ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
会議室にはアバンやポップ達のほか、老婆に中年の商人そして双子の子供がいた。
彼らはカール王国の国民であり、何を隠そう今噂の渦中にあるとされるダイと思わしき騎士と出会ったことがある貴重な目撃者なのだ。
本来なら立ち入ることも滅多にないであろう高貴な部屋に加え国王の御前であることから、国民たちは非常に緊張の色を隠せないでいた。
「では、アプゴットさん。貴女が見たというその者の特徴や出会った場所についてなど教えてください」
名を呼ばれた老婆は震える両手足をガタガタ言わせて円卓の付近についた。
ポップたちは失礼ながらも「ありゃ大丈夫なのか?」と考えていた。
見かねたアバンが老婆の手を取って言った。
「大丈夫です。何も貴女を尋問しようってんじゃないんですから。さあ、落ち着いて、隣人に他愛のない世間話でもするように気楽に――私たちに話してみてください」
彼がにっこりと笑うと老婆はどうにか震えを止めることができ、落ち着くことができた。
「でたわね。アバン流“口”殺法
レオナが半目でひっそりとそう言うと、ポップたちはくすくす笑ってしまった。
「お、おいおい……な、なんだよそれ……ぷ……」
ポップは笑いを堪えるのに必死だった。
「みんなもアバンの使徒ならあの手、覚えておくといいわ。今後何かの交渉するにも役に立つと思うわ」
レオナが大真面目にいかにもな秘術の紹介といった具合に話すもんだから笑わずにはいられなかった。
それを遠目ながらなんとなく察したアバンが赤い顔でゴホンと咳払いをしたので、アバンの使徒たちは静まり返った。
ヒュンケルだけはその馬鹿騒ぎに便乗していなかったが、アバンの持つ人心掌握術ともいうべきものには胸の内で感心していた。
「わしがそのお方を目にしたのは2日前のことですじゃ……。その日はお天道様もよく顔を出しなすったので、洗濯を済ませてから園で林檎を取りに行ったのです。そしたらうっかり梯子からすっ転げ落ちてしもうて。もうダメじゃと今生の終わりを覚悟したその時です。額に紋章が浮かぶ少年のような方に抱えていただき、なんとかこの老婆は生命からがら生き延びたというわけです」
アバンの使徒たちは話を聞いて両目を大きく見開いた。
特徴から照らし合わせればその少年はまず間違いなくダイだ。
彼が本気を出す時、額に竜の騎士の証である竜の紋章を輝かせ、普段の数倍から数十倍もの力を発揮するのだ。
しかしポップには気になることがあった――
「そんなことでダイって紋章を出すっけなぁ?」
「で、でもお婆さんの生命の危機だったのよ?! 間に合わなかった時のことを考えてま、万が一ってこともあるじゃない」
しかしマァム自身も言っているうちに少しだけ怪しくなってきた。
確かにダイが困っている人を見捨てるなんてありえない。
あいつならなんであれ助けるであろう。
問題はそれに紋章の力を仰々しくも使う必要があったのだろうか。
特にダイは自分が人間と違うことにひどくコンプレックスを覚えていたほどだ。
そんな彼が自分から正体を曝け出すような行為をするとはどうも考えられなかったからだ。
「話を総合すればそれはもうダイ君しかいないけど――でもうーん……ってことかしらね……」
レオナもかなり疑惑を持った眼差しで老婆を見つめていた。
「な、なぁ婆さんよ。本当にその子は額に竜の紋章を浮かべてたのか?」
とうとう気になってポップが聞きだした。
老婆は首を捻りながらしばらく思案した。
「うーむ……しかしアレはどう見ても光り輝く紋章であったはずだがの……」
「なんかもっと他の……ダイしかないような特徴……あっ!」
言っていてポップはダイしか持っていないようなランドマークを思い出した。
「婆さん! その子の額まで見たんだったら顔も見てんだよな?! ほっぺたに十字の傷跡なんかなかったか!?」
ポップに言われて全員が手を打った。
老婆もそれまでは不鮮明な物言いだったが、ポップからその特徴を聞かされると「それじゃあ!」とここ一番で大きな声をあげた。
「まちがいない! あった。確かにあったぞ!! かけても良い!! その子の頬には十字の傷があったわい!」
「じゃあ……!!」
老婆のリアクションから一同は少々不思議な感覚だったが、ダイの存在に確信を持つことができた。
「それにしてもよくポップくん咄嗟にそんな『言われてみれば』な特徴思い出したわね〜」
「なんか……あいつを最後に見た時のこと思い出したら、ふとそんなことが頭に浮かんじまってな……」
老婆よりもはるかに長い時間ダイとは面識のない一同ではあったが、直前で切り離されたポップだけはそのことを深く覚えていた。
忘れられねぇ……忘れたくても焼き付いちまってんだ……!
