ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
ギルドメイン大陸の中央部に位置する四大国家のひとつ、カール王国。
かつての大勇者アバンやその仲間を輩出した国家であるほか、そんな彼らが在籍していた最強の騎士団『カール騎士団』は四大国随一の戦力を誇るとされ、また唯一の女王である傑物フローラが治めていたことでも他の国家とは一線を画す存在である。
そんな王国も一度は魔王軍の侵攻によって壊滅寸前の状態に陥り、残された兵数名とフローラ女王率いるレジスタンスがひっそりと活動を続けるばかりであったがそれも今や昔の話。
諸悪の根源たる大魔王バーンが消え、それまでは行方がしれなかったアバンが戻ったことで王国は再興し、ようやくかつての栄華を取り戻しつつあった。
なおこの一年はカール復興とその他諸国との関係を取り持つために要され、アバンや一部王族たちはダイ捜索の旅には参加できなかった。
しかし彼らについて諦めたわけでもなく、自分たちが得られる情報の全ては国交を通じて集め上げ、惜しみなく提供したという。
アバンにとってはかけがえのない弟子の1人であり、師である自らが探しに行きたかったが彼はその気持ちをグッと堪え、国の再興に尽力した。
これにはフローラも少々驚きを隠せず、てっきりアバンが真っ先に名乗りを上げてダイ捜索を指示するものだとばかり思っていたのだ。
もちろんこれにはその昔一番弟子であったヒュンケルを探し切れずに魔の道に落としてしまった自分への贖罪の意識もあってのことで、実際アバンもそのつもりでいたらしい。
だがそのことを問うと彼は「人にはそれぞれやらなければならない使命とそれを背負う役割があります。今私がやらなければならないことはこの国の未来を立て直すこと。ひいてはそれがダイ君を見つける手がかりになるかもしれません」と答えた。
できる事なら、と付け加えはしたが彼が飛び出して行くようなことはついにはなかった。
本当なら今すぐにでも探しに行きたいであろう気持ちを抑え込み、冷静に目の前にあるなすべき事を一つずつ片付けていく彼にフローラは王としての器を見たという。
再建にあたって彼女はアバンに国王の任を任せたが、最初は彼も躊躇った。
だがフローラの見立てが誤っていたわけではなく、むしろ彼はカール復興のみならず手が余れば他の国々にも助力を惜しまず一刻も早い平和の回帰に向かって誰よりも尽力したという。
その上でダイ捜索の情報網まで確立させたのだから、そんな好傑漢の就任を反対するものなど1人もいなかった。
若くして父に代わり国を治め続けてきたフローラであったが、自分以上に国王に相応しいと踏んだアバンを色眼鏡なしで見定め、そんな彼女の助力もあってか遂にアバンはカール王国の国王に就任することとなった。
といっても自身の際立った力が表立っていくことを良しとしないアバンは基本的にはいつもとそう変わらず、国王らしさの威厳はカケラもなく専らその手のことは女王であるフローラが担当することになった。
尤も国民も臣下も皆既にアバンの力を知ってしまっているため、以前とは異なりあまり有効な手段ではなくなっていた。
そんなこんなでこの一年すっかり魔王軍の爪痕も消え去り、各国々は完全滅亡したアルキードを除いてほぼ全て再建の目処が立ってようやく国交がまともに周り出すようになった。
「これはこれはフローラ様、ご機嫌麗しゅう」
兵士はフローラに礼すると彼女はいつも通りに会釈し、そしていつもと同じようにあちこちを忙しなく歩き回っていた。
理由は大体見当がついた。
「あらご機嫌よう。……ねぇ、ところでアバン見てないかしら?」
「はっ、国王陛下でしたら恐らくいつもの場所かと……」
「どうも〜……」
フローラは一瞬笑顔を浮かべたかと思うとすぐに鬼の形相となってアバンの座す場所まで走って行った。
「やれやれ。国王は今日も不在か。もう直ぐ諸列国を招いた大事な会議だというのに……」
兵士の1人が肩を落としてつぶやいた。
「どうせまたどこかで料理教室でもお開きなさっておられるのだろう。そうしてまたフローラ様に見つかって阿鼻叫喚」
