ストリートに響くこの歌は   作:リメイル

9 / 10
エゴイストのデスボ部分、響が出してる説。
どうもリメイルです。1ヶ月投稿せず、申し訳ございませんでした。
この話を考えている時、まさかのこはねバナーのイベントが来てびっくりしました。流れ的に冬弥かな? と思ってたので予想外でした。ちなみにストーリーはまだ見ていません。
それはさておき、本日は「Find A Way Out」の内容です。
前半はいつも通り響視点。後半は彰人と大河さん視点です。
できるだけわかりやすいように心がけていますので、新鮮な気持ちで楽しんでください。
それでは本編どうぞ。




ED曲 仮死化/Vivid BAD SQUAD feat.白石響


前に進むためには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父さんの営む店、WEEKEND GARAGE。

 

 

今日は、杏たちVivid BAD SQUADを中心として行ったセカンドイベントに参加したメンバーが集まっていた。

 

 

「ちょっと時間あいちまったが、オレ達のセカンドイベント『JET』もうまくいったっつーことで━━━━━乾杯!」

 

 

『かんぱーい!』

 

 

彰人の音頭で盛り上がる参加メンバー。

 

 

食事を摘みながら、それぞれ思い思いにイベントの心境を語り合う。

 

 

そんな彼らに、俺は先程できあがったデザートを運びに行く。

 

 

父さんは用事で現在店にいない。そのため今回の打ち上げの料理はほとんど俺が作っている。

 

 

まあ普段この店で厨房担当として働いているから、別に難しいことはない。

 

 

「ようみんな、お疲れさん。セカンドライブ、見てたけど中々いい盛り上がりだったな」

 

 

「ありがとう、兄さん! 運ぶの手伝うよ」

 

 

「お、サンキュー杏」

 

 

こちらにやってきた杏と手分けして、それぞれのテーブルにデザートを置く。

 

 

今日作ったのはチョコレートブラウニー。

 

 

粉砂糖を新雪が軽く積もったように振りかけ、その上にストロベリーソースをかけてデコレーションした1品だ。

 

 

「わあ.......かわいい!」

 

 

「ああ、食べるのがもったいないな」

 

 

こはねちゃんと冬弥が目を輝かせている。

 

 

2人が見ているのはブラウニーに添えられたいちごだ。

 

 

いちごをカットして、クリームを挟み込み紅白を強調し、サンタ風味に仕上げた。

 

 

クリスマスが近いということもあり、それをイメージしてみた。

 

 

「喜んでもらえてなによりだ。達也に洸太郎も、良かったら感想を聞かせてくれ」

 

 

「俺達も、いいのか?」

 

 

「当然だ。お前らの分も含めて人数分作ったんだからな」

 

 

達也の問いに対し、頷く。

 

 

ちなみに達也と洸太郎は、JETの終演後に差し入れを持っていった際に出会った。

 

 

彼らは俺がHibikiであることを知っていてくれたようで、緊張した面持ちで話をしていたのを思い出す。

 

 

特に洸太郎の方は1番最初のVividsへの妨害事件もあり、顔が青くして土下座で謝罪をしてきた。

 

 

本人も反省しているのを彰人から事前に聞いていたし、今回のイベントで少なからず彼の音楽に対する熱量が伝わってきたので、笑顔で許してやった。

 

 

 

その後何回か話す機会があり、互いに名前で呼ぶようになった。

 

 

まあそれでもまだ『Hibikiさん』呼びなんだけどな。

 

 

洸太郎はまだしも、EVERのみんなは大体年上だろ。

今はいない新もそうだが、なぜ年下の俺をさん付けするんだ。

 

 

個人的にもう少しフランクに呼んで欲しいのだが、それほどに俺がRAD WEEKENDに参加したという事実は彼らの中では大きいのかもな。

 

 

デザートを頬張る彼らと話をしていると店の扉が開き、新が遅れてやってきた。

 

 

「いらっしゃい、新! ていうか、遅刻なんて珍しくない?」

 

 

杏が新を迎え入れる。

 

 

彼曰く、しばらくストリートを離れていたため迷って遅れてしまったそうだ。

 

 

父さんがこの店を始めたのも離れていた時期ぐらいだったこともあり、店の場所を知らなかったそうだ。

 

 

