ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
「ここにいたのですねレオナ姫」
ただひとりレオナを除いて。
「先生……いえ今は国王とお呼びした方がよろしいでしょうか」
「ははは。今は公式の会合ではありませんので……どのように呼んでいただいても構いませんよ」
堅苦しい任を解かれた国王はわざとらしく伸びをすると凝り固まった骨を鳴らしていた。
「それと私やっぱり国王なんて大層な肩書きは似つかわしく無いみたいですねぇ。背中がこそばゆくなってしまいますよあはは」
「じゃあ尻に敷かれ大臣ってところですね」
「レ、レオナ姫っ!」
くすくすとレオナが悪魔的な嘲笑を浮かべる。こういう時の彼女はとても愉快そうだ。
「あら? だって今『どのように呼んでいただいても構いません』って仰りませんでした? ふふん。それにしても先生の奥方となる女性は大変ですね。いっそ先生がお逃げにならなぬよう調理場とご結婚なされてはいかがかしら?」
「あは、あはは……相変わらず冗談キツいっスね、姫は。あははは!」
アバンが大きく口を開いて笑うと、そんな様子がまたなんだか可笑しくてたまらなくなってレオナも吹き出してしまった。
最初はレオナもアバンに対してどこか他人行儀な堅い口調であったが、彼の方が先に心を開いてくれたのですぐにいつもの歯に布着せぬ物言いに戻った。
こんな風になんのしがらみもなく無邪気に笑い合える日々を、平和を勝ち取った使徒たちは何よりも望んでいたのかもしれない。
アバンはつけ髭と伊達メガネを外すとすぐさま真剣な顔つきに戻った。
「ところで……ダイ君のことですが……姫もそれが狙いで今会議に……?」
「ええ。私たちは立場上ポップくんたちのように世界中を飛び回れなかったのですが……それでも集められるだけの情報はかき集めました。……けれど何をどう手を尽くしてもダイ君の情報は手に入らなかった。それがここ最近になって突然現れたなんて聞いちゃ黙っていられませんよ」
アバンはレオナの語る瞳をじっと見つめていた。
同じアバンを師と仰ぐ教え子、共に過ごした仲間。さりとて――
レオナだけは他の仲間たちともまた違う、ダイに対して特別な思い入れのある人間の1人。
何せダイが初めて出会った人間というのもまたレオナに他ならないのだから。
そんな彼が黒の
この一年互いに国家の再建に尽力した二人だからこそ一種のシンパシーのようなもので通じ合っていた。
アバンはレオナの肩に両手を置いた。
「私も同じ気持ちです。何としてでもダイ君を見つけ出したい。それは彼が私の教え子だという事実を抜きにしても――ひとりの人間として、世界を救った英雄に敬意を表したい。謝礼と労いの言葉を届けたい。もしダイ君が本当に地上を去るつもりだったとしても、せめて別れの言葉くらいはちゃんと言いたいですよね」
「アバン先生……」
「まぁ、もしかしたら今彼は何らかの事情があってこのような状況になっている可能性もありますし……ですから姫はいざ見つけても引っ掻いたり首根っこ掴んで強引に連れ帰っちゃいけませんよ」
アバンは誰に言い聞かせるでもなくわざとらしく指を立てて言った。
「せ、先生……私はそんな……」
「まずは笑顔で迎えてあげてください。それから『おかえり』なんて言葉があるとよりグッドです。良いですね」
「はい」
そうして二人がしばしの談笑を楽しんでいる時、兵士の一人が息も絶え絶え走ってきた。
「何があったのです」
「た、大変です……我が国の国民の中で……ダ、ダイ様が……ダイ様が現れたと言うのです!!」
「な、何ですって!!」
今まさにそんな話をしていた最中の出来事だった。
逸る気持ちを抑えてアバンはすぐさま『竜の背骨』を確認した。
竜の騎士が近くにいれば反応するであろうそれは未だ光を帯びる気配がない。
――となればまだここより離れた場所にいるのか。それともこの背骨の効力がもっと接近しなければ発揮されないのか。
……いずれにしても
「そ、それは本当なのですか」
レオナが必死の形相で兵士に詰め寄った。
兵士は呼吸を整えながら城の向こうを指差した。
今にも飛び出しそうになるレオナを止めていたのはアバンだった。
――落ち着いて、姫。
そんな彼の言葉が触れられた箇所から伝わってきた。
レオナはすぐさま平静を取り戻し、アバンと同じように竜の背骨を取り出した。
焦りは禁物ね。
レオナはアバンを一瞥して頷いた。
「とにかく今この国にまだ残られている国王陣や皆さんにこの事を伝えなくてはなりません。それから……目撃したというその国民も出来れば連れてきてください」
「は、はい」
兵士はすぐに城を飛び出すとそこから入れ替わりで兵士がやってきた。
今度は切迫詰まっている様子ではなくいたって平常時のものだ。
「ご報告致します。アバンの使徒と名乗るポップとマァム、そしてメルルの3名が国王に話を通したいとやって参りました。いかがいたしましょうか」
それを聞いてアバンもレオナも笑顔になった。
「先生……やはりアバンの使徒というのは離れていても心が通じ合っているのですね」
「ええ。みんなダイ君に引き寄せられるように集まっています。……その者たちを城に通しなさい!」
アバンの号令で城の門が開かれた。
かくしてアバンの使徒たちは一年の歳月を経て、久方ぶりの再会の動きを見せた。
これでようやくプロローグが終わりです。