「ここまでがいつもの事だな」
そのあまりにも決まりきったお約束の展開に、いい加減兵士も侍女たちも飽き飽きしていた。
いつものように調理場に赴くと、そこからはとてもいい香りが溢れてきた。
「先生、これはどうですか!?」
1人の調理服を纏った女性がメガネの男に話しかけていた。
「おーっ。これはまたナイスなジャガイモですねぇ〜。どれどれ……ふーむ。この切り口だと加熱は3分ほどがベリーベリーベストですねぇ。それから下味にはバターを塗り込んでおくとグッドでしょう。ちょっと貸してくださいね……こうしてこうしてこう」
「わぁあ……すごい……! ありがとうございます!」
「いえいえこれくらいノープロブレムですよ」
「ねぇねぇ先生、これなんか汁が出ちゃってるんですけど〜これってそのまま鍋に入れて大丈夫ですか〜?」
今度は別の女性がやってきて彼の方を見た。
「あぁ、それはとても良いダシ汁ですね。でも全部じゃなくてほんの少し混ぜるだけでクドさが消えてすっきり美味しく召し上がってもらえますよ。あ、そうそう。そこにあるうつくし草をすり潰して煎じて混ぜてみてください。この時期のは特に栄養が豊富でしてお肌のツヤや美容にも最適な食材なんですよ〜」
「わ〜ヤダー! 先生ったら物知りなのね〜!」
「いやーっそれにしてもみなさんまだまだお若いのにやりますねぇ! 今度のお食事も是非もないこと楽しみで仕方がありませんよぉ」
先生が屈託のない笑顔を見せて笑うと次々に「先生俺も!」「私のところにも!」と名乗りをあげる調理師たちが現れた。
……言うまでもなくこのメガネの「先生」こそアバンことカール国王その人である。
調理場に漂う食欲を誘う美味しそうな香りに思わず怒りが飛んでしまいそうになるフローラであったが、すぐに持ち直してアバンに詰め寄った。
「随分とお楽しみのようね、先・生?」
「いやぁなぁにちょっとした趣味も兼ねた実演講習ですよ…………って、あ、あっ貴女様は……!」
アバンが振り返って見ると帽子とカツラが吹き飛び、勢いよく腰を地に落とした。
この場所を嗅ぎつけられたことに対する驚きではなく、後ろに立つフローラが放つどす黒い怒りのオーラについての恐怖心からである。
変装にもならない変装がバレて、青くなって笑うしかできなくなったアバンの首根っこを掴むとフローラは調理場を後にした。
「オホホ、それではみなさまご機嫌よう♪」
そう言うとバタンと勢いよくドアを閉め、その後ガミガミと甲高い声でアバンを怒鳴りつける声が廊下に響き渡った。
調理師たちは呆然とその場で眺めていた。
「……い、今のって……まさか……」
「こ、国王様……だったのか……? ま、まさか……」
「でもフローラ様がわざわざいらしてたわけだし……」
残された調理師の中にはくすくすと話し合うものもいた。
「ねぇねぇ、もしかしてアバン様って〜尻に敷かれるタイプだったりするぅ〜?」
「こら! そーゆーのどこでお耳に入るやら……」
「だってーアレはどう考えても奥さんが強いでしょ〜? もしかしてそっちの方も〜? きゃーやだ〜!」
「……あんたね……不敬罪でしょっぴかれてもアタシは知らないよ?」
道中耳を掴まれながらアバンは苦しそうに呻いていた。
「あた、あたたた。もうそんなに引っ張らなくても私は居なくなったりしませんよ〜」
「ど・う・だ・か!」
ここ一番で怒気の籠った声で彼女はアバンに言った。
全く、敵わないという感じで「たはは」とアバンは乾いた笑みを浮かべた。
「も、もう良いんじゃないっすか? これ以上引かれたらせっかくの服装が台無しになっちゃいますよぉ〜これからご立席の国王たちに会うってのに、格好が付かないじゃないですか……ヒッ!」
アバンが軽口をやめて青から白色に染まったのはフローラの般若の如き形相を確認してからだった。
「どの口が……!!」
危険を感じた彼はすぐさま「すみません」と土下座して謝った。
その姿に国王のメンツも威信もまるで無い。
「お待たせいたしました。カール王国国王アバンと女王フローラがただ今参りました」
会議室の扉が威勢よく開かれた。