俺もみんなも少し心配していたから、何事もなくて良かった。

 

 

俺は新の分のブラウニーを持って、彼に声をかけた。

 

 

「よう、新。いらっしゃい」

 

 

「! お久しぶりです、Hibikiさん。今日、謙さんは.....」

 

 

「あー。悪いな、父さんはちょっと用事あって今いなくてな━━━」

 

 

「━━━おう、いるぞ」

 

 

新に父さんの不在を伝えようとすると、背後からその本人が店内に入ってきた。

 

 

突然帰ってきたため、俺も杏も新も驚いた。

 

 

「.......ご無沙汰してます。謙さん」

 

 

父さんは用事が早く終わり、つい先程裏口から戻ってきたそうだ。

 

 

新はストリートに戻ってきてから、父さんに顔を見せていなかったらしい。

 

 

彼は申し訳なさそうな表情をしたが、父さんの気遣いに少し表情がマシになった。

 

 

「━━━━それよりお前達のイベント、なかなか良かったらしいな」

 

 

「ありがとうございます。つっても、目標にはまだまだ遠いですけど」

 

 

前のイベントについて話しているみんなの声に耳を傾けつつ、俺はキッチンの後片付けをする。

 

 

杏たちはここまで、俺の知る限りではあるがかなりの速度で成長している。

 

 

これは父さんから聞いたことだが、音楽に対して厳しい人やプロから期待の声があったそうだ。

 

 

このまま行けば、RAD WEEKENDを超えられる日も遠くないのではないか━━━━━━という声をチラホラ街で聞くようになった。

 

 

RAD WEEKENDは出演者や観客だけでなく、この街の住人全員の想いが1つとなって形作られた。

 

 

そのイベントを超えるものを作り出すには、まだまだ足りないものが沢山あるだろう。

 

 

しかし、この先彼らはどのような未来をこの街にもたらすのか━━━━━━━━━次世代を担う者たちが、どこまで行くことが出来るのか。

 

 

願わくば彼らの夢の果てを、俺はこの目で見届けたいと思っている。

 

 

........まあ今まで自分のことばっかりで、周りの人だけじゃなく家族や相棒にすら気を遣えなかった俺が言えたことではないけどな。

 

 

「じゃあ、オレはそろそろ家のほうに戻る。邪魔して悪かったな」

 

 

「ううん、ありがとう父さん!」

 

 

「ありがとうございました」

 

 

これからのイベントに気合いを入れる一同を見て、父さんも穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

店を出ようとする前に、こちらに目を向けた。

 

 

「後のことは頼むぞ、響」

 

 

「おう、わかってる」

 

 

父さんは最後に、俺に一声かけて去っていった。

 

 

実は最近、こんな風に店を任せてもらえることが増えている。ようやく自分もこの街の━━━━父さんの役に立てているんだと、嬉しく感じる。

 

 

そんな思いで少し気分が良くなり、鼻歌を歌いながら洗い物を再開する。

 

 

すると、杏たちの方から盛り上がる声がした。

 

 

少し気になったため、1度洗い物を中断して一行に近づく。

 

 

「どうしたんだ、お前ら」

 

 

「あ、兄さん。実は新が、『次のハコに“Crawl Green”はどうか』って言っててさ」

 

 

「『Crawl Green』か.......」

 

 

Crawl Greenは、父さんたち“RADder”がチームとしてデビューしたライブハウスである。

 

 

当時高校生だった彼らは、結成して初めてとは思えない強烈なパフォーマンスで会場を沸かせた。

 

 

RADderが有名になったのは、それがキッカケなんだとか。

 

 

しかしそのハコは出演の条件がかなり厳しく、オーナーが許可を出したチームしかステージに立てない。

 

 

「ってわけで、この街の━━━特にRADderに憧れる連中にとっちゃ、一度は出たい憧れのハコだよ。な、彰人!」

 

 

「......ああ、そうだな」

 

 

興奮して話す洸太郎に、返事を返す彰人。

 

 

その返事はいつものような自信のある声ではなかった。

 

 

(...........何かあったのか? 彰人)

 

 

そんな様子の彰人に周りは気づかず、次回以降のイベントについて話を進めていた。

 

 

その会話の中で、新が何回かCrawl Greenのイベントに出演したという話題になった。

 

 

と、新の視線がこちらを向く。この流れは........

