ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
「バカな! 死人が動くはずもない!!」
「何かの見間違いじゃないかね?」
賢者たちはこぞって否定の言葉を重ねたが、兵士は頑としてそれを認めることはなかった。
「と――とにかく急ぎましょう! 私にはどうもこの者が虚偽の申告や夢幻の類の話をしているとはとても思えないの!」
かくしてレオナや賢人たちは地下の遺跡から飛び出し、元いた城まで駆け登っていった。
そこで一行が目にしたのは驚愕の光景だった。
「こ、これは……!! パプニカの兵たち……!?」
そこにいたのは皆も見覚えのあるかつてこの国のために戦い、無念にも生命を落とした兵士たちだった。
しかし彼らは今正気を失い、まるでゾンビのようになってこの国を襲っていた。
「くっ……やめろお前たち!! ここは神聖な王家の居城なるぞ!!」
アポロが彼らを止めに入ったが、すぐに腕を掴まれものすごい勢いで吹き飛ばされてしまった。
「ぐああっ!!」
「アポロ!」
本を突き破るように棚に叩き投げられ、アポロは一瞬意識を失いかけた。
元々賢者や魔法使いが戦士より肉体的な力で劣るのは周知の事実だったが、それにしてもアポロの鍛え上げた身体はそんじょそこらの兵士が簡単に投げ飛ばせるようなものではなかった。
「なんて力強さだ……! 本当にこれが我が国の兵士なのか……!?」
異様なのはその力だけでなく姿もだった。
死んでいるので当然ではあるが、目からは完全に正気が消え失せ白目だった部分にどこまでいっても真っ黒な闇を浮かべており、肌色も人であった頃のそれとかけ離れ、浅黒く濁っていた。
人語を話したり理解する知恵すら消え失せたようで、ただ苦しそうに呻き声をあげながら城を破壊するだけの暴徒と化していた。
また、死者の中には骨まで見えるほど腐り果てているものもおり、兵士の鎧を纏っていなければ魔物と間違われてもおかしくないほどの邪悪さを放っていた。
「なんだこれは……! 一体、パプニカで何が起こったというのだ……!」
「とにかく今は彼らを鎮めなければ! メラミ!!」
マリンは火炎呪文を操ってゾンビたちを丸焼きにした。
かつての同僚たちやこの国に尽くしてくれた人たちを灼くのは辛かったが、それでもこれ以上犠牲者が出るのを嫌った彼女はやむなく攻撃に打って出た。
アンデッドには炎が有効。それは魔物と戦う時も半ば常識のような理屈であった。
「これでとりあえずは安心ね……」
「――マリンーッ!! 後ろだー!!」
彼女が後ろを振り返ろうとしたその時、燃え盛る火炎の中からゾンビ兵たちがその身を焦がしながら現れた。
炎に包まれた剣で背後から彼女に切り掛かり、マリンに大怪我を負わせた。
「くそ!! 炎の効果がないというのか!?」
起き上がったアポロが怒りのバギクロスを解き放ち、真空の刃でゾンビどもの手足を切り裂いた。
「しっかりしろマリン!!」
その後彼はゾンビ兵の魔の手からマリンを奪還し、すぐさま回復呪文をかけた。
「アポロ! 敵の方を!」
レオナが叫び声を上げ、アポロが前を見てみると手足を失った兵士たちは全身に闇の闘気を纏い始めると切り落とされた部分を徐々に再生させていった。
「な、何っ!!」
そして再び炎の消えたゾンビたちが集まり、数の力で賢者たちに襲いかかっていった。
「だ、ダメよみんな。このままマトモに戦っても勝ち目はないわ! 一旦城の外に逃げましょう!」
レオナの咄嗟の判断によって、全員その場から離脱することにした。
捕まりそうになるアポロがメラゾーマの呪文とヒャダルコをかけた事でゾンビ共から逃げる時間を得られた。
しかし魔法で灼いて氷漬けにしたゾンビたちもすぐさま元通りに再生し、彼らを追ってやってきたり城の破壊を続けたりしていた。
