ストリートに響くこの歌は   作:リメイル

8 / 10
杏、誕生日おめでとう!!!!
どうも皆様、リメイルです。本日はイベントストーリー「The Vivid Old Tale」。そして7月26日は杏の誕生日です!
偶然この話を投稿できること、嬉しく思います。



響「杏、誕生日おめでとう。今日という日を共に祝えること、本当に嬉しいよ。ずっと迷惑かけた分、しっかり返すから。生まれてきてくれて.......俺の妹になってくれてありがとう。大好きだぞ、杏」


このストーリーの中心は杏を語る上で最も重要な人物、凪さん。
もちろん、我らがオリ主響とも関わりがあります。
本当は書く予定はなかったこの話ですが、現在までの経緯を考えると書かない訳にはいきませんでした。
間に挟まっている合同ストーリーや他ユニットストーリーについては番外編や別枠で投稿する予定です。
また、今回まさかの1万文字越え。私も困惑しております。
かなり長いですが、楽しんでください。
それでは本編どうぞ!

ED曲 街/Vivid BAD SQUAD feat.白石響


あの人との思い出は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ん? 杏から、電話?」

 

 

新作のスイーツの模索中、ポケットのスマホが鳴った。

 

 

画面を見ると杏からの着信だった。

 

 

開いていた雑誌を閉じ、応答する。

 

 

「杏、どうしたんだ? なにかあったのか?」

 

 

『突然ごめん、兄さん! 今って時間大丈夫?』

 

 

「雑誌読んでただけだからな。問題ないぞ」

 

 

声色からして、別にトラブルという訳ではなさそうだ。

 

 

今は練習中だと思うが、どうしたんだろうか。

 

 

『実は今、みんなで集まってるんだけど、凪さんのことを知りたいって話になってね』

 

 

「凪さんのことを?」

 

 

初の主催イベントを大成功させた杏たち、Vivid BAD SQUAD。

 

 

次のイベントについて話していたところ、「RAD WEEKENDが他のイベントとは違う空気がある」という発見をしたそうだ。

 

 

改めて映像を見たところ、その中心が凪さんなのではないか、と思った。

 

 

そこで、凪さんと仲の良かった杏や俺の話を聞きたいんだそうだ。

 

 

(凪さんのことか......)

 

 

杏たちの知らない、あの夜の凪さんのことを知る俺。

 

 

それ以外のことであれば、問題ないな。

 

 

「わかった、直接話した方が伝わりそうだな。今どこにいるんだ?」

 

 

『今? えっと...........どうしたらいいんだろ......』

 

 

途中小声で聞こえなかったが、躊躇いがちな杏。

 

 

気になってよく耳をすませると、少し話す声が聞こえる。

 

 

あまり聞き馴染みのない声だったため、俺の知らない場所に居るのだろうか。

 

 

会話が終わったのか、杏は恐る恐る口を開く。

 

 

『“セカイ”に.......来て欲しい』

 

 

その言葉で理解した俺は、すぐにプレイリストの“街”をタップした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてやってきたのはストリートのセカイ。

 

 

ここに来るのは数ヶ月ぶりだ。

 

 

その時とは少し雰囲気が変わったみたいだ。

 

 

なんというか、賑やかになった?

 

 

「来たね。どう? 久しぶりのセカイは」

 

 

そんな俺を迎えるのは緑色のツインテール。ミクだ。

 

 

「まだなれない、不思議な感覚だよ。それと、なかなか来れなくてすまなかったな、ミク」

 

 

杏たちの憩いの場所でもあって、目的がないと来ない場所だ。

 

 

そもそも俺がここに入れるはおかしいからな。

 

 

「みんな待ってる。さあ、行こう」

 

 

ミクに促され、店に足を進める。

 

 

以前と変わらぬ道を進み、店に着く。

 

 

賑やかな声が、外まで聞こえる。

 

 

「なんか人、増えたか?」

 

 

「うん。みんなのことも紹介したいから、入って」

 

 

前は少し寂しそうな雰囲気だったから、賑やかになって何よりだ。

 

 

「おお。さて、お邪魔しまーす、っと」

 

 

ドアを開けて、中に入った。

 

 

 

 

「あれ!? どうして響さんがここに!?」

 

 

「え........本当に兄さんが来た!?」

 

 

「.......まじかよ」

 

 

「さすが先輩ですね」

 

 

開口一番、全員すごく驚いた表情をした。

 

 

若干1名違う反応をしているが、まあいいか。

 

 

4人は一旦置いておいて。

 

 

「久しぶりね。響」

 

 

笑顔で手を振るメイコに振り返し、同じように驚いているバーチャルシンガーたちに向き合う。

 

 

「ああ、久しぶりだなメイコ。それと初めまして、杏の兄の響です。よろしく頼む」

 

 

そう言って頭を下げると、金髪の少年、鏡音レンが目を輝かせて近づいてくる。

 

 

「き、君が杏のお兄さんで.......RAD WEEKENDに参加したHibiki!? うわあ.......本物だ!」

 

 

「お、おお。よく知ってるな」

 

 