 

 

「Hibikiさんも、出たことあるんですよね」

 

 

「........まあ、Re.SOUND時代に何回かな」

 

 

「え!? そうなの、兄さん!」

 

 

やっぱり、俺にも話を振ってきた。

 

 

杏も目を輝かしてこっちを見た。クッソかわいいなおい!!

 

 

っと.....危ねえ、いつもの発作(シスコン)が起こりそうだった。

 

 

実はその時代に新とは共演しており、会話こそしなかったがその時に彼の音楽への覚悟を少し理解した。

 

 

そして俺が復帰してからまたその歌声を聴き、少し注目するようになった。

 

 

あいつが今抱えているものは、かつて俺が抱えていたものでもある。

いつかそれに気づかされると思うが、放ってはおけない。

 

 

「って、俺のことはいいんだ。その辺はまた今度だ。まずはお前らのサードイベントに、Crawl Greenが使えるかどうかだろ。

 

杏や新、EVERのみんなは知ってるだろうが、あそこのオーナーさんは微細な音のミスマッチ、セトリの曲同士の噛み合い......全部ひっくるめて判断する。生半可な構成じゃ、審査を突破できないぜ?」

 

 

当時のことを質問攻めにされるのは勘弁なので、無理やり話を逸らした。

 

 

全員物足りなそうにしていたが、無視だ無視。

 

 

「まあ、あそこでイベントを成功させればほぼ間違いなく、お前たちに注目する人は大きく増えるだろうな。そしてそれは、イベント全体の空間を作ることにも繋がる」

 

 

「イベント全体の、空間を.......」

 

 

冬弥が呟く。周りのメンバーも思うところがあるのか、考え込んでいる。

 

 

2回のイベントを通して、そこに関して薄々感じていたようだ。

 

 

俺も新も、間違いなくCrawl Greenでの経験は今に生かされていると思う。

 

 

他の演者と自分との相性。選曲とマッチしたパフォーマンス。オーディエンスがそのイベントに何を求めているのか。

それら全てがイベントの成功に直結する。

 

 

それに俺はあの場所に、色んな想いがある。

 

 

何よりも、俺が一度“白石響”を捨てた場所なのだ。

 

 

「RAD WEEKENDを超えるんなら、あそこの空気感を感じるのも重要かもな」

 

 

俺はそう言い残し、厨房に戻って後片付けを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イベントの打ち上げの後、各々用事があるため解散となった。

 

 

Crewl Greenでのイベントについてだが、現在出演できるよう新が交渉を進めているそうだ。次回以降は杏も加わり交渉していく、という形で話が纏まった。

 

 

俺はと言うと、杏とこはねちゃんとお店の飾り付けをしていた。

 

 

ビビッドストリートに戻ってきて初のクリスマスということで、俺も内心久しぶりにワクワクしていた。

 

 

2人にはツリーの準備を頼み、俺は内装の飾り付けをしていた。

 

 

今までの飾り付けはツリーぐらいで終わっていたが、それだけでは寂しいと俺が提案して、壁やカウンターにも装飾をすることにした。

 

 

街のイルミネーションを見て、もっと店を綺麗に飾りたいと思ったんだ。

 

 

まあそれでも飾り自体はシンプルなため、外に比べて量は少ないと思う。

 

 

「兄さん! ツリーの準備終わったよ!」

 

 

「おお、ありがとう2人とも。こっちもすぐ終わるから、あとで父さんに報告するよ」

 

 

電飾の光るツリーは、あまり大きくないもののお店の雰囲気にあったオシャレな飾り付けだった。

 

 

これを選んだ母さんも、この店内を見たら喜んでくれるだろう。

 

 

『━━━━へえ、杏ちゃん達はこういうの使って飾り付けするんだ〜』

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

突然誰かの携帯から声が聞こえた。

 

 

『みんな、やっほー!』

 

 

その人物は、ストリートのセカイのルカだった。

 

 

「ルカさん! どうしたんですか?」

 

 

現れたルカの話によると、メイコのカフェを飾り付けるのに参考として見に来たそうだ。

 

 

多少以前より飾りが増えたとは言え、うちの店を参考にするには少し足りなさそうだ。

 

 

そこで、こはねちゃんがセンター街のお店に出かけることを提案したのだが━━━━━━━

 