「なんなんだあのゾンビ兵たちは……! こちらの攻撃がほとんど通用していない上にあの怪力……!」
「分からないけど……今は何かとてつもない事がこのパプニカで……ううん、この国のみならず全世界で起きている気がするわ」
城中の行く先々に蔓延るゾンビ兵たちにレオナらは目を回す一方だった。
かつて姫の側近で前線に立って戦ったものもいれば、レオナがまるで知らない顔ぶれもあった。
「あ……あれはまさしく先代パプニカの兵士たちではないか! ……それにかつて戦死した兵士長のナゼール殿まで!! 何がどうなっておるのじゃ……!!」
老賢人も溢れる屍霊たちの顔を見て戦慄した。
彼も知る古き代の死者まで呼び起こされたとなると――
「どうやら考えたくはありませんが、このパプニカにて戦死した兵士たちが屍となって墓場から舞い戻ってきたようです」
「ええ……そのようですな……。しかもそれがどういうわけか皆かつての正気を失っており、ただ怨みと怒りで力の限り暴れ狂っておるようで……」
黄泉返った彼らは皆全て禍々しい闇の黒い気に、すなわち暗黒闘気に包まれていた。
首を切り落としても、足腰を失っても、はたまたそれらを同時に攻撃しても屍たちは何度でも再生しながら襲いかかってきた。
もはや彼らは死をも超越した何かに成り果てていた。
やがてレオナたちが窓から飛び降りて城壁の外に出てみると、既にそこにも大量の屍が跋扈していた。
「そんな……こんなところにまでゾンビが……!」
今度は兵士だけではなく、町の住民であったものたちまで混ざっていた。
その様まさに魑魅魍魎の悪鬼羅刹が如き。
この世の終わりのような哀叫とおぞましい雄叫びを上げており、パプニカ王国領は阿鼻叫喚の地獄の体を成していた。
「ひ、姫様……あれを!!」
神官が指差した先には彼女もよく知る顔ぶれが並んでいた。
「あ……貴方たちはバロン! それにテムジン!!」
かつてパプニカに支え、デルムリン島での儀式に乗じてレオナを亡き者にしようとした奸臣テムジンと賢者バロンが立っており、彼の腹心たる七人の兵士も側に居た。
その双眸も肌も黒く染まり切っていたが、レオナや神官たちにはひと目でそれが彼らであることを理解した。
「グフ……グフフ……お久しゅう……ございます……レオナ姫……!」
テムジンがゆっくりと低い声色で喋り出すとレオナたちは驚きを隠せなかった。
それはテムジンらが他のゾンビどもとは異なり人語を操り、理解している様子だったからだ。
会話が通じるものとしてレオナは恐る恐る彼らの前に身を乗り出した。
「テムジン! ……これは一体どういうことですか。パプニカが死者で溢れかえっているのは貴方たちの所為なのですか?」
テムジンとバロンはその黒き瞳でレオナを見つめるとただその場で品のない笑いを繰り返していた。
レオナが頰を紅潮させて声を上げた。
「答えなさい!」
「グフ……レオナ姫……いやパプニカの賢者どもよ……よくも、よくも儂の計画を邪魔してくれたなぁ……」
「嗚呼……憎い……憎いぞレオナァ!! 貴様が憎い……このオレを見殺しにしたこの国全てが憎い!!」
テムジンもバロンも怒りと憎しみに震えてどす黒いオーラを撒き散らしていた。
こちらの声は届いているようだが、やはり正気ではなかった。
「姫様! 下がってください。この者らに最早言葉は通用しません!」
三賢人たちがレオナを守護するように前に立った。
「一斉に仕掛けるぞ良いな!」
「ええ!」
「いつでも!!」
アポロ、マリン、ウィンの三人が魔法力を高めてそれぞれの得意とする魔法をぶつけにかかった。
メラゾーマの灼熱球が、バギクロスの刃に、そしてマリンが新たに契約を果たした水属性中位呪文ザバラが解き放たれ、屍と化した彼らを包み込んでいった。