ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章   作:ありけるみー

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激突!最強の戦士の巻

「どうしたの? 何を企んでいるのかな」

 くすくすと氷の微笑を浮かべながらザウロはゆっくりと近づいてきた。

「へっ、な~に。おめーを今から倒しちまうような算段だよ!!」

 それを聞いたラーハルトは血相を変えて叫んだ。

「や……めろ……! ポップ……!! 逃げろ! 逃げねば死ぬぞ!!」

「うっせえな。今にも死にそうなくたばり損ないはそこで黙って見てろって。俺にはあのとっておきの最強呪文があるんだからよ」

 そういうと彼はヒュンケルの方を見た。

 ヒュンケルはラーハルト同様ポップの一見血迷った発言に戸惑っていたものの、すぐに友の真意を察することができた。

「最強……? ま、まさかメドローアを……い、いかん……いくらそれでも……こいつには勝てないっ……!!」

 ラーハルトだけは激しく狼狽えた。

 この中でザウロと戦ったことがあるのも彼だけだった。

 だからこそ彼だけはその恐ろしさを人一倍熟知していた。

「へぇ~。そんなに強い呪文があるんだ。ぜひ見せてほしいなあ」

「へへへ、まあ慌てんなって。すぐに見せてやっから……」

 ポップはザウロを挑発し返すように両手にヒャド系とメラ系の呪文のオーラを込めていった。

「くっ……なんとわからず屋なのだ……お、おいヒュンケル……!! 今の俺の話を聞いていたであろう……!! なんとしてでもポップを止めるのだ……!!」

 ヒュンケルはただ黙っていた。黙ってラーハルトの肩を抱えていた。

「な……! バカな! あいつを見捨てていくのか!?」

「ラーハルト……俺の好敵手であり、至高の友よ……。もしお前が俺を友と呼んでくれるのならば……俺にとっての友であるあいつを……何があっても信じてやってくれ……!」

 ラーハルトはヒュンケルのその覚悟こもった眼差しを見て、これがポップの単なる自爆特攻などでは更々ないことが一瞬で理解できた。

 ポップはやがて二つのオーラを一つにまとめ、消失させたかと思うと弓のようなオーラを出現させた。

「ワォ」

「さぁさ竜の騎士さんよ……! これが地上の大魔道士マトリフ直伝の究極魔法『メドローア』だ!! 滅多にお目にかかれる代物じゃねえからよ。今のうちにありがたーく拝んでおきやがれ!!」

 ポップの完成させた魔法を見て、ザウロは両手を叩いて称賛した。

「やるねぇポップ。じゃあその大魔道士様とやらに敬意を表して……ボクはその魔法を受けるまで、ここから一歩たりとも動かないことを約束しよう」

「ありがてぇ……そりゃ願ってもない話だ……! できれば反故にされることのないことを祈ってるぜ」

「保証しよう。誇り高き竜の騎士は一度交わした約束は破らないと」

 そうして悠然と立ちはだかるザウロに向かってポップは弓矢を放った。

「喰らえ!! 極大消滅呪文(メドローア)!!」

 矢状のエネルギー波が地面を削りながら竜の騎士に襲い掛かった。

 彼も竜闘気を解放してそれを迎え撃った。

 両者の気の激突は周囲に閃光をまき散らし、爆風で辺りを包み込んだ。

 

 ――今だっ!

 

「ルーラ!!」

 

 ポップはすぐさまラーハルトを抱えたヒュンケルの手を取り、その場を離脱した。

 ラーハルトは解せないという面持ちでポップを見た。

「な、なぜだ……! 貴様はあのまま戦うつもりではなかったのか!? それにあれは……」

「へっ。んなもんあいつを乗せるための演技に決まってんだろーが。あーでも言わねえと易々と逃げらんねぇだろうと思ってさ」

 高速で雲の隙間を吹き飛ばしながらポップが軽く言った。

「それにありゃメドローアじゃねえ。一旦メラとヒャドのオーラを出して消した後、ギラの呪文でそれっぽく合成して見せただけだ。俺としては最初からみんなで逃げるつもりだったよ」

「なんと……お前はあの一瞬で、しかも恐怖にその身を晒されながらもそのようなことを……!!」

「ラーハルト。これがポップなんだ。ダイの唯一無二の親友で俺たちに欠かすことのできない地上最高の叡智だ」

 そのことにラーハルトはただただ感服し、同時に言葉通りに捉えることしかできなかった自分の思慮を恥じた。

「お、おいおいヒュンケルくんったら~そんなに褒められちゃうと俺、天狗になって空でも飛んじゃうよ~……あ、もう空は飛んでんだっけな、わははは、ははは! ……はは、……はぁ」

 大笑いで調子に乗っていたポップも、いつものように有頂天を決め込むことはできず、すぐにため息を吐いて気を沈めた。

「俺たちこれからどうすりゃいいんだよ……。せっかくダイだと思って探し求めていた奴が竜の騎士だけど全然ダイじゃなくて、理由はしらねーけど俺たちに襲い掛かってきただなんてよ……。最悪だぜ……」

「そう腐るな。それをこれから考えていくのが俺たちの新たな役目だ」

「……チェ、カッコイイこと言っちゃってよ~。おめーだってホントはどうにもならねーって思ってるくせによ……」

 ポップは空中で絶句した。

 もう大分ザウロから離れたというのに、あの忌々しい邪気が段々と大きくなっているのだ。

 

 そんなわけねえ……!!

 そんなことあるはずがねえ……!!

 こんだけ必死で飛ばしてんだ、もう城は目の前じゃねえか!!

 なのになんだよ……この胸糞悪い感じは!!

