ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章   作:ありけるみー

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第一章
旅立ちの時……!の巻


 ポップたちが飛び立つ日の朝。

 まだ日も立ち昇る直前――夜明け前だった。

 色んな意味で眠れなかったポップと、反対にぐっすりなマァムが小屋の中にいた。

 かなり早めに目が覚めてしまったポップはともかく、まだ誰も起きていない時間だったが、とりあえず彼は支度を進めていた。

「こんにゃろ……こっちの気も知らないですっかりおねんねしてやがるぜ」

 思わず頬をぷにぷにとつねってやろうかと魔が刺したが、起きた時本当に自分が刺されかねないのですぐに思い直した。

 準備にさしあたってまずはダイの剣を持ち上げようとした。

 が、余りにも重過ぎて引き抜くことさえ叶わなかった。

「ぎ……おい……もうすぐお前のご主人様に会えるかもしれねーんだぞ……いい加減意地張ってねーでこっから出てきやがれ……!」

 これを引き抜くにはマァムの怪力でもなければ苦しいと考えたポップは仕方なくそれを保留にした。

 そういやあいつもメルルと三人がかりでやらねーととか言ってたっけな。

 ダイの剣抜きにしても、メルルの占いは頼りになる。ダイ捜索の大きな手助けになるだろう。

 へへ。またあの時みたく三人で旅するのか。

 一年ぶりの出来事がつい昨日のことのように思い出せる。

 ポップは高鳴る胸の鼓動を抑えきれなかった。

 本当なら今すぐに自分一人だけでも飛び出して行ってしまいたいほどだった。

 聞きたいこともポップ自身山ほどあった。

 何せあの時ずっとダイとくっついていたポップだけなのだから。

 「置いていかれた」と思う気持ちが人一倍強いのもそうした事情からだった。

 なぜあんな真似をしたのか。よしんばどうしてそう思ったかは分かっても何故仲間に黙って別れも有無も言わせずそうしたのか。

 殴ってでもとっ捕まえてその事を白状させたかった。

「ポップ……? おはよう……もう朝なの……?」

「おおマァム。悪い起こしちまったな」

 支度の物音に反応してか、ちょうど陽の光が窓から差し込んだからか、マァムは遂に目を覚ました。

 寝ぼけ眼を擦りポップの顔を見つめていると、彼女の頬は次第に熱を帯びていった。

 さらに首から下を見ると自分がすっかり寝巻き姿になっている事に気づき、生娘のように甲高い悲鳴をあげた。

「いやーっ! 何見てんのよバカ! 出てってよ!」

「いでで。な、なんだよお前のすっとぼけた寝顔なんて気にした事なかっただろ!」

「良いから早く!!」

 コップやら布団やら手元にあるものを投げ続け、ポップは強引に締め出された。

 俺の家でもあるのに……。

 それまでと態度が急変したのは他でもない、マァムと正式な恋仲になったことも関係していた。

 それまでは単なる仲間か、失礼な言い方をすれば倒木同然のものとしてポップを見てきたマァムにとっては着替えも寝巻きもそんなに意識して見るようなものではなかった。

 むしろ過剰に意識していたのはポップであり、年頃の彼は目を逸らすのに必死だったという。

 また、この一年二人ともずっとダイのことを意識していたからか、ポップとの仲についてそこまで気にかけるほどのことでもなかった。

 バーンパレスの一件から異性として意識し始め、昨日の婚約を受けてようやく真の意味で異性として認識され始めたのだ。

 理不尽さに不貞腐れているポップにそのことはまだわからないのであった。

 

 まぁ単に昨日暴走した自分を思い出して恥ずかしくなったことへの当てつけかもしれないが……。

 

 すっかり日が昇って朝を迎えた時、ポップとマァムとメルルは三人揃って朝食をいただいていた。

 今日はダイ探しの旅ということで再び三人で集まった次第だ。

 ところが朝からずっとポップとマァムの二人がやけによそよそしく、食事の最中も互いに目が合いそうになると顔を隠して背けることから一行の間にはなんともやりきれない空気が漂っていた。