「私達も、RAD WEEKENDの映像を見たからよ〜。貴方の歌声、凄かったわ」

 

 

グイグイ距離をつめるレンに押され気味になっていると、ピンクの長髪の女性、巡音ルカがそう言って近寄ってきた。

 

 

「うんうん。特にあのシャウト、一瞬で心が掴まれたよ!」

 

 

ルカの感想に頷く青髪の男性、KAITO。

 

 

「ちょっと、レン! 初対面で失礼だよ!」

 

 

慌ててレンを、俺から剥がす同じ髪の少女、鏡音リン。

 

 

「おお........ありがとな。みんな」

 

 

俺が来た時より、だいぶ人数が増えたんだな。

 

 

賑やかな店内が嬉しく感じる。

 

 

「ちょっと、兄さん! 説明して!!」

 

 

そんな彼らとわちゃわちゃしていると、正気に戻った杏がそう言う。

 

 

てっきりミクから説明されていたと思ったが、そうじゃなかったみたいだ。

 

 

だってカウンターでほくそ笑んでるもん。

 

 

頬を膨らませて詰め寄る杏。

 

 

頭を撫でて落ち着かせる。

 

 

「わかった、でも少し長くなるから後でな。今日は凪さんについて話すんだろ?」

 

 

「うん......後で絶っ対説明してもらうから」

 

 

まだ膨れているが、機嫌は直してくれたようだ。

 

 

杏の隣の椅子に座る。

 

 

背を正して、みんなに向き合う。

 

 

「凪さんについてだな。さて、どこから話すか.......」

 

 

「あ、それじゃあ兄さん。あの時のこととかどうかな」

 

 

悩んでいると、杏がそう言って話し出した。

 

 

凪さんとの、街のみんなとの、大切な思い出を。

 

 

「凪さんは━━━━━━本当に、いつだってかっこよかったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前の土曜日。場所はビビットストリート。

 

 

「よしっ! 今日もがんばるぞー! よろしくね、お兄ちゃん!」

 

 

「ああ!それじゃあ最初も声出しからいくぞぉ!」

 

 

俺と杏はいつものようにストリートで練習をしていた。

 

 

普段は父さんが忙しい時だけ俺が一緒なのだが、杏の要望もあり2人でいることが多かった。

 

 

「♪━━━━━━!」

 

 

杏の歌声に合わせて、俺も声を出す。

 

 

すると、周りの人たちが声をかけてきた。

 

 

「お! もう響と杏ちゃんが歌い出す時間か」

 

 

「そうみたいだな」

 

 

毎日のようにこの時間に練習をしていたため、ストリートのみんなにとって日常生活のひとつとなっている。

 

 

声出しの後の練習曲を歌い終えて一息つく。

 

 

その時にお姉さんが近づいてきた。

 

 

「杏ちゃーん! 響くーん! 今日も朝からえらいね〜」

 

 

「あ、お姉さんおはよ! 今お仕事終わったの?」

 

 

こんな風に話しかけてくれるみんなに、笑顔で答える杏。

 

 

その光景を見て、いつも微笑ましい気持ちでいた。

 

 

「響くんも、また一段とかっこよくなったんじゃない?」

 

 

「へへっ、まあいつも父さんみたいになれるように頑張ってるからな!」

 

 

こうして俺の方にも同じように声をかけてくれる。

 

 

だが俺としては、もっと杏を見てあげてほしい。もっと褒めてあげてほしい。

 

 

あの子は俺の、自慢の妹なのだから。

 

 

声をかけてくれる皆1人1人と話していると、近くのライブハウスの店長が駆け寄ってきた。

 

 

「おーい! 杏ちゃん! それに響くんも!」

 

 

「ん? あ、おじさん! おはよ! 元気?」

 

 

「おう!元気すぎるくらいだ! 杏ちゃんは今日は兄ちゃんとアレか? 謙の言っていた......」

 

 

杏に続いて、俺も挨拶をする。

 

 

『歌の練習ならこの通りでするのが一番』というのが、父さんたちの言っていたことだ。

 

 

確かにここの通りでやるのはとてもいい。街の様子も見れて、声も出しやすい。

 

 

「本当は杏が、朝から父さんに見てもらうつもりだったんだけど.........忙しいみたいだからな」

 

 

「そうか......まあ、あいつは人気者だからな」

 

 

「ね! ほんとみんな、お父さん達の大ファンなんだから!」

 

 

杏は不満そうに頬を膨らませるが、父さんが褒められていて嬉しそうだっった。

 

 

すると、近くにいるもう1人の人物に視線が移る。

 

 

彼は先週から働いている新しいスタッフで、父さんのファンなんだそうだ。

 

 

子供ながら、非常に誇らしく思う。

 

 

「あ、でも私、お父さんよりすごいミュージシャンになるから! その時は私のイベントも見に来てね!」

 

 

「あ、うん!」

 

 

「それじゃあ、おれたちは練習に戻るから。それじゃ!」

 

 

杏も、またね! と元気よく返事をする。

 

 

そうして俺たちは練習を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー。いっぱい歌ったなぁ.......」

 

 

