ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
「あんだけ大規模な地震があったんだ。どっかにバカでかい大地の傷跡があってもおかしくねぇはずだ」
地上よりもやや離れ、地面全体が見渡せるほどの位置でポップとヒュンケルの二人は滑空していた。
ポップの言うように、あちこちにその被害が広がっており、木々はそこら中に倒れ破片などが飛散しており、家々もやはり無事ではなく何軒かは再建不可能なほど倒壊していた。
空から見ているとやがてある区間のみが大穴状の砂漠のように真っ平に変貌しており、二人はすぐさまその異常に気が付いた。
「な、なんだよありゃ……!!」
地表に降り立ったポップはその惨状を見て叫ばずにいられなかった。
「いってぇ何が起きたらこんなことになるんだよ!!」
ヒュンケルでさえも額から脂汗を流し、目の前の異様極まりない光景を見て背筋を凍らせていた。
これほどの規模の大災害は魔王軍に属していた時もお目にかかれるものではなかったのだ。
「凄まじい威力の何かが衝突したのだろう……。城にいた時に感じた大地震はその余波とみて間違いあるまい……」
地面の砂粒拾い上げながらヒュンケルはその威力を推し量り震えた。
周囲はまだ熱を帯びており、ところどころ地表から蒸気を噴き上げていた。
「冗談じゃねえぜ。んなことダイのドルオーラでもなきゃ不可能だ」
何気なく踏んだ足場の熱を受け、ポップは靴底が焼け落ちるような感覚に襲われ思わず飛び跳ねた。
残骸を探っていくものの、二人が触れる端から黒く焦げ落ちていった。
「う……う、うう……。そこに誰か……いるのか」
突然背後から呻き声が聞こえてきたため、ポップらは武器を構えて振り返った。
「な……お前は……ラーハルト!?」
そこには見るも無残な姿のラーハルトが立っていた。
かろうじてそれが彼のものだとわかるような程ぼろぼろに焼け焦げており、鎧の魔槍も最早上半身のほんのわずかな一部のみを残す形であり、かつての栄華は見る影もなかった。
「どうした! 何があった!!」
ヒュンケルが真っ先に彼に駆け寄った。
「そ……その声はヒュンケル……そ、それにポッ……プか……」
虫の息同然の瀕死状態となった友を抱え上げ、ヒュンケルは涙を浮かべていた。
「こ、この魔槍がなければ……即死だったであろ……う……。死を覚悟した時……こいつが俺を覆うように守ってくれたよ……。さ、流石は魔界最高の腕を持つ男……ロン・ベルク殿には感謝しかな……い……」
「もう喋るんじゃねぇ!! ベホマ!!」
ポップはラーハルトに対して回復呪文を唱えた。
しかし彼の様子が変わることはなかった。
「くそ! くそっ!! なんでだよ……!! なんで回復しねぇんだよ!!」
「ふ……久しいな……友よ……。も、もっとも……こんな形でお前と再会することに……なろうとは、な……じ、実に……無念だ」
「喋んなってんだろ! 今は傷の回復に専念しやがれ!!」
しかし横たわるラーハルトは弱弱しくも首を横に振った。
「お……お前ほどの……男なら……わ、わかるはずだ……ド……竜闘気で受けた傷は……しばしの間回復魔法の類を寄せ付けん事に……」
か細い彼の残した言葉にポップもヒュンケルも驚愕の色を浮かべた。
「じゃ、じゃあそいつは――そいつはまさか……!!」
「そ……そうだ……。さ、察しの通り、ヤツは竜の騎士……」
そこまで言いかけたところでラーハルトは吐血し、そこら中に口内から血液をまき散らした。
「そんな……。じゃあまさかこれをやったのは……」
ポップの頭に浮かび上がるのは一人しかいなかった。
バラン亡き今――当代の竜の騎士と呼べる人物はただ一人。
ダイ……!!
しかしポップの表情からその答えを読み取ったラーハルトはそれを否定した。
「違う……あれは……ダイ様などではない……!」
「な……! だ、だって今あんたの口から竜の騎士がやったって」
ポップがその言葉を口に出したその時。
三人は背中からこの世のものとは思えないほどのおぞましい、それでいて気持ちの悪いほど静かな威圧感を感じた。
なにがあっても振り返って立ち向かうつもりでいた。
その覚悟も準備もできていた。
たとえばおかしな話だが、それが何者かに操られているダイであったとしても、だ。
けど今俺とヒュンケルの後ろにいやがんのはそんな生易しいモンなんかじゃねぇ……!!
それが一歩、また一歩と近づいてくるのにポップたちは振り返るどころか動くことさえできなかった。
それが近寄る度、心臓が激しく唸り、脈が加速し、本能レベルで危機を知らせていた。
とてつもない化け物がいると……!
「そんなに怖がらなくてもいいよポップ、それにヒュンケル……」
それが言葉を発しただけで、二人は全身の血液が凍り付いたような感覚に襲われた。
しかし、それを機にそれまでは得体のしれない恐怖感から動かすこともできなかった体の自由がよみがえった。
「て……てめぇ!! 何モンだ!!」
しかし彼はすぐに動いたことことを後悔した。
目の前の少年から向けられたただならぬオーラに、今度はそのままの姿勢で目を背けることすら許されずそれにあてられることになったのだから。
同様の事態はヒュンケルにも起こっていた。
動きたくとも彼の両手足は地に張り付いたようにびくともしなかった。
おぞましい闘気を放ち続ける少年の額には、彼らが幾度となく目にしてきた竜の紋章が浮かんでいた。
また、彼が全身に纏っているそれも見覚えのあるものだった。
「ふふふ。ボクが何者かって? じゃあ教えてあげる」
少年はさらに
「ボクの名前はザウロ……!! キミたちもよく知る
「ド……竜の騎士だと……!?」
ポップとヒュンケルはさらに冷や汗をかいて立ち尽くした。
今二人には様々な考えが脳内を駆け巡っていた。
なぜ現在たった一人しか存在しないはずの竜の騎士が目の前にいるのか。
そしてその一人であるダイがなぜいないのか。
それまでの目撃情報はすべて彼のものだったのか。
こんなわけのわからないことで頭がいっぱいの状況なのに、体は命の危機を感じて怯え切っているのだ。
ポップはそれでも必死で頭脳を働かせていた。
状況からみてこれまでの全ての元凶とラーハルトをやったのはコイツだ。
ヒュンケルとも五分以上に渡り合える神速を持つラーハルトが手も足も出せずに敗れちまったってのを考えるとまず間違いなく今の俺たちが頑張ってなんとかなるような相手じゃない。
若さと力を取り戻したバーンと戦りあった時のダイと同じか――それ以上の力量を持ってるとみていいだろう。
奇跡なんか絶対に起きない。万に一つでもそれが起きたとしても、勝てない。
このまま戦いを挑めば確実に俺たち全員殺される。
まさしく絶体絶命のこの状況下にいても、ポップの頭は案外よく回っていた。
まだまだ頼りになるじゃねぇか俺の頭脳!
死んじまったらそれまでだけどな!!