 気まずさに耐えかねたメルルが口を開いた。

「お二人とも、ゆうべはお楽しみでしたね!」

 ポップは口にしていた汁物を全て空中に霧散し、マァムは飲んでいた牛乳で激しくむせ返った。

「な、な、なな、なんつー、なんつーことを!!」

「ま、まさかみ、見てたんじゃないでしょしょ」

「ポップさんもうマァムさんと結ばれたものだとばかり思ってて……ふふふ、一度このセリフ言ってみたかったんですよ〜」

 メルルにしては嫌味のつもりも何もない、純粋な場を和ませるための冗談のつもりであったが、二人からすればまさしく洒落にならない話題であった。

「でも、これでちゃんと話せましたね。朝からずっと仏頂面でこの後どうしようかと思いました。二人ともおめでとうございます」

 メルルは屈託のない笑顔を二人に向けて祝福の意を込めて手を叩いた。

「お、おぅ……」

「ありがとう……ね」

 口を開かせるためとはいえ、とんでもないことをやるもんだとポップの中でメルルが侮れない女という認識に変わった。

 二人がギクシャクしていたのにもそれなりのわけがあった。

 そもそも以前の三人旅だってマァムとメルルは内心気が休まるものではなかった。

 メルルはポップのことを想い、マァムもマァムでなんやかんや意識していて……。と

 しかしそんな二人の恋愛感情云々は、ポップが必死で友の捜索に励む姿を見ていつの間にか薄れていったのだ。

 だが今回は二人がはっきりと完全に両思いとなり、どんな顔でメルルに会ったらいいのかお互いわからなくなってしまっていた。

 もちろんメルルはポップを庇ったあの時、自分の気持ちにはとっくに決着を付けていた。

 旅の途中も気まずさなんて微塵も感じていなかったが、むしろメルルが気にかけていたのはマァムの方だった。

 自分が足枷になっているかもしれないと考えたメルルは、だからこそこうして二人から離れて恋路を見守ることにしたのだ。

 また、それはポップに対する好意が消滅したということでもなく、「マァムの夫としての」既婚者としてのポップを好きになったというだけの話だった。

 誰と付き合おうがどう生きていようがポップはポップである。

 ポップが幸せであるならそれで構わない、とメルルは思っていた。

 そんな彼女の口から飛び出した心臓に悪いジョークも、彼女の器の大きさを示すものだとマァムは改めて感心していた。

 

 もちろんそれはそれとしてメルルは二人をどう弄ってやろうかという内なる悪魔が囁く声に耳を傾けてもいたのだが……。

 

 夫婦になったばかりでぎこちない面も見せたが、結局この二人はいつも通りに接し合うのが一番であると、少なくともその場の全員がそう思っていた。

「で、どうするの? まずはアバンの使徒のみんなを集めてそこからダイを探し出すってことで良いのかしら?」

「ああ。まずはアバン先生の居るカールに行ってみる。先生は多分今王族として忙しいだろうから連れて行くってのは無理かもしれねーけど、色々ヒントになることを教えてくれるだろうからさ。んで次はレオナの姫さんだ。あの人もまず間違いなくこの噂を聞き及んでいるだろうからな。きっと今頃躍起になってるぜ」

 こうしてまずアバンの元へ行き、次にパプニカ、そして可能ならばヒュンケルやデルムリン島の全員に声をかけてからダイ探索の旅に出るつもりだった。

「師匠も……ってあれ、そういや師匠は?」

「マトリフさんなら『おもしれーこと見れたら連絡して』と言って……」

「ったくあの人は……。ま、なんだかんだ無茶苦茶言いつつ師匠もいい加減トシだからな〜。無理に連れ回しておっ死んじまわれても困るしな。それにあの人のことだ『パス。俺はそーゆーの苦手なんだ』……とかなんとか言って断るに決まってるか」

 それを聞いてマァムがくすくすと笑い出した。

「なんか、ポップもマトリフおじさんのことすごく理解してあげてるのね。それに師弟ってやっぱり似てくるのかしら」

「ゲー。俺があの横暴師匠にーっ!? かあ、よしてくれよ……」

 しかしポップが否定する以上に彼はどことなくマトリフに薄々似通ってきていた。

 普段はおちゃらけつつもいざという時には冷静沈着にパーティを魔法で支える頼もしい大魔道士なところなんかは特に。

 しばらくして三名はダイの剣を担ぎに丘を訪れ、何とかして地面から引き抜こうと力を合わせてみた。……だが。

「だ、ダメだこりゃ。びくともしやしねぇ……」

 あらゆる手を尽くして剣を抜いてみようと試みたが、何をどうしても剣がその場から動くことはなかった。

「マァムの鬼パワーでもダメだったんだ。こいつはもうダイが触らない限りはうんともすんとも言わねえぜ。ったく、ご主人様そっくりのとんだ頑固者だぜ」

「そうね……。そもそもこの剣って、いつからここに現れて突き刺さっているのかしら」

「さぁてな……。ダイが地上から姿を消した後、こいつはしれっとここにあったからな」

 ダイの剣は三人の喧騒をものともせず、ただ静かに埋め込まれた宝玉が光を放つばかりだった。

 その暖かくも優しい光はダイの存在そのもののようだった。

 この剣ある限りダイもまた、どこかで生きている。

 ポップたちはこの剣の存在に何度心が救われたことか。

 ダイは生きていると信じる彼らにとって、この剣はまさに希望の光なのだ。

「ここに置いておいた方がよいのかもしれませんね」

 メルルが言った。

「だな……。もし本当にダイが必要になったら自分から飛んでいくようなヤツだしな。へへへ。そうはさせるかってんだ。今度は俺たちの方が先にダイを見つけてこの石頭に吠え面かかせてやるぜ」

 梃子でも動きそうにない剣に悪態をついて、ポップは別れの言葉を告げた。

「ちょっとの間だけど……待っててね。私達必ずダイを見つけて帰ってくるから」

 次にマァムが剣に寄り添った。

 ダイに語り掛けるのと同じように優しく赤い宝玉を撫でた。

「行ってきますね。どうかダイさんに出会えることを祈っていてください」

 最後にメルルが花束を整理しつつ剣の埃を払った。

 

「よーしじゃあ行くぞ。目指すはわれらがアバン先生のカール王国へ!」

 ポップの両脇にマァムとメルルがついた。図らずも両手に花のハーレム状態となってしまったことで、不覚にも鼻の下を伸ばしていた。

「もぅ、ポップ!!」

 そんな様子を正妻にあっさりと見抜かれたポップは首を振った。

「し、しっかり捕まってろよ~……。ルーラ!!」

 こうして三人はカールへ向かった。

 

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