真・ 恋姫†無双 魏伝異聞『鄧艾』ノ章   作:雪虎

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第二話:華琳と吼狼

華琳様に降り、陳留へと来て一ヶ月が経過した。

 

これまでに俺が真っ先に手掛けたのは2つ。

 

一つは陳留の、曹操軍の現状把握。華琳様が俺に期待する役割を考えれば最優先事項だった。経済状況から軍備、領内の農政、住民の数と分布、等など・・・・それが分からなければ何に手をつければ良いかも分からないと考えたからだ。だが、陳留への道すがらで華琳様と話し合ったが俺たちに残された時はそれほど無い。故に財務を取り仕切っている曹洪との対話から始まった。

 

『何故お姉様が貴方のような男を連れて来たのか、理解出来ません!!』

 

が、その曹洪が『男』と言うものに対してあまり良い印象を持っていないようだった。まぁ、どこを見ても要職に就くのは女性の方が圧倒的に多く、数少ない官職持ちが俺が討った太守のようなロクデナシが多いのだからやむを得ないとも思った。

 

しかし、俺は華琳様に仕える覚悟をした。それを好き嫌いで判断して円滑な連携を欠けば、最初は小さな歪みでも何れそれが拡大し大きな歪みとなり、華琳様の目指すべき道を阻害する事になる。今、俺を信用できないのは当然である。もし俺の働きが立場に見合わないと判断したり、俺に叛意があると思ったその時は俺を斬ってくれても構わない。だから、先ずは話し合いの席について欲しいと。

 

『・・・・貴方の言う事は最もです』

 

ようやく曹洪が折れてくれて、話し合いが始まった。

 

現在の予算組みに問題はないか。無駄を省き、浮いた予算で出来る事は無いか。

 

実に話し合いは三日三晩に及んだ。素案をまとめあげ、正式な書類を作成し、華琳様へ差し出す。

 

『意外ね、最初に打ち解けたのが栄華だなんて』

 

と、笑いながら即座に承認してくれた。

 

 

二つ目に俺の仲間を追う事だった。かつて俺と共に戦った連中は、その殆どが農民上がりではあったが、その中には在野にしておくに惜しい連中がいた。国への反抗心から戦っていたヤツもいたから、説得が必ず必要になるだろう。だが、その手間をかけるだけの価値がある、と華琳様に許可を仰ぎ職務の合間にかつての仲間を探し出した。

 

『まぁ・・・・陳留太守が他とは違うってのは分かってます。アニキが仕える程のお人だ、俺なんかで役に立つならって事で』

 

満寵は武力、指揮共に均整が取れ、非常に優秀な指揮官だ。俺が捕らえられた後、やる気のある残兵をまとめ上げ、どうやら俺の奪還作戦を計画していたらしい。俺が無事だった事に歓喜し、皆を説得して降る事を決断してくれた。

 

本当はもう一人、見つけたかったのだが・・・・既に兗州を出て北に向かったらしいという情報しか得られなかった。生きている、のが分かっただけでも重畳。お互いに命があるんならそのうち逢うこともあるだろう。

 

SIDE 華琳

 

思い描いた未来があった。

 

それが現実味を帯びてきたのは、一人の男との出会いだった。

 

最初に耳に入ってきたのは定陶の太守が賊党に討たれた、と言う報だった。財貨に意地汚い守銭奴、賄賂を用いて地位を得たよくいる愚物。最近は朝廷の名を盾にして二倍から三倍にもなる増税を決行したらしい。阿呆の袁家(世間知らず)でもやらない愚行。その結果で反乱を起こされて討たれたのなら自業自得だったと思った。

 

次に入ってきたのは、そこから更に六度。例の愚物の遺産を狙った阿呆たちが返り討ちにあい続けている、と言う報告だった。

 

上が愚物でも、その下を支える将たちには非凡な者もいた。何れはこちらに引き抜きを考えていた者も、討たれたらしい。

 

興味が沸いた。

 

丁度、救援要請も来た事だし。それ程の戦をする人物、引き入れることも検討しても良いかも知れないと思った。留守居を最低限にし、精兵五千と春蘭、秋蘭の二人を引き連れて行った。

 

戦場に向かうまでの間に、色々と調べさせたが中々に老獪な戦運びをするようだ。烏合の衆で連携がロクに取れていない官軍をかき回し、同士打ちに持ち込んだりして味方の被害はほぼ皆無。同じ寄せ集めとは思えない程の戦果は間違いなく将の手腕。