「今日は新しい曲も練習に入れて、この前よりも歌えるようになったんじゃないか?」

 

 

「ほんと!? えへへー」

 

 

嬉しそうに笑顔を向ける杏。しかしまた不満そうな顔をする。

 

 

「もうお昼になっちゃう.........お父さん、今日は練習見てくれるって言ったのに!」

 

 

杏が言うように、昼になっても父さんは現れない。

 

 

その所為でそれを楽しみにしていた杏はご立腹。

 

 

まあまあ、と頭を撫でてやるがまだ不満げ。

 

 

なにか曲でも歌ってあげようか、と思っていた時。

 

 

少し離れたところから足音とともに、俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「おーい! 杏ー! 響ー!」

 

 

「あ......この声.....!」

 

 

その声が聞こえると、杏がすぐに笑顔になった。

 

 

「凪さん! 大河おじさん!」

 

 

現れたのは凪さんと、大河おじさん。

 

 

「やっほー! 2人は今日も朝練?」

 

 

真っ先に駆け寄った杏は、凪さんに飛びついた。

 

 

「うん! もう3時間くらい、お兄ちゃんとやってるんだ!」

 

 

「もうそのくらいになるのか。2人は父さんに会いに?」

 

 

凪さんは飛びついてきた杏を抱きしめ、笑顔で言った。

 

 

「そうだよ。今日のイベントの準備もあるしね。張り切って歌っちゃうから、楽しみにしててよ!」

 

 

「うんっ! えへへ......楽しみだな〜!」

 

 

どうやら今夜もイベントがあり、凪さんたちはそれに参加するのか。

 

 

それにしても、笑顔の凪さんと杏はとても絵になるな。

 

 

「はは、杏は本当に凪になついてるな」

 

 

それを見た大河おじさんも、同じように笑顔になる。

 

 

「で、謙はまだ家か?」

 

 

大河おじさんに質問に対して、杏は不満げに話す。

 

 

それを聞いた凪さんが言うには、メジャーデビュー前の人たちの相談を受けているそうだ,

 

 

「謙のことを頼りにするやつらが多いんだよな。俺と違って面倒見がいいから」

 

 

「とかなんとか言って、大河だって案外助けちゃうほうじゃーん?」

 

 

そんな風に仲良く話していると、大河おじさんに父さんからの連絡が入る。

 

まだもうちょっと時間がかかるそうで、杏がまた不機嫌になる。

 

 

と、そこで俺は2人に提案をした。

 

 

「それだったら2人とも、杏の歌を聴いてくれない?」

 

 

「お兄ちゃんナイスアイディア! いっぱい練習したから、いい感じに仕上がってるよ!」

 

 

昨日父さんからいい評価をもらったため、自信満々な杏。

 

 

歌いだして少し、凪さんからの指導が入る。

 

 

的確なそのアドバイスを、杏はすぐに習得した。

 

 

そんなやり取りをする2人を、大河おじさんと眺めていた。

 

 

「ふっ。相変わらずお前らは姉妹みたいだな」

 

 

「それはそれでおれの立場が......」

 

 

「ははっ! そう落ち込むなよ、響。 ......ん?」

 

 

なにかに気づいた大河おじさんの視線の先には、2人のラッパーらしき人たちを中心に人だかりができていた。

 

 

どうやらMCバトルイベントで、トラブルになったみたいだ。

 

 

「わっ! だ、大丈夫かな.......!?」

 

 

杏を引き寄せ、巻き込まれないよう抱きしめる。

 

 

少し離れているから大丈夫だろうが、反射的に行動していた。

 

 

彼らはいつ殴り合いになってもおかしくないほどの雰囲気だった。

 

 

そんな中、凪さんが。

 

 

「ちょっと私、行ってくるよ」

 

 

なんて言い出した。

 

 

「おう」

 

 

返事をした大河おじさんも、軽い!?

 

 

「えっ、どうするの!? 凪さーん!」

 

 

心配して声を上げる杏。

 

 

その渦中に入った凪さんは、冷静にことを進める。

 

 

「それじゃ━━━思いっきり沸かせてよね!!」

 

 

そして凪さんの一声とともに、セカンドバトルが始まった。

 

 

「ははは.......」

 

 

俺は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一番沸かせたのは━━━━大河〜!」

 

 

いや、どうしてこうなった。

 

 

さっきまで見物を決め込んでいた大河おじさんだが、いつの間にか参加していた。

 

 

かくいう俺も途中から参加していたから、人のこと言えないけど。

 

 

ラッパーの2人はようやく落ち着いて、この場は丸く収まった。

 

 

「━━━おい! 凪、大河!」

 

 

そういって駆け寄って来たのは父さんだった。

 

 

ようやく用事に一区切りついたのだろうか。

 

 

「あ、お父さーん!」

 

 

杏が笑顔で迎える。

 

 

「お、やっと来たか。あんまり遅いからイベントひとつ終わっちゃったじゃん」

 

 

凪さんにそう言われ、謝る。

 

 

予定とは違う結果になったが、凪さんと大河おじさんのラップを聴ける、滅多にない経験ができた。

 

