ドラゴンクエスト ダイの大冒険 続伝 人魔天竜の章   作:ありけるみー

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ノヴァ編です


北の勇者と魔界の名工の巻

 ランカークス村近辺にある薄暗い森の中。

 滅多に人の寄り付かないその場所には、気難しい職人とその弟子が住まう小屋があった。

 名をロン・ベルクと言い魔界に伝説の名工ありと謳われた武器職人であり、北の勇者ノヴァはそんな彼の弟子であった。

 弟子などロンの性格からいってまず取らないものだったが、ミナカトール防衛戦にて彼は自らの生命ともいえる両腕を失い、むこう約数百年以上はしばらくまともに動かなくなってしまったのだ。

 そうして文字通り彼の「右腕」――ならぬ両腕として目をつけたのが先の大戦で親交を深めた人間のノヴァであった。

 ノヴァは彼に恩義を感じ、ロンは彼の心意気を気に入り互いに了承した上で師弟関係を結んだ。

 

「なんだこの鈍刀は!!」

 いつものようにロンは怒鳴り声を上げた。

 ノヴァが数時間かけて作成した鉄の塊を踏みつけ、彼は激しい怒りに震えた。

「魂がまるで籠っちゃいねえ!! だからこんな情けねえ出来損ないの鉄屑が出来やがるんだ!!」

 ノヴァは戸惑いこそしたが、泣き言ひとつ言わずに武器を作り続けた。

 全ては両手を未来にかけてくれた師のために。

 彼が望む絶大な奥義にも耐えられるほどの武器を完成させるために、今日も今日とて彼は精魂入れ骨身を粉にして鉄を打ち続ける。

 最初はまるでなっていなかったノヴァもロンの指導によって幾分かマシな鍛冶屋になっていった。

 だがそれでもロンが望むレベルの1割にも満たしていなかったので、彼はいつも激しく叱責する。

 一通り怒鳴り終えた後、ロンは振り返って小屋に戻って行った。

 そしてその後彼の元に紙と金銭が入った袋のようなものを放り投げた。

「もういい! 今日のところは終いだ。俺は腹が減った。そいつで村まで降りてとっとと飯でも買ってこい」

「も、もうですか!? まだ日は降りて――」

「わからねえか!? 腰抜けのツラなんざ今は見たくねえって言ってんだ! わかったらさっさと俺の前から消えろ!!」

「は、はい!!」

 ロンに鬼のような剣幕で迫られると、ノヴァはそそくさと一目散に金とメモを持って降りて行った。

 ああなるとノヴァが何と言ってもダメで、一度機嫌を損なうとその日はまともに取り合ってもらえないのがお約束だった。

 彼がロンに師事してから早1ヶ月は経つが、もうずっとこんな調子なのだ。

 気難しくも気高い師匠は何ができても誉めることなど一切なく、むしろ不甲斐なさや不出来さを叱ることくらいしかなかった。

 ノヴァもそんな頑固者に師事すると腹を括っていたので、またその恩に報いるためにといかなる仕打ちにも耐えてきたが、最近自分が本当に必要とされているか不安になってくることもあった。

「自分が悪いって、分かってるんだけどな――」

「えっ?」

「あ、いえすみません。なんでもないです。ええっと……50ゴールドでしたよね」

 ふと店内で溜息混じりにぼやいてしまったノヴァはすぐさま支払いを終えて村から出て行った。

 ノヴァもノヴァで普通の若者並みに焦りや、認めてもらいたい承認欲求が存在していた。

 進歩のない否定され続ける日々に虚しさを感じるのもまたそんな若者ならではの心境だろう。

 種族の差異もあれどノヴァとロンには天と地ほどの年齢の差があるのだ。

 ふとノヴァは迷っている自分の頭上に曇り空が広がっていることに気がついた。

 

 いかんいかん!

 自分に実力が足りないことを他人のせいにしてどうする!

 不貞腐れてる暇があるなら走れ!

 走って一日でも早く師匠の理想に追いついてみせろ!

 

 降り出した雨と微かな不安を振り払ってノヴァは帰路についた。

 村から少し離れた先の帰り道に古ぼけた頭巾を被った少女が野花を摘んでいるのが見えた。

 歳は15から16だろうか。あるいはほとんどノヴァと同い年かもしれない。

 と、それだけなら別段彼が足を止めるような出来事でもなかった。

 