 

「━━━おい、杏、響」

 

 

「あっ━━━━━こはね、隠して隠して!」

 

 

タイミング悪く、父さんが声かけてきた。

 

 

ルカを見られる訳にはいかないため、杏とこはねちゃんは慌てて隠す。

 

 

「どうしたんだ、妙に慌てて」

 

 

「いや、なんでもないよ。なあ杏?」

 

 

「う、うん。あ、そうだ。ツリーの準備終わったよ!」

 

 

「中の飾りもな。内装の許可してくれてありがとう、父さん」

 

 

「おう、むしろ助かった。その調子で、外のほうも頼むぞ」

 

 

その後は父さんに冷静に返事をして、その場を乗り切った。

 

 

 

 

 

 

 

外の飾り付けも終わった後、俺は外に出ていた。

 

 

杏とこはねちゃんは、「嬢ちゃんに手伝ってもらうだけでは悪い」と言う父さんの計らいで、店内の新しい機材を使って歌っている最中だ。

 

 

そのため、ルカをセンター街に案内しようとしていたこはねちゃんに代わって、俺がルカを連れていくことにしたのだ。

 

 

「どうだルカ。冬のビビッドストリートもなかなかいい雰囲気だろ?」

 

 

『そうね〜、イルミネーションがキラキラで、とっても素敵だわ!』

 

 

嬉しそうに言うルカ。俺も久しぶりのストリートのイルミネーションに柄もなく高揚していた。

 

 

「そういえば、冬弥と彰人の様子はどうだったんだ?」

 

 

ルカは先程まで、冬弥と彰人のところに行っていた。

 

 

彼女たちバーチャルシンガーは、セカイを経由して杏たち4人のスマホに出入りができる。

 

 

俺の場合、自分一人の裁量ではセカイに転移ができない。

だが以前凪さんの思い出話をした時以降、スマホ経由でバーチャルシンガーの皆と会話ができることが発覚した。

 

 

ミク曰く、俺と杏の繋がりが強くなったことで限定的にだが、セカイと繋がれるようになったから、ということがだったな。

 

 

『冬弥くんは豪華な料理を教えてくれたの。彰人くんはすごい集中力でトレーニングしていて、邪魔しちゃ悪いと思って話しかけられなかったわ』

 

 

「.........そうか」

 

 

冬弥の家は家族が居ても相変わらず静かで、料理はともかく飾りの参考にはならなかったそうだ。

 

 

彰人はこの時間もずっと日課のトレーニング中。

賑やかな街の音も、周囲のイルミネーションも、トレーニング中の彼の目には一切入らない。

 

 

俺はさっきの打ち上げの時の、顔を一瞬顰め、いつもと様子が違った彰人の姿を思い返す。

 

 

おそらくなにか......悩んでいることがあるはずだ。

 

 

彼のトレーニングのルートは全部把握していないが、1度この目で様子を確かめておきたかった。

 

 

「........すまないルカ、これから彰人のところに行こうと思うんだが、お前は先に行っててくれ」

 

 

『わかったわ〜』

 

 

ルカを見送り、彰人への差し入れを買うために近くの店に入った。

 

 

(確か甘いものが好きだったよな。トレーニング中でだと思うが、まあこれでいいだろう)

 

 

おそらく彰人はVivid BAD SQUADの4人の中で杏に匹敵するほどに、RAD WEEKENDへの想いが強い。

 

 

ストイックで、自分に厳しい。そんな性格をしている。

 

 

故に無理をしていないか、心配だった。

 

 

買い物を済ませ店を出ると、離れたところに人だかりができているのが見えた。

 

 

早足で近づいてみると、見知った髪色の人物が集団の中にいた。

 

 

「あれは.......彰人と洸太郎。それに.......シェパードの連中か」

 

 

何やら言い争っているのか、見た感じ険悪な雰囲気だった。

 

 

介入するかどうか悩んでいると、再びスマホからルカが飛び出してきた。

 

 

『響くん! 彰人くんが大変!』

 

 

「ああ、俺も今現場に来た」

 

 

ルカの話では、シェパードと彰人には過去にCrawl Greenを巻き込んだ因縁があるようで、今にもバトルをしそうな勢いだ。

 

 