 

そんな会話の中、ラッパーたちはようやく2人がRADderだということに気づいたようだった。

 

 

凪さんと大河おじさんに諭された彼らは、元気に返事をして、戻って行った。

 

 

「そういえば、杏もだいぶラップがうまくなったな。毎日練習した成果が出てるぞ」

 

 

「でしょでしょ! ......って、そうじゃなくて!」

 

 

杏を褒める父さんだったが、そのご本人は緩んだ頬を再度膨らませた。

 

 

「お父さん遅いよ! 朝の練習見てもらいたかったのに、もうお昼になっちゃったじゃ〜ん!」

 

 

「そうだな.....悪かった。いろいろと長引いてな。響も、悪かったな」

 

 

「おれは問題ないよ。まあ、それにしても遅すぎるかもね」

 

 

俺と杏の言葉に、困り顔の父さん。

 

 

もう少し何か言おうかと思ったが、これくらいにしておこう。

 

 

まあ父さんが忙しいのは知っているから、仕方ないな。

 

 

「代わりに明日の朝練習を見よう。日曜だから、昼までみっちり見れるぞ」

 

 

「えっ、本当?」

 

 

「ああ。あとはお詫びと言っちゃなんだが......今日のイベントはVIP席で見ていいぞ」

 

 

一席空いたらしく、ライブハウスの店長が、ぜひ杏に座って欲しいそうだ。

 

 

「おおっ、マジか!? よかったな、杏!」

 

 

「うんっ! .......でもお兄ちゃんは?」

 

 

笑顔から一変、俺が一緒の席じゃないと知って悲しげな表情の杏。

 

 

俺は頭を撫でて、目線を合わせる。

 

 

身長は余り変わらないから屈む必要は無い。

 

 

「おれは大丈夫だから、楽しんでこい! 後でいっぱい感想教えてくれよ!」

 

 

そう笑顔で言ってやると、また笑ってくれた。

 

 

「うんっ! ありがとう、お兄ちゃん! お父さん! 」

 

 

「おう。それじゃ、そろそろ行くか。響も前の方の席だから安心しろよ」

 

 

「うん! 楽しみにしてる」

 

 

俺たちはそう言って、ライブハウスに向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イベント後の夕方。杏は凪さんとシューティングゲームで遊んでいた。

 

 

結果は杏の圧勝。凪さんが再戦を希望する中、余裕気な笑みを浮かべる。

 

 

ちなみに俺は見てるだけ。このゲームで杏に勝ったことはないからな。

 

 

「くっ.......その余裕しゃくしゃくな態度、一体誰に似たわけ?」

 

 

「ま、凪の真似をしてるんだろうな」

 

 

「あちゃー、お手本になっちゃったか〜」

 

 

杏の自分に似た態度に、より悔しそうにする凪さん。

 

 

コントローラーを構え、いざ再戦。とその時、ライブハウスのスタッフさんが駆け寄ってきた。

 

 

何やらトラブルが起こったらしい。

 

 

俺は杏とゲームをしながら待っていた。

 

 

しばらくして話が終わったのか、凪さんが言った。

 

 

「......そういうことなら私が行ってくるよ。ふたりは杏達と一緒にいてあげて」

 

 

「え.......! 凪さん、行っちゃうの!?」

 

 

寂しそうにそう言う杏に、凪さんは優しく言った。

 

 

「.......大丈夫だよ、杏。またすぐ一緒に遊べるから」

 

 

「でも......もう1回凪さんとやりたい......」

 

 

凪さんは申し訳なさそうに眉を下げ、杏と向き合う。

 

 

また明日遊ぼうと約束して、ライブハウスに向かった。

 

 

「あ.......。 行っちゃった.......」

 

 

「大丈夫。また明日って、言ってくれたんだからな」

 

 

そう言いながら頭をなでると、コクリと頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

その翌日、杏と俺は凪さんと公園でバスケをしていた。

 

 

スリーポイントシュートを華麗に決める凪さん。

 

 

選手にも負けないボール捌きに、見入ってしまう。

 

 

杏も教えてもらいながら、バスケを楽しんだのだった。

 

 

 

 

夕方になり、神山通りに戻ってきた一行。

 

 

「あ、ねえねえ凪さん、おじさん! 今日はうちでご飯食べてくよね?」

 

 

凪さんと大河おじさんをそう誘う杏。

 

 

以前父さんが相談を受けたチームからお礼にと、お肉を貰っていた。

 

 

今日はそれでご馳走にしようとしていた。

 

 

「2人が来ると、賑やかでいいよね」

 

 

「ああ。そうだな」

 

 

嬉しそうな杏を眺めながら、そう父さんを話す。

 

 

「........あれ? ここ、おっきな建物作ってるみたい!」

 

 

杏が発見したのは建設中の『神山高校』。

 

 

工事現場は危ない、と父さんが注意する。

 

 

この時の俺たちぐらいの年齢だと、中が気になるのはわかる。

 

 

「そういや俺達も、昔は夜の学校に忍びこんだりしたもんだな」

 

 

「え? そうなんだ?」

 

 

