ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
「な、なんだと!!」
「そんなバカな……!」
「……ざ、けんじゃねぇ……! んな傲慢が許されるわけねぇだろ!! この世界はお前のモンじゃねぇんだぞ!」
怒りを露わにするポップに対して、ザウロはこれまでにないほど冷たく言い放った。
「では大魔道士ポップ――この世界は誰のものなんだい?」
「そ、それは……」
「キミたち人類のものかい?」
ポップがすかさず意見を述べようとしたその時、ザウロが被せて追加した。
「いや、人よりもはるかに長寿で優れたる魔の力――魔法を自在に操る力を持つ魔族こそがこの世界を手にする権利がある? ――それとも叡智と強靭な肉体を誇る竜族のものであるだろうか?」
ザウロは一通り人類にポップへの返答を投げかけてみたが、誰一人としてそれに答えるものはいなかった。
「そう。誰のものでも無いよね。キミたちはこの地上が心地良くて気に入ってる単なる先住民の居住者に過ぎないのだから。それはこの地の下に眠る魔界に座す魔族や竜族また同義! 全ては神々に与えられた恵みにあやかってこれまで生きてきたに過ぎないのだ」
ある種の超越者のような視点でザウロは人類を見下ろしていた。
彼は空を掴む様に撫で、黒き雷をその手で掴んで握りつぶした。
「……ところがどうだ。キミたち人間は与えられた大地に国を立て、地位を立て、差を作り――決して今あるもので満足しようとはしなかった。既得権益に駆られ、果てしない欲に駆られ、更なる大地を我が物にせんとこれまでに幾度となく血で血を洗う争いを繰り返し、脅威が去り真の平和を取り戻した今もなおそれは終わりを迎えない。神は遠い昔、心正しきものだけがこの地で陽の光という恵みを受けることを人類と約束したというのに――それが今はどうだ? 歴史は繰り返すばかりではないか。断言しよう。たとえボクという脅威が去ったところで、人類は再び己同士で不毛な争いを始めるであろう。……そしてそれは人類のみならず、魔もまた同じこと――」
彼が感情を見せ始める頃、天もまたそれに合わせて曇りを帯び、そこら中に黒き雷の嵐を呼び起こしていた。
「バーン亡き今、彼らはますますもって新たな覇権争いに――闘争心にその身を委ねる日々を続けている。己が野望に飲み込まれ、無駄に血を流すことをやめない魔。感情を持つが故に他者を蹴落とし、目には見えぬが心を傷つける人。そしてかつての知恵を失い、ただ力のままに暴れ狂う竜。……これら全てを消滅させることで世界に新しい澄み切った穢れのない生命を誕生させる。それが終焉竜が導き出した結論だ。そして傲り、過ちを犯し続ける愚か者たちを神に代わって征伐する。それこそが竜の騎士に与えられた新たな使命なのだ」
ザウロの語る人類や他種の現状について反論する者はいなかった。
国を発展させ、より大きな力を求めていたこともある国王たちにとっては耳の痛い話だった。
自身が持つほんの小さな幸せに見向きもせず、目先にある更なるものを求め、国力を上げ、武力を高め、個が群を成し進化を遂げた発展の形に異を唱え、それを止めようとする超越者の使命には神ならではの正当性があったのだ。
それを聞いてなおポップは複雑な気持ちだった。
同じ人であってもその力を畏れ、忌み嫌われて迫害されたアバンの家系やマトリフなどはそれを痛いほど理解しているだろうとポップは思っていた。
人が人として生き続ける限り、争いがこの世からなくなることはない。――そりゃ理屈としてはわからなくも無ぇけどよ……!!
