぶりじゃの。お主から酒を貰うのは・・・」
嘉田「飲みたい気分なんじゃ。たまには良かろう」
グラスを鳴らすと、酒を飲む二人。
まつり「今は儂とお主の二人きりじゃ」
嘉田は「お手伝いさんは?」
まつり「帰らせた。じゃから真名で呼べ元(はじめ)」
嘉田「そうじゃな・・・・・・祭(さい)」
嘉田まつり 旧姓 黄蓋 字 公覆 真名は祭 嘉田の妻であり、三国志で救った最後の患者である。