「あっ、ちょっと大河! それ今言わなくてもいいでしょ!」

 

 

昔話に花を咲かせていると、いつの間にか家の前まで着いていた。

 

 

みんなで中に入ろうとした時、若いミュージシャンが話しかけてきた。

 

 

その人物は、以前凪さんたちがイベントで会った、4人組のチームの1人だった。

 

 

3人の力を借りたいそうだ。

 

 

内容はとあるレーベルとの契約の際のトラブル。

 

 

困っていたところ、父さんたちがそういったことに詳しいと聞き、訪れたそうだ。

 

 

少し揉めそうなこともあり、凪さんと大河おじさんで聞いてくることになった。

 

 

「......凪さん達、帰っちゃうの?」

 

 

突然入った用事に、杏も凪さんも悲しげな表情をする。

 

 

また今度ご馳走になることを話し、凪さんたちはその交渉の場に向かった。

 

 

父さんが、帰りに歌の練習を見ると提案し、その表情は晴れた。

 

 

このようなことが続けて起きるのはしょうがないことだが、あまりに杏が可哀想だった。

 

 

 

 

 

 

「ええー! 練習見てくれないの!? いつもお休みの日は見てくれるのに!」

 

 

またそれから1週間後、

 

 

杏の不満げな声が響く。

 

 

今度のトラブルは、角のライブハウスの店長さんが倒れたというもの。

 

 

「え、あそこの店長さんが.......!? 大丈夫!?」

 

 

心配そうにそう言う杏。

 

 

「早めに病院に運ばれたからピンピンしてる。ただ、明日からあるイベントで店の切り盛りが大変だから、手伝ってほしいと頼まれたってわけだ」

 

 

「......そっか......」

 

 

また寂しそうな顔をする杏。

 

 

今日まで何度も同じように練習を見てくれない日が続き、ずっと不安だった杏。

 

 

その心の内を父さんに話した。

 

 

それを聞いた父さんは。

 

 

「俺はもちろん、凪も大河も、いつだって杏のそばにいたいと思ってる。面倒くさいなんてわけあるか」

 

 

 

父さんはこの通りで歌う意味を、少し語った。

 

 

「ここで歌うことは、絶対に杏の.....響の力になると思っているから、そう言っているんだ」

 

 

「私と.....」

 

 

「おれの力に.......?」

 

 

この街のおかげで成長できたこと、それがいつかわかる時がくる。

そう語る父さんに、首を傾げる杏。

 

 

 

当時の俺もその事がよく分からなかった。

 

 

でも街のみんなに支えられていることを知った今なら、本当によくわかる。

 

 

父さんの携帯に、打ち合わせの時間の連絡が来る。

 

 

俺と杏の視線に合わせ、頭を撫でてくれる。

 

 

「━━━━━━━次の日曜の昼には、必ず練習を見よう。午前中には用事があるが、それ以降なら問題ない」

 

 

凪さんと大河おじさんも空いている。不安そうな杏に、そう言って約束をする。

 

 

俺に目を向けて、父さんは歩き出す。

 

 

「それじゃあ━━━━━行ってくる。響、杏を頼んだぞ」

 

 

「わかってるよ.......いってらっしゃい」

 

 

俺は深く頷いて、見送った。

 

 

「.........いってらっしゃい」

 

 

杏はずっと浮かない顔だった。

 

 

俺は少しでも元気づけようと、優しく声をかけた。

 

 

「よし、それじゃあ杏。今日も始めよう?」

 

 

「......うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪━━━━━!! ♪━━━━〜〜.........」

 

 

 

杏の歌声は、その気持ちに影響を受けていた。

 

 

 

聴いている人たちもそう感じたようで、心配そうにしている。

 

 

「........杏」

 

 

兄と父はやっぱり違う。俺が居ることで少しは変わってほしかったが、それはもううまくいかない。

 

 

一緒に居るのが普通になってしまったのだ。

 

 

「杏.....少し休憩しよ?」

 

 

「.......うん」

 

 

1度気持ちを落ち着かせようと思い、休憩を提案。

 

 

ちょうどその時、お姉さんが声をかけてくれた。

 

 

いつものように杏を褒める。だが杏はそれを否定する。

 

 

「ええ? そんなことないわよ! 大人顔負けじゃない! ね、響くん!」

 

 

「うん! そうだね」

 

 

「......そんなことないよ」

 

 

元気のない杏の様子を察して、みんなが周りに集まってきた。

 

 

「もしかして.......親父さんが忙しくて練習見てもらえないのか?」

 

 

「........最近なにかと忙しくしてたみたいだから。おれが見てあげるのにも限界があるし.......」

 

 

俺がそう答えると、お姉さんが杏を励ます。

 

 

時間が出来たら絶対、練習を見てくれると。

 

 

杏はその励ましに、少し元気を取り戻した。

 

 

「.......うん.......お兄ちゃん。練習再開しよ!」

 

 

「っ........おお!」

 

 

 

そうして、今日の練習を続けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日曜日。

 

 

「「行ってきまーす!!」」

 

 

杏とともに今日もストリートで練習をする。

 

