ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章   作:ありけるみー

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チウ編です


チウの決意の巻

 世界一のどかで穏やかな時が流れる島、デルムリン島。

 かつてここは幻のモンスター「ゴールデンメタルスライム」が住み着く孤島であるとされ、噂を聞き及んだ冒険者たちによってこの島を探索する旅が始まった。

 だが、同時にこの島はモンスターたちが溢れかえる怪物島としても知られており、大魔王討伐が果たされた今日に至るまで人が寄りつくことは終ぞなかった。

 またここは伝説の勇者ダイの育った故郷でもあるが、そのことを知るのは彼の仲間たちやごくわずかな者たちだけであった。

 かつての魔王ハドラーが討たれ、新たに出現した大魔王バーンも倒されたため、モンスターたちは邪気に怯えることのなくほとんどその辺の動物と変わらぬ温厚さとなっていた。

 元々この島を仕切っていたブラスが知恵を持ち良識溢れるモンスターであるため、モンスターたちもそれに準ずる形となっているのだ。

 現在この島にはチウたち獣王遊撃隊の面々や先代獣王クロコダインなどのダイの仲間であるモンスターたちが住み着いている。

 人間はたまに訪れる使者を除けば数えるほどしかおらず、再び行き場のないモンスターたちの楽園としての機能を果てしていた。

 

 ……唯一の例外としては。

 

「なんで老師まで……ていうかいついらしていたんですか!?」

「ほほほ。わし、ビーストくん」

 チウの師であり伝説の武闘家である拳聖ブロキーナ。

 彼もこのデルムリン島に移り住むことにしたそうな。ただ彼は頑なに「ビースト君」だの「ゴースト君」だのと名乗っている。

 元々世俗と関わることをあまり良しとせず、弟子も滅多に取らない老師にとってこのモンスターアイランドはまさにうってつけの移住地だったのかもしれない。

「マァムの方は何の心配もいらんが、チウ。お主に関してはまだまだじゃからのう〜」

「ひ、ひどいな〜これでもボクはまだまだやる時はやりますよ」

 老師も思いの外島のモンスターたちと馴染んでおり、ブラスが魔法を教えるなら彼は自身の格闘技などをモンスターたちに教えていた。

 本人としては日々をナイスに生きるための生活習慣の一環だそうだが……。

 何事にも興味津々で純真そのものなモンスターたちは彼の動きを面白がって真似をし、いつの間にかものにしていたといった具合だ。

 チウはそんな彼らに置いていかれないよう、必死で修行と勉学の日々に励んでいた。

 朝は食料の調達も兼ねた特訓を。

 昼頃にはダイがかつてそうしていたようにブラスから様々な魔法についての師事を得た。

 これまで人語の勉学に励んできたチウにとって、学びを得ること自体はそこまで困難でなかった。

 しかしそれをいざ習得するとなると話は別で、ダイ同様魔法の素養がほとんどないと思われていたチウはホイミ程度の呪文ですら覚えるのに難儀したという。

 またチウはブラスにダイ同様のスパルタ教育を志願したため、ブラスもそれに応え敢えて厳しく指導を施した。

 そうしてあっという間に過ぎ去った夕方にはヒムやクロコダインとの手合わせを懇願した。

「いい根性だ。では俺も全力で挑ませてもらおう!」

「遠慮なくお願いします!!」

 クロコダインは彼の覇気を感じ取り、快く修行に付き合ってくれた。

 そしてヒムにも同様のことを頼んだのだが、彼に対してだけは他と少し異なる修行だった。

「た、隊長さんよぉ。今なんて??」

「だからヒムちゃん! キミにはフェンブレンの真似をして欲しいんだ!」

 突拍子もないその要求にヒムも顔を歪めるばかりだった。

「えぇ〜!? オレがあいつのぉおお?!」

「頼む! この島でオリハルコンのボディを持つのはキミだけなんだ!」

「あ、や……そ、そりゃそうだけどよぉ……」

 ヒムがばつの悪そうに頬を掻く。

 隊長チウのそれがなんの冗談でもないことは彼の真剣な表情が物語っていた。

 それを察したヒムは気は進まないにしても、彼の心意気に応えるように構えを取った。

「……で、どんな感じだったんだ?」

 チウは振り返る。かつて遊撃隊を率いて死の大地に直行し、親衛騎団のフェンブレンに見つかり命からがらで逃げ出せたあの日のことを。

 

 あの時は仲間を守るのにもう必死で……

 

 チウはその時のことをより鮮明に思い出すためヒムに身振り手振りでフェンブレンの像を教え込んだ。

 性に合わない残虐そうな笑い方まで伝承させ、ヒムはチウに殴りかかっていった。

 現在地上に唯一残存するオリハルコンのボディを持つヒムと、一介のおおねずみとしての域を出ないチウの皮膚。

 その二つが激突すればどのような事態になるのかは火を見るより明らかだった。

 まるでその時の悪夢をなぞらえるようにチウはたった数発受けただけでもボロボロになって倒れ込んだ。

 見かねたヒムが手を止めて近寄ろうとしたが、チウはそれを手のひらを向けて跳ね除けた。

「無茶だぜ隊長さんよ! このままじゃアンタ……ほんとに死んじまうぜ?!」

「構わない! とことんまで痛めつけてくれ!」

 

