ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
「だから言ってるじゃない! あそこは右に曲がるんだって!!」
「うるせーな! おめーがあの時左に曲がるって言ったんじゃねぇか!!」
「はぁあああ!? 私はさっきからずっと右って言ってるじゃない! 勝手に改ざんしないでくれる!?」
とまぁ安全にたどり着けるはずもなく、案の定迷った一行(主にポップとマァム)は早くも痴話喧嘩の様相を呈してきた。
それを見たメルルはため息をつくと「またですか……」と内心思うばかりだった。
思えば一年前のたった一回きりの訪問でポップがカール王国の正確な場所など把握しきれているはずがなかった。
にも関わらず、あまりにも自信満々に――さらにいえばなんとかなりそうな雰囲気であったために三人はそれを疑うことなどなかった。
どれだけ経っても成長した風を装ってもやっぱりポップはポップだわ。
呆れたマァムがポップの評価をそんなところにおいたところでようやく長きにわたる痴話喧嘩の旅は終わりに向かった。
森を抜けてようやく大きな城下町にたどり着いたのだ。
「やっと着いたわね……」
「チェ。それもこれもマァムがな……!」
「元はと言えばあんたが……!」
「はいはい二人ともそれまでです! お城に向かいましょう」
再び喧嘩が始まりそうになったので、メルルが二人の間に割って入った。
言われて二人は借りてきた猫のごとく大人しくなり、しばらくはメルルが先頭に立って歩いていた。
「しっかしここもずいぶんと持ち直したよな~……。一年前は廃墟同然だったってのに」
カールの城下町もかつてのベンガーナのそれを彷彿とさせるほどに人が集まり、にぎやかで華やかな街並みとなっていた。
「先生やフローラ様、それにいろんな人の力があっての復興よね。やっぱり人間の力って素晴らしいわ……」
先ほどまでしょうもないことで喧嘩していた二人だが、活気づいた城下町の街並みを眺めるとすっかり忘れていた。
それがなんだか面白くてメルルは一人微笑んでいた。
人だかりで溢れかえる城下町を越えて、いよいよ三名は城門までたどり着いた。朝出発した一同だったが、すでに昼をまわっていた。
入口には兵士が二名ほどおり、いかにも堅物そうな顔立ちの方が門を通せんぼするように立ちはだかった。
「止まれ。ここより先はカール国王がおいでになるカール城なるぞ。うぬらは何者であるか」
「俺はそのカールの王様であるアバン先生の弟子、大魔道士ポップさまだぜ。こっちは同じく弟子のマァム、それからメルル。全員アバン先生に用があって来たんだぜ」
いかにもといった様子で堂々と自慢げに飛び出したのはポップだった。
世界を救った英雄として自分の存在をアピールするためのものだった。
へへ……。決まった。
「ポップ? 弟子? なんだそれは。そんなもの聞いたこともないぞ」
しかしポップの格好つけも虚しく堅物兵士の耳にも心にもその覇道は届いていなかった。
それどころかますます怪しまれる事態となり、兵士たちも警備を固めるばかりだった。
「さぁ、早々にお引き取りを」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。アバン先生の弟子ったら大魔王バーンを倒した地上の勇者一行アバンの使徒だろ!?」
ポップは急いで首元にかけていたアバンの印を兵士に掲げた。
「ほーれよぉおく目ん玉ひん剥いて見てみやがれ!! これは紛れもなくカールの輝石で作られたアバン先生の弟子の証だろうが! いくらなんでもカール王国にいてこれを知らねえとは言わせねえぞ!!」
今度こそ、とポップは彼に見せつけるように示してみせた。
同様のものをマァムも取り出して見せた。
「ふーむ……これは……」
兵士はじっとそれを覗き込んだ。
「な? ったくわかったらそこを……」
「うむ。わからん!」
あまりにも兵士が真面目そうな顔つきで言うもんだからポップ達は勢いよくずっこけた。
「んなこと堂々と言うなーっ!!」
「いやすまない。実は私はつい最近配属されたばかりなのだ。とりあえず国王に確認を取ってくるから、アバンの使徒とやらしばし待たれよ!」
そういうと彼は重そうな鎧を揺らしてのっしのっしと歩いて行った。
ポップは非常にむしゃくしゃとしていた。
「ポップったら落ち着いて……」
「くそー……あんっだけ苦労したのに名前さえ知られてないんだもんな~俺たち……!」