「......ルカは、他の3人にこのことを伝えてくれ。俺は彰人のところに行く」

 

 

『わかった! 気をつけてね!』

 

 

ルカが行ったのを確認し、集団の中心に向かう。

 

 

「これ以上は.......近づけないか」

 

 

勝負は既に始まっていた。先行はシェパードで、過去に共演していた頃よりもレベルが上がっている。

 

 

メジャーデビューを掴んだだけの実力は付けてきたようだな。

 

 

彼らの歌声に盛り上がるファンたち。

 

 

歌い終わった彼らは嗤いながら、彰人を煽るように出番を催促する。

 

 

「......あの子、ひとりで歌うわけ?」

 

 

「さすがにかわいそうじゃない? 出てくるあの子もあの子だけど」

 

 

「彰人........」

 

 

彰人の近くで、洸太郎が心配そうな目を向けている。

 

 

周囲のギャラリーの目は、憐憫を向けるばかりで彰人に全く期待していないのを感じる。

 

 

そんな中、彰人は一切の揺るぎを感じさせない瞳で目の前の相手を見据えていた。

 

 

「♪━━━━━━━━━!!」

 

 

「.......! あいつ.......」

 

 

彰人の歌に驚愕するギャラリーとシェパードのメンバー。

空気が一瞬で変わった。

 

 

「...............やるじゃねえか、彰人」

 

 

俺は前から、彰人には自分に似たものを感じていた。

 

 

一度決めたことを決して曲げず、揺るがない精神。

 

 

悩み惑いながらも、前へ前へと突き進む信念。

 

 

嘗て涼と組んでいた時の自分を重ねる。

 

 

彰人だけではない。この街に戻って来て、彼らは困難にぶつかっても諦めずに進み続け、大きく成長する姿を見てきた。

 

 

彼らの響かせる歌声を、聴いて来た。

 

 

だからこそ........期待せずにはいられないのかもしれない。

 

 

彰人たちならば、新しい伝説を作る者たちになれるのではないか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、坊主」

 

 

走ってきたオレに話かけてきたのは、大河さん。

 

 

どうやらさっきの━━━━━━オレとシェパードの勝負を見ていたようだ。

 

 

「俺だけじゃねえ、響も見ていたぜ」

 

 

「え、響センパイも!?」

 

 

マジかよ.........みっともないとこ、見られてないよな?

 

 

響センパイは俺にとって目標で、いつか超えなければならない人。

 

 

そして、オレが音楽を初めたキッカケでもある。

 

 

絵名に呼び出されて向かった夏祭りの会場。そこで歌っていたのが響センパイたち、Re.SOUND。

 

 

仮面を付けながら発していたその力強い歌声は、今でも耳に残っている。

 

 

水分補給をして、大河さんにさっきのことを━━━━━━あいつらに勝利したことに対して、ふと抱いてしまった感情が許せなかったことを話した。

 

 

「オレの夢は.......オレ達の夢は、もっと高いところにある。だから━━」

 

 

あの時RAD WEEKENDで聴いた歌は、思い出しただけでも熱くなる。

 

 

オレもそうなりたい、ならないといけない。だからこれくらいで満足してられない。

 

 

それを聞いた大河さんは

 

 

「━━━━なんかお前、謙みたいなやつだな」

 

 

「え.......?」

 

 

大河さんの語る謙さんは、オレの想像を超えるような........文字通り血反吐を吐くような、そんな努力をしてきた人だった。

 

 

「........そうだったんすね」

 

 

「ああ......と思い出した。お前さんは謙にも似ているが、どちらかと言えば響に似ているな」

 

 

「っ、響センパイと?」

 

 

「あいつも死にものぐるいで努力して、俺達と同じステージに立てるまでになった。共演したのはRAD WEEKENDだけだが、正直戦慄したよ。

 

その歳でもうそこにいるのかってな」

 

 

大河さんは、静かに語ってくれた。

 

 

オレの憧れの人の過去を、辿ってきた道の一端を━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響が1度心を折られて、ストリートを出たのは知ってるよな?