なぁダイ。俺にこんなデケエ置き土産残しておいて今更ハイさよならはねえよな……てめぇのことは忘れて地上のみんなとよろしく平和にやってくれだなんて、そんな虫のいい話あるわきゃねーだろ……!!
次に彼らが話を伺ったのは小太りで中年の商人だった。
いつものように商売に精を出していた頃、積荷が魔物に襲われて絶体絶命のその時、紋章の戦士に助けられたという。
その強さまさに鬼――いや竜の如しだったそうで、襲われた際はトロルだかビッグアイだかのゴツい魔物群だったらしいがそれらをものともせずに素手だけで沈めていったとのことだ。
3日前のこの出来事が仮に真実だと仮定すると、当然武器はダイの剣がないため必然的に素手となる。
また、紋章の力を覚醒させたダイの力はとてつもないものに上昇するため、この話とも矛盾がない。
一先ず一番信憑性の高い目撃情報といっても差し支えなかった。
「それで、彼を見たという場所は……」
「はい……ちょうどこんなところだったと思いやすぜ」
商人は卓上に広げられた世界地図の、ある地点に向けて指差していた。
それはカールとベンガーナの狭間に位置する場所だった。
彼に助けられた後、すぐさまそのものは旅立っていったという。
その話と老婆の話を合わせてみると、その戦士が向かった場所とのおおよそ時期が一致することに気がついた。
「それから各地で証言のあった情報を集めてみると……彼は今このようにして移動していることになるわ」
レオナが更に独自に書き加えた地図を重ねてみせた。
それを見るにところどころ虫食いのように欠けてこそいるが、彼の戦士は北の果ての大陸から時計回りでこのカールに向かっていることが理解できた。
「じゃ、じゃあ次に現れるとしたら……!」
「ええ。このカール王国の近辺であることは可能性のひとつとして大いにあり得るわ。……尤もその者が自由に飛び回っていけるって線も捨てきれないけど……こんな回りくどい道いくら人助け街道まっしぐらの旅だとしても変だわ。もしダイ君だとするなら彼はきっと今なんらかの事情で私たちから隠れるように移動してて、地上で一人歩きながら旅をしてるのよ」
「か、隠れるったってなぁ……。そもそもなんで俺たちに見られたらまずいんだよ。そもそもこんなバレバレの証拠を残しながらやってきておいて正体を隠しているなんて、へそが茶ぁ沸かすぜ」
確かにポップの言う通り、いくらダイが難しいことを考えるのが苦手でもわざわざこんな露骨過ぎるやり方で足跡残していくとは到底考えられなかった。
既にこれだけ大勢の人間に知れ渡っているのだ。ポップたちの前に現れなかっただけで、その活躍が耳に入ってくるのは時間の問題だろう。
「私たちに気付いてもらうことが……何かのメッセージだったりして。ほら、よくあるじゃない囚われのお姫様がせめてもの抗いとしてちょこっとだけ姿を表すってやつ」
「ダイはお姫様かよ……」
それを紛れもないお姫様であるレオナが言うんだからポップにとっては失笑ものだった。
しかし今はあらゆる可能性が選択肢に入る。レオナの意見も無きにしも非ずといった感じだ。
何度考えてもその真意が分からないポップは机上で手をこねくり回しているだけだった。
ふいに自分の服の裾が誰かに掴まれる感覚を覚え、振り返った。
「ねえねえ」
「お兄ちゃんたちあたちたちは〜?」
「おお、そうだった。ねぇ。君たちからも話聞かせてもらえねぇかな」
最後に残った双子の兄妹にポップたちは話を伺った。
別段無視をするつもりなどなかったのだが、これまでの話題からすっかり事情聴取が終了の雰囲気になっていたので一同その存在をすっかり失念していた。
だが、彼らこそもっとも重要な鍵となる情報を握っていたとはこの時は思いもしなかった。