ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章   作:ありけるみー

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二人の大魔道士の巻

 数ヶ月前。ダイ捜索の旅を終え、ようやく定住して平和に過ごそうとしていた時だ。

 新たな居住を構えてダイを待つことにしたポップはマトリフに挨拶をしに行っていた。

 というのもその師匠が隠居していた隠れ家に近い洞窟にうっかり迷い込んでしまった偶然からなのだが。

 フレイザード討伐の頃から相も変わらず湿っぽく小汚い洞窟の中に住み着いており、四方八方には蜘蛛の巣がびっしりと張り巡らされていた。

 咳払いしながらポップは怪訝そうに洞窟を見渡した。

 

「勇者を育てた偉大な大英雄様がこんな穴倉で隠居生活なんてカッコがつかねーぜ」

「ほっとけ。俺はこの薄暗い洞窟が気に入ってんの」

「城に行けばぷりぷりのおネーチャンがいっぱいいますよ〜師匠」

「ぷりぷりのおネーチャン?!」

 声と鼻息を荒げマトリフは振り返って狂喜乱舞。弟子からの魅力的な提案に鼻の下を伸ばした。やっぱスケベジジイじゃねーか。

 しかしすぐにハッと思い直して

「いや、俺は女を泣かせねえ主義なんだ」と言った。

「……どの口が……」

「それにマァムくらいイイ女はいねぇしなぁムフ、ムフフ」

「いくら師匠でもマァムに手を出したら承知しませんぜ……!」

「なんでぇ。随分とでけぇクチ叩くようになったじゃねえか。この一年婚約すらロクに出来なかった腰抜けのヘタレがよ」

「うぐ……そ、それは色々あってな〜」

 それまでは威勢よくマトリフにも啖呵を切っていたポップだったが、痛いところを突かれて徐々に尻すぼみとなっていった。

「甘ったれんじゃねえ!」

 ごにょごにょと聞こえないほど小さい声になった気弱な弟子に喝を入れた。

「いいかポップ! 女ってのは男が思うほどいつまでも気長に待ってちゃくれねーんだぞ!? じわじわじめじめいつか言えば良い、またいつか、あぁいつかって指咥えて見てたらすぐ愛想尽かしてポイよ。いつのまーにか他の男とデキちゃってましたってな具合でな」

「マ、マァムが他の男とぉ!?」

 不覚にもその光景を想像してしまいポップはあんぐりと口を開けて放心し、鼻水を垂らして呻き声を上げた。

 よろよろと崩れ落ちた弟子の肩を叩きマトリフはこう言った。

「チャンスってやつはそう何度も転がってくるもんじゃねぇ。女もそうさ。掴む時はガッツリ掴んどけ!」

「し、師匠ぉ……」

 

「そう、おっぱいのようにな!!」

 

 最後の最後でそれまで積み上げてきたマトリフの名言が台無しになった。

 ポップもずっこける他なく、馬車に引かれたカエルのようにひっくり返っていた。

 良いこと言ってんだけど、いっつもどーにもシメがな〜……

 しかし弟子を諭して得意満面な師匠に対していつまでも倒れっぱなしのポップではなかった。

「大体ロクに女と付き合ったことのねー師匠にだけは言われたかねーぜ!」

「んーこれでも俺わけぇ頃はモテモテだったぜ」

「嘘つけ。大方女の尻触ってハデに引っ叩かれて別れ話ってのがオチだぜ」

「まぁ聞けよ……ポップ」

 それまでのおふざけモードから一転してマトリフは神妙な顔つきになった。

「俺ぁもう長くねえ。ま自慢じゃねぇが十分生きた。やりてぇことも大概好き勝手やった。俺の人生に後悔なんて二文字はありゃしねぇ。……だがよ、たった一つ心残りがあるとすりゃよ、ポップお前だ」

「お、俺?」

「未だ笑っちまうほどの腰抜けでけつの青い小僧だけどもよ、せっかく丹精込めて育てた最後の弟子だ。そいつの晴れ姿を一度くれぇ拝んでみてえのが親心ってモンよ……なぁ、おめぇ。結婚式なんて見れたらよ、そいつは最高じゃねぇか。えぇ傑作じゃねぇかよ。……老い先短え年寄りの最後のわがままだと思って聞いてくれ。俺がおっ死んじまう前によ……」