 

現地に到着した時には、現地は悲惨なものだった。相手の倍以上、それどころか最初の方は十倍もの兵力があったというのに壊滅状態。近隣の住民に至っては官軍では無く、反乱軍側に肩入れをする始末。これまでの官軍が、どれだけお粗末だったかが分かる。

 

攻め始めて、直ぐにその異常さが際立った。兵の練度は圧倒的にこちらが勝る。だが兵の運用が絶妙に上手い。押し切れると思えば援軍が現れ立て直す、こちらの僅かな乱れ、歪みを察知してそこを突いてくる。実にやりづらいことこの上なく、想定外に時間を取られ、被害を受けた。最後には春蘭が城塞の門を破壊し、切り伏せたらしいけれども。

 

 

首魁だと思われる男が眼を覚まし、直ぐに会いに行った。話をしてみれば、実に興味深い。

 

『太公望』と名乗る男に師事し、あの愚物を斬り捨て、鬱憤が溜まっていた近隣の民を無駄死にさせないようにまとめ上げ、私たちと戦うまでは然したる被害も無く勝ち続けた。

 

それに恨みがましくこうであったなら、こうなってたはずだ、と仮定は語らず潔く現状を認める。

 

入口で控えていた秋蘭に合図を送り剣を持ってこさせた。

 

『そうね、でも・・・・』

 

受け取った剣で、その手足に嵌められていた枷を断ち切った。

 

『貴方の力を私に貸して欲しいのよ』

 

秋蘭が火を灯し、始めてお互いの顔を見た。精悍な顔立ち、肩より長い髪を首筋で一つに結わえている。

 

『俺の力だと?何を、するつもりだ』

 

不思議な感覚だった。そこまで深い事を語り合った訳では無い。でも、私の中の何かが語りかけてくる。

 

私の目指す『道』に、目の前のこの男は必要不可欠なのだと。

 

『中華の統一』

『・・・・・・・・は?』

 

私の言葉に、一瞬呆けたように声を上げる。

 

『そのためには貴方のような人材が必要なの』

 

今のままではこの国に未来は無い。一度、『漢』と言う枠組みを破壊した上で一つにまとめあげなければならない。そして、今のところそれが出来るのはひと握り。そのひと握りが動くのを待っては手遅れになるかも知れない、だから私がやる。

 

『正気か?』

 

『俺みたいなのに声をかけるって事は人材だってまだまだ足りない、それにアンタは未だにたかが太守だ。州牧や刺史になってる連中よりも出遅れてる。西涼の馬騰や江東の孫堅、荊州の劉表、益州の劉焉や河北の袁家と地位や名声、兵力、財力とアンタの遥か上を行ってる英傑たちが数多いる』

 

『それでも・・・・『本気でやる』ってのか?』

 

現状を認識させ、否定では無く意思を確認する。この男は、もしかしたら教育者としても優秀かも知れないわね。

 

『えぇ、やるわ』

 

少しだけ、迷ったように頭をかいた男は、少しだけ天を仰ぎ、次にこちらを見た時には・・・・

 

『俺は何をすれば良い』

 

その目には、覚悟を宿していた。

 

『そうね』

 

私の中の何かは間違ってないと、確信した。だからこそ、笑みを浮かべ。

 

『我が名は曹操、真名を『華琳』。貴方に我が真名を預けましょう』

 

躊躇わずに、真名を預けた。

 

『我が名は鄧艾、真名を『吼狼』。本来死すべきだったこの身、この魂。『華琳』様と共に、その道を違えるまで尽くす事を誓いましょう』

 

拱手し、片膝をつき、首を垂れそう一息に述べた。

 

『だが・・・・アンタが道を違えたら、その時は喰い殺すぞ』

 

ただ従うだけではない、私が道を外れたなら殺してでも止める。それは、春蘭や秋蘭ら幼少期から共に過ごして来た面々からは決してでない言葉。彼女らは、少しだけ私に妄信的な部分もあるから、だからこそ、『吼狼』がこういう人物であった事は喜ばしい事だ。

 

『先ずは現状把握、それと財務担当者と話がしたい』

 

陳留に来て早々に吼狼からあった申し出がそれだった。陳留へ戻りながら、資料が無くとも覚えている範囲で現状を話していたが、その精度をあげた上でやれる事を、と言う事らしい。恐らく、話しの席に着くまでが難しいと思って・・・・いたのだけれど。

 

『お姉様の連れてきたあの男、他と比べてちょっとは見所がありますわね』

 