「キャアアア!!」

 彼が歩みを止めたのはそんな彼女のものと思わしき悲鳴を聞き付けてからだった。

 すぐさま振り返って少女のいた方向まで走っていった。

「あれは……魔物!?」

 そこにはガーゴイルが2匹、少女を囲むように翼を広げていた。

 明らかに友好的な様子でなく、今にも少女を取って食いそうな雰囲気に包まれていた。

「ゲヘヘ……こいつか? 大魔王バーン様に逆らう不届きものの仲間達ってやつは……」

「いや……この娘にそのような力は感じられん……だがどのみち人間は皆殺しにしておいて困ることはあるまい……」

 ガーゴイル2匹から向けられた殺意に少女はただ怯えて震えることしかできなかった。

「ゲゲー、良いこと思いついたぜ。ここ最近マトモに飯にありつけなかったからな……こいつを今から丸焼きにして俺たちで食っちまおうぜ」

「ケケケそりゃあいい! ついでに人間を減らせて一石二鳥ってなもんよ」

「い……いや……誰か……」

 ガーゴイル2匹が飛びかかったのを見て、少女は自分の肉体がなくなるのを覚悟した。

 

「マヒャド!」

 

 しかしそれが現実になることはなく、ガーゴイルの片割れは矢の如き速さの氷塊呪文を受けて首が吹っ飛び絶命した。

 それを見てもう片方のガーゴイルも攻撃の手を止め辺りを見回した。

「だっ……誰だぁあああ! オレたちの邪魔をしやがったのは!!」

 そこに現れたのは北の勇者ノヴァだった。

 木々をすり抜け崖を降り立つと彼は少女を庇うように前に乗り出した。

 全身に聖なる闘気をみなぎらせ、残るガーゴイルに殺気を向けていた。

「まだこんなところに魔物がいたのか……!」

「げっ。なんてやつだ……! これほどの使い手が地上に残っていたとはな……。だが、浮かれていられるのも今のうちだ! お前たちはじきバーン様や我らが魔王軍の総攻撃によって沈むことになるのだ……!」

「そうか……魔王軍の残党か……。だが、それが現実になることは永遠にない」

「何?!」

「何故なら……お前のいう大魔王バーンも、その魔王軍もとっくにボクたちに敗れ討たれたからだ!!」

「そ、そんな馬鹿な!!」

 ガーゴイルは額から大汗を垂らして首を振った。

 しかしノヴァの言う通り――バーンはダイに倒され魔王軍のほとんども打ち破ったため、既に軍として機能していなかった。

 もっともそんなことを眼前の魔物が信じるはずもなく、力任せにノヴァに飛びかかっていった。

「バーン様が破れることなどあり得ん!! 貴様を八つ裂きにして真実を確かめてくれるわーっ! げげげ!!」

 ノヴァは構えさえとることなく、棒立ちでガーゴイルの攻撃を引き入れた。

「ゲゲゲ! でかい口を利く割にもう諦めたか腰抜けめ! ならそのまま死ねえ――」

 しかしガーゴイルの攻撃はノヴァに届かなかった。

 彼の胸元にはノヴァの放ったオーラの手刀が深々と突き刺さっていたのだ。

 心臓を貫かれたガーゴイルはたまらず吐血し、闘気剣で身動き取れなくなっていた彼をノヴァは躊躇なく切り払って地に落とした。

「ば……馬鹿な……お前は丸腰だったはず……がっ……! ハッ! さ、さてはお前が勇者ダイ――」

「違う……ボクはノヴァ。ダイはもう居ない……。そしてお前たち魔王軍の主君もな……地獄でそれを確かめてくるが良い」

 今生の断末魔を上げることもなくガーゴイルの肉体は溶けて蒸発していった。

 血を払ってノヴァは腰の抜けた少女に手を差し伸べた。

「お怪我はありませんか」

「え、ええ……あの、助けていただいてありがとうございます」

「この辺りもまだ安全ではないようです。特に人目の届きにくい森の付近は危険なので1人で彷徨くことのないように。それでは」

「あっ、お待ちください……ノヴァ様!」

 名前を呼ばれ咄嗟にノヴァは振り返った。

 少女はさらに彼に接近するとその手を掴んだ。

 ノヴァが面食らっていると、少女が真珠色の唇を開き出した。

「せめておわすところだけでも教えてくださいませんか……! 生命を助けていただいたお礼がしたいのです……!」

 触れられた両手から仄かに少女の温もりと鼓動が感じられた。

 その肌は淡く白く、陽の光を浴びて輝いており艶やかな黒髪がそよ風に乗って神秘的にゆらめいていた。

 その様子にしばし見惚れていたノヴァであったが、すぐに気を持ち直してその手を優しく振り払った。

「いえ――。人として当然のことをしたまでですから。そのお気持ちだけで充分です」

 そう言うと北の勇者は今度こそ振り返ることはなかった。

 連れて行ってはいけない。

 あんな麓でも魔物に襲われたのだ。この先だって何があるかわからない。

 それに今の自分には何よりも優先すべき大事なことがある。

 遠くに置いてきた食料の入った袋を持つと彼は颯爽とロンの待つ小屋に向かって行った。

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