 こっちは心が痛むぜ隊長さん

 

 朝から動きっぱなしでクロコダインとの手合わせで受けた傷も癒えていない、最早チウは心身共に虫の息同然だった。

 そんな彼をまるでなぶり殺しにするような状況にヒムは命令とはいえただ心が痛むばかりだった。

 案の定次の日はまともに立つことさえままならないチウであったが、構わずにいつもの修行をこなしていった。

 どれほど身体を引きずって歩くことになろうと泣き言一つ言わずに勉学や特訓に励んでいった。

 いかに心の強いチウといえど誰に命じつけられるわけでもなく自分の意思だけでこんなハードな修行を続けることなど、精々3日かそこらが限界だと全員が思っていた。

 しかし彼はへこたれることなく同じメニューを継続し、何度倒れようとも立ち上がっていった。

 そんな痛ましい姿にとうとう見ていれられなくなり、ヒムは修行の途中で思わず手を止めて叫んだ。

「なぁ……もうやめにしようぜ! だってよ……こんなのただの一方的な蹂躙じゃねぇか! オレにはアンタの強さがよく分かる!! アンタは決してヤワなその辺のネズミなんかじゃねぇ! ましてやチンケな腰抜けなんかでもねぇ!! 確かな強さを持ったオレたちのすげえ隊長だ! ……そりゃちょっとばかしオレに腕力で敵わねえかもしれねぇけどよ、それがどうしたってんだ!! アンタにはアンタの強さがある! それでいいじゃねぇか! こんな平和な世の中で……これ以上何しようってんだ! なんだってこんな……こんなただ自分を痛めつけるような真似をしやがるんだよ……!」

「ヒムちゃん……」

 たまらずに涙を溢しながらヒムは拳を握りしめていた。

 彼の愚直で隠しようのない優しさが、チウには痛いほど伝わっていた。

 チウは立ち上がって足元の埃を払った。

「ボクは……ボクは恐怖を乗り越えなければならない。あの時、ボクは隊員たちを守りきれなかった……!」

 こうしてヒムと対峙し攻撃と突進を繰り返すとまた思い出す――かつての苦い記憶。

 自分の持っている技の全てが通用しない恐怖。

 仲間が殺されるかもしれない恐怖。

「気迫だけでは仲間を守れない……。力の無い正義なんて無力だ……。みんながピンチの時に自分だけのこのこ生き延びて助かるなんてまっぴらだ!! 敵を倒すためじゃない仲間を守るため、大切な物を守るために強くなる。だからボクは少しでも強くなりたい! 強くなってヒムちゃんや隊員のみんな、この島のみんなを守りたいんだ……! それが隊長としての務めでありボクの掲げる正義だ! ボクはその正義から目を背けたくない!!」

「た、隊長さん……!!」

 チウの覚悟と正義の使徒としての闘志が彼の全身にみなぎり、高まり溢れた。

 その気概に充てられたヒムは感激で泣き崩れた。

 最早気遣いも手加減も無用だった。

 ただチウのその想いに報いるため、ヒムは全力のオーラナックルでぶつかりにいった。

 満身創痍のチウもこれが直撃すればただでは済まないことは承知の上だった。

 しかし彼は逃げない。避けようともしない。

 背水の陣。逃げ場を絶ち、生命さえもかなぐり捨てる覚悟で臨まなければ、この先どんな強敵が現れても仲間を守り抜くことなんてできない。

「うおおおっ!!」

 残る全闘気を拳に注ぎ、ありったけの生命エネルギーをヒムの拳に重ねるようにぶつけた。

 

 その瞬間――

 

 島一面に眩い光り輝く闘気が溢れ出した。

 それを放ったいたのは他でもないチウだった。

 拳から全身にかけて輝き続けるそれはチウの肉体を支え、ヒムのオーラを纏った拳を受け止めて弾き返していた。

 そのまま押し勝ってヒムを岩場に叩きつけ、周囲に衝撃波のような凄まじいエネルギーを産んだ。

 だが、ヒムが最も驚いたのはそんなことではなかった。

「な……! オレのオリハルコンの身体が……砕けた……!?」

 打ち合った拳のほんの僅かな部分であったが、確かにそれは砕けており破片が彼の足元に散らばっていた。

 それは他ならぬチウの一撃がヒムのオリハルコンボディを打ち破った証左であった。

 さしものチウもこれには驚きを隠せない様子で、身体が痛むことを忘れて飛び上がって喜んだ。

「やった……! やったぞーっ!! ついにオリハルコンを貫くことができたぞー! ……あ痛ででで!」

 しかし喜びも束の間、瞬時にとてつもない激痛がチウを襲った。

 言わんこっちゃねぇ、とヒムがすぐさま駆け寄った。

 ヒュンケルでさえただで済まなかったのだ。

 いかにチウが全力を出したとはいえ、相当な無茶であることに変わりはなかった。

 ヒムは彼を担いで老師やブラスが待つ家まで運んで行った。

 

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