男嫌いの栄華から、そんな言葉を聞いた時には相当驚いたのを覚えている。その数日後には、各種改正案を携えて吼狼が現れた。思わず栄華と最初に打ち解けたのが意外だった、と直接伝えてしまった。

 

『まぁ、やれるだけの事をやりますよ』

 

更に、吼狼がかつての部下を探し出し連れて来た。兵二百付きで、である。本当はもう一人いたらしいのだけれど、既に兗州を抜けた後だったらしい。

 

ーーーーーー

 

ある日の夜、私は吼狼を飲みに誘っていた。

 

「貴方を引き入れて正解だったわね」

「その判断をするには早いだろう」

 

カツン、と酒器を打ち合わせながら吼狼が苦笑している。

 

「取り敢えず直ぐにやれる事をやった、それだけだ。人も、兵も、財も、まだまだ足りん。少しでも出来るヤツは引き上げて、必要に応じて育成しながら人手を確保する。在野にも良さそうなヤツがいるなら多少・・・・人柄を見た上で引っ張り込む」

「そうね」

 

丁度秋蘭や柳琳から昇格させたい者がいる、と言われているし。

 

「そう言えば・・・・市井でとある噂が出回ってる」

「噂?」

 

吼狼からそういう話しが出る、と言うのも意外だった。

 

「何でも天の御使いとやらが現れて、この後に訪れる乱世を鎮めてくれるそうだ」

「信じるの?そんな世迷言を」

「頭から信じてるワケじゃない、だが出処がどうやら『管路』の占いらしいからな」

 

管路は、この国で最も有名な易者。金や権力には動かない、それでいて占った事はほぼ当たると言われている。

 

「乱世を鎮めるのは自力でやるにしても、その天の御使いとやらの動向は気にした方が良いと思ってな。ちょっと頭の回るヤツなら、考える事はおんなじだろうしな?」

 

能力は問わない、人格も問わない。ただ旗印として利用する。まぁ、以前の私もそうしたでしょうけど・・・・今はそうしない。

 

『唯才、と言うのは一種の危険要因をも抱え込む。俺はどうかと、思うがな』

 

人格が伴ってこそ、才能は正しく発揮される。天才的な将軍だったとしても、英雄となるか、殺戮者となるかの分岐はそこだ、と吼狼は語っていた。今となれば、それが至言だと思える。

 

「ま、天の御使いとやらについては俺らの目の前に現れてから考えれば良い」

「・・・・そうね」

 

その管路の予言も、天の御使いがどこに現れるかについては言及していない。だから、それは目の前に現れた時に対処を考えようと。

 

こういう割り切りの良さは私たちには無かった、新しい判断基準ね。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ」

 

用意していたお酒も無くなり、お開きとなる。部屋を出かけた吼狼が、背を向けたまま声を発した。

 

「・・・・本当に俺で良いのか?」

 

少し前に、私は吼狼にとある申し出をしていた。おそらくは、その事でしょうね。

 

「当たり前でしょう?」

 

出来る限りの笑みを浮かべ、私は宣言する。

 

「あの時、私と貴方の条件が同じなら私は負けていたと今でも思っている。それだけの実力があるんだもの、私と『対等』であって欲しいと思うのは当然でしょう?」

 

「何より・・・・家族や宿敵はいても『対等な友人』はいなかったの、それを求めるのは・・・・普通の事じゃ無いかしら?」

 

私が吼狼にした申し出は『私と対等の友人として』仕えて欲しいと言うものだった。吼狼が陳留に来てからのたった一ヶ月、その人柄、実力、全てを鑑みてそう思った。吼狼は『太公望の弟子』であって『太公望』では無い。文王と太公望のような臣下の関係も良い、でも吼狼とは廉頗と藺相如のような、お互いを尊重し、支え合う友人となりたいと、思ったのだ。

 

 

「・・・・分かった、だが他のヤツらには説明しとけよ?じゃねぇと俺の首が物理的にすっ飛んじまう。頼んだぜ、『華琳』」

 

 

 

「えぇ、任せておきなさい『吼狼』」




第二話でした。

正直難産でした。詰め込みすぎたかな、とか、ここどうやって繋げようか、とか考えてたらこんな事に・・・・

掲載してから10日にしてお気に入り登録数が二百を超えました。本当にありがとうございます、高評価を入れてくださった読者様もいたようで、非常に嬉しいです。これを励みに今後も頑張っていきますので宜しくお願いします。
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