こんな時、ダイならきっと「すべての人間や種族が悪意を持って争いを望んでいるわけじゃない」って言い切ってあいつに挑んでいったんだろうな。
ポップはザウロの主張を聞いてなお、立ち上がって彼を見上げた。
「あんたの言ってることは多分真実なんだろうし、おんなじ間違いばっか繰り返しちまう人間にいい加減業を煮やしたって神様の気持ちもわかんなくもねーけどよ……だからってこのまま大人しく滅ぼされてくださいなんて言われて黙ってられるかってんだ!! あんたらにとっては長い歴史の中に生まれたほんのちっぽけな存在かもしんねーけど、俺たちにとってはそれが大切な一生なんだ! 他に替えの効かねー大事な大事な生命なんだ!!」
ポップの両足の震えは完全に止まっていた。
彼の決意が、人として戦わんとする決心が己が恐怖を乗り越えたのだ。
天高く大空に君臨する竜の断罪者に向かって彼はその指を向けた。
「一度つくっておいて都合が悪くなったらリセットだぁ!? ぜんぶぜんぶ滅ぼしてそんできれいさっぱりなかったことにするって!? へっ、そんな勝手な話受け入れられるわけねーだろ! いいか、あんたらの崇高な神様とやらに伝えとけ!! そしてよ~く覚えておきやがれ! 俺たち人間はあんたらの思い通りにいくほどヤワな存在なんかじゃねぇってな!!」
声高々に彼は宣言した。
それに合わせて怯えていた国民たちも次々と声を上げていった。
「そうだ!! 俺たちは簡単には滅ぼされねーぞ!!」
「竜の騎士だか神様だか知らないけど、そんなものに屈しないわ!!」
「オレはやるぞ! 愛する妻と家族を守るためにも!!」
彼らは一斉に立ち上がって集まり、力及ばずとも抵抗する確かな意思を見せた。
「こ、これは――」
その様子にアバンも驚いていた。
ついさっきまで沈み切っていたものたちの、バラバラになっていた心が今一つとなったのだ。
雲間から差し込んだわずかな光が、そんな彼らをまとめあげてしまった一人の青年の元に降り注いだ。
その名はポップ――。
彼は今、人間の代表となって民たちの前に立っていた。
自身をダイやレオナ、ヒュンケルたちのように特別な才能も出自も持たない――ありふれたごく普通の人間であるとたびたび自虐的に自負していたが、あるいはそんな彼だったからこそ人の抱く飾らない率直な意見を述べられ、こうして民たちの心を纏め上げ、支持を得ているのかもしれない。
人々を勇気づけ、いかなる困難にも立ち向かうことができる希望を生み出す存在。
ダイの理念でいうとポップは今まさに人間の勇者であった。
一致団結し、自身に立ち向かおうとする人間を前にして、ザウロはその目を赤く煌めかせた。
「ならばお前たち人間がこの世界で存在に値する種であると、自らの手で証明してみるがいい!!」
彼が唸ると周囲に地鳴りのような轟音が響き渡り、大地にヒビを入れていた。
額の紋章を輝かせ、纏った竜闘気を解き放った。
それだけで天変地異にも匹敵する大規模なものだったが、彼はそこから右手を天に向け雷を集めていた。
「くっ……なんてもの凄え力だ……!! こうして立っているだけで精一杯だぜ……!」
「驚くのはまだ早い。竜の騎士は世界でただ唯一、剣と魔法を両立させることができる存在……」
猛々しいまでの雷を手に集約させ、ひとかたまりにして練り上げるとそれを手刀の形にしてみせた。
「また天を操るとされる竜の騎士のみが究極の雷魔法デインを唱えることができるが……これはそのデイン系最強の呪文ギガデイン――それをさらに上回る究極を越えた必殺呪文ジゴデインだ!!」
「きゅ、究極を越えた……ジゴデインだと……!」
ポップとレオナたちは戦慄した。
かのバランが用いた最強の魔法剣――ギガブレイクに使用された呪文がギガデインだったのだ。
それだけでも並みならぬ絶技であったのに、その脅威を遥かに凌駕するであろう威力のものが放たれようとしているのだ。
かつて竜の騎士2名と剣を交えたヒュンケルも、これが直撃すれば死は免れないと覚悟していた。
彼はエイミの前に立ち、決死の形相で天を仰いでいた。
「受けてみろ人間!! ジゴスラッシュ!!」
雷に竜闘気を混濁させた必殺の手刀がポップたち目掛けて突き刺さろうとしていた。