ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章   作:ありけるみー

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戦いの果てに……の巻

「それにしても彼……ザウロは死んだのかしら」

 

「さ、流石にこれで無傷なんて顔されたらそれこそ悪夢だぜ」

 

 それでもポップは警戒しながら地上に降り立った。

 首を振って周囲を確かめたが、どこもかしこも焼け野原同然の更地状態となっており、一先ず胸を撫で下ろした。

「人っ子一人アリンコ1匹見当たんねーぜ」

 ポップが焦土の上で飛び跳ねて喜びを露わにすると、ヒュンケルが血相を変えて叫んだ。

「後ろだポップ!!」

 

 ポップが振り返ったその時、地面から爆炎が噴き上がった。

 急激な地殻変動は火山の噴火とも、この世の終わりとも連想させ、案の定そこには地獄が待ち受けていた。

 

「ザ……ザウロ……!!」

 炎に包まれながらザウロはその姿を現した。

 それまでの彼と異なっていたのは、頭部に着用していた金のサークルが弾け飛んでいたことは勿論だが――竜の如き雄々しき角、失われた体表を覆い尽くすような浅黒い竜の鱗、そして何より目立つのが両脇に広げた猛々しい翼だった。

 その姿に――ポップや仲間たちは酷く見覚えがあった。

 

「竜魔人……竜の騎士最強の変身形態か……!!」

「ご名答。大魔道士ポップ、相変わらずキミの知識の幅には驚かされてばかりだ。……いや、そういえばキミたちはバランと戦ったことがあるんだったね。といっても彼をこの姿に至らせるまで追い詰めたキミたちの評価が下がることはないよ……ふふふ、むしろ尚も天井知らずで上昇中さ」

 

 逆立った髪の毛は更に怒髪天となり、怪物そのものだった変身前から更に次元の違う化け物を思わせていた。

 だが何よりポップたちが戦意を喪失したのは、あれほどの奥義を受けてもなおかすり傷一つ付いていないザウロの姿に対してだった。

 全てを諦め地に手を付き、ポップは殺されることを覚悟した。

「ポップーッ!!」

 ヒュンケルは全力で走り出し、彼を守護せんとザウロの元に向かった。

 

 もう終わりだ……。竜魔人と化した竜の騎士は目につくもの全てを破壊するまで収まることがない怪物そのものになっちまう。

 畜生……!

 せっかく生命かけて必死こいてありったけの力全部ぶつけたってのに……!!

 結局こいつに殺されるためだったってのかよ……!!

 

 しかし全てに絶望し、悔しさから地面を泣き濡らすポップに対してザウロが取ったのは信じられない行動だった。

「え……?」

 彼はポップの両手を取り、起き上がらせると両手に回復呪文のようなものをかけていった。

 彼の両手はみるみるうちに再生していき、傷と失われた魔法力などは元通りになった。

「何だと!?」

 その光景に駆けつけたヒュンケルも信じられなかった。

 ポップはしばらく混乱して、それでもどうにかザウロの顔を見た。

 それは先ほどまで自分たちと殺し合いの死闘を演じていたとは思えないほど穏やかで――儚げなものだった。

 なんだよ……やめてくれよ……!

 なんでそんなツラで俺を見てくるんだよ……!!

 これじゃまるで……まるで……!

 

 ダイみてぇじゃねぇかよ……!!

 

 再び悔しさと怒りと悲しさからぐちゃぐちゃに心境を掻き乱されたポップは何度も地面を激しく叩いた。

 ポップ同様訳の分からないという顔付きの人々に対し、ザウロは一人一人に回復魔法をかけていった。

 ヒュンケルやレオナ、マァムにメルル

 そして……

「ラーハルト……覚えているかい、あの時のこと……」

 彼がベホマに似た光を放つとラーハルトはそれまで受けていた傷が完全に塞がり、元通り綺麗な肌に戻っていた。

「……ああ。覚えているともザウロ……あの時貴様は――」

 ラーハルトは一行の中で真っ先にザウロと相対していた。

 その時のことを彼は思い返していた。

 

 ラーハルト……?

 そうか……キミがラーハルトか。ボクはザウロ。キミも良く知る竜の騎士だ。

 ラーハルト……人と魔の間に生きる、運命の子よ。

 これからボクが創る理想の世界に、キミも一緒に来ないかい?

 

 手招きする彼を振り切ってラーハルトは武器を構えた。

 断る。我が主君はダイ様ただ一人。たとえ貴様が真に竜の騎士であっても……だ!

