ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
二人は分かれると、ポップの方はマァムのいる小屋めがけて猛突進していった。
そこで待っていたのは膨れっ面の女神だったが、そんなこと今のポップは意にも介さない。
「どーいうこーとー? 私はね……」
「おいっ大ニュースだぞマァム!! あのダイがな……ダイがな……!!」
むくれて怒り心頭だったはずのマァムも彼の口から「ダイ」と言う言葉を聞いてすぐさま立ち上がった。
「ダイが……地上に帰ってきたみたいなんだ……!!」
その言葉にマァムは一瞬気を失ったかのようにその場で静止したが、すぐに遅れて体の方が反応をし始めた。
手にしていたカップが床にすり抜け落ち、口と目はただただ開き放しであった。
「嘘……ダイが……ダイが帰ってきたのね……」
たまらず堪えきれなくなった感情の大粒がマァムから溢れ出した。
ポップは彼女に寄り添うように受け止め、抱きしめた。
しかしその表情は笑顔そのものだった。
「よかった……本当によかったわ……!」
「ま、まぁまだ絶対そうだって決まったわけじゃねーけどさ……」
「でもポップがそう信じてるってことは、根も葉もない噂話ってわけでもないんでしょ? ねぇ今ダイはどこにいるの……?」
「それがこの地上にいるっぽいんだがまだどこなのかは分からねえ。でもあちこちでダイを見たってやつがいるんだ。俺たちは仲間を集めてあいつを迎えに行ってやろうと思ってんだ。マァムも……」
「ええ。もちろん行くわ! 今すぐ!! ……あっ、ダイの剣あのままになってるけど、どうしようかしら……持っていってあげないと……でもあれってすっごく重いのよね……そうだ。ポップとメルルと三人がかりでなら……」
しかしマァムは言葉を紡ぐのを途中でやめた。
ポップがいつになく真剣な表情で彼女の両手を掴んでいたからだ。
「ど……どうしたのよポップ……」
そのいつになく男前な顔つきを見て、マァムはたまらず忘れかけていた胸の高鳴りを思い出してしまった。
今の彼からいつものおちゃらけた態度は微塵も感じられない。
これからどんな言葉が飛び出しても不思議ではない。
ただならぬ真剣味を感じさせるポップにマァムはごくりと唾を飲んだ。
「あいつを探す前に……やっておかなきゃならないことがあるからな」
「な、なによ……それは……」
「お前の気持ち、あの時の答えを聞かせてもらえないか」
「そ、それは……」
周囲に沈黙が漂った。
改まったポップに面食らっていたのも事実だが、マァムはなかなか言葉を言い表せないでいた。
しかし意を決して言いかけたあの続きを口から出した。
「あの日からずっと私はあなたのことばかり考えていた。それは日に日に大きくなっていって、いつの日かあなたは私の中で無くてはならないかけがえのない存在になっていたわ。……あの時の私はまだ子供で、向けられた本当の愛にどう応えていいかわからなかった。……ううん、どう応えても中途半端なものになるのがわかっててそれが嫌だったの。だってポップ、あなたは私にとって初めて異性として真剣に向き合ってくれた人。最初は戸惑うこともあったけど、私とっても嬉しかったわ。……この一年あなたの優しさに甘えてばかりいて、今のままで心地良いとさえ思ってしまっていたわ。でもそれじゃダメよね」
ポップに握られた手のひらの上に重ね合わせるようにマァムは両手で覆ってみせた。
「ポップ。私はあなたが好き。あなたのことが好きなの。これからは大切な仲間としてだけじゃなく、異性として特別な関係になりたいと思っているわ。だから……その……こんな私でよければ……あなたからのアプローチを、受けさせてください!」
「マァム……!」
ポップは自分の中で泣き出しそうな気持ちと嬉しくて飛び上がってはしゃぎそうになる気持ちをぐっと抑えて平静を保った。
いかん……! ここで歪んでしまってはせっかく作った良い男の顔が台無しになる……!
マァムの出した答えを受けるようにポップは彼女の両目を見つめ深く頷いた。
長い間触れていたことでマァムの方もとうとう赤面袋が破裂寸前となり、額からは汗が滲み出ていた。
「じゃあ、晴れて両思いになったところで次は俺がお願いする番だ」
「ふぇ……?」
あまりの熱さから火照った顔を涼めようと握っていた手を離し、扇いでいたマァムに対してポップは膝をついて彼女の手を取った。
「俺と結婚してください」
そんなポップの申し出についに脳の許容限界を突破したマァムは頭から湯気と蒸気を噴き上げ、一気に顔面が真紅に染まっていった。
「え、えええ、ええええええ!? ま、ままま待って待って待ってよポップ! 私そんな……」
恥ずかしさから次第に声が小さくなっていくマァムとは対照的に、ポップはいつものように明るく大きな声で話していた。
「何だよ。俺のこと好きなんだろ? 特別な関係になりたいって言ってくれたのはマァムじゃんか」
半分目を閉じたような呆れ顔でしれっと言うポップに対して「そ、それはそうだけど……」とマァムはごにょごにょ呟いて小さくなっていった。
真面目なマァムのことだ。今の言葉をひり出すのにずっと真剣に悩んでくれていたに違いない。
あの時はメルルも居たし、なによりダイを探すって目的があったから中々切り出せなかったけど、今のマァムの気持ちが本心だ。
これから一緒に過ごしていく生涯唯一の女、それがマァムだ。
マァムにとってもそれは俺と同じだと思う。
だから婚約するには今しかねぇと思った。
きっと、受け入れてくれるよな。
「へへ、なーんてな……ま、今言われてそんなすぐ結婚なんてできるわきゃねーしな。さ、ともかくみんな集めてダイ探しに行こうぜ。で剣のことだよな? 心配しなくてもこの大魔道士ポップ様がいりゃあちょちょいのちょ………」
いつものポップに戻りかけたその時、
ポップは勢いよくマァムに押さえつけられるように押し倒された。
ポップからは影になっていてマァムの表情はよく見ることができなかったが、呼吸音が乱れていることからとんでもないことになっているのは想像に難くなかった。
「あ、あのぅ……マァム……さん??」
「キスの続き……しましょう……」
ようやく覗かせたその顔は真っ赤に染まっており、湯の沸いたヤカンのように鼻息を鳴らしていた。
マァムの豹変ぶりと思いがけない提案にさしもの大魔道士もたじろいだ。
「ま、ま待て!! 待つんだ!! 確かにこ――」
しかしポップが言い終わる前にマァムがポップの唇を覆い潰すように重ね合わせた。
暴れようとするポップの両腕をしっかりと掴み、しばらく互いに呼吸を許さない状態にさせていた。
やがてゆっくりと唇と顔を引き離し、やや興奮気味にマァムが笑みを浮かべた。
予想外の事態その2をぶつけられたことで心の準備をしていたはずのポップは完全燃焼したように真っ白になった。
「今度の今度はもう逃げられない……ううん、逃がさないわよポップ……!」
月夜に照らされたマァムは意地悪そうに微笑んだ。
かくして両者の恋の主導権争いは大魔道士の完敗で幕を閉じたのだった。