 

「なぁんだ。結局あれは究極の呪文じゃなかったんだね」

 

 信じがたい音色がポップの真横を横切った。

 恐怖心から意識に蓋をしていたのだろうか。

 否――それにはヒュンケルやラーハルトさえ気が付かなかったほどだった。

 しかし間違いなく、紛れもなく――

「ザウロ……!!」

 彼はポップのルーラと並走して飛んできたのだ。

「やれやれ。ボクは約束通り一歩も動かず受けてあげたっていうのに。ポップはボクを騙していたんだね」

 先ほどから必死でザウロを振り切ろうとルーラの移動速度を上げているポップだったが、とうとう完全に追い抜かれ、目の前に現れられてしまった。

「嘘……だろ……」

「それって人間でいう“不義理”ってヤツじゃないかい? キミって案外冷たいんだね」

 ザウロはそれに対して怒るでも悲しむでもなく、これまで通りただただ笑顔で淡々と語っていた。

「ぐっ……くそったれ!!」

 振り切ることが絶望的だと判断したポップは空中戦を諦めて地上に逃げ込んだ。

 ザウロもそれをみて難なく着地した。

「ま、いい手品は見せてくれたんだ。それでおあいこってとこかな」

 ザウロはまたポップに詰め寄っていった。

 状況は再び暗転してしまった。

 何とかしねーと……!!

 ポップは咄嗟にメルルに念で語り掛ける方法を選んだ。

 最早それが彼にできる最後の賭けだった。

 

 メルル……。聞こえるかメルル……!

 頼む……! 聞こえていたらどうか返事をしてくれ……!!

 

 ポップの悲痛な叫び声を聞き取ったメルルは驚いて飛び上がった。

「今の声は……ポップさん!?」

 それを聞いたレオナやアバンが振り返った。

 メルルも念で会話し始めた。

 

 どうしたんですか。そんなに切羽詰まった声で……!

 

 

 お、おおメルルか。よかった。

 ちゃんとお互いに聞こえてるっぽいな。

 

「また何か悪だくみかい?」

 

 ザウロから距離を離しつつ、ポップはメルルに現状を伝えられるだけ伝えてみせた。

 メルルは言葉を失って地に崩れた。

「そんな……竜の騎士さまが……!」

 それを聞いていたナバラが苦悶の表情を浮かべ絞り出すように呟いた。

「恐れていたことが起きてしもうたか……!!」

 地に顔を伏せるナバラとは裏腹に、アバンとその使徒たちは顔を上げていた。

「とにかく、今はポップたちに加勢しに行かなければ……!」

「ええ! このままじゃみんな殺されてしまうわ!!」

 アバンとマァムは城の近くに来ているポップたちのもとに向かおうとした。

「ま、――待って。私も」

 その後ろからレオナの声がした。

「私も行きます……!」

「レ、レオナ……ダメじゃないまだ安静にしていなきゃ! それに行くってあなた、まだ顔色もよくなっていないのに……!」

 マァムの言う通り、レオナもまだ完全には戻りきっていなかった。

 震える手足を懸命に抑えながらも彼女は立っていた。

 健康そのものだった肌色はひどく蒼白になり、艶やかな唇などは紫に変色しいつになくやつれており、とても一国の姫君とは思えぬような出で立ちだった。

「それでも行くの――行かなければならないの。だって私も、アバンの使徒なのだから……! 仲間が生命をかけて戦っているというのに、私だけおねんねなんてしていられませんもの」

「レオナ……」

 マァムは師の顔色を窺った。

 アバンも苦渋の決断であったが、最終的には彼女の意志を尊重した。

「わかりました。ただし、ポップにも言いましたが、今後どんなことが目の前で起ころうとも決して心取り乱してはなりません。たとえ私たちを見捨てて一人だけ逃げることとなっても、生き延びなさい。最期まで生きて抜いて、希望の炎を絶やしてはなりません。それが条件です」

「はい……!!」

 それを陰ながら聞いていたエイミもまた、黙っているはずがなかった。

「待ってください! 姫様が行くのなら私も!」

「エイミ、貴女は城のみんなを――」

「だって私、姫様と違ってこうして元気に動けますもの!! このままだとまた……ヒュンケルが……ヒュンケルが……!!」

 エイミは今にも泣きだしそうになる感情を押し殺して堪えながら言った。

 愛する者の身を案ずるのは皆同じだった。

 許可を得られなければ刺し違えてでも――

 と訴えかける彼女の想いを、アバンは受け止めていた。

「……いいでしょう」

「……先生!?」

 レオナとマァムが焦りの色を見せた。

「どうせ今のあなたは止めたところで諦めず黙って抜け出してでもついてくるつもりでしょう。それならば私たちと一緒に出た方が都合がいい。……それに」

 アバンはエイミの前に立って言った。

「今のヒュンケルにとってあなたはなくてはならない人――いえ、互いになくてはならない存在、いわば一蓮托生の身。ここでただ指をくわえて帰りを待つよりも彼と運命を共にすることとなっても構わないというのなら……」

 アバンはエイミの瞳をじっと見た。その目には一片の迷いもなかった。

「掴みなさい。そして、掴んだその手を決して離してはなりません。たとえ続く道がどんなに険しくこの世の地獄へ通ずるものであったとしても……!」

「元よりその覚悟です!」

 こうしてアバン、マァム、レオナそしてエイミの四人でポップたちの援助に向かうことになった。

「邪なる威力よ退け! マホカトール!」

 城を発つ前、アバンはゴールドフェザーを皆が待つ空間を囲う様に投げ置き、巨大な光の魔法陣を展開させた。

 破邪の秘法によって強化された五芒星の魔法円は強力な防護壁となって民たちを覆い守っていた。

「私の指示があるまで絶対に何があってもそこから出てはなりません」

 そう言い残して彼は城を出ていった。

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