 

「貴様オレにこう言った……。だが貴様は断ったオレを殺そうとはしなかった……こうして虫の息同然の状態で生かした上、他の連中のように傷を治した……何故だ! 貴様の目的は全ての生命の根絶ではなかったのか!!」

 彼もまた複雑な表情でザウロの姿を見ていた。

 それを聞くとザウロはまた哀しげな表情を覗かせていた。

「さぁ……確かにそれはボクに与えられた使命の一つだ。いずれはこの手で全ての生命を滅ぼすつもりさ。……けれど本当に全ての生命を滅ぼすべきなのか……ラーハルト、キミのように人と魔のエゴによって生み出され、苦難の渦中を生きてきた者が本当にこの世界に生きる価値がないのか……今一度それを見直すべきだと思ってね」

 

「オレに対する下らん情愛や情けなら無用だ。……かつてオレはバラン様と共に竜騎将として人間たちを襲い、血に塗れた争いの種を蒔いた咎人だ。貴様の言う神に代わって唾棄すべき罰する生命の一人だ。それに魔族と人間の混血児というだけでオレのみが破滅から免れるというのも土台おかしな話だ。戦乱の最中にいてオレのように種族の境い目にいるものたちならこの世にまだごまんといる」

 

「そうか……うんそうだね。キミならそう言うだろうと思っていたよ」

 ザウロはそう言うと翼をはためかせ、空へ飛び立とうとした。

 ポップには何が何だか分からなかった。

 

 何でだ……何であいつは竜魔人になったってのに、あんなにも心穏やかにラーハルトと会話なんてできんだよ……

 それに俺たちの傷も……!

 

「待ちなさい! どこへ行くというのです!」

 飛び立つ前のザウロにアバンが問いかけた。

「そうだね……せっかくこの姿になったんだ……まずは魔界に赴いて魔の神でも殺そうかな」

「ま、魔界……!?」

「次は天界、人間の神を殺して最後に竜の神だ。終焉竜が望むのは生命なき新世界の創造――それは現行の神とて例外ではない。彼らも力をつけた父を恐れ、いずれ大戦になるだろう。そうなる前に先手を打つ。……キミたち人間はその後からでも良かろうということさ。ふふふ、よかったねポップ。キミの言う通りになった」

 彼の口から語られる神殺しの計画を聞き、ポップは恐れた。

 今はどうすることもできないが、ザウロの次なる目的地のアテができた。

 歯を食いしばってザウロを見つめるポップに、彼が微笑みかけた。

「教えてあげるよポップ。ボクたちは天に居る。遥か天空の高みに位置する竜魔宮を訪ねるといい。……そこにキミが探し求めたもの……もう一人の正当な竜の騎士ダイもいる」

「な……何だって!?」

 ザウロが新たに衝撃の事実を告白した。

 真偽のほどを疑う皆の前に、彼はそっと手をかざして空間を切り裂いた。

 孔は拳台の物一つが通るかどうかというほどのやや狭苦しいものだったが、その空間には一同が目を疑うものが広がっていた。

 

「だ……ダイ!!」

 

 今度こそ――正真正銘本物の、かつて共に冒険した勇者の眠り顔がそこにはあった。

 両手足は鎖で繋がれ、巨大な柱に括り付けられていた。

 にも関わらず当の本人はまるでベッドで寝るように穏やかな表情で静かに眠っていた。

 孔の前でポップが何度もダイを呼びかけたが、その声が向こう側にいる彼に届くことはなかった。

 

「てめぇ……! ダイに何をしやがった!!」

「あはは。ようやく殺気が戻ってきたね。誤解を恐れずに言わせてもらうと、彼は自分の意思でここにやって来てああして眠りについているんだ」

 いきりたったポップはザウロの肩を掴みかかった。

「ざけんな!! んなことダイがするわけねぇだろ!! 終焉竜だかなんだか知らねーが、てめぇらがダイに汚ねえ真似して閉じ込めてんだろうが!!」

 かつてないほど激昂するポップの腹部にザウロが強烈な一発を埋め込んだ。

 ポップはそこから意識の糸が事切れ――そのまま彼の腕の中で倒れ込むと、ザウロはそれをアバンの元に投げ捨てた。

 アバンも咄嗟にそれを受け取った。

「……まぁ、信じるか信じないかはキミたちの自由だ。けれど忘れないことだね、キミたちが今見ている光景こそが全ての真実だと」

「……それで、このまま我々が黙って見ているとでも?」

 アバンと破壊の竜魔人は互いに距離を置きつつ、牽制の睨み合いを続けていた。

「地上で最も強い勇者ダイすら失い、力の差も見せつけた。――我々人間には最早太刀打ちする術がないと、そう言いたいんですか?」

「まさか。そんなことで仲間を諦めるようなキミたち人類じゃないだろ? それに何をするにつけ、目的が無いとやり切れないものじゃないか」

「余裕といった様子ですね。力に固執したかつての大魔王がそうであったように、強者の余裕はいずれ思わぬ事態を招き、己が足元を掬われますよ」

「ふふふ……肝に銘じておくよ大勇者アバン……。では人間の皆さん、いずれまた会う時まで……!」

 そう言うと彼は翼をはためかせ、地上から姿を消した。

 今度こそ去った脅威に喜ぶ暇もなく、その場に残された人類は呆然とするばかりだった。

「なんたること……! 人魔竜だけでなく神々までも相手取る奴と……我々は戦わねばならぬというのか……!」

「国王様と大魔道士様が皆力を合わせて戦ったのに……討ち倒すことも敵わぬなんて……!」

 国民も仲間たちも身体の傷は無いのに、心はやり切れない絶望で押し潰されそうになっていた。

 どうすることもできない無力感を抱え、全員城の方に戻っていった。

 これから人類はどうすべきか――足取りの重い一歩を踏み出していった。

 

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