 

「父さんたちは昼からだから、それまで練習しようね」

 

 

「うんっ! あと2時間だよね。よーし、声出しがんばるぞー!」

 

 

そうして元気よく練習を始める。

 

 

俺も久しぶりに父さんたちと練習するのを楽しみにしていた。

 

 

父さんたちもきっと張り切っていたはずだ。

 

 

だが......そう上手くはいかなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー.........。お父さん達、遅いなあ」

 

 

既に時間は昼をすぎている。

 

 

忘れていることは絶対ないはずだ。またなにかの影響で長引いているのだろうか。

 

 

「........確か打ち合わせは、通りの外だったよな。よし、杏! 見に行ってみよう!」

 

 

「うん!」

 

 

手を繋いで神山通りまで移動する。

 

 

だが誰も居ない。打ち合わせ場所は合っているはずなのだが.....

 

 

「んー。いないね」

 

 

「........いつもここの道を通って来てくれるんだけどなぁ」

 

 

頭を悩ませていると、杏がここで待っていると言った。

 

 

「じゃあ、話しながら待ってようか」

 

 

「うんっ! 早く来ないかな〜」

 

 

嬉しそうに笑う杏。

 

 

俺はだんだん不安が募っていった。

 

 

(父さん........本当に大丈夫なのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けに照らされる通り。

 

 

父さんたちはまだ姿を表さない。

 

 

「..........」

 

 

元気のなくなった杏に寄り添い、俺も待ち続ける。

 

 

「父さんたち.......遅いね」

 

 

「うん........私との約束、忘れちゃったのかな......?」

 

 

安心させるように、頭を撫でる。

 

 

(一体なにやってるんだよ.....!)

 

 

顔に出さないようにしているが、内心焦っている。

 

 

これで今日もダメだったら、杏がどんな行動に出るか分からない。

 

 

そうしていると、こちらに駆け寄ってくる人影が見えた。

 

 

ライブハウスのスタッフさんだ。

 

 

探し回っていたのか、息が荒い。

 

 

「え? あ、ライブハウスの.......」

 

 

「ごめんね、遅くなって。お父さん達から伝言があるんだ」

 

 

「父さんたちから?」

 

 

スタッフさんは申し訳なさそうにそのことを話す。

 

 

 

内容は.......

 

 

メインゲストの人気チームが急遽出られなくなったこと。

 

 

イベントを中止にする訳にもいかず、そこで同じレベルの父さんたちが選ばれたこと。

 

 

その結果.............杏との約束を果たせなくなってしまったこと。

 

 

 

「え.........」

 

 

「..........」

 

 

当たって欲しくない予想だったのに。

 

 

驚きで声が出せない。

 

 

「......そういうわけで、今お父さん達には、うちのイベントに出演してもらっているんだ。それで伝言なんだけど、お父さんは、『約束が守れなくてすまない。次こそ必ず━━━』」

 

 

スタッフさんは続ける。

 

 

 

父さんからの伝言を言おうとしたとき、杏の雰囲気が変わったのを感じた。

 

 

「.......なんで? お父さん、日曜日は絶対に練習見てくれるって言ったのに.......」

 

 

俺以上に杏は今日を楽しみにしていた。

 

 

 

「約束、したのに.........」

 

 

「あ.......」

 

 

今にも泣きそうな顔で言う杏に、俺も、スタッフさんも何も言えなくなっていた。

 

 

「みんなも酷いよ........大人なのに、いっつもお父さん達に頼って、連れてっちゃって......!」

 

 

杏の目から涙が零れる。

 

 

悔しい気持ちでいっぱいになった。

 

 

俺は........何もしてやれない.......

 

 

スタッフさんがなんとか、杏を慰めようとする。

 

 

だが、

 

 

「もう、知らない!! お父さん達も......街のみんなも.....大っ嫌い!!」

 

 

「.......っ! 杏!!」

 

 

とうとう我慢の限界に達し、かけ出す杏。

 

 

一瞬呆気に取られたが、俺はすぐに追いかけた。

 

 

その時に、振り返ってスタッフさんに言う。

 

 

「父さんに連絡して!! おれは杏を追いかけるから!!!」

 

 

「あ、響くん!!」

 

 

返事を聞かず、急いで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏っ!」

 

 

大通りに出ると、急いで杏に近寄る。

 

 

「はあ.......はあ......」

 

 

「.....杏」

 

 

目に涙を浮かべる杏。

 

 

「.......お父さんは、私よりみんなのほうが大事なんだ.....!」

 

 

「......違うよ。杏のことが大事だから、あんなふうに伝言を託して━━━」

 

 

俺は冷静に、刺激しないように努めて話す。

 

 

でも今の杏には、俺の言葉は届かない。

 

 

「私のこと大事だったら......約束破らないもん.....!」

 

 

「......っ」

 

 

「それも1回だけじゃなくて..........何回も破って......!」

 

 

杏はずっと今日のことを楽しみにしていた。

 

 

それも1週間前から、ずっと.......

