ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
村長から飛び出したのは衝撃的過ぎる発言だった。
「そ……村長……い、今何て……?」
「じゃからなんべんも言うておろう。世界を救ったかの伝説の勇者ダイさまがこの地上にお戻りになっ」
しかし村長の続きの言葉は感激に打ち震えたポップの雄叫びによってかき消された。
「……たかもしれんという話じゃ! まだ本人と決まったわけではないわ! 全く……」
「ちょっとでも可能性があるんだったらそれで良いんだよ!! この一年、どんなことしてもあいつに繋がるモンはこれっぽっちだって見つからなかったんだからさ!!」
まるで子供のように年甲斐もなくはしゃぐポップを見て、村長アリシアは呆れるやら可笑しいやら。微笑ましい気分になっていた。
「余程勇者様と深い繋がりがあるのじゃなぁ……」
「あたぼうよ!! 俺たちは親友も親友、大親友よ!! でもってあいつに会った時はまず一発ぶん殴って……あ、いやまずおかえりって言ってやるのが先で……」
「興奮のところ悪いんじゃが、続きを言ってもいいかの」
手にした杖で床をコンコンコンと合図するように叩くと、ポップは我に返り気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「その者は額に紋章の輝きを放ち、まだ地上に残された魔のものや悪しき者を討ち世に平穏を持たらさんと各地を旅しておられるそうなのだ」
話を聞いている最中もポップは口角が上がっていくのを感じずにはいられなかった。
間違えるはずもねえ……!ダイだ!
ダイは本当に帰ってきやがったんだ……!
あまりの感激で瞳から熱のこもったものがこぼれ落ちそうになるのを必死で堪えながら村長の話を聞いた。
「……まぁ、こんな辺境の村にも伝わるほどの話じゃ。恐らくは本当のことなのじゃろうが」
「とにかく、俺はマァムや仲間たち連れてそいつを迎えに行ってみることにするよ。他になんかそいつが今いそうな場所とか心当たり無いかな。なんでも良いんだ」
ふーんと首を捻りながら村長は答えた。
「いやな、わしも風の噂に聞き及んだだけでな。ただ世界が勇者の帰還を待ち望んでいるのもまた事実。恐らくこんな村よりもっと大きな城にでも行けばより詳しい情報が得られるじゃろうて」
「そうか……いや、とにかくありがとよ村長さん。この数ヶ月あんたには世話になりっぱなしだった。しばらく戻ってこねぇかもしれないけどよ、達者で暮らせよ!」
「あーこれ待たんか馬鹿者!……やれやれ。行ってしもうたわ」
矢継ぎ早に繰り出されるポップの言葉を耳に通すよりも先にポップは出て行ってしまった。
全身から溢れる興奮を隠せないという感じだった。
一刻も早くマァムに伝えねぇと……!
帰路の道中、ポップはメルルに出会った。
村についてからメルルはポップとマァムの邪魔をしてはいけないと気を利かせて二人の居る小屋からは離れたところで暮らしていた。
「ポップさん……どうしたんですかそんなに焦って……」
「へ、へへ……き、聞いて驚かねえでくれよ……ダイのやつがな……この地上に戻ってきたみたいなんだ」
それを聞いてメルルはその瞳を大きく開き息をのんだ。
「ダイさんが……!? そんなことって……!」
ポップが嬉しそうにしているのと同じくらいメルルも笑顔になっていた。
「けれど変ですね。私の水晶玉にはそのようなことが映っていなかったから……」
「そうだな……村長さんも言ってたことだけど、まんま鵜呑みにするってわけにはいかねえ。……ただ」
ポップはひと呼吸おいてメルルに話した。
「なんつーかな……おかしな話だけどよ、村長さんの話を聞いてからダイが生きてもう俺たちのすぐ目の前に来てる気がしてならねーんだ。それまではそんなこと何にもなかったってのによ」
「ポップさん……」
メルルにはそれがポップの信じたいという気持ちからくるものだと分かっていた。
ずっと探し続けていたものがようやく目の前にやってきた時の気持ち――それがたとえどんな不確かなものであっても掴んでその先を見てみたい。
だから必死でそう自分に言い聞かせているのだと。
メルルは敢えて足を止めるような事は言わなかった。
代わりに目一杯の笑顔をたたえてみせた。
「私も信じてます……! きっとダイさんが帰ってきたんだって……!」
「メルル……」
ありがとな。メルル。
信じてくれる人が一人でも多いと、それが現実のものだと実感できる。
「それで……ポップさんはどうするつもりなんですか? マァムさんのこと……」
「えっ、どうするってそりゃ連れて行くに決まってるじゃねぇか! あいつだけじゃなくアバンの使徒や先生にみんな……」
「違います! ポップさんマァムさんに告白したんですよね! そのお返事はもう貰ったんですか?」
「ぎっ……!」
それまでダイの衝撃で頭からすっぽ抜けていた話題がふとポップの頭に舞い戻ってきた。
しかも他らなぬ自分を好いていてくれているメルルの口から。
「ポップさん、今夜プロポーズするんですよね?」
「なっ……ななな、どうしてそんな……あっ! あんのじじい……! こうなるとクチが軽いってレベルじゃねえぞ……!!」
ポップの想像の中でマトリフはピースをしてほくそ笑んでいた。
そんなイメージに対して腹を立てて地団駄踏んだポップにメルルが詰め寄る。
「どうなんですか?」
「そ、それは……もちろんそ、そのつもりなんだけどさ。な、なんかその……あいつにハッキリ自分の想いを伝えてからさ、どこかぎこちないっつうかなんか……触れちゃいけないようなものに変わっていった気がしてさ……。あいつが誰を好きで俺をどう思ってようが気にしねえつもりだったんだけど、やっぱこう緊張するっていうか……」
しどろもどろになりながらもポップは今の自分の正直な思いの丈を打ち明けた。
それができる相手は師匠でもダイでもなくメルルだけだった。
メルルはそんなポップににっこりと微笑みかけた。
「ポップさんが勇気を出して決断をしたように、マァムさんもきっとこの一年で自分の気持ちを整理して、ようやくその答えを出そうと必死なんだと思います。それがどんな答えであっても笑って受け止めてあげてください。大丈夫です。何があっても私たちの心はいつも一つです。ポップさんが後ろめたく思う必要なんて何一つないんですよ」
しばらくそよ風に揺れる髪を撫でながらメルルは空に浮かぶ太陽を見つめていった。
「だって……人が人を愛することに理由なんていらないんですもの」
「メルル……!」
また背中を押されてしまったな。かなわねぇや。
ポップは悩みに渦巻く自身の心が、今スッキリと晴れたような気がした。
決意も新たに曇り空はいつしか澄み渡る陽の光に満ちていた。
「ありがとなメルル、また助けられた」
「まぁもし振られちゃってもその時は私がずーっと慰めてあげますからっ」
「な……!」
胸をポンと小突かれ、天使のような笑みを浮かべてメルルは去っていった。
追いかけて何か言うことも叶わず、ポップは走り去るメルルを呆然と見つめていた。