ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章 作:ありけるみー
「ふーむ……見たところボロボロだけど、骨や身体にはなんの異常もないようだね」
「何ですって!?」
老師がチウの身体に触れながら答えた。
しきりにべホイミの呪文をかけ、薬草を調合していたブラスもまた同じ意見だった。
「うむ……この怪我はこれまでの無茶がたたったものじゃろう……しかしヒムくんのオリハルコンを砕いた時の衝撃によるものではない。二、三日しっかりと栄養をとって安静にすればまた元気に動かせるぞい」
「本当ですかっ!」
「これ、安静にしておれと言うておろう!」
ブラスに杖で頭をごつかれ、笑いながらチウは布団に潜った。
「し、信じられねえ……まともにぶつかってなんともねぇなんてよ……」
「うむ。そのことでワシも見ておったが……チウの中に眠る生命の闘気が溢れ出したあの時、その拳には全身全霊100%の完全な力が宿っておったのじゃ。それはほんの少しではあったが、オリハルコンを傷つけるに至るほどのものだったのだよ……」
「そうだ……ヒムちゃん、拳は……」
「どうってことねぇよ。隊長さんの怪我に比べりゃな」
金属生命体であるヒムは身体が砕けてしまってもホイミ系の呪文を受ければ回復することができた。
拳に受けた傷は僅かなものだったのですぐに元に戻った。
「
一通りチウの体に薬草を塗り終えたブラスがそう言った。
それを聞いてブロキーナもニッと微笑んだ。
「左様。チウはここ数日間に渡る激しい修行の最中でその境地に至っておったのだよ」
「なんと……ボクにそんな力が……!」
チウは自分の拳を固く握りしめ、静かに涙を流していた。
努力が実を結んだことは勿論だが、越えられなかったあの日の壁を越えることができた喜びもひとしおだった。
「ではこの奥義にボクは窮鼠
「へっ、そうでなきゃ困るぜ」
盛り上がっている2人に老師が釘を刺した。
「しかしまだその力の全てをコントロールできているわけではなさそうだの。追い詰められてからでしか使えないのでは、本懐を成し遂げることなど到底できんぞ」
「うぐ……」
一通りの仕事を終え、老師はブラスの家を後にしていこうとした。
「チウよ。己の強さに迷った時はもう一度立ち返ってみるのじゃ。何故自分は強くなりたかったのか、その手で何を成し遂げたかったのかを。正しきことを成そうとする信念に、努力は決して裏切らないだろう。ゆめゆめそれを忘れぬことだよ……」
「は、はいっ!!」
チウは老師の言葉を肝に銘じるように力強く頷いた。
老師が姿を消して数秒後にまた戻ってきて「わし……かっちょいい?」と聞くとその場の全員がずっこけたが。
家の外でそれを聞いていたクロコダインも深く感銘を受けていた。
日に日に力をつけていくチウに負けぬよう、クロコダインも全力で戦っていた。
また、ついに猛勉強の末ようやくチウは魔法の契約にも成功した。
といってもイオやホイミなど本当に簡単なものばかりだが。
しかし当初まるで呪文の契約ができていなかったチウがそれを可能にしたのはひとえに努力の賜物であるとし、ダイに教え切れなかったブラスは内心これを讃えていた。
どんな困難にぶつかっても立ち向かっていく闘志……
あの決して諦めない情熱……まるでダイを見ておるようじゃ……。
ほろりと溢れ出した情熱の塊がブラスの頬を伝い落ちた。
いかんいかん、歳をとると涙もろくなってしもうて……。
弟子に悟られぬよう必死でそれを拭き落とすと再び彼らに教鞭を執った。
隊長に負けじと遊撃隊の面々が次第にブラスの学問を学びに集まり、なんとヒムまでもが席に着き授業は例を見ぬほどの大所帯になっていった。
ちなみにヒムはお手上げ。と述べて早々に降参している。
そんな彼にもブラスは容赦なく頭をボコスカ殴っていた。
「根性が足らん! チウくんを見習いなさい!!」
またブラスの掲げる相変わらずのスパルタかつ根性論な魔法学指導に、極めて現代っ子な思想を持つヒムは頭を抱えていた。