「みなさん復興に忙しくてそれどころじゃなかったのかもしれませんね」
メルルがフォローを挟んだが、ポップの複雑な気持ちは晴れることはなかった。
やがてしばらくして堅物の兵士が「し、失礼しました! 中で国王がお待ちです。ささ、どうぞこちらに!」と扉を開いて現れた。
「来てくれましたか、みんな」
「やっほ~お久しぶりぃ~ポップくんたち」
「先生……って、あーっ!! 姫さんまで!!」
「お久しぶりです先生も、レオナも!」
かくしてアバンの使徒たちはカール王国にて無事に再会を果たした。
「約一年ぶりの再会に積もる話もあるでしょうが……ささ、まずは皆さん会議室の方へ……私が淹れた手製の紅茶で、ティーパーティでもしゃれこみましょう」
弟子たちが増えたことでアバンも語尾とテンションを高めに歌いだした。
それを見てポップたちは「相変わらずだな~先生は」と思わざるを得なかった。
かくいうレオナも先ほどまでの態度との落差に少々引き気味であった。
会議室に向かう道中レオナはポップとマァムの二人に話しかけた。
「ねぇねぇ、ふたりはこの一年どうしてたの? ダイ君を探していたってのは聞いてたんだけど……」
「ああ。世界中くまなく探してはみたんだけどな、やっぱどこにもいなくてよ。マァムがな。ダイの剣があるところにいつか必ず帰ってくるだろうからってんで、俺もそれ以上闇雲に探しに行くのを辞めたんだ」
「ふーん、あれ。そういやメルルもついていったのよね。そのあとは……」
「はい。私たちは剣の安置されている丘に近い村でダイさんを待つ日々を過ごしていました」
「ふ~ん…………」
意味深にレオナはポップとマァムを交互に見た。
それを察したメルルが身振り手振りで二人の関係について示してみせた。
へ~……。じゃ勝ったのはマァムってわけね。
まぁはっきり告ってたしね~ポップ君。
あ~あ、でもなんか安パイ過ぎて面白くな~い
……なんて顔をしているレオナにメルルはポップとマァムの二人を指さして「弄り甲斐があって面白いですよ」と脳内に語り掛けた。
(この
「ん、どうしたんだよ姫さん」
「え? ああううんなんでもないのなんでも!」
しかしレオナは誤魔化すのが恐ろしく下手だったので、「また何かよからぬことを……」と思われたのは明白であった。
「そういえば……今来ていないアバンの使徒といえばヒュンケルだけど……」
「あいつは……多分来れねぇよ。仕方無ぇさ、あんなことになってんだから」
ポップもヒュンケルの現状がどうなっているかは実際目にしていた。
ラーハルトと共にポップら同様ダイを探す旅に出ていたが、途中で動くことすらままならなくなりそのまま離脱したのだ。
痛々しいヒュンケルの姿をポップたちは今も覚えていた。ベホマなどの回復呪文も受け付けず、老師からも「限界寸前」の烙印を押された彼がこの場にいると信じる者はいなかった。
「誰が来られないって?」
しかしその聞き覚えのあるクールな声色と佇まいに一行は眼前の光景が夢か幻か疑っていた。
「ヒュ、ヒュヒュヒュ、ヒュンケル?! お前……生きてたのかよ!!」
「生憎俺は死神に嫌われているようなのでな」
驚くポップにも動じず言い放った。
そうして彼はエイミの方を振り返った。
「それにエイミが助けてくれた……。彼女の力無くして今の俺はなかっただろう」
紹介に預かったエイミは少々恥ずかしそうに顔を赤らめて登場した。
「エイミさん! 髪切ったのね。とっても似合ってるわ!」
「マァムさん……ありがとうございます」
レオナは出立の際に見ていたから知っていたが、他の面々は変わり果てた彼女の姿に仰天していた。
特に賢者であったころの服装から大きく変わってラフな動きやすいものになっていたので、それまでの近寄りがたくお堅いイメージから一転して活発な町娘のような印象を受けた。
すっかり自信に満ち溢れ、一人の女性としてイキイキと活動しているエイミを見てレオナも内心「やるじゃん」とガッツポーズを浮かべていた。
それと同時に揃った二対の男女組を見比べていた。
なるほどね〜。あっちはあっちと、こっちはこっちとデキてるってわけか〜。
くーっ若いって良いわね〜青春ね〜!
「レオナさん……なんだかおじさん臭いです」
「私まだ何にも言ってないわよ?!」
そんなレオナを見てメルルも同じような目線で彼らを見ていた。
「見守っていきましょう……レオナさん……!」
「は、はい……?」
二人の間に何やら奇妙な友情が芽生えたいった瞬間だった。