 

 

その後あいつは、誰も自分を知らない場所に行こうって足を進めて、ある街のストリートに行き着いた。

 

 

最初は路上で歌っててな。誰にも見向きされなかったが、全力で自分を主張して、やっと足を止める客が増えた。

 

 

雨だろうが、台風だろうが、歌うのを辞めなかった。

 

 

辞めちまったら、今度こそ自分は終わりだ。そう確信していたんだろうな。

 

 

......そんな時だ。あいつが生涯無二の相棒と出会うキッカケが生まれたのは。

 

 

『お前さん、なかなかいい声だな。良かったらうちに来いよ』

 

 

そう声をかけたのは、地元の有名なライブハウスの店長。

 

 

そいつはかつての俺と謙の同級生だったんだ。

 

 

そいつと出会って、中学生ながらそのライブハウスで働きながら。あいつは様々なミュージシャンと戦い、実力を付けていった。

 

 

あいつの相棒━━━━山岸涼とは、その街を新しい拠点として数ヶ月後にライブハウスの横で歌っていたのを、響が見つけて出会ったんだと。

 

 

2人で結成したRe.SOUNDは瞬く間に、地元だけじゃなく、ストリートの方にも知れ渡った。

 

 

ライブをすればチケットは数分で完売。ライブハウスは満員になるほどだった。

 

 

文字通り、音楽をやる奴の界隈では知らないやつはいねえくらいのユニットに成長したんだ。

 

 

ビビッドストリートに戻ってきたのは、ライブハウスの店長が亡くなってからだ。

 

 

響と出会った頃から、ガタがきてたみたいだ。

 

 

あいつは最後、響に自分の捨てた夢を託したんだ。

 

 

『誰かに夢を与えられるミュージシャンになってくれ』

 

 

ライブハウスはその後閉店。

 

 

涼とビビッドストリートに戻ってきた響は、Crawl Greenで聞いた会話で忌まわしき過去の自分という呪いが、まだこの街に息づいている現実を突きつけられた。

 

 

何もしてやれなかった手前情け無いんだが、当時ビビッドストリートでは『KENの息子』っていうのは、実力で劣るミュージシャンたちがこぞって使う蔑称の様な一面を持った言葉で使われててな。

 

 

響が街を出て行ってしまったのはその風潮と、幼い頃から歌い続けながらも成長が遅かった自身への絶望とプレッシャーに耐えられなかったからなんだろうな。

 

 

そいつらも何でいつまでたっても比べてんだか、人を貶す暇があるならそんな事しなくていいくらいに努力しろって話だ。

 

 

その現実を突きつけられた響は、『Hibiki』として自分の正体と仮面で顔を隠して活動するようになった。

 

 

“白石 響”の名前を捨ててな。

 

 

 

RAD WEEKENDに参加したあいつにとってそのイベントは、相棒に捧げる最期のステージだった。

 

 

その翌日に、その相棒が亡くなったからだ。

 

 

あいつの相棒は末期の病を抱えていた。余命も伝えられていてな。

 

 

謙づてに聞いた話だが、それからの響は見ていられなかったらしい。

 

 

体がぶっ壊れるまでトレーニングを辞めず、声が出なくなるまでひたすら歌い続ける、と言ったことを繰り返していたようだ。

 

 

その分実力は上がった。でもあれは、謙や俺をして人間用とは言えないような練習方法だったな。

 

 

心も体も壊れてたよ、あいつは。

 

 

なんで立ち直れたんだって? 理由は色々あるが、お前らのおかげってのは大きいかもな。

 

 

お前らが見せた絆の強さが、歌に込めた想いが、響に本当の“想い”を取り戻させたんだ。

 

 

だから、今のあいつはまた立ち上がることができたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが俺の知る限りの、響の過去だな......まあ俺は日本にいなかった時期が長えから、ほとんど謙から聞いた話だがな」

 

 

 

大河さんから聞いた響センパイの辿ってきた道。それは想像を絶する苦しみに満ちていた。

 

 

この街の侮辱の嵐に晒され、血の滲むような努力を重ねた。それでも傷だらけな心は晴れず、唯一の光だった相棒を喪った。

 

 

杏と一緒に大体のことは聞いたことはあるけど、まさかそんなに壮絶だったなんて.....