「なぁ隊長よ。なんだってこんな小難しいもの熱心に学ぶ必要があんだ。隊長にはオレにも劣らねえすげえ腕力があるじゃねえか。しかも呪文ってヤツは契約ができねーとうまく使えねーんだろ?」
「それはそうなんだけどねヒムちゃん。老師やマァムさんだってみんな魔法を習得しているんだ。ボクもここ一番での大事な時に使える魔法があった方がいいと思ったのさ。それに契約だってまるで出来ないってもんでも無くてね、こんなボクでもある程度は努力でどうにかできるんだよ。だから最低限初歩的なやつだけでも覚えておかないとって思ってさ」
チウは親指を天に向けてそう答えた。
……全く、大したお方だぜ。
しっかし呪文がこんなに難しいとはなー。
ベギラゴンやら使いこなしてたハドラー様ってやっぱ偉大だったんだな……。
そんなこんなでとにかく獣王遊撃隊にとっては濃密な一年間であった。
まだ若く伸び盛りなチウは特に一年前とは比べ物にならぬほどレベルアップしていた。
老師直伝の数々の武闘奥義に加え、イオやマホイミなどの呪文を拳技と組み合わせることでそれらを爆発的に引き上げる術を身につけるに至った。
また窮鼠鋼鋼拳を完全にものにした後、ヒムと再戦し彼に勝利することに成功する。
「あそこまで完璧に負かされちゃあなぁ……潔過ぎて小言も出てこねえぜ」
さらにクロコダインとの修行を経て彼の十八番である「獣王会心撃」まで身につけることができた。
チウは特にバギ系呪文の素質があったため、それらを渦のように扱い闘気を上乗せする会心撃との相性はよかった。
その威力たるや先代獣王たるクロコダインが闘気を全開にして防御していなければ「危ない」と言わしめるレベルであった。
「素晴らしいぞチウ……! この一年、厳しい修行に耐え抜きどうやら心身ともに本物の獣王と成ったようだな。フッ……最早オレなど足元にも及ぶまい……」
「クロコダインさん……! や、やだなぁ。やめてくださいよ泣かせるのは。卒業のお言葉を受け取るには早いですよ。それにまだ真の奥義を継承できていないじゃないですか」
「真の奥義……!? ま、まさか獣王激烈掌のことか!」
チウがニヤリと微笑む。
片腕に闘気の渦を集中させ、もう片方の手にも同様の技を行った。
「見ててくださいクロコダインさん……こ、これが……これがボクの獣王激烈掌だぁあああ!!」
凄まじい闘気の嵐がデルムリン島の山々を削っていった。
会心撃でさえそう成功するものではない自身の決め手として認識していたクロコダインは、ましてやその二つを合わせた激烈掌の発動など完全に予想外であり、今しがた使い切った闘気を再び両腕に全集中させた。
それでも島の大地は大きく喪失し、溝からは煙とほんの少し海が覗き見えるほどだった。
受け止めたクロコダインはというと、獣王の鎧が下半身部分のみを残すほど木っ端微塵になり、焼け鰐のような状態になっていた。
これにはチウも焦りの色を隠せず、すぐさま回復を試みようと走って詰め寄った。
「ク、ク、クロコダインさーん! だ、大丈夫ですか! すみませんすみません。まだ力の加減がいい具合にいかなくて……。で、でも完成したらいの一番に見てもらいたくて……」
「フッ……ハハハ! いやぁたまげた!! まったく今日はなんて日だ!!」
しかしクロコダインは怪我を負わされたことや鎧を壊されたことに対して微塵も怒りを向けておらず、むしろ誇らしげというように大笑いを繰り返していた。
たくましく成長したチウを見てクロコダインは彼の頭をそっと撫でた。
「若いってのは良いなぁ……夢を見させてくれる。未来に希望を持たせてくれるものだ。チウよ。よくぞこのクロコダインの秘奥義を成功させてみせた。お前の力は完全にこの俺を追い越した。これからはお前自身の技を磨いていくんだ」
もう1人の師から晴れて賜った卒業の言葉にチウは思わず涙した。
離れて見ていた老師もそれを理解し、深く頷いた。
そして獣王遊撃隊はチウを始めとして大きく成長していくのだった。
再会が待ち遠しいよ……ポップくん、マァムさん。
天に掲げた拳はもう1人の仲間であるダイに向けたものだった。