 

 

その気持ちを裏切られたのだ。当然の怒りである。

 

 

そして、

 

 

「.....もういい! お父さんが私のことどうでもいいって思ってるなら━━

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━もう、絶対家に帰んない!」

 

 

 

そう言ってまた駆け出した。

 

 

「ちょっと待って! ......杏!」

 

 

慌てて追うが、一瞬人混みに晒され見失ってしまう。

 

 

 

「っ! 杏ーーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探し回って数時間。

 

 

途中雨にうたれながら、俺は神山通りに戻ってきていた。

 

 

まだ杏は見つかっていない。

 

 

「......どこいったんだよ、杏」

 

 

隅々まで探したが見つからない。

 

 

もう限界が近く、ほぼ気力で立っている。

 

 

「早く......見つけないと」

 

 

頭によぎるのは杏の泣き顔。

 

 

口では強気だったが、きっと寂しがっているはずだ。

 

 

そう思い、再び歩き出そうとする。

 

 

「あれは.......響!?」

 

 

近づいてきたのは凪さん。

 

 

驚いた顔をして駆け寄ってくる。

 

 

「大丈夫!? こんなにずぶ濡れで.......風邪ひいちゃうよ!!」

 

 

凪さんが傘をさして、心配してくれた。

 

 

「ありがとう凪さん.......でもごめん。まだ杏は見つかってないんだ......」

 

 

「さっきまでずっと探してたの!? 」

 

 

凪さんは、持ってきてくれた上着を羽織らせてくれた。

 

 

これなら、まだ動けそうだ。

 

 

「早く.......見つけないと」

 

 

歩き出そうとしたら、凪さんに止められる。

 

 

「こら、1人で行こうとしない! 私も一緒に探すから」

 

 

「でも......もう探すところはないよ.....?」

 

 

杏が行きそうな場所は全て周った。

 

 

どこに居るのか、もう分からなかった。

 

 

落ち込んでいると、凪さんが俺の頭に手を乗せて言った。

 

 

「大丈夫。もう目星はついてるんだよね」

 

 

凪さんはそう言って俺に手を伸ばし、立ち上がらせた。

 

 

「行こう。杏のところに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪さんの予想通り、杏は工事現場に居た。

 

 

杏が前に言っていた、『探検してみたい』という発言を覚えていたんだ。

 

 

俺は嬉しい気持ちを抑えきれず、杏に駆け寄り抱きしめる。

 

 

「杏〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!よかった........! 見つかって!!!」

 

 

「お、お兄ちゃん......! 凪さん...........!」

 

 

「もう大丈夫だよ、杏」

 

 

 

 

 

 

落ち着いた杏に、凪さんが帰ろうと促すのだが.....

 

 

「━━━━━やだ! 私、絶対に帰らないもん!」

 

 

杏は俺に言ったように、自分の想いを凪さんに言った。

 

 

その気持ちを知った凪さんは、杏に父さんのことを語る。

 

 

ステージに上がるまで、杏の身を案じていたこと。

 

 

杏が飛び出して行った時の必死な様子。

 

 

父さんが、どれだけ杏を大事に思っているのか。

 

 

それを聞いた杏は、

 

 

「でも.....本当に大事で大好きなら.......約束だって破らないんじゃないの? 一緒に、いてくれるんじゃないの.....?」

 

 

子供ながらの、願い。想い。

 

 

凪さんは優しく微笑んで言う。

 

 

「もちろん、みんな杏が一番大好きだよ。だけど......私達は、この街のみんなも、大好きなんだ」

 

 

なぜ街にみんなが好きなのか。それを語る凪さん。

 

 

そこで俺も杏も、父さんの言っていた『この街のおかげで、ここまで成長できた』、という言葉の意味に気づいた。

 

 

 

街のみんなが居てくれたから、今の父さんたちがある。

 

 

凪さんはそう語る。

 

 

「.......それにね、この街のみんなは、杏のことが大好きなんだよ? もちろん、響もね」

 

 

「.......おれのことは良くない?」

 

 

ずっと話を聞いていただけの俺に、話を振ってくる凪さん。

 

 

杏の話をしてくれ.....俺は恥ずかしいから。

 

 

凪さんは笑って、話を続ける。

 

 

杏や俺が街のみんなに与えた影響。それに伴う変化。

 

 

こんなに.......杏を想ってくれていたんだ。

 

 

聞いていた俺の方が、泣きそうになっていた。

 

 

「だから杏には、この街の人を嫌いになってほしくないんだ。.......勝手な、私の気持ちだけどね」

 

 

いつも声をかけてくれるみんなの顔が、浮かんでくる。

 

 

街のみんながあんなにも優しいから、父さんたちもそれに応えているんだ。

 

 

すると、外から杏を呼ぶ複数の声が聞こえた。

 

 

「これって.......」

 

 

「ふふ。着いたみたいだね」

 

 

そう微笑む凪さん。

 

 

どういうことなのか、もちろん俺は何も知らない。

 

 

「え、着いたって.......」

 

 

「行けばわかるよ。行こう! 響も!」

 

 

「お、おお!」

 

 

困惑する杏を抱き上げ、歩き出す凪さん。

 

 