「し、師匠……」

 愛弟子の両の目には大粒の涙が浮かび上がっていた。

 感激したポップはマトリフの両手を取り、決意新たに洞窟を抜けて行った。

「ったく……ちょーっとイイコト言うとすぐこれだかんなぁ……ホントにあいつはどーしようもねぇ『おちょうしもの』だぜ」

 ポップ無き薄暗い部屋の片隅でマトリフは呆れ顔を浮かべていた。

 だがその直後になかなか終わらない咳を発し、受け止めた両手を見ると真っ赤な鮮血に染まっていた。

「……へっ、まぁでも老い先短えってのは本当だよ……頼むぞポップ。もうあと何回お前のアホ面見てやれるか……。願わくばこのおいぼれの目の黒いうちに…………なんてあの腰抜けには無理かもなぁ……マァム……あのバカのケツを引っ叩いてやってくれよな……」

 そうして誰に聞こえるでもない言葉を発したあと、再び床に着いて眠りに落ちた。

 

「忘れちゃいねーだろーなー?」

「わ、忘れてねぇって!」

「ほぉー? その割にゃ絶好のチャンスを自らフイにしたように思えるが?」

「あ、あれはあの子が邪魔をしてだな…………んっ? 待てよ、なんで師匠がそのこと知っ……! あーっ!! さては聞き耳立ててやがったなぁ!?」

「へへへ当ったりぃ〜」

 マトリフは盗聴を特に悪びれる気もなくむしろ煽り立てるように戯けてみせた。

「こ、こんのぉ……! 盗み聞きっすよ! そーゆーの犯罪ですよ!? 畜生ひでぇやひでぇや。弟子のプライバシーなんてあったもんじゃねぇか!!」

「うるせえ。盗み聞きされるようなお前らが悪い」

 再びゴチンと杖の先端部分でポップの脳天をかち割った。

 不意をついただけに威力は絶大だった。

「こ……んの悪魔ぁ……!」

「いーかポップ。お前今日中にマァムにプロポーズできなかったらお前とマァムを引き離す」

「なっ……! どうしてそこでマァムが出てくんすか! だ、大体あんたに何の権限があってそんなこと……!」

「付き合う気もない、生涯を共に過ごす気もない。そんな半端者に纏わりつかれて貴重な青春を無駄にするマァムが可哀想だ。あいつにはもっと良い男が山ほどいるしな。いくらてめぇが苦楽を共にしてきた仲間だとはいえマァムにも選ぶ立場ってモンがある」

「はっ……がっ……!?」

「あの美貌だ。今じゃすっかりわけーころのレイラそっくりになったんじゃねぇか? となりゃあ将来引くて数多よ。いや、もしかしたらもう今が全盛期かもしれねぇな。――とくりゃそんな良い女を男がほっとくわきゃねぇわな」

 全て悪魔的笑みを浮かべる師匠の言う通りだとわかっていたが、それをいざ口に出して第三者に言われるとなんとも複雑な気持ちになっていた。

 マァムを自分以外の男にどうこうされるのは嫌だったが、自分で強引に切り出す勇気はなかった。

 あの精一杯の告白でいいじゃないか、それ以上は無理だと。

 

 マァムが答えを出すまで待ってるつもりでいて、ほんとは自分がこえーだけなんじゃねぇのか

 思えばいつも自分は肝心な時に逃げてばかりだった。

 師匠が呆れるわけだ。畜生、この一年結局俺は何一つ成長しちゃいねーじゃねぇか。

「男見せろよポップ」

 老師匠がニヤリと微笑むと、若き大魔道士は要件を片づけるべく村長の元へ走って行った。

 終わったら必ずマァムの気持ちに向き合う。

 そこでどんな答えが出たって、俺はこれからもずっとあいつが大好きだ。それでいいじゃねぇか。

 

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