 

 

「案外、いつかあいつらみたいになれる器なのかもしれねえぞ.......その壁は高いが、な?」

 

 

「......っ」

 

 

話を終えた大河さんが立ち上がる。

 

 

「さて、若いヤツつかまえて話すぎちまったか。つい昔話も長くなった。悪かったな」

 

 

「いえ.......貴重な話を聞かせてくれて、ありがとうございました」

 

 

申し訳なさそうに眉を下げる大河さんに、お礼を言う。

 

 

「おう」

 

 

大河さんは最後に、「Crawl Greenでイベントすることになったら見に行く」と言って去っていった。

 

 

その背中を見送ったあと、さっき大河さんや嘗て謙さんに言われたことを思い出していた。

 

 

「........そうか、謙さんとセンパイもそうだったんだな」

 

 

謙さんも、響センパイも。苦しみながら、それでも歌い続けて━━━━━

 

 

━━━━━そしてあの歌声は生まれたんだ。

 

 

最初からあったわけじゃない。

 

 

 

(よかった......これで......これで、オレのやってきたことを信じて、また前に進める)

 

 

『いざという時は心より、自分の心臓を信じろ。お前の体が熱く、強く、脈打つほうに進め』

 

 

『周りにどう言われようが、何されようが、前に進むのを諦めんな。例え進む先が暗闇で見えなくても、お前が前を向いて走り続ければいつか光に、夢に手が届くはずだ。突き進めよ、後輩』

 

 

嘗てCrawl Greenで苦い経験をした時、謙さんに貰った言葉。

そして中学生の時、1度だけストリートでオレの歌を聴いてくれた響センパイに言われた言葉が、頭をよぎる。

 

 

「.........本当に.......よかった......」

 

 

 

 

 

 

「彰人」

 

 

大きめのビニール袋を片手に、響センパイが歩いてきた。

 

 

「さっきの歌、聴いてたぞ。決して折れない、屈さない。力強い歌声だった。これ差し入れなんだが.......って、どうしたんだ? お前、またなにかあったのか?」

 

 

オレの様子がいつもと違うことに気づいたのか。心配するようにこちらの顔を覗き込むセンパイ。

 

 

オレがセンパイの過去を聞いた事、言わないとな。

 

 

響センパイはたぶん、この過去を知って欲しくなかっただろうからな。

 

 

「大河さんから........センパイのこと、聞きました」

 

 

「あぁ.......俺が勝手に腐ってた時か.......あんまり面白い話じゃなかっただろ?」

 

 

それを聞いたセンパイは、苦笑いをしながら首を掻く。

 

 

確かに、気軽に話せるような内容じゃなかった。

 

 

でも、密かに尊敬する人のことを知れて嬉しかった。

 

 

この人は紛れもなくオレの憧れで、目標で........超えるべき存在なんだ。

 

 

オレはそれを再確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、オレを心配して来たくれた冬弥達と合流して、みんなでオレのトレーニングの続きをすることになった。

 

 

そこから謙さんの店の機材が新しくなったって話になり、杏を中心にはしゃぎだした。

 

 

センパイはセンパイで、苦笑いしながら嬉しそうに眺めてるし.........

 

 

でもオレも......なんだか嬉しくなった。

 

 

(RAD WEEKENDを超えるには、まだ遠い。けどいつか━━━━━でかい壁を超えた向こうにこの人たちがいるのなら)

 

 

「━━━━━響センパイ」

 

 

杏たちを遠くから見つめるセンパイに、声をかける。

 

 

「━━━━ん? なんだ彰人」

 

 

《♪》

 

 

不思議そうに振り向くセンパイに、オレは想いをぶつけた。

 

 

 

「オレは.........必ずセンパイの期待に応えてみせます。そして━━━━━」

 

 

 

 

━━━━━━いつかオレ達で、響センパイを超えます」

 

 

 

一瞬驚いた顔をした響センパイは、楽しそうに笑いながら満足そうに言った。

 

 

 

「ああ......楽しみにしてるぜ........後輩」

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、いかがだってでしょうか。
このイベントストーリーは書き下ろし楽曲とのマッチもあって、かなり人気のストーリーです。
初めて見せた彰人の涙。本当に改めて読んで感動しました。
ちなみに中学時代の杏ですが、「自分が上手くなれば、いつか兄さんは帰ってくる」という想いで頑張っていました。響は杏推しに殴られていいですね。もういい加減ね。

さて、ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。
評価、お気に入り何卒よろしくお願いします!
それではまた次回お会いしましょう。さよなら!
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