俺はそれに慌てて着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい! みんな、こっちだよー!!」

 

 

外に出ると、そこには街のみんなが集まっていた。

 

 

夜だというのにこの人数。凪さんの言っていたのはこのことか。

 

 

「━━━━杏!!」

 

 

今だ困惑する杏に、父さんが走って近寄り抱きしめる。

 

 

その表情から、安堵の気持ちが伝わる。

 

 

「よかった.......無事で、本当によかった........!」

 

 

着ている服はビショ濡れで、雨の中探していたのがわかる。

 

 

どれだけ心配していたか、伝わってくる。

 

 

「━━━━━杏。約束を破って、本当に悪かった........このとおりだ」

 

 

「あ.......」

 

 

「.......響も。杏と一緒に居てくれて、ありがとな」

 

 

「....父さん」

 

 

父さんは今まで見たことの無い表情をしていた。

 

 

杏も、それに驚いている様子だった。

 

 

 

街のみんなは次々と、杏に声をかける。

 

 

それはいつも会う人たちだけでなく、街の住人全ての人がそう行動した。

 

 

「みんな.......!」

 

 

「━━━━━ね? この街の人達はみんな、杏のことが大好きなんだよ」

 

 

凪さんの言葉を聞き、杏はようやく感じたんだ。

 

 

こんなにもみんなが自分のことを大事だと......大好きなんだと思ってくれていると。

 

 

「━━━━━━みんな! 心配かけちゃって、本当に.......本当にごめんなさい!! それから━━━━━━

 

 

 

━━━━━━━━探してくれて、ありがとう。みんな......大好きだよ!」

 

 

 

杏は、満面の笑みでそう言った。

 

 

《♪》

 

 

俺たちはこの日あったことを生涯、決して忘れないだろう。

 

 

とても大切なことに気づいた........大事な日になったんだからな。

 

 

 

街のみんなと話していると、安心したのか、杏のお腹が鳴った。

 

 

「えへへ.......お腹すいちゃった。お父さんのカレー食べたいな!」

 

 

戻ってきた杏の笑顔に、見ている全員が笑顔になる。

 

 

「じゃ、そろそろ帰るか。響、準備手伝ってくれ。うまいカレー、期待してろよ」

 

 

「おお! 帰ろっ! 杏!」

 

 

「━━━━━うん!!」

 

 

降っていた雨は止み、暗い夜空に明るい月が浮かんでいた。

 

 

まるで杏やみんなの心の内を表しているような、晴れた空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━っていうことがあったんだよ」

 

 

『へえ〜!』

 

 

 

凪さんとの思い出を一通り話し終わると、それぞれ感想を述べた。

 

 

 

「にしても、昔から響センパイはシスコンだったんだな」

 

 

「お? なんだ彰人、やるか?」

 

 

「いや、すんません。やりません」

 

 

何故か彰人に喧嘩を売られた。

 

 

注目するのはそこじゃないだろ。

 

 

まあそれはともかく。

 

 

凪さんが一体どんな人だったのか、みんなに伝わってよかった。

 

 

「なんとなく、杏に似た人なんだなってわかったし」

 

 

「お、わかるか?」

 

 

ミクの感想に、反応する。俺も今の杏を見ると、そう感じてたんだ。

 

 

「そ、そうかな......? 凪さんは私より、もっとかっこいいと思うけど.....」

 

 

似ていると言われて照れる杏。かわいい。

 

 

でも確かに、かなり影響は受けているな。

 

 

凪さんのようにかっこよくなりたい。

 

 

街のみんなが大好きだと、気づいた。もっと好きになりたい。

 

 

そう思ったのは、紛れもなく凪さんのおかげだ。

 

 

「街━━━━か」

 

 

杏の話を聞いた彰人がそうつぶやく。

 

 

以前、新が大河おじさんに言われた『街を見ろ』、という言葉を思い出したそうだ。

 

 

その言葉の意味に、一同は頭を悩ませる。

 

 

「兄さんは、なにか知ってる?」

 

 

「.........まあな。ヒントはやらないけどな」

 

 

「え〜! ケチぃ!」

 

 

不満げに言う杏を宥める。

 

 

その後、今日はお開きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界に戻ってきた俺は、WEEKEND GARAGEに行き、父さんと話していた。

 

 

 

父さんは神妙な顔で、

 

 

「響.........凪のことを話す時が、近づいているかもしれない」

 

 

「..........っそっか」

 

 

 

俺も、腹を括れということか。

 

 

「杏........どんな反応するのかな.......」

 

 

「........俺達は、信じるしかねえよ」

 

 

「......そうだな」

 

 

願わくば、杏にこれからもこの街を好きでいて欲しい。

 

 

俺は打ち明けた時のことを想像して、不安を深くするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
このストーリーは本当に一番好きなんですよね。書き下ろしの街も大好きです。
時系列ではその数年後、響の病み期が始まります。カナシイネ
ちなみにセカイに入れた理由については説明済みです。御了承ください。
誤字脱字の報告、お気に入り、評価の程、何卒よろしくお願いいたします!
また次回お会いしましょう! さようなら!
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